October 11, 2011

バイエルン国立歌劇場「ナクソス島のアリアドネ」

●バイエルン国立歌劇場来日公演のR・シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」へ。なんとなく不穏な空気(?)を感じてオペラから足が遠のいていたんだけど、この作品を観たいという気持ちがまさって行くことに。ロバート・カーセン演出。東京文化会館。楽日。
●開演10分前くらいにはもう幕が開いて、舞台上でバレエダンサーたちのレッスンが行なわれている(ピアニストが「エーデルワイス」とかを弾く)。さっそくメタ化される舞台。オペラ「ナクソス島のアリアドネ」は、オペラ「ナクソス島のアリアドネ」を上演する様子を描いた自己言及オペラなんすよね。作品は2つの部分からなり(休憩なしの2時間強)、プロローグがあって、続いてオペラがある。メタオペラっていう意味では後の「カプリッチョ」と同じ趣向の姉妹作。「カプリッチョ」では、作曲家と詩人によって「音楽か言葉か」という二項対立が止揚されていくのに対し、「ナクソス島のアリアドネ」では作曲家と喜劇女優によって「芸術か娯楽か」が対立し、(文字通りに)一つに融合する。なので、演出家も工夫のしがいがある。
●物語内の設定としては、金持ちが客を招いて、まずシリアスなオペラ(ナクソス島のアリアドネ)を、次に喜劇を上演し、最後に花火を楽しむという余興を企てている。作曲家は自分のマジメなオペラの後に、通俗的な喜劇が続くのに憤る。さらに悪いことに、金持ちは気が変わって、オペラと喜劇をいっしょに上演しろという。花火の時間まではきっちり終わらせるように、と。作曲家は絶望するが、この仕事を放棄したら半年分の稼ぎがなくなる。しょうがない、幕を開けるしかない。……ていうプロローグのおしまいで、作曲家はスコアを持って舞台からピットのほうに降りて、指揮者ケント・ナガノにスコアを渡す。ワタシら観客はプロローグが終わったので拍手をする。作曲家は観客になんどか愛想よくお辞儀をして、舞台の脇に座ってこれからはじまる自分のオペラを鑑賞しようとする。あっ、そうか、作曲家はワタシらの拍手にこたえていたんじゃなくて、これも演出の一部なのか。金持ちが招いた賓客とはワタシらのことだったんだと気づかされる。笑。
●どうしてメタ化しなきゃいけないかといえば、そうしないと恥ずかしい時代になったから、なんだろう。ワーグナーまでは100%芸術でよかった、マジで「トリスタンとイゾルデ」、マジで「ニーベルングの指環」、マジで「パルジファル」。なんの問題もない。でも20世紀に入ったら、この「ナクソス島のアリアドネ」の作曲家役みたいに大マジメに芸術してるとむしろ本人の意に反して滑稽に見えてしまう。なので、おしまいに「なんちて」を付けて語りたくなる。もともとR・シュトラウスは「なんちて」が標準で付け得るところがワタシは好きなんすよね。「ツァラトゥストラはかく語りき、なんちて」、「英雄の生涯、なんちて」、「家庭交響曲、なんちて」。「なんちて」の付く余地があるところに真の偉大さを感じる。「サロメ」や「ばらの騎士」もそう(「ばらの騎士」=「フィガロの結婚、なんちて」)。で、題材が真正面のものになればなるほど、強度の「なんちて」が必要になる。「芸術か娯楽か」、「音楽か詩か」という究極にシリアスな題材となれば、究極の「なんちて」として、そのオペラをオペラのなかで上演するというメタオペラに行き着くしかなくなる。
●「ナクソス島のアリアドネ」にしても「カプリッチョ」にしても、劇中劇のあとのオチというかエンディングがないんすよね。音楽的にはちゃんと終わってるんだけど、物語は開いたままになっている。「ナクソス島のアリアドネ」の終盤、ワタシは劇中劇の物語の中に留まることに困難さを感じて、「4つの最後の歌」みたいにオーケストラ伴奏つきの歌曲を聴いている気分になった。逆説的だけど、物語の枠組みなんかなくても音楽は成立するじゃん、みたいな……。
●プロローグのおしまいで作曲家がツェルビネッタに惹かれて陶酔的な二重唱になるのは、「ばらの騎士」のオクタヴィアンとゾフィーの成長したバージョンって感じる。
●カーテンコールのなかでもまだ演技は続いていて、執事長が音楽教師と舞踊教師にギャラを渡したり。圧倒的に盛大な拍手を受けたのはツェルビネッタのダニエラ・ファリー。超絶コロラトゥーラと視覚的なかわいさが吉。作曲家のアリス・クートも大好評。アリアドネのアドリエンヌ・ピエチョンカも立派。バッカスのロバート・ディーン・スミスはどうかな。ケント・ナガノに「ブー、ブー、ブー!」と痛烈に叫ぶ方がたぶんお一人。全体としてはよくブラボーが出ていた。小編成のオーケストラも美しいシュトラウスの響きを聴かせてくれて、ワタシは満足。羨望を感じる。オケのメンバーも舞台に上がって拍手にこたえてくれた。垂れ幕には今回の公演が実現したことへの感謝と長年の交友がこれからも続くことへの願いが記されていた。

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