●ようやく読んだ、「スターバト・マーテル」(ティツィアーノ・スカルパ著/河出書房新社)。ヴィヴァルディが登場する小説として、翻訳前から話題になっているのをチラッと見かけて気になっていた。読んでみてびっくり。こんなスタイルの小説だったとは。やや長めの中篇程度なのですぐに読める。
●舞台はあのピエタ養育院。ヴェネツィアにあって孤児たちの少女に音楽教育を施し、少女たちの何人かは楽団を作って演奏した。主人公はヴィヴァルディではなく、ピエタ養育院で特にヴァイオリンの才能に秀でた少女。少女の独白という形で養育院が描かれる。あるとき、養育院に新任の司祭がやってくる。彼は前任者とまったく違った驚くべき音楽を書いた……それがヴィヴァルディ。
●著者スカルパはかつてピエタ養育院の中にあったというヴェネツィアの病院で生まれている。そしてヴィヴァルディを敬愛するというのだから、書くべくして書かれた小説なんだろう。ただし、これは小説であって、伝記的な読み物ではまったくない。ヴィヴァルディよりも少女の物語で、特に前半は陰鬱なトーンで進む。手触りはグロテスクといってもいい。著者はよく承知の上で史実とは異なる設定を用いている(もちろんなんの問題もない、小説なんだから)。イタリア最高の文学賞ストレーガ賞を受賞したというのだが、評価のポイントはどのあたりだろう。虚実ないまぜとはいえ、養育院の少女を主人公にするというアイディアはおもしろいと思った。
2011年11月アーカイブ
「スターバト・マーテル」(ティツィアーノ・スカルパ著/河出書房新社)
東京交響楽団2012年度ラインナップ発表記者会見
●11月24日、ミューザ川崎の市民交流室にて東京交響楽団の2012年度ラインナップ発表記者会見。ユベール・ズダーン音楽監督(写真)、大野順二楽団長他が出席し、2012/13シーズンのラインナップについて語ってくれた。シーズン・テーマは「マーラー・リーダー(歌曲)・プロジェクト」。「子供の不思議な角笛」「大地の歌」「さすらう若人の歌」「リュッケルトによる5つの詩」「若き日の歌」「亡き子をしのぶ歌」「嘆きの歌」初稿が演奏される。「今シーズンのシェーンベルク・シリーズでは多くのお客さんに足を運んでもらえて嬉しく思っている。シーズン・プログラムは人気作品ばかりではいけない。よいプログラムとは聴衆に考えさせるプログラム。来シーズンはマーラーの歌曲を取り上げる。これらは日本ではそう多くは取り上げられない。シェーンベルクの大成功を受けて、勇気を持ってマーラーの歌曲に取り組みたい。優れた歌手たちをそろえることができたので、楽しみにしてほしい」(ユベール・ズダーン)。
●マーラーは2年連続の記念年があったばかりなので一瞬「えっ!?」と思ったけど、その後で歌曲というのはいいかも。交響曲はこの2年間でいろいろなオーケストラで聴くことができたわけだから。
●ズダーンはこんな話もしていた。「私が東響に就任して以来、いちばん変わったのは音だと思う。日曜日にテレビでNHK交響楽団がブルックナーの交響曲第7番を演奏しているのを聴いた(注:ブロムシュテットの指揮)。これは決して批判ではないのだが、われわれの音とはまったく違うと感じた。どちらが優れているかという問題ではなく、わたしたちの音があるということを実感した。これまでにわたしたちがモーツァルトから始めて、ハイドン、シューベルト、シューマン……と今日までさまざまなレパートリーを経験してきた結果だろう。評論家やメディアのみなさんがおっしゃるように、東響の音は中欧的で、豊かで幅があり、アグレッシブではなく、そしてどの作品でもはっきり音が聞こえるように演奏できるようになってきた」。
●なお、ミューザ川崎はまだ使用できないので、川崎定期は横浜みなとみらいホールに移される。みなとみらいが一段と賑やかになる、オケ的に。また名曲全集シリーズは川崎市教育文化会館で開催される。
ニッポンU22vsシリアU22@ロンドン五輪アジア最終予選
●五輪の出場権を得るのって簡単じゃないと思う。このグループで1位になると出場権を得られるんだけど、2位までじゃなくて1位だから、なにが起きるかわからない。2強が互いにホーム・アンド・アウェイで1勝1敗になって勝点が並ぶケースなんてかなりありそう。その場合のレギュレーションがどうなっているかというと 「グループ内での得失点差」が優先なんすよ、最近の「当該チーム同士の対戦成績」方式じゃなくて。うーむ。ちなみに2位になった場合はどうなるかというと、3チームによるアジア地区プレーオフで1位になり、さらにアフリカ予選4位との大陸間プレーオフをやって勝ち抜くと出場権がもらえる。最終予選のグループ1位になるよりよっぽど大変だ。
●で、当面の最大のライバル、シリア。彼らにとってはアウェイなのに、前からプレッシャーをかけてくる志の高いサッカーを見せてくれた。しっかり訓練されているし、個々の能力も高い。特に10番アルスマと8番アルマワスの攻撃力は脅威。序盤ニッポンはうまくボールを回せなかった。しばらくするとボールが回り、相手ディフェンスを何度も崩したが、それでもなかなかゴールが奪えず。45分にようやく扇原のクロスを濱田が頭ですらして先制。
●この後、追加点を早めに奪いたいところだったが、主審がPKを見逃したり、ビッグチャンスにツキがなかったりと、押している割に点が入らない。後半30分にもなって、シリアの10番がパワフルなドリブルで日本のディフェンスの間を突破して、キーパーとの一対一に。右隅に落ち着いて流し込んだ。1-1。
●これは勝つどころか負けるかも。日本の選手たちに焦りが見えた。しかし後半41分に左サイドから比嘉が完璧なクロスを入れて、ファーで大津がダイビングヘッド。2-1。これは美しい。大津はこのシーン以外でもスピードを武器に活躍してくれて頼もしい限り。
●シリアにもチャンスがあったが、試合を通じてニッポンが一回りレベルアップしたような印象を受けた。若いってスゴい。次はアウェイのシリア戦。そもそもシリア国内で開催可能なのか、あるいはヨルダンで開催するのか。シリアだって手ごたえと自信を得たはず。どんな結果でも驚くことはない。
今週足を運んだ演奏会から
●24日はオペラシティでカンブルラン指揮読響の「海」プロ。すなわちメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」、ショーソンの「愛と海の詩」(林美智子Ms)、休憩を挟んでワーグナー「さまよえるオランダ人」序曲、ドビュッシー「海」。相変わらずカンブルランのプログラムはおもしろい。曲目を見ただけで聴きたくなるプログラム。最近、東京も夜になると寒い。寒中水泳の覚悟で聴く「海」プロ。ざぶんと飛び込んでみたら、透明で爽快な海だった。ドビュッシーの「海」がクリアかつクール。盛りだくさんでがっつり楽しんだのに、終わって時計を見ると意外と早くてびっくり。
●23日は白寿ホールで大井浩明ピエール・ブーレーズ全ピアノ作品演奏会。クセナキス、リゲティに続くPOCシリーズ。ノタシオン、フルートとピアノのためのソナチネ、ピアノ・ソナタ第1番、第2番、第3番、アンシーズ、日めくりの一ページ。今回も作曲年順に並ぶ。なのでソナタ第2番までが前半。ソナチネのフルートは都響の寺本義明さん。すばらしかった。鮮烈。ソナタ第2番がハイライト。やっぱりこれは名作なのか。ピアノはもはや人外魔境の域、人間業とは思えず。次回は12月23日にユン・イサン他の韓国人作曲家特集、1月29日にシュトックハウゼン。
●22日は久々に神楽坂の音楽の友ホールへ。萬谷衣里ピアノ・リサイタル。エネスコ(エネスク)のピアノ・ソナタ第3番が聴けたのが大収穫。熱意と高揚感にあふれた見事なエネスコだった。この曲はあまり弾く人がいないけど、とてもいい曲。先日のラヴェル本(ロザンタールの「ラヴェル その素顔と音楽論」)なんかを読んでても感じたんだけど、エネスコって桁外れの音楽的才能に恵まれていたんすよね。なにしろロザンタールは伝説的ヴァイオリニストであるエネスコを「当時、最高のピアニストのひとりだった」って称えるんだから、これがレトリックであるとしてもスゴい。なんでもできちゃう。作曲家エネスコの真価は、彼に貼られた「大ヴァイオリニスト」および「ルーマニア狂詩曲第2番の作曲家」というレッテルで見えにくくなっている気がする……いや、ワタシが見えてないだけか。「ルーマニア狂詩曲第2番」ではない、エネスコ本来の作品を聴いてみなければ。それにしてもエネスコでわけがわからんのは、ピアノ・ソナタが第1番と第3番しかないということだな。ソナタ第2番を「頭のなかでは出来上がっている」と言い張っていたというが、頭の中にあるだけで世に出ていないものは、普通「存在しない」と言うのでは(笑)。
サイモン・ラトル&ベルリン・フィル記者会見から
●ラトル指揮ベルリン・フィルが来日公演中。公演に先立って開かれた記者会見へ(11月22日/ホテルオークラ東京)。写真左よりシュテファン・ドール(ホルン)、サイモン・ラトル、オラフ・マニンガー(チェロ/メディア担当役員)。
●話題はいくつもあったが思いつくままに。ラトル「3年ぶりに来日することができて嬉しい。今年は日本は大変な苦難に遭ったけれど、私たちと日本は長い関係を築いている。われわれはファミリーであり、共通言語である音楽でつながっている」。3人ともやはり震災について言及する。彼らが震災直後にYouTubeで来日のメッセージを残してくれたのを思い出した。ラトル「仙台での公演も考えたが、インフラの問題でオケ全員で行くことはできなかった。しかし何人かのメンバーは仙台で演奏することができた」。ドールは「地震で破損したためミューザ川崎で公演ができなくなり残念。ミューザ川崎のパートナー・オーケストラである東京交響楽団のためにも、一日も早く再建されることを願ってます」と語ってくれた(当初ミューザ川崎で予定されていた一公演がサントリーホールに変更された)。
●EMI主催の会見なので録音関係の話題もたくさんあった。今後のレコーディング計画としては、まずブルックナーの交響曲第9番の4楽章版。手稿を集め修復された第4楽章は「パワフルで説得力がある」「後期のマーラー作品以上に冒険的」(ラトル)。それからビゼー「カルメン」。「オペラのレコーディングはこの時代にもはや不可能と思っていたが、EMIの協力で可能になった」(ラトル)。
●オラフ・マニンガーがベルリン・フィルのメディア戦略について。「デジタル・コンサート・ホール、3D映像収録、YouTube、facebook等々、デジタル分野においてベルリン・フィルはグローバルなアウトリーチを展開している。今クラシック音楽はニッチになりつつあると思われているが、これらの活動によってクラシック音楽を社会の中心にすえることが必要だと思っている」。
●ほかに今回の来日公演でも演奏されるマーラーの交響曲について、あるいは細川作品についても興味深い話題があった。そのあたりは、また別の機会があれば。
●最近の来日団体がどこもやるように、ベルリン・フィルもアジアツアー・ブログを公開している。ドイツ語と英語。写真だけでもおもしろい。
バーレーンU22vsニッポンU22@ロンドン五輪アジア最終予選
●なんかこの数年ニッポンはいつもバーレーンと戦ってる気がする。
●先日のフル代表のアウェイ北朝鮮が、統率の取れた満員の大観衆ですさまじい圧力だったから、マナマのガラガラのスタジアムを見て一瞬安堵。でも始まったら拡声器なのかスピーカーなのか、謎の歌が鳴り響いてアウェイ感満載。ピッチは荒れてるし、強風だし、中東なのに雨まで降るし。いや、雨はニッポン有利なのか。
●試合結果は0-2、ニッポンが快勝したんだけど、内容的にはどちらが勝っててもおかしくなかった。バーレーンがゲームを支配していた。ニッポンはパスが回らず、ボールを持てなかった。プレッシャーに耐えられずに苦し紛れに出したパスがインターセプトされ、ピンチを招くという場面が多数。バーレーンは気力がみなぎっていて強さを感じたけど、チャンスを無駄にしすぎた。あと、バーレーンはキーパーがこのレベルに出てくる選手とは思えないほど不安定だったのが謎。
●前半終了間際にコーナーキックからこぼれたボールに、大津が浅い角度からスライディングして右足で合わせて先制。後半22分は山田直輝のシュートをキーパーが前に弾き、東が押し込んで2点目。この後はゲームが荒れた。アブドアヘリがもつれながら故意に山田の顔面をスパイクで踏んで、山田は流血負傷。一発レッド。山田は試合を続行したが、これは酷い。バーレーンは自分たちのゲームができていたのに、たまたまニッポンが少ないチャンスをものにしたばかりに、弱者のサッカーに走ってしまった。2点差でもそのままプレイしていれば追いつけたかもしれないのに……。これはかつてニッポンも通った道。「ケガをしないようにリードを保って終わらせる」というアジアのゲームになってしまい後味は悪い。リードしていても(ラフプレイ)リードされていても(醜悪な時間稼ぎ)、終盤はサッカー以外のなにかになりやすい。そして審判をめぐる駆け引き。胸を腕で押されたバーレーン選手が、両手で顔面を覆って悶えながら倒れる。だが今日の主審はそんな粗雑な罠に引っかかるほど低レベルではなかった。
新たな世界チャンピオンは北朝鮮
●認めたくない現実であるが、先日のワールドカップ3次予選でニッポンは北朝鮮に敗れてしまった。ワールドカップ予選としては単なる消化試合であっても、非公式世界王者の座はニッポンから北朝鮮へと移ってしまった。現在、チャンピオンベルトは平壌にある(だれの目には見えないが)。世界王者になったことについて最高指導者からのメッセージは特に発表されていない模様。
●UFWCのサイトも今回の新王者誕生に関してはいくつか記事を掲載している。ニッポンは昨年アルゼンチンに勝利して初めて世界王者となり(非公式ですよ、もちろん)、その後15試合にわたって王座を防衛し続けた。今回の防衛失敗は残念な限りだが、できることならアジアにある内にタイトルを奪還してほしい……といっても北朝鮮にある限り、その機会はめったなことでは訪れないが。
●2月29日にニッポンがウズベキスタンと消化試合を戦うその裏で、タジキスタンvs北朝鮮の世界タイトルマッチが開催されるわけだ。これは全世界の非公式世界王者ファン(?)にとって気がかりな一戦となる。なぜなら、タジキスタンが勝って新チャンピオンとなれなかった場合(その可能性は高い)、いったい次の北朝鮮の代表戦はいつ開催されるのか、という問題が残る。当分公式戦はないだろうし、果たして北朝鮮代表の親善試合のスケジュールはどうなっているのか?
●もっともタジキスタンが勝ったとしても、やはり予選敗退は決まっているので、次の代表戦は当面ないような気もする。王座の行方は混沌としている。ともあれ、NHKでもテレ朝でもいいから、タジキスタンvs北朝鮮の(非公式)タイトルマッチを中継してくれないだろうか。
ピエール=ロラン・エマールのリサイタル
●トッパンホールで開かれた「ル・プロジェ・エマール2011」から、二つのリサイタルに足を運んだ。
●まずは18日。これは強烈な体験だった。「リスト生誕200年を記念して」と題されているが、普通のリサイタルとはぜんぜん違う。前半はリスト「悲しみのゴンドラ」、ワーグナーのピアノ・ソナタ 変イ長調「ヴェーゼンドンク夫人のためのアルバム」、リスト「灰色の雲」、ベルクのピアノ・ソナタ、リスト「不運!」、スクリャービンのピアノ・ソナタ第9番「黒ミサ」。これを「曲間の拍手なしで」とリクエストして弾いた。無調の領域へと揺らぎながら、あたかも一つの大作を弾くかのように音楽の大きな流れを作り出す。拍手がないおかげで儀式的なムードも生まれ、とても幸福な時間だった。休憩の後はリストのソナタ一曲のみ。前半の作品群を聴いた後に聴くと、まるで知らない作品のように新鮮に聞こえる。振幅の大きな表現で制御不能な妖気を漂わせつつ儀式を締めくくった。アンコール大会なし。
●20日は問題作(?)「コラージュ─モンタージュ 2011」。古典から現代までさまざまな作品を寄木細工のように組合せるということで、プログラム詳細は当日知った。リミックス的なアイディア、すばらしいじゃないか。当日、演目を見てそのおもしろさにガッツポーズ。曲目は細かくてとても書き出せないが、全体を5部に分けて、それぞれにテーマを持たせる。たとえば第1部は「プレリュード・エレメンタリー」として、リゲティのムジカ・リチェルカータ第1番でスタートしてバルトークのミクロコスモス第124番スタッカート、シェーンベルクの6つのピアノ曲Op19第2曲……と進みブーレーズのノタシオン第4番、第8番と続く。
●第3部「メロディ&メロディ」も印象的。シュトックハウゼンの「ティアクライス」(黄道十二宮)からの各曲とシューベルトのレントラー他の舞曲を交互に演奏する。第4部「カプリッチョ」では作品の交配はさらに一段と進み、断片や引用を組み合わせる。ベートーヴェンの6つのバガテルOp119の第6曲とスカルラッティのソナタを交互に行ったり来たりして見せたり、ケージの「7つの俳諧」、シューマン「謝肉祭」に接続したり……。最後の第5部「告別の鐘」では、ムソルグスキー「展覧会の絵」から「キエフの大門」の途中で終わってしまうアンチ・クライマックスが用意されていた。客席に笑い。
●もっとも、これはリサイタルというよりレクチャーコンサートの雰囲気。各部でエマールがマイクを持ってひと通り解説をはさみ、それが通訳され、そのままの流れで演奏に入るという趣向で、トークの比率がかなり高い。リサイタル・モードではなくレクチャー・モードで鍵盤に向かうんすよね。そこをどう捉えるか。趣向は最高なんだけど、実践としては完成形までにまだ道のりがある気もする。言葉で語ることと音楽を演奏すること、種を明かすことと鮮やかなマジックを見せること、それを同時に求める難しさ、というか。もちろん、そうはいっても並のリサイタルでは体験できない興奮があったことはたしか。
ネーメ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団
●17日のN響定期はネーメ・ヤルヴィ指揮(サントリーホール)。本来ならイルジー・コウトが指揮する予定だったのだがケガのために来日できず、ネーメ・ヤルヴィ、準・メルクル、ワシーリ・シナイスキーの3人で、定期公演の3プログラムを分担した。曲目変更なし。
●で、今パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団が来日しているので、たまたま世界的指揮者の親子がともに東京に滞在している。なんだかスゴい。お忍びでクリスチャン・ヤルヴィも来日してたりしないんだろか。ていうか、父兄弟全員指揮者の家族ってどんな雰囲気なんだろ……。
●この日、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でソリストを務めたのはセルゲ・ツィンマーマン。なんと、フランク・ペーター・ツィンマーマンの息子だ。親子でヴァイオリニストは珍しくはないかもしれないが、フランク・ペーターの息子がもうそんな年齢だというのに驚く。1991年生まれ。「ヤルヴィ指揮ツィンマーマン独奏」の前者は父のほうで後者は息子のほうだったわけだ。
●ドヴォルザークのスラヴ舞曲第1番、交響曲第7番、ともにパパ・ヤルヴィの開放的で大らかな音が鳴っていたと思う。ヤルヴィはベルリン・フィル定期でドホナーニが降板したときも代役を引き受けてくれたんすよね。その後、定期に招かれている。N響でもまた聴いてみたい。
●ゲストコンサートマスターにロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスター、ヴェスコ・エシュケナージが招かれていた。
福間洸太朗ピアノ・リサイタル「エチュード・エルアイ……」
●16日は福間洸太朗ピアノ・リサイタルへ(浜離宮朝日ホール)。「エチュード・エルアイ……」と題された公演で、Li..から始まる作曲家の練習曲が並ぶという凝った構成。前半がリスト、後半がリゲティ、リャプノフ。大変すばらしい。力強く鮮やかなテクニックに胸がすく。でも技巧以上に魅力なのは、内向きの情熱。徐々に音楽を白熱させながら、大きな音楽の流れを生み出していく手腕は圧巻。リゲティの練習曲まで情感豊かな音楽になってしまうほど。すさまじい引力で聴き手を飲み込んでゆく。フォースのダークサイドに落ちる寸前で留まるアナキン・スカイウォーカーを見守る気分。ワタシは今回で彼のリサイタルは3度目なんだけど、すでに次回が楽しみになっている。会場は決して埋まっていないのに、業界関係者は大勢いて、逸材への注目度がますます高まっているのを感じる。
●今月の「バンドジャーナル 12月号」にまもなく来日するベルリン・フィルのホルン奏者サラ・ウィリスのインタビューが載っている。で、あわせて彼女からのプレゼントとして、ベルリン・フィル・デジタルコンサートホールの年間パスのプレゼント企画が行なわれている。また、読者全員に3か月のフリーコードもプレゼントも提供中とか。吉。
北朝鮮vsニッポン代表@ワールドカップ2014アジア3次予選
●すでに3次予選通過を決めているニッポンと、もはや敗退が決まっている北朝鮮。ただの消化試合のはずなのに、平壌で待ち構えていたのは5万人の満員のスタジアムと人工芝のピッチと「偉大な領導者、金正日同志が抱かせてくれた胆力と度胸」(ユン・ジョンス北朝鮮代表監督談)だった。近年、世界レベルのサッカーは組織でプレイする集団的な戦術が主流となっているのだが、北朝鮮は想像を絶する戦術を見せてくれた。すなわち、選手のみならず5万人の観衆が集団的にふるまうウルトラ・コレクティブ・フットボール。一糸乱れぬマスゲームをスタンドで展開、見たこともないきびきびとした動きによって人文字が描かれる。試合中の歓声もまるで「キュー」が出てるかのようだ。
●しかし、国歌にブーイングしてはいけない。どこにも書いてないかもしれないが、そういうものだと決まっている。もっともあまりブーイングらしくはなかった。どうやら彼らは「本物のブーイング」を知らないようで、ブーとも歓声とも取れる高い声が聞こえていた。
●ニッポンは何人かサブのメンバーを出してきた。GKの西川、センターバックの栗原、左サイドバックの伊野波、セントラルミッドフィルダーの細貝、右フォワードの清武を試した。センターフォワードは前田(→ハーフナー)。序盤から押されっぱなしになったが、メンバーがサブだったからというのはあまり関係ない気がする。主審には異常なプレッシャーがかかっていたと思う。北朝鮮はフィジカルの戦いを前面に押し出してきた。まるでこれが決勝戦かというような当たりの強さ。栗原はいつものプレイができず、いくつもピンチを招いてしまった。試合後にザッケローニ監督が言っていたように、北朝鮮は先の試合を考える必要がないのでカードを心配しない。結果北朝鮮に6枚のイエローが出て、一人退場したが、よくそんなもので済んだなと思う。
●アジアの予選では繰り返しこういう光景を見かけるが、そのなかでも極めつけの試合だったように思う(最後のロスタイムのお約束も……)。後半5分、北朝鮮がゴール前で競り合い2連発で制してパク・ナムチョルがゴールを決めて1-0。北朝鮮は前半途中でなぜかチョン・テセが下げられてしまったが、ほかにもフィジカルの強い優秀な選手が何人かいる。気持ちの強さはアジア有数だし、彼らも普通にサッカーをすれば世界レベルで戦える可能性があるのに……。いや、勝ったのは北朝鮮なんだけど。
●もちろん、最終予選でもアウェイでは驚くべきことが起きるにちがいない。今までもそうだった。そのたびに代表選手と代表監督は常に冷静に大人のプレイをしてきた。本当に偉い。ワタシだったら、ラフプレイを食らって一瞬のうちに沸騰し、脱いだスパイクを地面に叩きつけて、ふざけんなやってられるかと叫び、試合を放棄して、即座に平壌から東京に飛んで帰る(どうやって?)。なのに、みんなあの若者たちは耐える。代表選手ってそこまで成熟が求められるんすね。ザックもすばらしい。彼は決して審判について論評しない。相手の批判もしなかった。男前だ。ドレッシングルームでは怒り狂っていたかもしれないが……。
ラトル&ベルリン・フィル3Dイン・シンガポール、「日経おとなのOFF」第九入門
●以前に3D映画「ベルリン・フィル3D音楽の旅」をご紹介した。全国各地で順次公開中なのであるが(→上映情報)、さらにBlu-ray Disc「ラトル&ベルリン・フィル3Dイン・シンガポール」がまもなくリリースされる。もちろん、3D映像である(2D再生にも対応している)。3Dで見るためには3D対応専用メガネが必要である。ウチにあったかなあ……あった気がする。いや、でも肝心のBlu-ray対応のDVDプレーヤーを持っていないのだった。ともあれBlu-rayプレーヤーと3D対応専用メガネがあれば、おウチで「飛び出すベルリン・フィル」が見れる(ら抜き)んである。超現実的な臨場感を味わうが吉。
●「日経おとなのOFF」12月号は「第九入門」。いったいこの「第九」特集だけで全部で何十ページあるのか、すごいボリューム。本文はすべてカラー、おまけに付録DVDにティーレマン指揮ウィーン・フィルによる「第九」第4楽章が付いている! さらに綴じ込み付録として、なんと、佐渡裕監修「歓喜の歌」一緒に歌える完全歌詞BOOK! 「ダイネ ツァウベル ビンデン ヴィーデル……」と、ドイツ語歌詞にカナが振ってあり、ポイントごとに佐渡さんのアドバイスが添えられるという親切設計。これで840円の安さとは、なんという別世界。
●この特集、ワタシも少し記事を執筆させていただいたのだが、できあがった掲載誌を手にして全体像を知って感動。記事の作り方が音楽誌とは一味も二味も違っていて、「なるほど、こういう企画の発想があるのか」と、勉強になる。
プロコフィエフとラヴェル
●「プロコフィエフ自伝/随想集」にラヴェルのエピソードが紹介されている。プロコフィエフはラヴェルのことを高く買っていた。ラヴェルの訃報を聞いて、ラヴェルの音楽は「現実からかけ離れすぎているというまちがった思考のせいで」ソヴィエトではあまり演奏されないが、同時代でもっともすぐれた作曲家であったと讃えている。ラヴェルとは1920年に初めて会ったそうだ。ボレロや弦楽四重奏、パヴァーヌを例に挙げ、彼の死を悼んでいる。
●プロコフィエフはパリ・オペラ座でラヴェル自身が指揮したバレエ「ボレロ」に立ち会ったという。ラヴェルは決して指揮を得意としていないが、曲の最後まで見事にオーケストラをコントロールした。で、最後の和音が鳴って、ダンサーたちがピタッと固まった姿勢をとった後、なぜか幕が下りてこない。ラヴェルは平静を保とうとしたが、いらついていた。ダンサーたちはじっと同じ姿勢をとり続けている。突然、ラヴェルは譜面台の上にあったボタンを押した。すると幕が下りた。ラヴェルがボタンを押し忘れていただけだった……。
タジキスタンvsニッポン代表@ワールドカップ2014アジア3次予選
●アウェイなので深夜の試合かと思っていたら、日本時間18時キックオフ。現地は14時だったみたい、平日なのだが。そしてグラウンドはつい数日前まで雪が積もっていたとかで、ほとんど土、ところどころ芝が残っているという、あたかも1回5000円で借りれる区立のサッカー場みたいな草サッカー状態。ここでワールドカップ予選とは……。
●GK:川島-DF:内田(→伊野波)、吉田、今野、駒野-MF:長谷部、遠藤、中村憲剛(→清武)-FW:岡崎、香川、ハーフナー・マイク(→前田遼一)。前の試合ホームで8点獲って楽勝だったわけだが、アウェイに行けば別世界、相手はまるで違うチームになるもの。やはり、そうなった。序盤で客席が「わー」と沸いてスイッチが入ったみたいな感じで、タジキスタンも「やればやれるじゃん」と自信を持って戦ってきた。攻守の切り替えが早い。タジキスタンにバーを叩いたミドルシュートがあった。彼らが先制しててもおかしくなかった。
●しかしあのピッチ状態じゃニッポンがいつも通りできないのはしょうがない。むしろあんな状態にもかかわらず、徐々にポゼッションを高めパスサッカーを展開したという上手さに感嘆すべきかも。前半36分、業を煮やして上がってきた今野が先制ゴール。祝、代表初ゴール。
●後半すぐにハーフナー・マイクを下げて前田遼一へ。今日のマイクは周りと呼吸があっていなかったし、ほとんどなにもできなかった。あんなに長身なのに、ポストプレイやヘディングの競り合いは昔からあまりうまくない。前田のほうがスムーズ。後半16分、香川がドリブルで相手を交わしてクロス、これに岡崎が合わせて追加点。途中からはタジキスタンの足が止まってきた。アジア予選ではよく見かける光景。ニッポンは好きにボールを回せるようになった。前田が相手ディフェンスに囲まれながらも強引なシュートを打ってゴール。見事すぎる。ストライカーらしい。ロスタイムにも華麗なパス回しから岡崎が決めたが、その頃はもうすっかりタジキスタンが切れていたので、追い風参考記録の美しさ。4-0と終わってみれば大差。
●ウズベキスタンが北朝鮮に勝利したので、これでニッポンとウズベキスタンの同組2位以上が確定、最終予選へ進むことに。すぐに続けてアウェイ北朝鮮戦があって厄介だなと思っていたのだが、これは助かった。
●またしてもニッポンは世界王座のチャンピオンベルトを守った(笑)。UFWC参照。
●吉田麻也のブログがおかしすぎる。
ラザレフ&日本フィル記者会見、新プロジェクト「ラザレフが刻むロシアの魂」
●昨日は杉並公会堂でアレクサンドル・ラザレフ指揮日本フィルの公開リハーサルと記者会見へ。1時間のリハーサルをプレス関係者に公開した後で、記者会見を開くという方式。この方式はいいっすね。
●会見でのテーマ、まず新プロジェクト「ラザレフが刻むロシアの魂」について。これまでプロコフィエフ・チクルスに取り組んでいたラザレフ&日フィルのコンビが、次に取り組むのはラフマニノフ。この週末、明日11日(金)と12日(土)にさっそくラフマニノフの交響曲第1番が取り上げられるが、2012/13シーズンには交響曲第2番、同第3番、交響曲舞曲、ピアノ協奏曲第2番、同第3番他が演奏される。11/12シーズンより、ラザレフと日フィルは首席指揮者の契約を5年間延長、今後ラフマニノフに続いてスクリャービン、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチら、ロシア人作曲家たちに取り組むという。
●ラザレフは「プロコフィエフ・チクルスはオーケストラにとって有益だった。オケの音色を変えた。今度のラフマニノフではプロコフィエフとはまったく違ったオケになることが要求される。ラフマニノフは高まる感情が嵐となって押し寄せる音楽だ。日フィルにとって大きな糧となるだろう」と述べた。
●あわせて12/13シーズンのラインナップ、さらに首席客演指揮者ピエタリ・インキネンの3年の契約延長が発表された。インキネンは12/13シーズンでシベリウスの交響曲全曲を3回の演奏会にわたって指揮する。
●ラザレフがラフマニノフの交響曲第1番についてあれこれと余談を披露してくれたのがおもしろかった。ラフマニノフの交響曲第1番については、彼のピアノ協奏曲第2番と合わせて有名なエピソードがある。リムスキー=コルサコフやリャードフ、キュイなど楽壇の大物を前にペテルブルクで行なわれた交響曲第1番初演は悲惨な失敗に終わる。キュイは新聞批評で「地獄の音楽」と酷評した。若いラフマニノフは失意に打ちのめされ作曲ができなくなる。その後、ラフマニノフは精神科医ダーリの催眠療法を受けて、ふたたび作曲の筆を執り、3年後に名作ピアノ協奏曲第2番の初演に成功を収め、復活する。ラフマニノフの交響曲第1番初演が失敗に終わったのは、指揮をしたグラズノフの不手際だったと伝えられている(彼は酔っていたらしい)。ラザレフはこれをムラヴィンスキーから聞いた話として披露してくれて(ムラヴィンスキーもやはりだれか先輩から人づてに聞いた話なんだけど)、グラズノフはゲネプロと本番の間にアストリア・ホテルで豪勢な昼食を食べたという。アストリア・ホテルでおいしい食事をするのにウォッカを飲まないということはありえない。これが悲劇だった。
●で、ここから先は初耳だったんだけど、ラフマニノフは初演の失敗の後、一刻も早くモスクワに戻りたかった。しかし、駅に向かう途中で、意を決してグラズノフに会いに行った。ここで1時間だけ時間があった。そのとき二人が何を話したかは誰も知らない。でも二人は生涯にわたる友人となった(!)。ラフマニノフはグラズノフが亡くなるまで経済的な援助までしたという(ラフマニノフが先輩のグラズノフを助けたのであって、逆ではない)。
●さらに披露された余談。グラズノフはシベリウスと仲がよかった。ヘルシンキのキャンプというレストランでは数日間にわたって外に出ずにひたすら飲み続けたんだとか。シベリウスの飲酒癖も有名っすよね。
見出しのつけ方
●雑誌でも書籍でも、見出しのつけ方は大切である。多くの場合、見出しは編集者がつける(が、最近はライターが書くことも多い気がする)。特に雑誌になると、大見出しがあって、リードがあって、本文中に小見出しが何本も入って……と見出しの数が増える。見出しは記事の内容を簡潔に伝えるものでなくてはならない。だが、あまりに淡々として新聞みたいになってしまうと、引きが弱くなる。「ついに出会った至高の名盤とは!?」みたいに、とにきは煽らなければならない。あとは「ん、これってなんだろう?」と読者に思わせるような変化球も(たまに)必要になる。
●↑と、いうのが活字時代の見出しだった。ところがブログになると事情はぜんぜん違ってくる。ワタシも最初のうちはつい見出しで読者の気をひこうとか考えてしまったのだが、これはあまり得策ではないと気づいた。ブログの見出しは人間の読者よりも、検索エンジンを相手に書かなければいけないんである。つまり、アンナ・ネトレプコについて記事を書くんだったら、「ネトレプコ」で検索したときにどれだけそのページの順位が上に来るかによって、そのページの先々の累積的なヒット数が変わってくる。そこで紙媒体のノリで「メトロポリタン・オペラの常連客が立ち上がって拍手を送る美貌の歌手とは」みたいに見出しをつけてしまうと、「ネトレプコ」で検索してもなかなかヒットしない。じゃあどうするのがいいかっていうと、たぶんその記事の見出しは「アンナ・ネトレプコ」とか「ネトレプコ大好き」とか「ネトレプコとは」にしたほうがいい。なんの工夫もなく、そのまんまのほうがいいんである。「そのまんま」というのは、細かいことをいえば最高ではないが(つまり対検索エンジン的により効率のよいテクニックはあるかもしれないが)、少なくともかなりよい方法ではある。労力も不要だし。
●このエントリーは見出しのつけ方について書いている。したがって、見出しは「見出しのつけ方」がふさわしい。
平安、汝とともにあれ。ヴァンフォーレ甲府vsマリノス戦
●最近マリノス戦をテレビで見ていて、耐え切れない気分になることがある。もうとても見てらんない。リードしているときには今にも失点しそうに見える。同点のときも失点しそうに見える。負けてるときはさらに失点してリードを広げられそうに見える。ディフェンスの凡ミスからボールを奪われて失点。フリーキックをキーパーが正面に弾いて失点。クロスボールをあげられたらなぜか相手FWがドフリーで待ち構えていて失点。余裕たっぷりのセンターバックがボールをかっさらわれて失点。オウンゴール。失点のバリエーションは無限に思いつくという、負の方向にばかり活発な想像力。サッカーって、こんなに見てて苦しかったっけ?
●で、先週の祝日に行なわれたヴァンフォーレ甲府vsマリノス戦を録画してあったのだが、これの結果は知っていたんである。1-2でアウェイのマリノスが勝った。それだけ知って、数日遅れで録画を再生した。そこで発見したのだが、最後に勝つとわかっている試合を観戦するのはなんて楽しいんだ! どんなにディフェンスが崩されても、いくつチャンスをムダにしても安心して試合を眺めていられる。冴えない試合展開の中、両者ともゴールを奪えない。本来ならジリジリするところだが、最後は1-2になるとわかってるのだから、むしろ点が入らなければ入らないほど期待が高まる。
●後半22分になって甲府のフリーキックのこぼれ球にハーフナー・マイクが反応して、マリノス・ゴールに蹴りこんだ。甲府が1点先制! なのにワタシの心は穏やかだ。失点したにもかかわらず、ダライ・ラマ14世より安らかな気分でサッカーを見ていられる。試合はそのまま後半40分を過ぎた。あと5分で終わるよ? どうするの、マリノス。すると、後半41分に中村俊輔のクロスボールに大黒が頭で合わせて1-1の同点! さらにそのわずか3分後、後半44分になってゴールライン際で甲府のキーパーと守備の連携ミスがあって、なんでもなくクリアされるべきボールが生き残り、途中出場の森谷賢太郎の前に転がってきた。これを思い切り蹴ると、ボールは相手ディフェンスに当たりつつも無人のゴールへ飛び込んだ。1-2。終了間際の鮮やかな逆転劇。
●なにしろ結果がわかっているんだから、こんな気楽なものはない。中村俊輔や大黒将志に頼っているようではこのチームに未来はない、とか思ってるのに、この二人で同点ゴールを奪っているではないの。まあ、いいか、勝ったから。なにしろ6試合振りの勝利だ。勝つってスゴい。奇跡が起きたみたいな気分になれる。でもなにが奇跡かって、こんなに勝ててなかったのにまだ4位に留まってるってことだな。
METライブビューイング2011/12シーズン、「アンナ・ボレーナ」で開幕
●METライブビューイング2011/12シーズンの最初の作品はドニゼッティ作曲の「アンナ・ボレーナ」。題名役はアンナ・ネトレプコ。デイヴィッド・マクヴィカーによる新演出、指揮はマルコ・アルミリアート。ドニゼッティへの関心が薄くて、この作品を初めて見たんだけど、あらすじを読んで気がついた。「アンナ・ボレーナ」って、アン・ブーリンのことだったんだ! 映画「ブーリン家の姉妹」でナタリー・ポートマンが演じていた、あの女性。えーと、たしか怖い女性じゃなかったっけ。フォースとともにあらんことを。
●が、ドニゼッティの「アンナ・ボレーナ」で描かれるのは、「ブーリン家の姉妹」よりももう少し後の話だ。アンナ・ボレーナはエンリーコ(って、ヘンリー8世のことなんすけどね、イタリア語だから)の妻なんだけど、エンリーコはもうアンナの侍女セイモー(=ジェーン・シーモア)とできてて、セイモーと結婚するためにアンナを罠に陥れて、告発し、処刑する。そのアンナの最期までがこのオペラの題材。これだけ見るとアンナは犠牲者とも思えるわけだが、前史を考えれば思い切り自業自得でもあり、同情の余地はあまりない。
●エンリーコ(=ヘンリー8世)は、もちろん超絶冷酷無比なバカタレっぷりを気持ちよく発揮。小姓のスメトン、アンナの昔の恋人ペルシ、アンナのお兄さん、みんな「死刑!」って、なにそれ。つまりこれって、全登場人物がそろいもそろって最初から最後まで不幸な話なんすよね。王妃になるセイモーもひたすら苦悩する辛気臭い女なので。お前くらいはパーッ!と喜べと言いたくなるが、この人も結婚後しばらくしてエドワード6世を生んで死ぬ運命にあるのだよな、このオペラの幕が下りた後の話として。
●で、音楽面ではアンナ役のネトレプコ(この人もアンナだ)が圧巻。ネトレプコはもうびっくりするくらいロシア的ふくよかさを身につけていて、食堂でどんぶり飯を盛ってくれるオバチャン感が全開なのであるが、おそらく難所につぐ難所であるだろうヘビーな大役を堂々と歌い切った。このオペラって山場だらけなんすよね。あまりにアンナが強烈なので、他の役がかすみそうだけど、しかし男声陣も好演。ペルシ役のテノール、スティーヴン・コステロがいい。伸びやかで、甘い。あと、オケはいつものように切れ味鋭くて、うらやましい。ドニゼッティがこんな聴かせどころの豊富なオーケストレーションをしていたなんて……。煽り立てられる悲劇。ヴェルディを予感させる。
●METライブビューイングのお楽しみ、幕間インタビューでは当時を忠実に再現したという衣装デザインの話がおもしろかった。ネトレプコは幕間は出たくないということで、幕が開く直前にピーター・ゲルプ総裁がじきじきにインタビュー。このときネトレプコの顔に「不機嫌」って書いてあった。話をするのがイヤだったというより、もうアン・ブーリンに半分なっていたんだと思う。アン・ブーリンって、とにかくイヤな女だし。
●上映は11月11日(金)まで。全国各地で公開しているけど、どこも1日1回上映で、夜に上映があるのは東京と大阪の一ヶ所ずつのみ、あとは午前中から上映なので、それなりの気合が必要。でもオペラは実演だろうがDVDだろうが映画だろうが、みんな気合が必要なものだから。気合っていうか、フォース。
秋の公園散歩2011~昭和記念公園編
●ビバ、秋の行楽。本来であれば、このシーズンは低山ハイキングに出かけたいところである、都心から比較的近い過疎地域を目指して(参照:ゾンビと私)。が、今季はいろいろあって山は難しそうなので、代わりに平地を歩くことに。で、立川の昭和記念公園へ。ここは東京都の整備された公園のなかでもっとも広大で、歩き甲斐のある公園だろう。紅葉にはまだ早いとは思いつつも、日本庭園のほうへ歩いてみると、そこそこ色づいている。ここのモミジはもうしばらくすると真っ赤になるんすよね。鮮血みたいなド赤に。
●この公園はあちこち工夫が凝らされていてイベント性が豊富。にぎやか。山成分はほとんどない。バードサンクチュアリーや水鳥の池あたりは静かでオススメ。レジャーシートを敷いて昼寝推奨。もしここでウトウトして、そのまま夜になってしまったらどうなるのであろうか。閉園のお知らせに気づかず寝過ごすと、たぶん見回りのオジサンとかも公園が広すぎて気づいてくれないだろうし、そのまま一夜を過ごすことになりそうな気がする。でも水飲み場もトイレもあるし、食べ物も公園内の自然の恵みから調達することも不可能ではない。そしてそのまま公園内に住み着き、ひっそりと暮らし月日が経つが、ある日来場者に見つかってしまい「昭和記念原人」と呼ばれることに……と妄想を展開するのも公園遊びの醍醐味だ。
●事件現場を示す黄色いテープが張られている。根元からばっさりやられており、断面から判断すると、鈍器で力ずくで切断された可能性がある。断末魔の叫びが聞こえてきそうだ。
話が長くなる
●最近このブログのエントリーって長くないすか。もっと短くてキレがあるほうがいい気がする。なんていうか、こうスパッ!シャキッ!みたいな。昨晩、コンサートに行くために最寄り駅に着いて、そこでふと念のためにと思ってチケット確かめたら、違う日だったんすよ! マジで。まあ、正しい日付が過去じゃなくて未来だったのが救いといえば救い。
●救いといえば、ルーニー、マンチェスター・ユナイテッドの。録画しておいたマンチェスター・シティとのダービーマッチを見てたら、シティの攻撃力が爆発しててそれも感心するんだけど、ルーニーの植毛は完璧に成功してる。報道でも本人が「結果には満足してる」って言ったけど、本当にそうだろうと思うし、短髪だから違和感がない。茶髪に染めてカッコいい。シティ戦はキツかったが、これからますますたくさんのゴールが期待できそう。
●たくさんのゴールといえば、ニッポンU19。アジア選手権予選ていうのがバンコクで開かれてるみたいなんだけど、グアムと対戦して26-0で勝った。サッカーで26点はないだろう。AFCのサイトを確認したら記録が載ってて、ホントに26-0だ。南秀仁選手は途中出場なのに得点欄に 53,63,69,69,71,73,90 ってなってて7点とってる。もうわけわからん。だけど、ここまでやるってのがU19だなあ。大人ならこうはならない。極端すぎる。
●極端といえば、チェリビダッケ。最近、EMIからチェリビダッケのBOXセットがタダ同然の価格でリリースされてて、ほしいものは大体持ってるつもりだったんだけど、この箱はほとんど聴いてないと思い French & Russian Music だけはゲットした。CD1枚分の価格で11枚組。かつて録音を拒み、ライブでしか聴けなかった「幻の巨匠」は、いまやもっとも安価かつ大量にCDが流通する指揮者になった。フランス音楽とロシア音楽のお得なバリューセット。とりあえずリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」を聴いてみると、やっぱりテンポが遅い。期待通りの異次元っぷりでもちろん満足しているのだが、演奏時間54分だ。長い。気が遠くなりそうなほど長い。
●長いといえば、(↑最初に戻る)
横河武蔵野FC対MIOびわこ草津@JFL後期第13節
●最近すっかり足が遠のいていたが、今季ホーム武蔵野陸上競技場での最終戦ということで、横河武蔵野FC対MIOびわこ草津戦へ(29日)。遠くのJより近くのJFL。この日は爽やかな秋晴れの一日でサッカー観戦にはぴったり。
●チームは信じられないほど低迷している。ついこの前まで優勝争いをしていたチームが、いまや降格ラインを気にしながらの戦いを続けている。原因はいくつも挙げられるんだろうが、傍目で見て感じるのは中盤の守備力の低下か。そしてボールがよく回りポゼッションが高まっているときに、失点が増えている気がする……いや、久しぶりに足を運んだヤツにそんなこと言われたくないか。ないよなあ。むしろ行かなくなったから低迷したんじゃないか、自分が。みたいな自分中心的サカヲタ幻想を軽く爆発させてみる。
●MIOびわこ草津は9番のゴツいブラジル人?アランの攻撃力がずば抜けて高い。前を向かれて突進されると、JFLではどうにもならない。と言いたいところだが、その割りにこのチームもウチと同様に下位に甘んじており、いったいどういうことなのか、と思っていたら前半でアランが一発レッドで退場。そんなに悪質なプレイだったのか、ワタシにはよくわからなかったが。これで横河武蔵野が完全にゲームを支配するようになった。
●後半、ワタシは屋根のあるメインスタンド席から、バックスタンド側の芝生席へと移ることにした。屋根があるってことは日陰なんである。この貴重な秋晴れの一日になにも日陰でじっと座っていることはないだろう。人の疎らなバックスタンドへと向かってる間に後半の笛が鳴った。観客は全体で600名くらいいたようだが、バックスタンド側には20名くらいいただろうか。直射日光を浴びながら、芝の上にドスンと座る。横になってもいいかな。暖かくて気持ちいい。ボールがタッチラインを割ると、すぐにこちらの芝生まで飛んでくる。ワタシのところに飛んできたら、どうやって返そうか。ヘディングとか? 持参した水を飲み、菓子を食う。ふー、いい感じで力が抜けてくる。だんだん試合の展開が気にならなくなる。あー、一人多いのに、ゴールが遠い。むしろピンチまである。ポカポカする。もう寝ようか。そばで小さな子がお父さんとサッカーボールを蹴って遊んでいる。サッカー観戦しに来てサッカーするってスゴくないすか。かと思えば、キッズがわけもわからず「ニッポン、チャチャチャ!」をはじめる。そりゃ武蔵野もニッポンには違わねえんだけどさー。ピッチ上では選手たちが全力で走っている。偉い。偉いが点は入らない。終盤に決定的ピンチすら招き、結局0対0で終わった。もしワタシが呑み助だったら、この芝でぐでんぐでんになるくらいに飲んでいただろう。あー、立ち上がるのもめんどくさいなと思いつつ、ホーム側へとテクテクと歩き、順位表を一瞥してから家路についた。残りまだ8試合あるが、このスタジアムでのゲームはない。今シーズンはここまでだ。残留しますように。だがさっき見たはずの順位をもう覚えていない。