February 13, 2012

METライブビューイング「エンチャンテッド・アイランド 魔法の島」

ミランダ(テンペスト)●METライブビューイングで「エンチャンテッド・アイランド 魔法の島」(←このカタカナの題名は要るの?)新作初演。この「魔法の島」というオペラはヘンデル、ラモー、ヴィヴァルディらのバロック・オペラ名曲に、オリジナルの台本を添えて構成した「パスティーシュ」……ということなんだが、これは想像を超えて今日的なオペラだった。というか、かつてこれ以上に今日的なオペラを見たことはない。
●指揮がウィリアム・クリスティで、ダニエル・ドゥ・ニースとかジョイス・ディドナートが歌うんだからバロック成分はすごく高いし、事実バロック・オペラの「パスティーシュ」なんだけど、もっと適切な言い方をすれば幕間インタビューで台本のジェレミー・サムズが話していたように、これは「マッシュアップ・オペラ」なんすよ。
●前に紹介したマッシュアップ小説に「高慢と偏見とゾンビ」ってあったじゃないすか。あれはジェイン・オースティンの「高慢と偏見」にゾンビ小説が紛れ込んでいた。同じように、「魔法の島」は「テンペストと真夏の夜の夢とヘンデルとラモーとヴィヴァルディ」みたいなシェイクスピアとバロック・オペラのリミックスなんである。だから、もちろんスゴく笑える。笑いどころは本当にたくさんあるんだけど、最大の見どころはネプチューン役のドミンゴが宙吊りの人魚数名を侍らせながらヘンデル「司祭ザドク」とともに大仰に登場する場面。抱腹絶倒。お腹痛い。
●ドゥ・ニースの役は妖精アリエルでティンカーベルが少し入っているキャラで、一言でいえば「ドジっ娘魔法使い」。くらくらするほどかわいい。
●舞台は「テンペスト」の孤島。ドジっ娘妖精アリエルが主人プロスペローの娘ミランダの結婚相手を捕まえるために魔法で船を難破させる。でもこれに失敗して「真夏の夜の夢」の2組の恋人が流れ着いてしまって大混乱。アリエルは失敗をつくろうために海神ネプチューンに助けを乞う。人魚連れで派手に登場したネプチューンは「お前は神のおれに指図するのか」と最初は怒るが、「いやー、すまんすまん、年をとったら怒りっぽくなって」とか機嫌が急に変わって、うっかりすると自分が海神であることも忘れかけてそうなくらい耄碌気味。アリエル「あなたのイルカと一緒に泳いでもいい?」ネプチューン「ああ、いいよ……見つけられたらな。そんなのいたっけ?」……(←記憶だから少々違うかもしれないけど)、こういう筋のポストモダン小説っていかにもありそうじゃないすか、ニューヨークの書店に山積みになって。
●いかに同時代的なオペラを新たに書くか。フツー、それは現代の音楽を作曲することを意味する。でも待てよ、音楽は古い(バロックの)曲をリミックスして、台本のほうを現代にふさわしいものにすればいいんじゃないか。そういう発想がありえたわけだ。そしてこれは大成功している。メットのお客さんは大喜び。だよなあ。見たいもの聴きたいものが無節操に詰めこまれている。豪華な舞台、見ているだけで楽しくなる衣装、歌手もステキだし、曲は最上の美しさ、そして台本はあらゆる名作オペラから数万光年彼方の同時代性を持っている。これこそが本物のオペラじゃないか。そう叫びたくなる。こんなものはオペラじゃないという声も山のようにあるはずだけど。
●~2月17日(金)東劇他で上映中。

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