●METライブビューイングでワーグナー「神々の黄昏」。ついに「ニーベルングの指環」完結。うーん、楽しい。ジークフリートの葬送行進曲ってホントに鳥肌立つ。
●前作「ジークフリート」では「恐れを知らぬ英雄」としてあんなに威勢がよかったジークフリートなのに、結局この人も指環の呪いの魔力に屈してしまうんすよね。フィジカルは最強だけど、頭の中は子供のまま……。いや、ブリュンヒルデが神性を失ったように、ジークフリートもヴァージニティと引き換えに筋肉だけのあんぽんたんになってしまったんでしょうか。ラインの乙女たちとの会話から潔さまでなくしてしまったことが伝わってくる。己の偽誓がもとで背中から槍で刺されて死ぬ有様。しかし、そこから先の場面は泣ける……。
●神々の黄昏って言うくらいだから、神の時代は終わるんすよ。神の血を引いたみなさんは死ぬ。ジークフリートも死ぬし、ブリュンヒルデも死ぬ。でも神代の終焉というのは、同時に小人族の終焉でもあり巨人族の終焉でもある。ハーゲンはあんなに策を弄してジークフリートまで倒したのに、最後は指環に触れることもできやしない。なんてかわいそうな男なのか。そしてビバ、モータルな時代到来。
●ブリュンヒルデはさっきまでジークフリートのことを「愛してる!」って言ってたのに、裏切られたら「殺せ!」って言い、死んだら死んだで「アタシも一緒に燃やして!」って言う。乙女心、怖い。
●METの出演者陣は強力。ブリュンヒルデ役のデボラ・ヴォイト、そして前作で突如抜擢されたジークフリート役のジェイ・ハンター・モリス。彼は前作、ところどころ声がかすれ気味になるのが気になったけど、今回はそんなこともなく、甘い声の見事なジークフリート(劇場でどれくらい声が通ってるかはわからないけど)。さらに脇役がいい。グンター役のイアン・パターソン、情けないダメ男の表現として完璧。顔芸だけでグンター。グートルーネのウェンディ・ブリン・ハーマーは結構美人さんなので、まあジークフリートが忘れ薬でやられてなくてもこっちを選んで無理ないかなと勝手に納得。ハンス=ペーター・ケーニヒの無表情に歌うハーゲンに戦慄。
●ジェイ・ハンター・モリスは他の劇場をキャンセルしてこちらを歌ったとか。せっかくスターになったんだし、そりゃMETで歌うよなあ。
●演出ロベール・ルパージュのシーソー並べたみたいなムダに超ハイテクな舞台装置は、意外と効果的だった。とはいえテクノロジーの使い方として違和感が大きいし、歌手の演技もオペラ歌手的オートマティズムで流れていく感じで、かなり寂しい。でもいいのかも、METはこれで。実際「なんじゃありゃ」とかブーブー言いながら、楽しんでるわけだし(笑)。上映時間5時間半、正味4時間半の長丁場。オケはさすがにブラスはキツそうだったけど、でもうらやましい。
●ルイージの指揮もいいんだけど、今にして思うと「ワルキューレ」のときのレヴァインはスゴかったすよね。なんか憑いてた。
March 6, 2012