●そういえば、すでに東京では公開しているのであった、映画「魔弾の射手」。現在ヒューマントラストシネマ有楽町で公開中。3/24より大阪シネ・リーブル梅田、近日名古屋の名古屋シネマテークで公開予定。イェンス・ノイベルト監督、ダニエル・ハーディング指揮ロンドン交響楽団(おおっ)。
●昔からオペラの映画化というと二つの流儀がある。劇場で上演しているものをそのまま収録するスタイルと、あくまで映画としてセットを組んで作りこむタイプと。前者はMETライブビューイングという成功事例ですっかり定着した感があるが、後者にも時々力の入ったものが出てくる。この映画「魔弾の射手」はそちらのタイプ。完全に映画。指揮者もオケもまったく映らない。
●でも、どうして今ウェーバーの「魔弾の射手」なんすかね。と思わなくもないが、名作でなおかつ映画の尺に収められるものというと限られているのかもしれない。この映画では、時代設定が作曲当時に置き換えられているものの、ほぼオーソドックスな演出。そして、意外にも映画として作っているにもかかわらず、歌手陣はルックス重視ではない。なにしろマックス役のミヒャエル・ケーニヒはどう見ても逃亡犯みたいな悪人面のオッサンで、これから花婿になろうっていう若い猟師には見えないし(その銃で何人やっちゃったんですか!的な)、アガーテ役のユリアーネ・バンゼも若い恋人にしては労苦が表情に刻まれすぎているような気がする。領主はフランツ・グルントヘーバーで、富農キリアンがオラフ・ベーアで、カスパールがミヒャエル・フォッレで、隠者がルネ・パーペで……と重厚なキャストをそろえて、堂々たる歌唱を聴かせてくれる。つまり、これはオペラだ。オペラ的人選で、ぜんぜん映画的人選じゃないのが潔い。
●見どころは、やっぱりルネ・パーペの隠者っすかね。もうこれがカッコいいんだ、最後においしいところを持っていく感、そしてあの重々しい顔芸。「あ、あなた様が、あの隠者殿で。ははーっ!」みたいな黄門様的快感。
●音楽的に不足はないし、映像的にもよくできているので、あとは映画館の音響が適切であることを祈るばかり。
March 22, 2012