●「新訳 フィガロの結婚 付『フィガロ三部作』について」(ボーマルシェ/鈴木康司訳・解説/大修館書店)読書中。おもしろい。
●「フィガロ三部作」といえば、ロッシーニがオペラにした「セビリアの理髪師」があって、次にモーツァルトの「フィガロの結婚」があって、そしてあまり知られていない「罪ある母」が続く。「罪ある母」というのは、アルマヴィーヴァ伯爵夫妻の息子が実は伯爵夫人とケルビーノの不倫で生まれた子であったりとか、かなりトンデモ度の高い話で、ワタシも読んだり見たりしたことはない(ミヨーがオペラ化しているというが未見)。初演当時も酷評されたそうなんだが、どうしてボーマルシェはそんな話を書いたのか、本書の解説を読むとその背景を知ることができる。
●この「新訳 フィガロの結婚」はモーツァルトのオペラのダ・ポンテ台本の訳ではなく、原作であるボーマルシェの戯曲の訳。当然のことかもしれないが、セリフの分量がオペラのそれよりずっと多い。オペラ化にあたってずいぶんバッサリ刈り込まれているわけだが、むしろダ・ポンテの手際のよさを感じる。
●ケルビーノ役について、ボーマルシェは「この役柄は、実際の上演でそうだったように、若くて非常に美しい女性でないと演じられない。わが国の演劇界にはこの役の繊細さをしっかりと感じ取れるほどよくできた若い男優はいない」と書いている。この段階から、ズボン役だったんすね。
●「フィガロの結婚」の正式名称は、「ラ・フォル・ジュルネ(狂った一日)あるいはフィガロの結婚」。ルネ・マルタンは音楽祭の名称をここから引っ張ってきた。クラシック音楽の民主化という趣向に、この「フィガロの結婚」の物語がふさわしいと考えたわけだ。この「ラ・フォル・ジュルネ」の訳語に、日本の音楽祭は「熱狂の日」という言葉をあてた。
●一方、この「新訳 フィガロの結婚」は「ラ・フォル・ジュルネ」を「てんやわんやの一日」と訳している。てんやわんや! なんという趣のある日本語だろう。「てんやわんや音楽祭」とか、楽しそう。
March 26, 2012