●今朝の準決勝、ドイツvsイタリア、以下結果バレありなので録画観戦の方はご注意を。
●コンディション面で二日間の有利があるドイツ。しかもメンバーが若い。ドイツは決勝までを見すえて計画的に選手起用をしてきたように思える。今日はトップにマリオ・ゴメス、中盤にポドルスキを戻して、クロースを起用、そしてエジル。序盤はドイツが押していた。ケディラのクロスから、イタリアにほとんどオウンゴールの場面もあったが、幸運にも枠をそれた(あれは入らなかったのが不思議)。が、20分、左サイドからカッサーノが個人技で二人を交わして、中央にクロスを入れ、これをバロテッリがバドシュトゥバーのマークを外してヘディングでゴール。イタリアが悪悪コンビの2トップで先制した。
●ここからのドイツが脆かった。36分、イタリアはモントリーヴォの一本のロングパスから前線のバロテッリへ。キーパーとあっさり一対一になり、右上に思い切り蹴り込んで2点目。バロテッリ覚醒。怪物ぶりを見せつける。ラームのポジショニングのまずさもあり、予想を覆す展開に。
●後半からドイツはマリオ・ゴメスをクローゼに、調子の出ないポドルスキをロイスに交代。ロイスやラームが十分にチャンスを作っていたが、決定機に決めきれず。エジルが目立たない。後半途中からはイタリアの足が止まり出すかと思っていたが、むしろドイツに疲労が見えてきた。焦りから攻めが雑になり、カウンターからイタリアが3点目を決めるチャンスがたびたび訪れる。最後はドイツはキーパーまで前線に上げて総攻撃を仕掛け、ロスタイムにPKからエジルが1点を返したが、残り時間があまりにも少なかった。
●伝統的には退屈の代名詞みたいな両強国の対戦だったが、今のドイツは華麗なパス回しも見せるし、イタリアもまったく守備的ではなく、見ごたえのある準決勝だった。何よりバロテッリが大会のスーパースターになりつつあるのがいい。1-2。決勝はスペインとイタリアの組み合わせになった。うまいのに抑制した手堅い攻めで勝ちに来るスペインに比べると、今やイタリアのほうにスペクタクルを期待できるのかも。
●バロテッリが悪役ヒーロー・キャラなので、善玉キャラの活躍もあると盛り上がるんじゃないか。スペインはイニエスタか? イニエスタとバロテッリがそれぞれハットトリックするくらいの「伝説」を見たい。もっともワタシはバロテッリよりシュート職人ディ・ナターレ派なのだが。バロテッリと交代したディ・ナターレ、あそこの一対一は決めなきゃ!
●客席に(スーパーマリオの)マリオとルイージのコスプレが映っていた。あれはマリオ・バロテッリとジャンルイジ・ブッフォンってこと?(ブッフォンは苦しいか)。ドイツにもマリオ・ゴメスがいたっけ。
2012年6月アーカイブ
EURO2012 準決勝 ドイツvsイタリア。バロテッリ覚醒。
EURO2012 準決勝 ポルトガルvsスペイン。必殺技はチップキックPK
●今朝の準決勝、ポルトガルvsスペインの結果バレをするので、これから録画観戦する方はご注意を。
●イベリア半島ダービーとなったこの試合、バルセロナ+一部レアル・マドリッドみたいなスペイン代表に対して、クリスチャーノ・ロナウド率いるポルトガル代表という新鮮なんだかそうじゃないんだかよくわからない組み合わせ。日程有利からポルトガル有利を予想していたのだが、試合開始直後はやはりポルトガルのほうがコンディションでは勝っていた。守備の出足が鋭く、ポゼッションこそスペインが戦ったものの、ほとんどシュートを打たせず。モウチーニョやラウル・メイレレスが中盤で精力的に動く。とはいえポルトガルの攻撃もトップのウーゴ・アルメイダが3度ほどあったシュートチャンスを行かせず、やや迫力不足。クリスチャーノ・ロナウドのセクシーポーズも不発。
●スペインのトップは意表をついてネグレド(セスクと途中交代)。パスは回るが、華麗なサッカーというよりは一点勝負のサッカー。イニエスタに好機があったが、決まらず。後半半ばから0-0の気配が漂い始め、延長に入ってもその空気は変わらず、120分戦ってスコアレスの寂しい結果に。
●PK戦はスペインが先攻。一人目のシャビ・アロンソは、ポルトガルのキーパー、ルイ・パトリシオに完全にコースを読まれて止められてしまう。しかしすぐにモウチーニョのキックをカシージャスが止めてタイに。近年、上に蹴る強気の選手が多いのに、このPK戦はみな慎重。ポルトガルの3人目で、ブルーノ・アウベスが蹴ろうとするときに、後ろからナニが歩み寄り、ブルーノ・アウベスは踵を返した。順番をまちがえていたのか? ナニは上に蹴った。スペインはセルヒオ・ラモスがチップキックでど真ん中に蹴って決めた(ピルロに続いて)。ポルトガル4人目、今度こそはブルーノ・アウベスの番。だが上に蹴ってクロスバーに嫌われてしまう。続くスペインのセスクは慎重に左下に蹴ったが、ボールはポストに当たって……それからゴールに収まった。PK戦はポストの跳ね返り方が勝敗を分けたわけで、まさにボール半個未満のちがい。セオリー通り、今回もPK戦は先攻が勝ったわけだが、運で決まるという不条理(あるいは条理)はいつものこと。
●スペインはEURO2008、ワールドカップ2010を連覇して、EURO2012でも決勝に進んだわけだ。かつてあんなに勝負弱いといわれていたことがもはや信じられない。
●今大会最大のトピックスは今のところチップキックPK。全国の中高生が練習中の予感。
ダーウィン・チューンズ。進化する音源
●EURO2012が始まったらすっかりサッカーブログになってしまっているが(2年に一度、ワールドカップかEUROで常にそうなる)、準決勝までに中二日おやすみがある。なので、今日は非サッカーネタで。
●何日か前にAFPのニュースで「ポップソングに才能は不要?自然淘汰で進化する音源 英研究」という記事があった。この煽り気味の見出しのつけ方はまちがっていると思うのだが、紹介されている内容はおもしろい。ダーウィン・チューンズというサイトで行なわれている研究で、シンセサイザーを用いてランダムに8秒間の音源を生成させる(といってもまったくのランダムではなく一定のビートにさまざまなビープ音やノイズを載せるといった程度のものだが)。で、これをオンライン・ユーザーに5段階評価させる。そして、その評価を集めて高得点だったもの同士をつなげて新しい音源を作る。低評価だったものは捨てる。こうして何世代も「進化」させていくと、世代が進むにつれてみんなに好まれやすい音楽ができていく、という仕組み。
●ダーウィン・チューンズには実際にその音源が置いてあって、第0世代から第150世代、第250世代、第400世代……さらに第5170世代(現時点の最新)まで、たどっていけるようになっている。これ、最初と最後だけをいきなり聴いたのではつまらない。全部とまではいかなくともある程度順をたどって聴くと、音源がだんだん洗練されていく(?)のに感動する。なお、participateのページから、登録なしで誰でもすぐにこの実験(というも大げさだが)に参加できる。
●と言っても、最後の世代まで進んでも大した音源ができあがっているわけではない。むしろ音楽としてはおもしろくもなんともない。この試みの楽しいところは、ただ人に漠然とした意見を尋ねるだけで、「一切の創意を抜きで」音源を作っている点にある。そもそも多数決なのだから、当たり障りのない方向にしか音源は進化しない。尖ったもの、変則的なものは瞬時に捨てられ、フツーのものだけが生き残る。実験の主は進化発生生物学者。多数決という形の市場原理を、自然界の環境による淘汰に置き換えるとすれば、これぞまさにワタシたちの生きる自然界そのもののメカニズム。フツーが生き残り子孫を残す。ビバ普通。そして、もっとも洗練されているはずの最新世代を耳にした後で、初期世代の原初の音源を聴くと、なぜか「おお、こっちのほうがカッコいい!」と新鮮な喜びを味わえるという謎。
EURO2012 準々決勝 イングランドvsイタリア。ピルロのチップキックに笑う
●準々決勝最後の試合はイングランドvsイタリア。これは今大会屈指の好ゲームだった、後半の半ばくらいまでは。イタリアは3バックを止めて4バックに。4-4-2でバロテッリとカッサーノの2トップ。イングランドはウェルベックをトップに置いて、その下にルーニー。今大会の両チームのカラーが出て、イタリアのほうがボールを圧倒的に保持して攻めるのに対し、イングランドは守りから入ってカウンターアタック。序盤からお互いにあまりプレスをかけずに選手間の距離が開いたので、次々とチャンスがやってくる。派手な点の取り合いになるかと思ったら、なんと、延長まで戦って0対0とは!
●スタッツがすごい。ボール・ポゼッションはイングランド35対イタリア65。枠内シュートはイングランド4本に対してイタリアは20本。枠内20本なんて試合はそうそうないだろうが、それで0点だから。いくら戦術が違うといっても、これはやっぱりイタリアが勝ち進むべき試合だったと思う。いいサッカーをしてたもの。
●120分間を戦って引き分けたので、PK戦へ。PK戦は本質的にくじ引きだけど、そこに駆け引きや戦略があることは否定できない。サイモン・クーパーのサッカー統計によれば「PK戦の約60%は先攻チームが勝つ」ということなので(それが正しければ)、これはもう明白に先行が有利である。イタリアは先攻だったが、2人目のモントリーヴォが外してしまう。1本ビハインドの状態なのに、3人目のピルロがキーパーを嘲笑うかのようなチップキックで決める(トッティみたい)。これは爆笑。GKのジョー・ハートの体が完全に倒れた後に、ふわりとボールがゴールラインを通過していく。あたかもこのチップキックで流れが変わったかのように、イングランドの3人目ヤングがミス、4人目のアシュリー・コールは蹴ったコースが甘くブッフォンがセーブ。その直後のモントリーヴォの安堵した表情がなんともいえない。イタリアは5人目ディアマンティが決めて、PK戦内逆転勝利。今日も先攻が勝ったのだ。
●もともと不利な日程の上に、延長まで戦ってドイツとの準決勝に臨むイタリア。これで準決勝は心置きなくイタリアを応援できる。
EURO2012 準々決勝 スペインvsフランス。王者の黄昏を予感
●恐ろしいほど予定調和的に進んでしまったスペインvsフランス。スペインがパスを回しまくって攻めて、フランスが守る。スペインはまたノートップの布陣で、セスクを起用、フェルナンド・トーレスをベンチへ。18分に早々とジョルディ・アルバの左サイドからのクロスを走りこんだシャビ・アロンソが頭で叩きつけて先制。後半、シルバとセスクに代えて、ペドロとフェルナンド・トーレスを投入。ペドロがまたぎフェイントからの縦への突破でエリア内でファウルをもらいPK。これもシャビ・アロンソが決めて2-0と完勝。フランスの枠内シュートは一本だけ、ほとんどチャンスはなかった。
●スペインは慎重に勝ったという印象。攻撃的なイメージばかりが先行するが、中盤にシャビ・アロンソとセルヒオ・ブスケツと2枚守備的な選手を置いて、さらにシャビがいて、前線3枚という構成なので、守りも薄くはないし、もう一段攻撃的な布陣を見たくなる。勝ってるけど、楽しいかどうかは微妙。
●次はポルトガルvsスペイン。ポルトガルが勝ち進むと思う。EUROの日程は、準決勝がいちばん不公平(?)になっている。ポルトガルは中五日で、中三日のスペインと戦う。ドイツも中五日で、中三日のイングランドvsイタリアの勝者と戦う。なのでトーナメント表で言うと、A1位vsB2位とB1位vsA2位の山は有利にできている。さらにいえばこの両者の山の中でも、決勝戦を戦う場合、前者は準決勝から中三日、後者はわずか中二日になる。つまり、A1位vsB2位の山は準決勝でも決勝でも有利なコンディションで戦えるわけだ。なぜそうなっているかといえば、A組が開催国ポーランドの枠だからでもあるわけだが、ここはチェコが1位通過し、B2位のポルトガルと戦った。ポルトガルはB組2位で勝ち進んだおかげで、期せずして(?)いちばん有利な仮想開催国コースに途中乗車できたわけだ。
●だからポルトガル優勝かな、と。ドイツは準決勝は有利に戦えるが、決勝が中二日になる。そういう意味でも、ドイツは準々決勝から早くも控え選手を先発させたんだろうし、準決勝の先発をどうするかは要注目。
EURO2012 準々決勝 ドイツvsギリシャ。ユーロの新生ドラクマへの移行ならず
●欧州経済の行方を占う一戦として、メルケル首相が会議の日程を動かしてやってきたというドイツvsギリシャ。勤勉な債権者ドイツに対して、ギリシャは手も足も出ないという一戦だった。
●ドイツは意外にも前線の3人を入れ替えてきた。マリオ・ゴメス、ポドルスキ、ミュラーがベンチスタートとなり、代わりにクローゼ、シュールレ、ロイスが先発。グループリーグの第3戦だったらまだわかる。でもこれって準々決勝だから、次の試合まで中五日もあるんすよね。グループリーグからは中三日、中三日、中四日の日程。疲労した選手を休ませるという以上に、控えの選手も使ってチームの士気と一体感を高めようということなのか。決勝まで道筋を描いているチームならではであり、しかもセカンドチョイスの攻撃陣でもギリシャには勝てるという目算あってこそ。事実、大量4ゴールも奪ってるし。
●ギリシャもサマラスのゴールで1-1に追いついたところまでは何かを予感させた。でもそのすぐ後に、ボアテングのクロスに飛び込んだケディラが超絶技巧のボレーで叩き込んで突き放してからは、ドイツのやりたい放題に。エジルは今日も冴えていた。4-2。メルケル首相が「アッハッハッハッ! 働け、ギリシャ人たちよ!」と高笑いをしている図を思い浮かべてみる。
●控えから昇格したクローゼ、ロイスもゴールを決めて、レーヴ監督の采配は完璧。個人の能力の高さに加えて組織力があるのがドイツの強み。コンディション調整もしっかりしているし、好不調の波も少ない。ポルトガル優位とは思っているが、この日のレーヴ監督の起用法を見ると、今回のドイツは予想以上に難敵と思わざるを得ない。
●と、EURO2012の華やかな世界を眺めつつも、23日はご近所サッカー、JFLの横河武蔵野FC対FC琉球へ。この日を逃すと当分(秋まで)観戦できなさそうな日程だったので、足を運ぶ。FC琉球の先発に元ニッポン代表の我那覇がいた! 我那覇は心情的には応援したいが、敵に回すと手ごわい。プロ選手も多いであろう琉球の選手たちは、個人能力で武蔵野を一段上回っていた。しかし試合は武蔵野が先制、その後2失点して逆転されるが、後半ロスタイムで粘り強い波状攻撃が実を結んで、97分(!)にこの日2ゴールとなる小野祐輔のゴールが決まって2-2の同点に追いついた。なんという劇的な幕切れ。終盤、足の止まった琉球に対して、次々と捨て身の攻撃を仕掛けた武蔵野の「魂のフットボール」は見事。ああ、これがホームゲームっていうものなんだなあ。震えた。
●これだけEUROの中継に夢中になりながら言うのもなんだが、「遠くのEUROより近所のJFL」っていうのも真実、フットボール・ライフ的には。
EURO2012 準々決勝 チェコvsポルトガル。クリスチャーノ・ロナウドのイライラ・セクシー・ポーズ
●EURO2012は決勝トーナメントへ。ワールドカップとくらべると進行が早いのがEUROのいいところ(?)。まずはチェコvsポルトガルであるが、前にも書いたようにワタシはこの両国のどちらかが優勝すると予想している。
●試合は序盤から縦に急ぐ展開が両者ともに目立ち、スペクタクルに乏しいものになった。やはり一発勝負となると慎重になる。クリスチャーノ・ロナウドはなぜいつもあんなにイライラしているのだろう。独り、主審と見えない戦いを繰り広げている。そしてテラテラと輝く頭髪のポマード。セクシーポーズ満載のフットボーラー。ポスティガがんばれ。チェコのほうが好感度はずっと高いが、この試合をエキサイティングと讃える気はしない。
●ようやく79分に右サイドからモウティーニョがすばらしいクロスを上げて、これをクリスチャーノ・ロナウドが頭で叩きつけてゴール。ポルトガル先制。ああ、やっぱり。ロスタイム、チェコがコーナーキックのチャンスを得ると(1/40の確率でゴールになるよっ!)、ゴールキーパーのチェフもゴール前まで上がってきた(これで確率はいくらか上がっただろう。1/39とか?)。チェフが決めていれば伝説の扉が開かれることになったのだろうが、最後まで何も起きなかった。0-1。優勝はポルトガルの一点に賭けるしか。
●さて、これから準々決勝ドイツvsギリシャだ。時節柄、「債権者ダービー」などと呼ばれるこの試合、ドイツからメルケル首相も駆けつけるとか。EUROの行方はEURO2012で決定されるのか。ドイツが勝った場合、ギリシャはあらゆる緊縮策を受け入れることになる。一方、ギリシャが勝った場合、欧州の通貨はユーロから新生ドラクマへと移行する。ウソです(←言わなくてもわかるから)。
コンサートの事件簿、タングルウッド音楽祭アーカイブ
●EURO2012は中一日のおやすみ。選手には休息が必要。寝不足のファンにも。
●昨日から配布されている「東急沿線スタイルマガジンSALUS」7月号。東急沿線やBunkamuraで配布中。拙連載は5月号から「コンサートの事件簿」の題でリスタートしている。以前は「ちょっとニュースなクラシック」の題で、毎月一曲の作品をテーマにするという形で書かせていただいていたが、この新連載では演奏会にまつわるあれこれを取り上げている。今回のお題は「くしゃみ」。オンラインでは読めないので、要物理冊子ゲット。
●前連載は結構長く続いたが、一冊にまとめるには分量が足りない。どうしたものか……。
●ボストン交響楽団のサイトでタングルウッド音楽祭75周年ということで、オーディオ・アーカイブを6/20より順次公開中。どうやら毎日一本ずつ音源がアップされていくようなのだが、公開方式が少し変わっていて、まず128kbpsのMP3で24時間限定でストリーム配信され(これは無料)、その後、320kbpsのMP3および24bit/44.1kHzのFLACでダウンロード販売される。なるほど、そんなやり方があったとは。たった今公開されているのはラインスドルフ指揮、リチャード・キャシリー題名役の「オテロ」(→と書いた直後に翌日分としてミュンシュのモーツァルト&ハチャトゥリアンが公開されていた)。
●そういえば今年はラインスドルフの生誕100周年でもある。
EURO2012 D組第3戦 イングランドvsウクライナ
●今日でグループリーグもおしまい。最後のD組はすでにスウェーデンの敗退が決まった状態でスウェーデンvsフランスと、イングランドvsウクライナ。イングランドはこの日からルーニーが出場可能に。ルーニーは植毛が完璧に成功してて男前度が上がった。かもしれない。しかし引き分けでもOKというイングランドは慎重に戦ったと思う。最初からリードを与えられた前提での戦いというか。
●一方開催国のウクライナは勝利を目指すが、シェフチェンコは負傷でベンチスタート。かつてのスーパースター、ベテランのシェフチェンコが活躍してふたたび脚光を浴び、ウクライナを決勝トーナメントに導いて伝説となる……というシナリオを期待していたのだが。残念。ワタシらがいちばん見たいのは「伝説」。最近、主要大会で伝説成分が少なめじゃないすかね。ここでシェフチェンコが輝いて、なんなら優勝までして、なにかカッコいい決め台詞をはいて優勝トロフィー持って引退宣言するみたいな。そんな伝説。
●むしろオランダの3連敗とかネガティブ伝説が生まれてる。
●後半早々、ウクライナのキーパーがミスといえるかどうか微妙なところでボールを弾き、そこにつめていたルーニーがゴールを決めてイングランド先制。やっぱりルーニーなのか。男前ルーニー猛烈に嬉しそう。惜しかったのは後半17分。ウクライナのマルコ・デビッチのシュートがゴールラインを完全に超えていたのに、目の前で見ていた審判がこれを超えていないと判定して幻のゴールに。今大会、ゴールのそばにアシスタント・レフリーを置いて審判5人制が導入されているにもかかわらず、まさに目の前で入っているボールを入っていないと判定してしまったわけだから、この制度は今回限りなのでは。ムリっすよ、人間の目じゃ。世界中のテレビ視聴者が正しくゴール判定できてるのに、現場で目の前にいる審判はわからないという不条理。だって、にんげんだもの。
●ボール支配率もシュート数もウクライナが上回っていたが、イングランドが最後まで試合をコントロールしていたという印象。1-0。シェフチェンコは途中出場したが、伝説は生まれなかった。イングランド1位通過。
●もう一方の試合はスウェーデンが2-0でフランスを下して意地を見せた。そっちを見るべきだったか? でもフランスは負けたにもかかわらず勝点4で2位通過。
●決勝トーナメントはチェコvsポルトガル、ドイツvsギリシャ、スペインvsフランス、イングランドvsイタリア。オランダ以外は役者がそろったという感じ。優勝はポルトガル、ないしはチェコと霊視している。伝説はきっとこれから。
EURO2012 C組第3戦 クロアチアvsスペイン
●C組の第3戦。このグループはアイルランドの脱落がすでに決まっていたので、勝ち抜け条件は比較的シンプルだった。イタリアvsアイルランドはきっとイタリアが勝つだろう(実際、カッサーノとバロテッリの悪童コンビのゴールで勝った)。問題はクロアチアvsスペイン。勝ったほうが勝ち抜けるわけだが、もし2-2以上のゴール数で引き分けると、めでたくクロアチアとスペインの両者が勝ち進める。試合前、イタリア・メディアには「談合をするんじゃないか」みたいな声があったとか言うが、そんなのできるわけないじゃないすか、2-2なんて。大体そういうのが得意だとすればイタリアのほうでは……。とはいえ、自然な流れで2-2になってしまったら、その後は両者ぐっとペースダウンする可能性はある。
●が、試合が始まってみるとスペインの動きが重い。相変わらずテクニックはあるのだが、小さなパスがつながっているだけで、すっかり攻撃のダイナミズムを欠く。フェルナンド・トーレスをトップに入れ、途中から交代してノートップ状態になっていたが、どちらにせよ迫力を欠き、しかもあまり楽しくもない。クロアチアのカウンターアタックのほうがずっと躍動感がある。クロアチアは全力でぶつかる魂のフットボール。しかももともと技術はあるので、たびたびスペイン・ディフェンスを混乱に陥れた。
●でも途中出場のヘスス・ナバスがゴールを決めてスペインが勝ってしまったんである。セスクの浮き球のパスから、イニエスタが抜け出て、これを無人の中央に横バスしてヘスス・ナバスは触るだけでOKというゴール(あそこに立っていればあなたでもワタシでもゴールを決められた!)。セスクのパスはオフサイドだと思ったが? 最後、クロアチアは走り疲れてヘトヘトだった。でもクロアチアのほうが試合内容では勝っていたと思う。
●スペインでもこんな日があるのか。ともあれ1位スペイン、2位イタリアはまるで予定調和。クロアチアが落ちたのは惜しい。
EURO2012 B組第3戦 ポルトガルvsオランダ、デンマークvsドイツ
●B組「死のグループ」第3戦。今回の順位決定レギュレーションの煩雑さとおもしろさを同時に味わった。このグループ、勝点6で上位3チームが並ぶ可能性もあったし、勝点3で下位3チームが並ぶ可能性もあった。
●後のないオランダは最低でも2点差で勝つ必要があった。最初から攻撃的な布陣でポルトガルと戦う。フンテラールを先発起用、ファン・ボメルやハイティンハはベンチへ。ポルトガルも守り勝つようなチームではないので、攻め合いになった。序盤、オランダのファン・デル・ファールトが狙いすました美しいミドルで先制。しかしすぐにスルーパスに抜け出たクリスチャーノ・ロナウドが同点ゴール。この間に、もう一方のデンマークvsドイツはドイツが先制し、さらにデンマークが追いつくという激しい展開。前半28分の時点で、すでに両方の試合が1-1になっていた。そのまま後半へ。
●この時点では勝点ドイツ7、デンマーク4、ポルトガル4、オランダ1の見込み。デンマークとポルトガルは当該チームの対戦でポルトガルが勝っているので、ドイツとポルトガルが勝ち抜け。オランダもデンマークも後半は攻めなければいけない。
●ところが後半29分、ふたたびクリスチャーノ・ロナウドのゴールが決まりポルトガルが逆転、2-1に。こうなるとオランダはあとわずかな時間に3点が必要になり内心では膝をついていたと思う。この時点で勝点はどうなったか。ドイツ7、デンマーク4、ポルトガル6、オランダ0。やっぱりドイツとポルトガルが勝ち抜けだから、なにも変わってない? いやいや、そうとも言えないんである。確かにそのまま終わればそうだが、ここで仮にデンマークが次のゴールを決めてドイツに2-1で勝ったらどうなるか。その場合は、ドイツ6、デンマーク6、ポルトガル6、オランダ0となる。ドイツ、デンマーク、ポルトガルは当該3チームの成績(つまりオランダ戦以外の成績)が三つ巴になり、得失点差も同じになる。その場合当該3チームでの総得点を競う。ドイツ2、デンマーク4、ポルトガル3。なんと、ドイツが敗退し、デンマークが1位勝ち抜けになるという、ドイツにとってはまさかの緊迫した状況になったのだ(ワタシのレギュレーションの理解が正しければ)。
●この後半29分から次のゴールが生まれるまでのジリジリした6分間が最高に盛り上がった時間帯だった(これでドイツが落ちたらどうよ?)。が、後半35分にドイツがゴールを決め(デンマークではなかった!)、ドイツが逃げ切った。終わってみれば、勝点ドイツ9、デンマーク3、ポルトガル6、オランダ0。シンプルに勝点だけでドイツとポルトガルが決勝トーナメントに進出。チームワークを欠いたオランダは自滅して3連敗。
●予想。この時点で賭けるなら優勝はポルトガル。決勝はポルトガルvsドイツ。あるいはオッズによってはチェコ優勝でも可。
週末コンサート&フットボールてんやわんや
●週末のコンサートを時系列逆順で。16日(土)夜はサントリーホールのブルーローズ(小ホール)でヘンシェル・クァルテットのベートーヴェン・サイクル第5回。弦楽四重奏曲第3番、第7番「ラズモフスキー第1番」、第14番。これは圧巻。アグレッシブですさまじくスケールの大きなベートーヴェンだった。「ラズモフスキー」だけでも交響曲一曲以上の聴きごたえ。時間が経つのが早く感じたが、終わったら開演から2時間半を超えていて時計を見て驚く。全曲シリーズの最終公演のみだけ聴けたわけだけど、もしシリーズ通して聴いていたらどれほど印象に残ったことか。
●この日の昼は同じサントリーホールの大ホールで小林研一郎指揮日フィル。シューベルトの交響曲第7番&ブルックナーの第9番の両「未完成」プロ。予想外に端正な「未完成」と、コバケン節炸裂のブル9。ブルックナーにこんなに汗と涙の成分を感じたのは初めて。盛んなブラボーが飛んでいた。指揮者40周年の挨拶もあり、会場は暖かい雰囲気に満たされた。
●15日(金)はNHKホールでアシュケナージ指揮N響。前半にコダーイのガランタ舞曲、バルトークのピアノ協奏曲第2番、後半にR・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」という、聴く側にとっては大変楽しい演目。バルトークはジャン・エフラム・バヴゼ(意外と小柄)のクールで明晰な独奏がすばらしい。アンコールにドビュッシーのアラベスク第1番。「ツァラトゥストラ」は4管編成でオルガン付きの巨大編成による作品なわけだけど、こんなに大編成が必要なんすかね。分厚い響きに浸りつつ、2管編成リダクション版とかできないのかなとふと思う。でもそれじゃ超人には不足か。ホルンに福川氏、トランペットに菊本氏。金管セクション充実。
●EURO2012、今朝のB組については触れないとして、A組の3日目、ロシアがギリシャに敗れ、チェコがポーランドに勝ったため、なんと有利と思われたロシアが脱落。初戦にロシアに大敗したチェコが勝点6で1位通過(これも驚き)。ギリシャとロシアが互いに勝点4で並んだが、最近の欧州スタイルのルールでは得失点差ではなく当該チームの成績が優先されるので、この場合は3試合目のロシアvsギリシャがまさにその当該チームの対戦。ギリシャが2位通過となった。従来型の得失点差ならロシアが勝っていたわけだし、その得失点差はロシアが1位チェコから稼いだもの。不思議な感触を残した。でも納得。
EURO2012 グループリーグ第2節
●怒涛の勢いで試合は進む、日本の視聴者の寝不足を残しながら。今朝の試合でグループリーグ第2試合が一通り終わった。この種の大会では明日からの3試合目がいちばんおもしろい。互いに試合状況に応じて勝ち抜けのための必要条件を横目でにらみながら、戦略を立てる。公平を期すために同グループの2試合が同時開催されるので、ホントは生中継でWOWOWのチャンネルを切り替えながら両方を追いかけられれば最高なのだが、午前3時30分中継開始とあっては夜更かしも早起きも困難。時間差放送があるので録画は両方できるが、どちらを優先して見るか、視聴者も勝点、得失点差などを考えながら選ぶことになる。
●印象に残ったこと。昨夜のウクライナvsフランス戦、生中継を見ていたら突然の雷雨で試合が中断。スタジアムの屋根の合間から稲光が見える。芝が沼になるくらいの豪雨。選手も観客の多くもいったん引き上げたが、そんななかで上半身裸になって客席ではしゃぐお調子者サポなんかがいて笑う。結局、中断が長引いたので試合を諦めて就寝。
●スウェーデン対イングランドはシーソーゲームの末に2-3。イングランドが勝った。次の試合からイングランドはルーニーが出場できるわけだが、イングランドは彼がいないとずいぶん前線が寂しく見える。3点目、ウェルベックのバックヒール(ていうのかなあ)のシュートがおシャレすぎて悶える。スウェーデンの敗退のみが決定。
●スペイン対アイルランドは4対0の超ワンサイドゲーム。アイルランドのパス成功率は50%台だったと思う。スペインのウイイレ名人サッカー炸裂。フェルナンド・トーレス先発して活躍、これで中央は決まりだろう。どんなにやられてもアイルランド人だちは懸命に自分たちのチームを応援していた。彼らが歌っていた歌は、2002年の日韓大会でカシマスタジアムでも聞いた。サッカーの質も相変わらず質実剛健。相手が悪すぎた。
●イタリア対クロアチアは1対1で引き分け。やはりイタリアはクロアチアが苦手だ。イタリアはずっと3バックなのか。そして前の試合に続いてバロテッリとカッサーノの極悪2トップ。最凶。バロテッリがディ・ナターレと交代するパターンも同じ。ピルロが見事なフリーキック・アーティストぶりを披露。イタリアは2戦連続ドローでいかにもな感じ。ここからどんどん調子を上げてくるのでは。
EURO2012 B組 オランダvsドイツ
●すでにグループリーグ2試合目に入っているEURO2012。「死のグループ」B組で、オランダvsドイツ。ほかにポルトガルとデンマークがいる大変な組である。1試合目でオランダがデンマークに負けてしまい、なおさら混沌としてきた。ドイツは(いつものように)順調にポルトガルを下して、この対決。オランダにしてもドイツにしても、もともと強すぎて(そして体格的にも恵まれすぎていて)ぜんぜん応援しようという気にならないのだが、ここでオランダが勝ったほうが混戦になるからという理由で仮想オランダ贔屓モードで観戦。
●が、ダメなんである。このオランダ、かつてのオランダほど楽しくない。そして(いつものように?)チームに助け合いの精神を欠いている。タレント揃いの攻撃陣と守備陣の間に隙間風が吹く寒い光景を幻視する。でも会場は29度でウクライナって暑いの?
●一方、ドイツは相変わらずチーム一丸となって勤勉に戦う。ドイツの選手たちは代表チームになると強くなるし、オランダのスターたちは代表チームになると弱体化するような気がする。終盤に交代で入ってきたベテラン、クローゼがわずかな相手のミスの可能性に賭けて相手ゴールキーパーに向かって猛然とダッシュした象徴的な場面があったけど、ドイツってこうなんすよね。憎たらしいほど強いのは、勝敗を決する小さな可能性に逐一賭けるってことなんだと思う。サッカーってもともとそうじゃないすか。コーナーキックはサッカーでは比較的得点の可能性の高いチャンスとみなされているし、事実そうなんだけど、1回あたりの得点確率は1/40しかない(以前書いた)。1/40って、とても小さく見える。でもこれを10回繰り返したら、1-(39/40)^10で、22%の確率で1本以上のゴールが生まれる。これはもはや小さな可能性ではない。あそこでクローゼが猛ダッシュをすれば、1/40よりは高い可能性でゴールが生まれるんじゃないか。まあ1/40かどうかはわからないが、とにかくそういう可能性の積み上げがチームのDNAとして染み付いているんじゃないかな、と戦慄。
●かつて「ゲルマン魂」って呼んでたものの実体の多くは、そういったクローゼ的な骨身を惜しまない勤勉さとそれを実現可能にする体力に依拠していたに違いない。でも今やドイツも他の欧州諸国と同じように(そしてニッポンも明白にそうなっているように)他民族化していて、ぜんぜんゲルマン軍団ではない。で、プレイぶりもドイツらしからぬおシャレ度の高さ。あのマリオ・ゴメスの得点シーン、反転トラップ見たすか? 美しすぎる。巨体なのに。もちろんエジルはいつだってエレガントだし。
●そういえばオランダはむしろ他民族化に逆行している感もあり。一頃はスリナム系選手だらけで白人選手が肩身が狭そうにしていた頃もあったのに。
●マリオ・ゴメスの2ゴールに対して、オランダは終盤にファン・ペルシが1点を返したものの、そこからのドイツに隙はない。1-2、ドイツが勝利。ドイツは連勝で勝点6、一方オランダは連敗で勝点0。犯人探しがさっそく始まりそうなイヤな雰囲気。しかし実はドイツの決勝トーナメント進出もオランダの敗退もまだ確定していない。ポルトガルがデンマークに勝利したので、3チームが勝点6で上に並ぶ可能性もあるし、3チームが勝点3で下に並ぶ可能性も残されている。
●グループリーグの順位決定レギュレーションは、勝点で並んだ場合、まず当該チーム同士の成績が勝点、得失点差の順で優先されるものと理解しているんだけど、合ってる?
「結論はまた来週」(高橋秀実著)
●不覚。昨年単行本化されていたのに気づかず、今頃ようやく読んだ、「結論はまた来週」(高橋秀実著/角川書店)。フリーペーパー「R25」の連載をまとめた一冊だが、こうして通して読むと、ますますおもしろい。一回すでに読んでいても、もう一回読んでなお味わい深いくらいに含蓄に富んでいて、しかも1ページの連載エッセイとしてとても技巧的で感嘆するほかない。
●各回の見出しだけでもハッとすると思うんすよね。たとえば「個性をあきらめよう」とか「『本当の自分』こそウソ臭い」とか。「自分らしさ」を追い求めて旅に出る前に読んでおくべき至言の数々。「旅の見返り」の回の冒頭にこうある。
中田英寿はいつまで旅しているのだろうか? テレビでカズの走る姿を観ながら、私はふと思った。今頃どこで何をしているのか。彼は旅立ちの際、自らのHPでこう語っていた。
「人生とは旅であり、旅とは人生である」
決めゼリフのようだが、人生そのものが旅ならば、わざわざ出かけなくてもよいだろう。人々に忘れられないうちに早く帰っておいでよ、と私は彼に伝えたいのである。
中田ヒデはたぶん、まだ旅をしているはず。それが人生だし。最後に彼を見かけたときはAERAで埼玉を旅していたので、割と近くにいそうな気がする。
●脱力系の笑いのなかに、ところどころドキリとするようなことが書かれている。「出世する人、しない人」にある、「出世する人の特徴は、まず『仕事ができない』ということだ」。「インタビューの極意」では「大切なのは、相手に会った瞬間にいったんすべてを忘れることなのである」。な、なるほど……この「インタビューの極意」はまさにその通りで、勉強になる。その通りなんだけど、実践はなかなか難しいんだが。
●「R25」では、当初、毎週この「結論はまた来週」が掲載されていたと記憶する。結論とはどんどん先送りしてゆくもの、そういうニュアンスが込められた連載タイトルだったと思うが、途中から隔週連載になった。で、石田衣良の連載「空は、今日も、青いか?」が交互に掲載されるようになった。高橋秀実連載は、毎回その名の通り「結論はまた来週」というように、何かが宙ぶらりんになるのに対し、翌週の石田衣良連載は常に「結論は明らかです」みたいなところからスタートしているのがおかしかった。
オーストラリアvsニッポン@2014年ワールドカップ アジア最終予選
●ニッポン代表のW杯最終予選、オーストラリアvsニッポン。最終予選がこんなに順風満帆に進むなんてことがあっただろうか(いやない)。ここまで2連勝している上に、ライバルのオーストラリアはアウェイのオマーン戦に引き分けて、この日本戦に臨む(彼らはこれが2戦目)。オーストラリアのホームゲームだが、あちらは40度の灼熱オマーンから長距離移動、こちらは移動とはいえ時差を気にしなくてよい南北の移動。試合前のムードとしても、オーストラリアからはあたかも格上のチームと対戦するかのような雰囲気が伝わってくる(みんな日本が勝つといってるけどオーストラリアは強いよ!的な。時代は変わる)。
●でも行ってみたらやっぱりアウェイだった。芝がボロボロに剥げてる。これは先方としては当然の戦術だろう。パスサッカーをすれば日本が勝つ。しかしこれを封じてパワー勝負になればオーストラリアが勝つ。事実、この戦術はきわめて有効で、序盤からオーストラリアが押しまくった。あわやというピンチが連続し、前半を0-0で終えられたのは幸運としか思えなかったくらい。
●ニッポンの先発はケガの吉田に代わって栗原を入れてきた。GK:川島-DF:内田(→酒井宏樹)、栗原、今野、長友-MF: 遠藤、長谷部-岡崎(→清武)、本田、香川(→伊野波)-FW:前田遼一。しかしオーストラリアはケイヒルとかブレシアーノとかシュウォーツァーとか、ホントにメンバーが変わらないというか、世代交代が進んでいないというか。ベンチにキューウェルまで。
●今日はアジア名物、主審劇場。サウジアラビアのカリル・アルガムディ主審がゲームを創出していた。後半10分、ミリガンに2枚目のイエローを出したが、2枚目だと気づかずに出してしまったようで、指摘されて遅れてレッドを提示。この時点で「あ、これは日本からも一人減るかな」とは思った。一人減ったオーストラリアは守りに入り、この後はニッポンが本来のサッカーを取り戻しチャンスの山を築いた。相手陣内深くまで切り込んだ本田の低いクロスに栗原が合わせてゴール。なんと栗原が前の試合に続いて代表2ゴール目。
●しかしその5分後、オーストラリアのコーナーキックの場面で、主審が待ち構えていたかのように内田のファウルを取りPKを宣告。スローで見ても内田は特になにもしていない。試合終了後の会見でオーストラリアのオジェック監督が「内田はファウルをしていない」というありさま。これを決められて1-1。主審が(別の意味で)ゲームをコントロールしていた。この種の「帳尻あわせ」はアジアに限らずいろんなレベルで見られることなので、アジアの特殊事情とは言いたくないが、やるならもう少し狡猾にやらないと。さすがにこれはない。
●これでもニッポンは一人多いのだから、まだ勝点3を狙える状況にはあった。89分、オーストラリアの放り込んだボールに栗原と相手選手が接触、これはオフサイドだったようにも見えたが、主審は栗原に2枚目のイエローを出して、退場。10人対10人。すっかり選手間の間隔が開き、攻めたほうが勝てるという展開になったが、キーパーの好セーブもあって点は入らず。アウェイのオーストラリア戦で引き分けならなんの不満もないはずだが、勝てた試合でもあった。
●ロスタイムにニッポンが直接狙える位置でフリーキックを得た。本田と遠藤がボールをセットして、「さあ、最後のプレイだ」と思ったところで、蹴る前に主審が笛を吹いて試合終了。茫然。ルール上は問題はない。解説の宮本恒靖は「これはサッカーの否定ですね、ダメです」と言い放った。ゲームの見せ場を主審がつぶすのなら、そもそもサッカーはなにを楽しむものなのか、というニュアンスか。笛を吹いてフリーキックを宣告し、さらに次の笛でフリーキックを蹴らせず試合終了を告げる。選手にプレイさせない。なんというポストモダン・レフェリング。
EURO2012 C組 スペインvsイタリア
●うう、眠い……。EURO2012、今回はポーランド&ウクライナが共同開催ということで、この両チームがシード扱いなわけなんだけど、おかげでグループごとに戦力の不均衡ができた、気がする。A組なんてポーランド、ロシア、ギリシャ、チェコの東欧縛りみたいな地味組になってて、その一方でB組はドイツ、ポルトガル、オランダ、デンマークと優勝候補が3つ入ってるみたいな恐ろしい豪華詰め合わせセットになっている(しかもデンマークがオランダに勝ってしまって、さあ大変!)。
●で、C組。スペイン、イタリア、クロアチア、アイルランド。2強2弱なんて言われているが、クロアチアは伝統的にイタリアに強い印象もあって、そうすんなり行くか? そしていきなりのスペインvsイタリア戦は、「これが準決勝くらいだったらなあ」というくらい超絶ハイレベルの好ゲームになった。ひょっとしてこれが今大会いちばんおもしろい試合になる可能性すらあり。
●まずフォーメーションがスゴい。世界王者にして欧州王者のスペインは唯一アキレス腱と思われるワントップをどうするかというと、なんとゼロトップ(笑)。セルヒオ・ブスケツ、シャビ・アロンソ、シャビの前に左にイニエスタ、右にダビド・シルバ、そして中央にセスク・ファブレガスの中盤ファンタジスタ無双。しかし、ベンチに置かれたフェルナンド・トーレスやジョレンテはどんな気分だったのか。ボールは相変わらずよく回ったが(しかし選手たちはピッチに水がまいてないから高速ボール回しができないと不平を述べたという……)、やはりこれだと中央に高さも強さもないので、サイドをえぐってクロスを入れても腰から上のボールにはほとんど期待できないという感じ。でもいいな、おもしろくて。終盤に入ったフェルナンド・トーレスがチャンスをことごとく生かせなかったので、デル・ボスケ監督はこれからどうするのか。
●一方イタリアは、3バックを採用。これは3-5-2なのか。2トップがバロテッリとカッサーノという悪童&元悪童のワルワルコンビ。ピッチの隅でシンナー吸ったりカツアゲしたりしてそうな2トップで、自爆装置付きの強力コンビ。二人とも強力ではあるが、でもイタリア代表の2トップがこの顔ぶれというのも意外というか、かつてのスーパースターたちの時代は去ったというか……。がっしり守って、あとは前線のタレントにお任せというイタリア・スタイルではない。攻める。先制点はイタリアのベテラン・コンビから。バロテッリに代わったディ・ナターレが相手センターバックの間にダイアゴナル・ラン、ドリブルで一人かわしたピルロがドンピシャのタイミングでパスを通して、シュート名人ディ・ナターレがゴール。しかしその直後、スペインはイニエスタ→シルバ→セスクとパスをつないで同点ゴール。
●決定機はまだまだあったが両キーパーとも好セーブ連発で締まった試合になった。イニエスタのドリブルが切れている。終盤、「じゃあ引き分けでいいよね」ムードにならず、攻め合ったのも意外。追いついたスペインにとっても悪くない結果、でもイタリアにとっても終盤運動量が落ちていたので命拾いしたともいえる。こんなハイレベルな試合を最初からしていては、決勝までコンディションが持たないかも。
テレビと格闘しつつ、週末は東響とN響
●EURO2012開催中。今回はポーランドとウクライナの共同開催。2年に1度、この時期はワールドカップかEUROのどちらかが開催されているわけで、サッカー・ファンは時差だとか不測の結果バレとか寝不足だとかいろんなものと戦うことになる。
●しかしEURO2012の話はまた明日にでもすることにして、週末のコンサートから。9日(土)はゾルターン・コチシュ指揮東京交響楽団(サントリーホール)。R・シュトラウスの交響詩「マクベス」、弾き振りでモーツァルトのピアノ協奏曲第17番ト長調、バルトークの管弦楽のための協奏曲というバラエティ豊かなプログラム。あまり演奏機会のない「マクベス」だけど、若者の鬱屈した情念がグチグチと噴出していて堪能。傑作だと思う。オケの響きもすばらしい。弾き振りモーツァルトは弦楽器をうんと絞った小編成で、ほとんど室内楽。こんなときはホールの豊かな残響が少し恨めしい。バルトークは楽章間の切れ目なしで緊張感を切らさずに一気に。
●10日(日)はアシュケナージ指揮N響、ソリストにラデク・バボラーク。週末の原宿駅を降りると、いつものように「フリーハグ」を掲げた若者が。今日は女性もいた。人懐こい笑顔で道行く人に気さくに「フリーハグ!」と声をかける姿を見て戦慄する。スティーヴン・キングの小説に出てくるピエロのように怖いと感じる己の心は曇っている。ホール前がタイ飯屋台やケバブ屋でにぎわうなか、ホールへ。バボラークによるグリエールのホルン協奏曲は、期待通りの美しさ。まろやかな響きに陶然。技巧を微塵も意識させない自在さ。ホルンという楽器に対する概念を変えてしまう。客席もいつになく沸いてブラボー多数。アンコール2曲。後半、チャイコフスキーの交響曲第4番。触発されたかのように冒頭ホルンからよく鳴る力演。17時過ぎに終演して外に出ると、屋台が間もなく店仕舞いモードへ入る風。駅前フリーハグの人々もすでにいない。
●原宿駅からNHKホールあるいは白寿ホールに歩くときは、代々木公園のバラ園に寄るべき。たくさんの種類のバラが咲いている。バラは安全。触らなければ。
ニッポンvsヨルダン@2014年ワールドカップ アジア最終予選
●まさかの展開。まさか、最終予選でこんなに楽に勝ててしまうなんて! ニッポンvsヨルダンは6-0の近年の代表戦では珍しい大差の試合に。2点リードした前半27分に相手の14番が2枚目のイエローで退場してくれたおかげだが、それ以前の段階でもスムーズにパスが回り、バルセロナ風味の楽しいサッカーでヨルダンを圧倒していた。
●先発はGK:川島-DF:内田、吉田(→栗原)、今野(→伊野波)、長友-MF:遠藤、長谷部-岡崎、本田(→中村憲剛)、香川-FW:前田。追い風が吹きまくったこの試合で、唯一の誤算は前半44分に吉田麻也が膝をひねって負傷交代したこと。代表から離脱。次のオーストラリア戦は栗原あるいは伊野波がセンターバックを務めることになりそう。栗原については自分のチームの選手であるからどうしても厳しく見てしまうわけだが、キツく行けばファウルを取られ、ジャッジを気にすると甘くなる、という守備のとまどいぶりに既視感。しかしセットプレイでの高さでは非凡なものを見せてくれて、終了間際に頭で叩きつけて代表初ゴール。祝。
●次との間隔が短いのでコンディションを考えて、香川か、あるいは前田、遠藤あたりを早めに下げるかなと思ったら、後半早めに本田(PK蹴ってハットトリック)を中村憲剛に。さらに今野を伊野波に代えて公式戦ではきわめて珍しいセンターバック2枚代え。伊野波の起用はテストの意図と今野のイエロー累積1枚を考慮してという両面があった模様。
●6得点は前田、本田、本田、香川、本田PK、栗原。前半の4点でゲームは終わっていた。ヨルダンはアグレッシブさを欠き、最初から受けに回りすぎた。攻撃時に前線に早めにボールを入れるという戦術も不徹底。ニッポンをリスペクトしすぎたのか、満員の埼スタに萎縮してしまったのか。
●この試合後に行なわれたオマーンvsオーストラリアは0対0の引き分け。アウェイの中東戦の難しさを考えるとオーストラリアにとってそれほど悪い結果ではないが、てっきりオーストラリアが勝点3を得るものと思っていた。ここまで順調な序盤は予想外。
ラトルのブルックナー交響曲第9番第4楽章付 SPCM2012補筆完成版
●遅ればせながらラトル&ベルリン・フィルの新譜CD、ブルックナーの交響曲第9番第4楽章付(SPCM2012補筆完成版)を。この曲の第4楽章の補筆完成に関してはこれまでもさまざまな版が世に出ており、録音も決して少なくないのだが、今回は天下のラトル&ベルリン・フィルが取り上げたということ、さらに使用する版が最新のSPCM2012年補筆完成版であるということで、がぜん注目度が高まった。
●昨秋来日時に開かれた記者会見では、ラトルは第4楽章について、補筆の真正さと作品の斬新さを強調していた。ブルックナーによる草稿は散逸してしまい断片的なものではあるが、「85%はブルックナー本人のもの」と語り(これはたぶん小節数にして85%が作曲者の草稿なりスケッチなりに基づき、15%が編者の手になるものという意味だと思う)、これらの再構成はルービックキューブを完成するかのようにピタリと一意に定まったと話していた。
●SPCMというのはサマーレ、フィリップス、コールス、マッツーカの4人の編者の名前の頭文字をつなげたもの。最初はサマーレとマッツーカによって編まれた完成版(1983年)に、後にコールスとフィリップスの共同作業が加わり、1992年版が出版され、さらに新たな研究成果を反映して2004年版が編まれ、その改訂版が2008年に刊行され、そしてまた推敲を経てこの2012年版へと至った、らしい。なんと、SPCM補筆完成版だけでもこんなにいろんな版が入り組んで存在しているのだ。補筆版だけでもこんなに版があるなんて。こだわりの版マニアが随喜の涙を流しそう!
●で、この第4楽章だ。資料からの再構成がどれほど作曲家の意図を尊重した(あるいはしなかった)にせよ、客席から聴いて、出来上がったものが脈絡のない継ぎはぎになっていたり、力のない音楽になってしまっていたら、意味はない。いや、ないことはないけど、繰り返しは聴かれない。じゃあ、この第4楽章はブルックナーにしか書けない音の大伽藍なのか、フランケンシュタインの創造物なのかと言われると、これは悩む。この録音に関しては、ベルリン・フィルの圧倒的な雄弁さ、豊麗さが説得力を高めているはず。第一印象にすぎないんだけど、提示部はすばらしい。ブルックナーの第7や第8よりはむしろ第5を連想させる。展開部以降は少し霊感と推進力に不足するかもしれない。再現部に第1楽章の第1主題が登場して、「おお」と気分が盛り上がるのだが、実はこれは編者の推論に基づく創作だという。さらに大胆なのはコーダの手前で、なんと第1楽章の第1主題、第2楽章スケルツォのリズム動機、第3楽章アダージョの主題、そしてこの第4楽章のフーガ主題が同時進行するという荒業が繰り出されて、強烈なインパクトをもたらす。が、これも資料に基づく推論から書かれたもの。さらにコーダでは第3楽章アダージョからの引用があって、これも状況証拠からの推論のようだが、なかなか効果的。なんだか全般に編者の推論部分が冴えてる。いっそ資料にとらわれずに、もっと自由に創作しちゃったほうがいい曲になるんじゃないの!?と思わんでもない(笑)。100%本人作の草稿だって、最終的に捨てられたかもしれないんだし。草稿なんだから。
●なんてことを言い出すとキリがないわけで、事実このSPCM以外にもいろんな補筆完成版がある。ラトルのCDのライナーでジュリアン・ホートンは「現在のところ、演奏に用いられる補筆完成版は大きく2つの系統に分かれる」と書いている。ひとつはウィリアム・キャラガンによる版(1984、2003、2006、2010)。もうひとつはこのサマーレ、フィリップス、コールス、マッツーカのSPCM系統。「キャラガンは概していえば楽曲分析的見地から推論を重ね、自由度も高い創作に走っている。それに対して、自分たちの版を復元されたスケッチに基づく再構成とみなしているのがサマーレとコールスだ」というのだが、じゃあキャラガン版がのびのび創作しているかというと、このゲルト・シャラー指揮フィルハーモニー・フェスティーヴァの録音(キャラガン2010年版)を聴く限り、むしろこちらのほうが大胆さに欠けるんじゃないかという気もしなくもない。
●SPCM2012にしてもキャラガン2010にしても、コーダは力の入ったものではあるが、セルフ・パロディ的にも聞こえる。しかしそれをいえば100%自作だってしばしば自己模倣的であるわけで、パロディ的であることこそ本物らしさの証拠というねじれた理解もありえて、だんだん真正さとはなんなのかわけがわからなくなる。そのうち徹底的な改良を重ねたSPCM2020とかキャラガン2025とかが出て、ブルックナー本人を凌駕したりはしないだろうか。そもそも補筆は未完の作品に限定する必要もないかもしれない。ブルックナー交響曲第4番「ロマンティック2015」みたいに、Windowsやドラクエのように延々と後に付く数字が増えていくバージョンアップ名曲。ある意味いまだって「カラヤン1975」とか「ヴァント1998」みたいに細分化個別化して鑑賞しているわけだし。
つけるだけで姫
●演奏会の帰り、電車に乗っていたら目の前に座っていた女子高生が特大サイズのつけまつげをしていた。「まつげ」っていうか、もう完全に「ひさし」っていう大盛り感で、ひさし部分に煮干の一本や二本は搭載できそうなくらいの安定感。ビバ、人体アタッチメント。ギャルファッションって、常に個体が識別困難な方向に向かって先鋭化するような気がする。小悪魔ageha系にしてもかつてのヤマンバとかにしても。サバンナで暮らすガゼルの群れや、海中でまるで一つの意思を持った生物のように一瞬にして向きを変える魚群のように、周囲の脅威から身を守るための知恵なのかもしれない。
●リクスーと似てる。
ユーロスペースでソクーロフ特集、EURO2012開幕近づく
●せっかくソクーロフの映画「ファウスト」試写の案内をいただいていたにもかかわらず、どうしても日が合わず見逃してしまいうなだれていたところに、ユーロスペースでソクーロフの旧ソ連時代の作品を含めたドキュメンタリー傑作選を上映するという知らせが。6月16日から渋谷のユーロスペースで以下の5本を上映。音楽ファンには気になるラインナップも。
『モーツァルト・レクイエム』(日本初公開)2004年/フランス/71分
『ビオラソナタ・ショスタコーヴィチ』1981年/ソビエト/80分 セミョーン・アラノヴィッチとの共同監督
『モスクワ・エレジー~タルコフスキーに捧ぐ』1986-1987年/ソビエト/88分
『マリア』1975-1988年/ソビエト/モノクロ・カラー/40分
『ソルジェニーツィンとの対話』(劇場初公開)1998年/フランス/180分(90分×2)
●ただし各日21時からのレイトショー。最近夜族を脱退してしまったワタシには遅すぎて無理そう。詳細はユーロスペースのサイトへ。
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●いよいよ4年に1度のEURO2012サッカー欧州選手権が6月8日に開幕するんである。地上波でもいくつか試合は中継されるが、いろいろとストレスの要因になるので、全試合完全生中継してくれるWOWOWで観戦することに。アナログ停波とともに自然退会していたWOWOWに再加入した。実際にはそうたくさんの試合を見れる(ら抜き)とは思えないのだが、こういうのは「どうしても見たい特定の数試合」を見れるかどうかが肝要。今ならネットで申し込めば加入料なしで来月末まで2000円で済むのでお得。
●予定としては最初から生観戦はあきらめ、翌朝早起きして結果を知らないまま録画を再生する作戦。ネットへのアクセスは慎重にせねば。
ニッポンvsオマーン@2014年ワールドカップ アジア最終予選
●最終予選の初戦はホームで対オマーン戦。その後、ヨルダン、オーストラリア、イラクと手ごわい相手との戦いが続く。このステージまで来ると楽な相手は一つもない。この組には現在のアジア王者ニッポンと前回の王者イラクとFIFAランク最強国オーストラリアがそろったわけで、上位2位をめぐる争いは熾烈。
●ただその中で比較すればホームのオマーン戦は勝点3を期待できる試合。埼玉スタジアムで3-0と快勝できたのはシナリオ通りというか、「ここで勝たなかったらいつ勝つの」的な逆背水の陣みたいな試合だったと思う。
●ニッポンの先発はGK:川島-DF:内田(→酒井宏樹)、今野、吉田、長友-MF:遠藤(→細貝)、長谷部-岡崎(→清武)、香川、本田-FW:前田。結局ガンバの二人遠藤と今野を戻して、ザッケローニのベストメンバーがそろった。攻撃的で、ボールがよく回る。トップは前田遼一。もっとも決定力のある選手で、しかも足元がしっかりしているので前線でもボールが収まる。オフ・ザ・ボールの動きも吉。香川は一段と切れ味が鋭くなってて、完全に欧州トップレベルのプレイ。今やブンデスリーガを代表するスター、来季はマンチェスター・ユナイテッド行き濃厚。ただ、それでも選手たちは本田を見ているし、頼っている。中盤を支配するのは本田。遠藤はいつになくミスが多く、細貝との世代交代を予感させる。
●香川と前田、長友のコンビから左サイドを崩して本田のボレーで決まった先制点は美しすぎる。2点目も好き。前田のボールを引き出す動きを見て香川がパス、前田はトラップにミスしながらも泥臭くゴールに押し込んだ……思い切りオフサイドだったけど。もっとも前半にオンサイドと思われるゴールを取り消されているか。線審に不安定感はあったが、主審の笛は問題なし。アウェイも無事だといいのだが。3点目は岡崎。
●なにしろ相手にほとんどチャンスどころか攻撃機を与えていなかったので、最終予選とは思えないほどの好スタートになった。次は8日、ホームのヨルダン戦、12日はアウェイでオーストラリア戦。この中三日で移動ありのアウェイが辛い。ただ、日程を見ていると、上手くコントロールされているなという気もする。勝つべき試合をなるべく条件のいい日程で戦っているというか。先の話だが、最後の2戦、来年6/4のホームのオーストラリア戦、6/11のアウェイのイラク戦が非常に厳しいので、今回の最終予選は基本的に先行逃げ切りのイメージでプランが立てられていると思う。
準・メルクルN響、サントリーホール「チェンバーミュージック・ガーデン」開幕
●31日(木)は準・メルクル指揮N響へ(サントリーホール)。ドビュッシーとラヴェルで組まれたプログラムが非常におもしろい。ラヴェルは「亡き王女のためのパヴァーヌ」「ラ・ヴァルス」と通常のレパートリーだが、ドビュッシーはバレエ音楽「カンマ」、サクソフォンとオーケストラのための狂詩曲、前奏曲集の管弦楽編曲版から数曲、「古代のエピグラフ」管弦楽編曲版。100%ドビュッシーによる作品が一曲もない。「カンマ」はケックランが、サクソフォン狂詩曲はロジェ=デュカスがオーケストレーションを完成した作品。前奏曲集オケ版はコリン・マシューズの編曲、「古代のエピグラフ」はアンセルメの編曲。準・メルクルによる準・ドビュッシー・プロなのか。
●作曲者の意を汲んで管弦楽用に編曲したというアンセルメ版「古代のエピグラフ」がとてもよかった。コリン・マシューズの前奏曲集よりよほど楽しい。あまり取り上げられないのが謎に思えるほど。繊細で鮮度の高い音楽が続いた後、コンサートは最後に熱気渦巻く「ラ・ヴァルス」で爆発、客席は沸いた。
●2日(土)、サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデンが開幕。ブルーローズ(小ホール)を会場に、17日まで室内楽を中心に多彩な公演が予定されている。オープニングはブラームスのトリオが3曲という構成で(トリオのトリオ)、クラリネット三重奏曲イ短調、ホルン三重奏曲変ホ長調、ピアノ三重奏曲第2番ハ長調。堤剛(チェロ)、豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)、ラデク・バボラーク(ホルン)、須関裕子(ピアノ)、橋本杏奈(クラリネット)と重鎮から若手まで。バボラークのホルンが圧巻。どんな弱音でも安定していて、しかも音楽が生きている。技術も表現もすべてが人外の域で怪物的存在感を醸していた。
●このチェンバーミュージック・ガーデン、8日からヘンシェル・クァルテットのベートーヴェン・サイクルが開催される。5公演にわたって演奏される弦楽四重奏曲全曲。曲目はうまく分散されていて、どの日を選んでも初期・中期・後期作品を聴けるようになっている。8日の1番・11番・大フーガ・13番のセットにお得感を感じる。といいつつ別の日に行くのだが。楽しみ。
22時の聴衆
●もうすっかり記憶の彼方に去りつつある、今年のLFJ。でもいまだにその残像が消えずに目に焼きついている光景が、初日と二日目の22時台ホールAの聴衆。ガラガラの巨大ホールAで、ベレゾフスキーが弾いたチャイコフスキーとエル=バシャが弾いたプロコフィエフ、ともにピアノ協奏曲第2番。あのときの客席の熱気、「打てば響く」感は普通のコンサートとはぜんぜん違っていた。
●最初、普段となにが違うのか、よくわからなかったんだけど、後で客層が若かったってことに思い当たった。夜22時開演だと、年配層はぐっと減る。ワタシは行けなかったんだけど、同じホールAの三日目ラスト・コンサート(これは21時開演)は完売になって、公式ブログの写真だとこんな雰囲気でほとんど総立ち。前夜と前々夜の22時は人がぐっと少なかったのでこの雰囲気には至らないにしても、足を運んだ層は近かったはず。
●22時の聴衆は拍手からして違っていた。ズダッ!と音が立ち上がる。普通の演奏会だと、しばしば「もう手を叩くことに疲れたましたよ私の人生は」的にドッコイショと開始される拍手モードが、あそこではロケットスタートで起動していた。なんすかね、体のキレかな。若いと単純に立ったり座ったりする動作でも、自然とシャープで滑らかだったりするじゃないすか、オッサン特有のモッサリ感がなくて。この「え!?」っていう切れ味はまちがいなく舞台上にも伝わっていた。
●で、いいな、若いって、と思う頃には自分オッサンが世の理。心から心へ、若者からオッサンへ、オッサンからジジイへ。若さが足りないぜとか天に向かって唾すると即座に自分レッドカードのワナ。でも、22時の雰囲気が19時にももう少しあっていいんじゃないかと思うし、以前はあったと記憶する(いやそれは記憶の捏造か?)。どこかで読んだけど、日産スタジアムのピッチから最前列の席までの距離は、フクアリ(JEF千葉のフクダ電子アリーナ)のピッチから最後列までの距離より遠いっていうんすよ。それくらい日産スタジアムはピッチが遠い。でも22時には日産スタジアムだってフクアリになりうる。それを知ったのがLFJの22時。