●不覚。昨年単行本化されていたのに気づかず、今頃ようやく読んだ、「結論はまた来週」(高橋秀実著/角川書店)。フリーペーパー「R25」の連載をまとめた一冊だが、こうして通して読むと、ますますおもしろい。一回すでに読んでいても、もう一回読んでなお味わい深いくらいに含蓄に富んでいて、しかも1ページの連載エッセイとしてとても技巧的で感嘆するほかない。
●各回の見出しだけでもハッとすると思うんすよね。たとえば「個性をあきらめよう」とか「『本当の自分』こそウソ臭い」とか。「自分らしさ」を追い求めて旅に出る前に読んでおくべき至言の数々。「旅の見返り」の回の冒頭にこうある。
中田英寿はいつまで旅しているのだろうか? テレビでカズの走る姿を観ながら、私はふと思った。今頃どこで何をしているのか。彼は旅立ちの際、自らのHPでこう語っていた。
「人生とは旅であり、旅とは人生である」
決めゼリフのようだが、人生そのものが旅ならば、わざわざ出かけなくてもよいだろう。人々に忘れられないうちに早く帰っておいでよ、と私は彼に伝えたいのである。
中田ヒデはたぶん、まだ旅をしているはず。それが人生だし。最後に彼を見かけたときはAERAで埼玉を旅していたので、割と近くにいそうな気がする。
●脱力系の笑いのなかに、ところどころドキリとするようなことが書かれている。「出世する人、しない人」にある、「出世する人の特徴は、まず『仕事ができない』ということだ」。「インタビューの極意」では「大切なのは、相手に会った瞬間にいったんすべてを忘れることなのである」。な、なるほど……この「インタビューの極意」はまさにその通りで、勉強になる。その通りなんだけど、実践はなかなか難しいんだが。
●「R25」では、当初、毎週この「結論はまた来週」が掲載されていたと記憶する。結論とはどんどん先送りしてゆくもの、そういうニュアンスが込められた連載タイトルだったと思うが、途中から隔週連載になった。で、石田衣良の連載「空は、今日も、青いか?」が交互に掲載されるようになった。高橋秀実連載は、毎回その名の通り「結論はまた来週」というように、何かが宙ぶらりんになるのに対し、翌週の石田衣良連載は常に「結論は明らかです」みたいなところからスタートしているのがおかしかった。