●元JEF市原の廣山望が引退。元ニッポン代表とはいっても、華やかなスター街道とは違うところを歩んできたのでニュースの扱いは大きくないが、日本人選手屈指のパイオニアだった。JEF市原から(いろいろあったが)パラグアイのセロ・ポルテーニョに移籍して活躍、さらにポルトガルのブラガ、フランスのモンペリエといった欧州1部リーグでもプレイした。2004年に帰国してヴェルディ、セレッソ、草津と渡り、最後はアメリカのリッチモンド・キッカーズ。このクラブはMLSではなく、USLという独立リーグに所属している。17年間もプロ選手としてプレイできる選手は代表クラスでもまれ。しかもスピードやスタミナで対面の選手と勝負しなければならないアウトサイドの選手でこれだけできた人となると、さらに限られるはず。傑出した選手だったと思う。
●サッカー界に留まるというからおそらく今後は監督を目指すだろうし、そうなってほしい。彼のブログの引退宣言の最後は「これからも自分らしくサッカーを続けていきたい」と結ばれていた。
●自分らしく。あれ、中田ヒデみたいじゃない? そういえばナカタと廣山は似ているかも。ともにインテリジェンスを感じさせる。語学も堪能。各国を渡り歩いた。メディアを通して描かれるキャラクターもそう遠くはない。ただナカタは早々にサッカー界を後にしたけど、廣山は今後監督として選手時代以上の成功を収める可能性がある。
●しかし、監督業をやってる人で「自分らしく」なんて言ってる人はいない気がする。みんな代わりにこう言う。「バルセロナらしいサッカーをしたい」「ニッポンらしいサッカーをしたい」。オシムやザッケローニも「ニッポンらしく」とは言っても「自分らしく」とは言わない。日本のことなんてほとんど知らない段階からそう言う。だれもがなにかに仮託して目指すサッカー像を掲げる。監督が「自分らしく」とか言ったらサポはたちまち噛みつく、ゾンビの群れのように。「はあ? 自分ってなにそのちっぽけなエゴ、大切なオレのチーム、一時的に預けてるだけなのに」。
●「自分らしく」より「他人らしく」。行く先々で「ミランらしく」「インテルらしく」「ニッポン代表らしく」を標榜したであろうザッケローニも、本当は3-4-3の「自分らしく」にこだわりがあるっぽいんだけど、掲げる看板は「他人らしく」。監督業というより、オッサン社会の知恵という気もする。他人らしく生きる。ビバ、自分探しより他人探しの旅。
August 29, 2012