●東京交響楽団の音楽監督ユベール・スダーンの任期が2014年8月に終了するにあたり、次期音楽監督が発表されるということで、10日、ミューザ川崎の市民交流室へ。記者会見では次期音楽監督本人が登場すると案内されていたが、だれに決まるかは事前に聞いておらず、ネット上でもいろんな憶測が流れていた。で、会見場に入ると、普通はまず当日配布資料が手渡されるものなんだけど、この日は「資料は発表の後で」という周到さ(資料でわかっちゃうとだれかがツイートしちゃうからねえ)。会見の模様はUSTREAMでもライブ配信され、記者も一般聴衆もまったく同じタイミングで、新音楽監督の名前を聞いたわけだ。ジョナサン・ノットである、と! 発表と同時に本人が入室して、少し会見場がざわめいた。
●すばらしいすよね、今の時代の会見のあり方として。ノットと契約できたということといい、広報の鮮やかな手並みといい、仕事できる感が満載。
●で、ジョナサン・ノット。イギリス人ではあるけどバンベルク交響楽団とのコンビが知られていると思う。昨年に東響と一度共演した際に楽団員から熱烈な支持を受けて、今回の契約に至ったという。東響の大野楽団長は「2、3年前にスダーンからどんなに関係がうまく行っていても10年以上音楽監督を務めるつもりはないと言われ、以来、次期監督を探すため、いろいろな指揮者と共演してきた。スダーンはオーケストラを基礎から鍛えてくれた。次の音楽監督はまた同じように基礎からというのではなく、スダーンが培ったものの上に、自由に花開かせてほしい思い、『もうこの人しかいない』ということになった」と話してくれた。
●ノットは「はじめて東響を指揮した際には、このオーケストラが音楽監督を探しているとはまったく知らなかった。交渉には半年以上の時間がかかったが、今、自分にとって新しい旅を始めるにあたってぴったりのタイミングだと考えるに至った。よい旅とは必ず冒険である。どこにたどり着くか、わからないもの。指揮者に必要な条件はいくつもあるが、もっとも重要なのは指揮者がいなければ決してとれないリスクをとること。このどこに続くかわからない旅でもリスクをとって、みなさんと楽しい時を過ごせれば思う」と抱負を述べてくれた。
●「リスクをとる」というのはノットがたびたび口にしたフレーズ。指揮者としてのフィロソフィは「本番でリハーサルを繰り返さないこと」。「リハーサルは枠組みでしかない。本番ではそのときの雰囲気などさまざまな要因で演奏は変わる。本番はなにが起きるかわからない。リスクをとらなければならない」といったように。
●東響のノット次期音楽監督特設ページはこちら。契約は2014年9月から3年間で、1シーズンに4回来日し、計8週間、東響を指揮する。また、就任前に来年10月、R. シュトラウスの「4つの最後の歌」と「アルプス交響曲」を披露してくれる(新潟定期でも同プロあり)。
●これで東京のオーケストラの指揮者陣の名前がますます魅力的なものになった。パーヴォ・ヤルヴィ(N響)、シルヴァン・カンブルラン(読響)、インゴ・メッツマッハー&ダニエル・ハーディング(新日本フィル)、エリアフ・インバル(都響)、アレクサンドル・ラザレフ(日フィル)、ダン・エッティンガー(東フィル)……さらにジョナサン・ノット(東響)。なんという音楽都市。
October 11, 2012