●10日はダブルヘッダーを敢行。昼は山田和樹指揮日本フィル(サントリーホール)。山田和樹正指揮者就任披露演奏会。プログラムがすばらしくて、前半に野平一郎「グリーティング・プレリュード」、ガーシュウィンのピアノ協奏曲(パスカル・ロジェ)、後半にヴァレーズ「チューニング・アップ」、ムソルグスキー~ストコフスキー編の組曲「展覧会の絵」。前後半ともシャレっ気のある小品で始まった。ヴァレーズの「チューニング・アップ」はオーボエのチューニングで開始されて、ぼんやりしていると本当のチューニングが始まったのかと錯覚するが、その後、さまざまな名曲の引用をさしはさむ喧噪のヴァレーズ流祝典音楽に。「ウ~~~」とサイレンが鳴るセルフパロディ?がウケる。続く「展覧会の絵」のチューニングで笑いを取るのは期待通りのお約束。楽しい。
●「展覧会の絵」、有名なラヴェル版は1922年。ストコフスキーは1939年。もちろんストコフスキのほうが新しいんだけど、その隔たりは思ったほど離れているわけでもない。ストコフスキー版は冒頭のプロムナードが弦楽合奏で始まる。普通に考えればそうなるような気がする。編曲としてはラヴェルのほうが奇抜なのかも。たとえば「古城」ではファゴットに続いて、ラヴェルはサクソフォンでメロディを吹かせるけど、通常のオーケストラ編成であれば、ストコフスキのようにコーラングレをあてるのが本筋だろう……と思っていたら、なんと、この日の演奏では「古城」でラヴェル版同様にサクソフォンが登場した。ん?記憶違いだったのかなと思ったけど、ひょっとしてストコフスキ版はオプションでサクソフォンも選択できるということなのかな? きっとここに書いておけば、親切な方がfacebookページのコメント欄で教えてくれそうな気がする……。
●オケは秀逸。4曲ともに美しい響きを聴かせてくれた。新ヤマカズ恐るべし。
●夜はNHKホールでエド・デ・ワールト指揮N響。前半が武満徹「遠い呼び声の彼方へ!」「ノスタルジア~アンドレイ・タルコフスキーの追憶に」と独奏ヴァイオリン(堀正文)を要する曲が2曲。後半はガラッと雰囲気が変わって、ワーグナーの「ワルキューレ」第1幕演奏会形式。これは強烈。大編成のオーケストラ、あのホールの大空間にもかかわらず歌手陣の声がよく通る。エヴァ・マリア・ウェストブレークのジークリンデ、フランク・ファン・アーケンのジークムント、エリック・ハルフヴァルソンのフンディングの3人。字幕が入ったおかげもあり、すっかり「ワルキューレ」の物語世界に没頭できた、なんの舞台もないのに。でもあの第1幕ってストーリー的にはジメジメと3人がもっぱら語り合ってるだけでノートゥング以外はこれといって必要な舞台装置やら演出やらはないのかも。
●アーケンは少し喉のコンディションに苦しんでいて、最初セリフで「水を分けてほしい」どうたらこうたらと歌った後で、足元のエビアン(推定)を口にしたのはシャレかと思ったけど、その後なんども水を飲むことに。でも歌手陣の聴衆をひきつける力は並大抵のものじゃなかったと思う。終わった瞬間のブラボーはまれに見る盛大さ。歌手3人とオーケストラでこれだけ奥行きのある音楽を作れてしまうなんて。ワーグナー偉大すぎる。
●しかし盛り上がっただけに、第1幕だけ聴いて帰るって、なんだか不思議。この宙ぶらりんになった第2幕への期待感はどうすれば。みんなウチに帰ってCDとかDVDで渇望をいやしたのだろうか?
November 12, 2012