●19日、サントリーホールでマイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団。←名前が長い。が、MTT&SFSOだと十分通じない感じ(それともSFS? あるいはSF響?)。独奏のユジャ・ワンはショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番の予定だったのに、ラフマニノフのパガニーニ・ラプソディに変更。これに激しく落胆してテンションは下がっていたのだが、当日足を運んでオケの音を耳にしたらもうそんなことは忘れてしまった。メイン・プロはマーラーの交響曲第5番。期待通りというか期待を上回るうまさで、まさにトップレベルのスーパーオケ。金管の輝かしさ、パワーと安定感は尋常じゃないし、木管のソロはだれもかれも聞きほれる見事さで、どうっていうことのないフレーズでもいちいち聴きどころになってるし、艶々した弦のデラックス感も最高(弦の席次は数週間単位でローテーションされるんだとか。なので最後列のプルトまでみんなバリバリ弾く感じ)。サントリーホールじゃ飽和するってくらいに音がでかいんだけど、思いっきり余力を感じさせる。弦は対向配置で第一ヴァイオリンの隣にチェロ。超高解像度マーラー。
●お客さんの集中度もすさまじかった。終わった瞬間の沸き方も久々に目にするもので、MTTは2度にわたってソロ・カーテンコールに呼び出された(「一般参賀」と比喩するにはMTTはあまりに若々しすぎる)。語り草になるレベルの名演だったのでは。オケの機能美と表現力があまりにも秀逸で、帰り道はむしろ憂鬱になった。サンフランシスコという街に対する嫉妬心で。絶望。
●たとえるなら、世の中クセ者ぞろいでおもしろいよなーとそれなりに充足してるところに、最高に頭もよくてルックスもよくて元気溌剌とした健康体で性格もよくてリッチで寛容で頼りがいがある、そんなまぶしすぎるヤツが入ってきて、すべてを吹き飛ばしたという気分。燦々とふりそそぐ陽を浴びて、どこにも陰が見当たらないマーラー。昔、バーンスタインが全宇宙の苦悩を背負って呻き声を発しながら棒を振ってたマーラーが冗談に思えてくる。明るい。MTTがときおりテンポを揺らして歌い込むと、マーラーは最高に上質なエンタテインメントになる。あのアダージェットの絢爛さ。ただうまいだけじゃなくて、作品観をひっくり返すくらいのインパクトがあった。「名曲」ってのはこうやってバージョンアップされて時代を生き延びていくのだなあ。
November 20, 2012
マイケル・ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団
●参照→ 「オーケストラは未来をつくる~マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団の挑戦」(潮博恵著/アルテスパブリッシング)。終演後著者の潮さんとご挨拶できて吉。