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2012年12月アーカイブ

December 31, 2012

年末フットボール通信~天皇杯と移籍情報編

●天皇杯準決勝、結局国立競技場に足を運ぶことはかなわず、テレビ観戦に。マリノスは守備の堅さが身上だが、前半23分に柏レイソルの工藤にゴールを奪われて0-1。センターバックの中澤、栗原は強力ではあるが、失点シーンは左サイドバックのドゥトラが相手と競り負けたところから。ここは相手の狙いどころだったのかも。終盤にようやく決定機をいくつか作ったが、決まらず。悔しいが、決勝に進むには不足しているものが多すぎたのだろう。元日に行なわれるガンバ大阪と柏の決勝戦は入場券完売で当日券なしとか。
●どんどん移籍情報が報道されている。マリノスの狩野健太は大宮へ行くとか。大宮の東慶悟が東京に移籍する穴を埋めるということだが、狩野はオススメ。本来なら俊輔をベンチに追いやってマリノスの中心選手になるべき才能だったと思うが……。それにしてもいい選手が育ってくると、次々とヨソに移ってしまうこのクラブはどうにかならないものか。一方で、ドゥトラ(39)とマルキーニョス(36)とは契約を延長していて、この調子では木村和司の現役復帰も近い。監督はぜひ加茂周で。
●今季の移籍はシーズンオフ序盤から活発。鹿島の興梠は浦和へ、新井場はセレッソ大阪へ。広島の森脇良太は浦和、仙台の関口訓充も浦和、川崎の山瀬功治が京都、新潟の矢野貴章が名古屋など。
●大宮の東慶悟は2年契約の契約切れで移籍金もかからないとか。しかし2年契約では移籍金など発生させようがないという気もする。欧州だと主力選手は契約最終年を迎える前に新しい契約を結んで契約を延長するか、ここで再契約せずに事実上移籍前提で最終年を迎えてしまうか(で、来年タダでヨソに取られるくらいなら今年売れるうちに売ってしまおうということになりやすい)のケースが多いのでは。Jリーグの移籍のルールは国際標準化したみたいだけど、現状では小さいクラブが大きいクラブに選手を売ってお金を稼ぐというのはなかなか難度が高そう。短期契約を求めているのはクラブの側なのか、選手の側なのか、どちらなんすかね?
●本日大晦日。今年一年お世話になりました。2013年が平和な一年になりますように。

December 28, 2012

ノリントン&N響の「第九」で聴き納め

ベートーヴェン●年内の演奏会はこれで聴き納め。ノリントン指揮NHK交響楽団の「第九」へ。今年は年末の「第九」に久々に足を運んだ、しかもカンブルラン&読響に続いて2度も。奇しくも、その両者とも「歓喜の歌」で来し方に思いを馳せるという年中行事的な「第九」とはまるで違った「第九」。改めて交響曲第9番という作品の美しさやおもしろさに感嘆させられる。二人ともアプローチは違うけどアウトプットはある意味似ているというか……いや逆かな? 演奏時間がとても短いのは同じ、でもノリントンははるかに細部まで意匠に富んでいた。
●ノリントンはいつものように弦楽器対向配置(コントラバスは後方横一列)、ノンヴィブラートのピュアトーンで、これまでのN響とのベートーヴェン・シリーズでも見せたように木管楽器は倍管、ホルンを下手に、トランペットとトロンボーンを上手に金管楽器を両翼に分ける。で、なんと独唱者も下手後方に。オケのなかのパートの一つみたいに。合唱は200名以上の大合唱団(国立音楽大学)。あらゆるところに仕掛け満載で聴いたことのない「第九」。第1楽章の冒頭からして小刻みなクレッシェンドが用意されててびっくり。至るところで遠くから近づいてくるような細かなクレッシェンドがあって遊園地の乗り物に乗ってるみたいな楽しさ(笑)。ノリントンの左手は奏者への指示であると同時にお客さんへのガイドでもあって、「さあ、ここのホルン、おもしろいことするからみんな聴いてね!」みたいなメッセージが込められていると思う。で、ときどき客席に横顔を見せてニッコリと「ほら、おもしろかったよね」って微笑む。実際、愉快で笑わずにはいられない。
●第1楽章、第2楽章はまるでティンパニ協奏曲かというくらい、ティンパニ(植松さん)が表情豊か。第3楽章のホルンソロはほれぼれするようなまろやかさ(福川さん)。第4楽章、マーチの場面は戦慄。シンバルがはっきりと強弱強弱と叩いて、これが軍楽隊であり戦争シーンなのだということを強調する。怖い。テノールは下手奥から懸命に軍楽隊に対抗するが、彼らを従える主役にはなりえない。それと鮮やかなコントラストを成すのが合唱とトロンボーンによる安らかな教会の音楽。なんて起伏に富んだドラマティックな音楽なの、この曲は。
●プログラムのインタビューで、当時の演奏スタイルについての正しいインプットと遊び心を反映させたりドラマ性を高めたりするための自由なアウトプットは演奏の両輪であって、相反するものではないといったことをノリントンは語っていて、なるほどそういう言い方ができるのかと。「ベートーヴェンが即興演奏の名手であることを、もう一度思い出してみてください」。

December 27, 2012

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2013のサイトがオープン

lfj2013公式サイト画面写真●「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2013」のサイトがオープンした。といっても「ティーザーサイト」って言うんすかね、あえてトラフィックの少ない年末年始に一枚モノのフライヤーをペラッと置いた、みたいな趣向。次回のテーマは「パリ、至福の時」。当初「フランス音楽と(パリで活躍した作曲家たちの)スペイン音楽」と説明されていたのと内容は変わらないが、よりキャッチーな言葉でいうと「パリ、至福の時」。
●現時点での情報では、来日アーティストとして特に注目されるのはラムルー管弦楽団、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、ミシェル・コルボあたりか。渋さ知らズも再登場する。
●で、今回の絵柄はなんと気球に乗った9人だ。9人もいる! 「タイタンたち」のときも人数多いなあと思ったが、今回は9人。48人でLFJ48とかそんなことにはなっていないが、LFJ9でも相当多い。だれがだれだか、わかるだろうか?
●ざっと名前だけ書いておくと、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル、ミシア・セール、アルベニス、メシアン、サティ、ファリャ、プーランク。ミシア・セール(Misia Sert)は作曲家ではなく、当時の多くの芸術家たちのパトロンを務めたサロンの女主人。こんな小さな気球に9人も乗っていては、今にもケンカが始まるのではないかと心配になる。

December 26, 2012

サンタの休日

サンタさん?●今年もクリスマスが終了。25日を過ぎたサンタさんはどこに向かうのであろうか。激務を終えて南の島で休暇でもとるのかなと思うが、南の島にだって出張してきたばかりであろうから、むしろ引きこもってテレビでも観ているのではないか。サッカーとか。天皇杯とか(祝、マリノス、ベスト4進出)。あるいはサンタが集まって打ち上げとか?
●今日あたりから世間が一気に年末モードになった気がする。月曜が振替休日だったので、今週は短い、すなわち今年もあとわずか。
●というところで告知を二つ。「東京・春・音楽祭」ウェブサイトでミニ連載「ワーグナー vs ヴェルディ」をスタート。全5回くらいの予定、隔週ペースを目指す。
●もうひとつ。「クラシックホワイエ」(毎週土曜日23時~)でお世話になっている新潟のFM PORTで、大晦日の23時から新年あけて午前1時までの特番「GOODBYE2012 HELLO2013 ~クラシックの世界へようこそ~」にゲスト出演する。昨年はワタシの登場する場面のみ事前収録で出演したのだが、今回はなんと生出演を敢行。新潟のスタジオで年を越すことになった。生放送ということでいつもとは勝手が違うんだけど、楽しい番組になりますようにと短冊に書いてクリスマスツリーに飾った、心の中で。

December 25, 2012

レッツゴー!クラヲくん 2012 天皇誕生日編

●連続不条理ドラマ「レッツゴー!クラヲくん」第19回 天皇誕生日編

クラヲ「え、皇室にも一般参賀ってあるんだ」

 

December 21, 2012

チパンゴ・コンソートのコレッリシリーズvol4 ラ・フォリア

コレッリ●20日は近江楽堂(オペラシティ内)でチパンゴ・コンソートのコレッリシリーズvol4「ラ・フォリア」。ウッチェリーニ、カステッロ、フレスコバルディ、ガブリエッリ(懸田さんの無伴奏チェロ!)らの作品をさしはさみながら、コレッリの名作であるソナタ作品5をシリーズで完奏。最後は「ラ・フォリア」で華やかに掉尾を飾った。チパンゴ・コンソートは杉田せつ子さんのヴァイオリン、懸田貴嗣さんのチェロに、今回はバロック・ハープの西山まりえさんが参加。チェンバロ、リュート、ハープと回によって通奏低音を担う楽器が入れ替わる趣向になっている。近江楽堂はとても小さな空間で、いつも高い天井から残響が客席に降り注ぐような感覚があるんだけど、今回はバロック・ハープのいっそう豊かな響きに包まれることができた。シリーズ最終回にふさわしくヴァイオリン、チェロともども出色のコレッリ、冬晴れの蒼天を思わす爽快さにすっかり満ち足りた気分に。
●来年コレッリの没後300周年なんすよね。しかしワタシは今年、チパンゴ・コンソートのコレッリで没後299周年を大々的に祝した気がする。そういえば、今年生誕199周年のワーグナーも二期会「パルジファル」とかデ・ワールト&N響「ワルキューレ」第1幕、マゼール&N響「言葉のない指環」、スクロヴァチェフスキ&読響のデ・フリーヘル版「トリスタンとイゾルデ」等で、十分に祝った。同じくヴェルディ生誕199周年も上岡&新日本フィルの「レクイエム」があったし、ブリテン生誕99周年に関しては新国立劇場「ピーター・グライムズ」がハイライトになってくれた……来年はだれを祝えばいいのやら?

December 20, 2012

カンブルラン&読響の「第九」

ベートーヴェン●日本人なら年末に「第九」を聴きたくなるという、この不思議な現象。数えてみたのだが、今年は12月の東京都内だけでも50公演を超える「第九」がある。おおざっぱに一回平均2000人規模と考えて(NHKホールははるかに多いが)、のべ10万人が東京で「第九」を聴く。そんな曲はほかにない。本来作品そのものには「来し方を振り返る」みたいな年の瀬成分がまったく含まれていないのに、多くの日本人は「歓喜の歌」を耳にして「ああ、今年も暮れるね、いろんなことがあったね」と感じてしまう。近所の宝くじ売り場でループで「歓喜の歌」が流れてて、前を通るたびにもう助けてって感じなのだが、いかんともしがたい。
●で、19日はシルヴァン・カンブルラン指揮読響の「第九」へ(サントリーホール)。新国立劇場合唱団、木下美穂子(S)、林美智子(Ms)、小原啓楼(T、高橋淳から変更)、与那城敬(Br)。かつて聴いたなかでもっとも軽やかな「第九」。カンブルランは「第九」から歳末性(←そんな言葉ありません)を容赦なく剥ぎ取る。思わせぶりな大仰なゼスチャーをさしはさまずに、キビキビと音楽を運ぶ。快速テンポでサクサク進行。う、美しい。「うわ、この第九、外はサクッ、中はふわっ!」みたいな(なんだそりゃ)。
●「第九」っていうより「第9番」、すなわち「第8番」の続編としての「第9番」。第8ってマシーンの音楽じゃないすか。マシーンといっても、オネゲル「パシフィック231」みたいな後のスチームパンク的な未来をイメージさせる蒸気機関じゃなくて、メルツェルのメトロノームのような漸次的で素朴な反復運動の可笑しさがテーマ。第9番でも終楽章のマーチとかコーダの始まり方には、機械が「カタン、カタン」から「カタカタカタカタ……」とリズミカルに動き出す際の様子の可笑しさがあると思う。
●重々しく振り返るより、カッコよく締める一年。さすが「第九」で、昨夜は6公演もあるうちの初日だったんだけど、明日以降カンブルランとオケの間でさらに熟成するんじゃないかという気がする。

December 19, 2012

グライムズ!グライムズ!

「20世紀を語る音楽 2」●アレックス・ロスの「20世紀を語る音楽 2」の「グライムズ!グライムズ! ベンジャミン・ブリテンの情熱」と題された章は、ホモセクシャリズムの視点によるこの著者ならではの力強いブリテン論になっている(著者は本書を「最愛の夫」に捧げている)。ブリテンとピーター・ピアーズの関係よりむしろ彼の少年愛的な傾向について一歩踏み込んで書かれていて、20代で訪れた母の死以降、ブリテンは同年代のゲイの男性との関係とティーンエージャーに対する恋愛っぽい愛着の間で引き裂かれ、「指揮者のヘルマン・シェルヘンの息子で18歳のヴルフ・シェルヘンとの友情は、あわや性的な接触へと進むかという瀬戸際で揺れた」という。詩人W.H.オーデンは「板のようにやせた少年、つまり未経験の無垢な子」に夢中になるブリテンに、それは大人になる不安を避け、少年時代の記憶への誤った逃避だと非難したが、ブリテンは耳を貸さず、オーデンとの友情を捨てた。
●本書によれば「ブリテンが何年も親しくした少年たちは、その後彼について誰も悪くは言っていない」。唯一の例外として、13歳で当時23歳のブリテンに言い寄られ、叫び声をあげて椅子を投げつけたハリー・モリスの証言が紹介されている。
●「ピーター・グライムズ」の初期台本の草案では、グライムズと少年の関係はより性的に描かれ、「漁師は少年の若さと美しさに逆上する」。ある草稿には漁師のこんな台詞があったという。

おまえの身体は九尾の猫鞭の
挽肉だ。おお! いかすやつだ
肌がなめらかで、お望みどおりに若い
おいで猫よ! むち紐をふりあげて! 息子よ跳びかかれ
跳びかかれ(鞭打つ)跳びかかれ(鞭打つ)跳びかかれ、
ダンスは始まった

●しかし作品の構想が進むにつれて、ピーター・グライムズのセクシャリティとサディズムは覆い隠され、彼は悪辣な暴漢から疎外された犠牲者へと姿を変えてゆく。結果的に作品は多義的な解釈を許すようになり、奥行きを増したといえるだろう。今年、新国立劇場で観たウィリー・デッカー演出では、グライムズは第一に社会との折り合いのつけられない不器用な犠牲者であり、少年との関係は寒々しいベッドひとつで示唆するに留められていた。もし猫鞭のシーンが残っていたら、グライムズへ共感を寄せる観客はずいぶん減ってしまったにちがいない。

December 18, 2012

まず皮をむく

むきにくいタイプ●CDをゲットしたらまず最初にすべきは皮むき。とにかく皮をむくことが肝要。内容を吟味する(これはいつ聴こうか……とか)前に、即座に条件反射的にその日のうちに皮をむく。うっかり皮をむかずに棚やら箱に入れたりすると、どんどん聴く日が遠ざかる。牡蠣の殻をむく海女のように淡々とむきたい。
●野菜をラップして冷蔵庫に入れるのと逆に、CDは皮をむいてから棚にしまわないと鮮度が落ちていく。この原理に気づかないまま、昔、皮のままでCD棚にしまって、そのまま聴くチャンスを逸して、十年も二十年も聴かずに放置されているCDはスゴいことになっている。棚のそのあたりにドス黒い怨念みたいなものが漂う。冷蔵庫の奥に何年も放置されて今どんな状態か確かめるのが怖い食料品に近い。こうなるとますます皮をむきづらくなる。同じ音源をダウンロードで買い直したほうがいいかもしれない。

December 17, 2012

週末フットボール通信~クラブW杯と天皇杯編

●今年のFIFAクラブW杯はコリンチャンスがチェルシーに1対0で勝利。といっても、この大会は生もテレビも観戦できず。かつて国立競技場でトヨタカップが開催されていた頃は、心地よく「世界一決定戦」に胸躍らせることができたのに、今の大会方式になってからはどうも気分が盛り上がらない。欧州チャンピオンが決勝に進めなかったときにこの大会はおもしろくなる気がする。
●ホントは南米サポに触れることができるチャンスは貴重なんすよね。
●むしろ注目は天皇杯。ベスト16に横河武蔵野FCをはじめ、福島ユナイテッドや町田ゼルビアが勝ち進むという大波乱があったわけだが(町田をすでにJFL扱いしていてスマソ)、なんということか、すべての試合で順当に上位カテゴリーのチームが勝利してしまった。横河武蔵野は柏相手に0対1。しかし柏でのアウェイ一発勝負という不条理さはいかんともしがたい。柏では惜しくも負けたが、武蔵野陸上競技場でならなにが起きてもわからない……と負け惜しんでおく。というか、武蔵野陸上競技場でJクラブと戦う姿を見たかった。
●もうひとつ、マリノスのほうは浦和に勝利して、準々決勝は名古屋戦。が、これもアウェイ一発勝負なんだな。不利な条件が悔しいというより、天皇杯がこんな不思議な大会のまま放置されていることが残念。12/23瑞穂競技場、名古屋まで行けないかなー、と一瞬夢見たがこの日はムリ。もし勝てば準決勝12/29の国立競技場なら観戦できるかも?
●反対側の山はC大阪vsG大阪、JEF千葉vs鹿島なのに、準決勝は静岡のエコパ開催。完全に中立地でフェアといえばフェアだが、年末の帰省ラッシュも重なるわけで長距離移動は大変だ。
●ナビスコカップと合併して完璧に美しいカップ戦に作り直すってわけにはいかんすかね。天皇ナビスコ杯。

December 14, 2012

クラシックCDの年間ベストセラー

バーンスタインのマーラー9番●HMVの年間ランキング BEST OF 2012 CLASSICが少し前に発表された。ランキング第1位はバーンスタイン指揮イスラエル・フィルによるマーラーの交響曲第9番ライブ。これは同コンビによる1985年の伝説的な日本公演の直前に行なわれた公演ということで、当時の記憶をよみがえらせる貴重な音源となっている。
●で、それはいいとして、2位以下も延々と旧録音が続いて、ようやく27位に新録音としてブリュッヘン指揮18世紀オーケストラによるベートーヴェン交響曲全集再録音が登場する。ここまで新録音がないとは、もうどんだけ過去のほうを向いてるの?というツッコミを入れたくなるが、そもそも過去を聴くのがクラシックだ、いやクラシックだって現代に演奏される以上今の音楽でなくてはならぬ、と一人脳内議論を戦わせつつも、改めて今時のアーティストが新録音を売る難しさを痛感する。
●が、これは物事の一面にすぎない。クラシックの世界もいろいろある。同様に山野楽器の年間ランキングのクラシック部門を見てみよう。1位から3位まで、辻井伸行が独占。ワンツー・フィニッシュどころか金銀銅メダル全部ゲット。4位は千住真理子、5位は森麻季。日本のお店だけに圧倒的に日本人アーティストが強いという、ある意味自然なランキング。
●これは今に始まった話じゃなくて、昔からクラヲタが新譜コーナーを舐めるように吟味する輸入盤中心のお店と、一般のクラシック好きなお客さんが買い物をするお店では、まるで別世界のようなランキングが出てくる。10年前も20年前もそうだった。ただ、かつては(もちろん自分は前者の立場なので)後者のランキングを見て「こういうところで買い物をするのは輸入盤が苦手だったり、国内盤の価格を気にしないような年配の方々なのかなあ」と想像していたが、今やむしろ前者のほうがオールド・ファンっぽくなっている感がある、ランキングを見た限りでは。

December 13, 2012

絵本の電子書籍サイトPICTIOで「親子で楽しむクラシック」

ピクティオ●告知を。以前、日経パソコンオンラインで「ネットエイジのクラシックジャンキー」で連載をしていたときの担当S氏が、その後独立して会社を立ち上げ、絵本のサイトPictio(ピクティオ)をリリースした。Pictioは電子書籍で絵本を創る会社で、電子書籍といっても端末で見るというよりも、自宅で手軽にプリントできるのがミソで、従来の書籍の絵本ではカバーできない新たなニーズを満たそうとしている。たとえば海外在住の日本人で手軽に日本語絵本を入手したいという方や、あるいは保育園や幼稚園で(何度でもプリントできるので)破れたり汚れたりしてもかまわない紙芝居として使ったり、病院や医療関係で衛生面を考えて「捨てることのできる絵本」として使用する、といった利用方法が想定されている。「いつでもどこでも良質の絵本を」というのがコンセプトだ。
●で、直接絵本とは関係がないんだけど、このPictioで連載「親子で楽しむクラシック」として拙稿を載せていただいている。絵本と合わせて、小さなお子さんのいる親御さんにご覧いただければ幸い。

December 12, 2012

ソヒエフ&トゥールーズ・キャピトル管弦楽団

●10日はソヒエフ&トゥールーズ・キャピトル管弦楽団へ(サントリーホール)。ベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番(諏訪内晶子)、ベルリオーズ「幻想交響曲」というプログラム。先に開かれた横浜公演での「シェエラザード」他の評判がずいぶん盛り上がっていたけど、こちらもお客さん大熱狂、ソヒエフの一般参賀付きの名演になった。昨年の仏フィガロ紙での「フランスのオーケストラ通信簿」っていう記事で、最優秀オケとしてパリ・オペラ座管弦楽団、パリ管弦楽団、そしてこのトゥールーズ・キャピトル管弦楽団の3つが挙げられていて、フランスの地方オケが選ばれるとはよっぽど目覚しい躍進ぶりなんだろうなあとは思っていたけど、さすがにそれだけのことはあるというか。意欲と勢いがあって、明るく鮮やかな音色を持つオーケストラ。特に弦は強力。ただでさえソヒエフの作る音楽が濃厚な上に、アンコールにビゼー「カルメン」第3幕間奏曲、レオンカヴァッロ「道化師」間奏曲(これがよかった)、「カルメン」第1幕前奏曲でお腹いっぱい。
サン=サーンス●後半以降が強烈すぎて前半の印象が霞むけど、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番を聴けたのは貴重かも。この曲、古今の「名曲リスト」的なものにはよく載ってるけど、その割にあまり実演では取り上げられないのでは? 第2楽章の終盤、オーボエの甘美な旋律に続いて、ハーモニクスでアルペジオを演奏する独奏ヴァイオリンにぴたりとクラリネットが影のように寄り添って、森厳で幻想的な音色を作り出す(なにかの鳥の鳴き声なんすかね?)。録音じゃピンと来てなかったけど、あのヴァイオリンとクラリネットの奥行き感がこだまみたいでおもしろい。

December 11, 2012

アデス「テンペスト」@METライブビューイング

●今週のMETライブビューイングはイギリスの作曲家トーマス・アデスの「テンペスト」。ロベール・ルパージュによる新演出でMET初演。作曲者アデス自身の指揮。現代オペラではあるけれど、すでに多数の劇場で上演されている成功作「テンペスト」。ワタシは初めて。題材がみんながよく知ってる(ことになってる)シェイクスピア作品とあって、もう名作扱いなんすかね、さっそくルパージュが読み替えを施して、プロスペローの魔法の島が「ミラノ・スカラ座」ということになっている。プロスペローは実弟の策謀によりミラノ大公の座を追われたわけだけど、その漂着した孤島がスカラ座であると(笑)。今や魔法の舞台としてはオペラ劇場くらいしかふさわしい場所はないとも解することができるが、このアイディア自体はそれほど前面には出てこない。
ミランダ(テンペスト)●METはバロックオペラのパスティーシュ「エンチャンテッド・アイランド 魔法の島」でも「テンペスト」ネタをやってたけど、また今回も(まるっきりカラーは違うが)「テンペスト」。歌手陣は主役級から脇役までアデスの難曲を見事に手の内に収めていたと思う。アリエル(オードリー・ルーナ)は高音域の連続で、しかも常に高所にいてアクロバティックな姿勢もとらなきゃいけなくて、大変な役柄。主役プロスペローはキーンリーサイド。悩める等身大のプロスペロー。この話ってプロスペローから愛娘ミランダがひとりだちをするという親子の話でもあるんすよね。それで全能のプロスペローが苦悩し、彼の片手には長杖がにぎられ、舞台はオペラハウスとなると、プロスペローの姿に「リング」のヴォータンの姿が重ね合わさってくる。「全能性は苦悶と喪失を伴う」という普遍の真理の反映とも言える。
●アントーニオ役はトビー・スペンス。卑劣なヤツなんだけど、最後に敗者となる姿が味わい深い。フェルディナンド役はアレック・シュレーダー。美声。この人って、以前METのオーディションのドキュメンタリー映画で「連隊の娘」のハイC連発してた人っすよね? ついに来たかー。ナポリ王ウィリアム・バーデンの切々とした悲しみの表現もすばらしい。三者三様のテノールを楽しめるのが吉。
●ルパージュ演出は幻想味豊かで、エンタテインメント性もあって見ごたえ十分。「リング」よりずっといいのでは。METの予算が有効に活用されている感があって。好みが分かれるのは「ブリテンの再来」アデスの音楽か。まったく前衛的ではないので20世紀音楽を聴き慣れた人には穏健ではあるけど、器楽曲とは違って長いオペラのなかで、物語と寄り添った起伏を受け取れるかどうか。第1幕1場は正直辛いと思ったが、2場に入ってからは冴えてくる……。もちろんブリテンやショスタコーヴィチもNGという方なら、不協和音の連続と格闘することになるが。

December 10, 2012

ケラス&ベルリン古楽アカデミー、デュトワ&N響のローマ特盛りプロ

●8日はトッパンホールでジャン=ギアン・ケラスのチェロとベルリン古楽アカデミーによるヴィヴァルディ中心のプログラム。スタイルが大きく異なる両者がどうして組み合わさることになったのかはよくわかっていないんだけど、それぞれ非常にクォリティの高い演奏を聴かせてくれた。ベルリン古楽アカデミーのみで演奏している時間と、ケラスが加わってチェロ協奏曲を演奏している時間とで、別の時間が流れているような「一粒で二度おいしい」状態。格調高い辛口ヴィヴァルディに、ケラスが艶やかさを添えた。
ナイチンゲール●7日はNHKホールでデュトワ&N響。ベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」、リストのピアノ協奏曲第2番(独奏はルイ・ロルティ)と来て、後半にレスピーギのローマ三部作「ローマの祭」「ローマの噴水」「ローマの松」を一挙演奏するというローマ特盛りプログラム。ローマ三部作は間に少し拍手が入ったものの、デュトワは指揮台に立ったまま次の曲に進み、あたかも一曲の大作交響詩を振るかのよう。交響詩が合体して一つの交響詩になるメガ交響詩。バンダもオルガンもチェレスタもナイチンゲールの鳴き声も(天井から聞こえてきた。チリチリとLPの針音が聞こえた気がするんだけど?)総出演する一大スペクタクルで、あの巨大なNHKホールが音響で飽和した。もちろん大喝采。
●「ローマの松」「ローマの竹」「ローマの梅」のローマ三部作はどうか。三管編成、二管編成、一管編成とだんだん編成が簡素になっていくとか。

December 7, 2012

「なんらかの事情」(岸本佐知子著/筑摩書房)

「なんらかの事情」●発売されていたのを知り即ゲット、ニコルソン・ベイカーやジャネット・ウィンターソンの翻訳家、岸本佐知子さんのエッセイ集「なんらかの事情」。「ちくま」の連載がまとめられている。既刊の「ねにもつタイプ」や「気になる部分」と同様の異次元さ。日常のごく些細な風景に、よもやこんなことを思いついたり悩んだりしている人がいようとは。変すぎる。たとえば「次」と題された回。

 もう四捨五入をすると百なので、そろそろ次のことを考えておいたほうがいい気がする。次というのはつまり、次に生まれ変わったら何になりたいかということだ。
 ひところは「無生物を専門に撃つスナイパー」に生まれ変わりたいと思っていた。たとえば、高いタワーのてっぺんに建設作業員が置き忘れた弁当箱。取りに行こうにも、すでに足場は外してしまったあとだ。そんなときに呼ばれるのが私だ。

 この後段の突飛さが真骨頂ではあるんだけど、むしろ戦慄するのは前段のほうだと思う。だって、年齢を四捨五入するのに十の桁のほうを四捨五入するんすよ!
●実は回によっては〆切との戦い、あるいは「変でなければならない自分」との葛藤が垣間見えたりもする。でも、そこも含めての味わいだから、エッセイ集は。3カ所ほど笑いが止まらなくなった場所があるんだけど、どのネタかは内緒だ。

December 6, 2012

ライヒ「ドラミング」おかわり

ライヒ:ドラミング●復習ってわけでもないんだけど、たまたま目についたのでNonsuchに録音したスティーヴ・ライヒ「ドラミング」を。part2以降を再生してみて、昨晩のコリン・カリー・グループとの隔たりを改めて実感。これはすごく精緻にできていて(録音だし)、おかげでむしろ静的な印象。やさしくて繊細な音楽。パート2でマリンバにボーカルを重ねるところも音色もとてもよく調和している。パート3の口笛も。ライブじゃこうはいかない。コリン・カリー・グループから伝わってきたのは、もっと熱気にあふれていて、汗の飛び散るような音楽。「ライブ」って言葉がふさわしい。PAの設定ひとつでずいぶん違って聞こえるだろうとは思うけど。
●ところで、part2からpart3への移行部でグロッケンシュピールがだんだん「近づいてくる」のを聴くと、ワーグナー「ラインの黄金」を連想しないすかね。おー、ニーベルハイム来たかー、的な。リズミカルにマレットを振る姿が、やがて採掘労働に勤しむ侏儒たちに見えてくる。
●告知を。USENさんの番組「B68 ライヴ・スペシャル ~CLASSIC~」、今月はワタシのナビゲートで佐渡裕指揮兵庫芸術文化センター管弦楽団のライブ音源をご紹介。上旬と下旬と一プログラムずつ、USENなので各回毎日リピート放送中。

December 5, 2012

コリン・カリー・グループのライヒ「ドラミング」

●4日は東京オペラシティでコリン・カリー・グループのライヒ「ドラミング」へ。前半に「クラッピング・ミュージック」(ライヒ御大登場)、「ナゴヤ・マリンバ」「マレット楽器、声とオルガンのための音楽」、後半に「ドラミング」の名曲プロ。PAあり。客層が猛烈に若い。クラシック系のお客さんが何割か、現代音楽系のお客さんが何割かいて、あとは別ジャンルの方々という感じ(テクノ/エレクトロニカ系?)。いろんなジャンルの聴衆がいっしょになって、同じアーティストを聴いて盛り上がれる機会って貴重かも。
●すごいんすよ、若者たちのライヒ翁に対するリスペクトが。休憩中にライヒの席にサインを求める長蛇の列ができてた。鋭敏な好奇心が起動してるので舞台への集中度も高くて、みんなでじっと固唾を呑んで聴く雰囲気。その点ではクラヲタと同じ。
●「ドラミング」はライブならではのおもしろさで、生身の人間が叩いてる感があるとこんなにスリリングな音楽になるのだと実感。シンプルなリズムが重なりながら万華鏡のように光景が変容していく。マシーンみたいに完璧だと退屈になるのかも。どこかで大チョンボで崩壊する可能性が担保されていないとつまらないというか。パート2でマリンバの音型に対して、楽器の響きを模倣したボーカルが声を重ねて徐々にフェイドイン&アウトする……んだけど、ぜんぜん声でマリンバの模倣なんてできないよ!とか思えるも楽しい。パート3のグロッケンシュピールに口笛?+ピッコロはよく溶けあうんだけど。
●「ドラミング」が終わって客席からライヒがステージ上に呼ばれると場内総立ち、大歓声に。「ブラボー」じゃなくて、「ヒョー!」とか「イェーイ!」な異文化的掛け声が渦巻く。満足そうに微笑むライヒ翁。立ち上がって熱狂的な拍手を送る若者たち。この構図はどこかで見たような……朝比奈隆? ライヒ=朝比奈説というのを考えてみたが、「一般参賀」という流儀がこの聴衆にないのが惜しい。
●本日5日も公演あり(→詳細)。

December 4, 2012

2012年のJリーグ閉幕。新潟は逆転残留へ

●先週末閉幕した今季のJ1を振り返る。→最終順位
●最終節までもつれまくった残留争い、先日「逆転残留も十分ありうる」と書いたが、本当に新潟が残留した。最終節のホーム札幌戦に勝たなければ残留の資格がないのは当然としても、神戸もガンバ大阪もどちらも勝てなかったことで一気に15位に。結局、神戸、ガンバ大阪、札幌が降格。関西勢がJ1から急に減ってしまった。
●ガンバ大阪はゴール数がリーグ最高で、シーズンを通した得失点差もプラスなのに降格するという異常な事態。何年もかけて強豪クラブに育てあげた西野監督との契約を打ち切り、代わってブラジルで監督をしていた呂比須ワグナーを呼ぶもライセンスがないことが発覚して、なぜか恩師とかいうことでセホーン監督が呼ばれ……と序盤から迷走しまくったことが響いた。とはいえ、あれだけ隙のない円熟したチームがこれだけのことでガタガタになるなんて。怖すぎる。
Jリーグ優勝シャーレ●優勝の広島、2位の仙台ともに時間をかけてチームを土台から育てたところが活躍したのはよかったかも。特に広島の優勝は好感度高し。ゴール数もリーグ2位で攻撃力があった。ポゼッション重視で、攻めて、守りも堅い理想形。大躍進は5位のサガン鳥栖。ハードワークするチームという印象。Jリーグ初期に選手として活躍したユン・ジョンファン(尹 晶煥)監督の功績は特大。これが初めての監督業だっていうんだから恐るべし。でもこの人もずっと鳥栖で指導者を務めた後の監督就任だったわけで、広島や仙台と同じく、監督には継続性が大切という証明にもなっている。
●マリノスは結局4位に終わって、順位としては上出来だが、優勝争いに絡まずの順位だからなあ。失点リーグ最小は原点回帰ともいえるが、選手までベテラン回帰していて先が見えない。経営規模が大きいのに「有望若手選手が次々ヨソに出て行く症候群」をどうにしかしたいが、どうやらさっそく今年も……。ヨソから見たらずいぶん感じの悪いチームだ(苦笑)。
●漠然と感じるのは、最近のJ1は選手の個々の力の差で勝つのは難しくなってきて、代わりに監督の選択も含めてチームマネージメントの部分で大差がでるようになってきたのかな、と。ウチはホントにどうにかしないと。

December 3, 2012

ハーディング&新日本フィル浦和遠征→デュトワ&N響「子供と魔法」

●いよいよ決着がついたJリーグの話はまた後日にすることにして、12月1日はオケ2公演ハシゴ作戦。まず埼玉会館でハーディング&新日本フィル。このホールも初めてなら浦和駅で下車したのも初めてのような気がするが(埼スタは浦和美園だし)、浦和というだけでアウェイ感を感じる。マリノス者としては実はレッズは嫌いな相手ではないのではないのだが。
ストラヴィンスキー●曲はチャイコフスキーの交響曲第4番とストラヴィンスキーの「春の祭典」。ステーキ食べてウナギ食うみたいなデラックス・プロで、なんで?とも思うが、一応ロシア・プロではあるのか。デッドなホール音響もあって、陶酔的なロマンや激情に駆られるドラマ性に依拠しない、でも生気にあふれたチャイ4は、その先のストラヴィンスキーを見すえるモダン風味。冒頭金管セクションの咆哮や、第3楽章中間部の素っ頓狂テイストな木管の主題が「春の祭典」を予告しているかのように錯覚させられる。で、「春の祭典」はハーディングならではのカッコよさ、斬新さ。「春のロンド」でコントラファゴットの低音を執拗にブリブリ強奏させたり、第2部序奏の弱音器つきトランペットがありえないくらい超弱音だったり、アイディアが豊富。全体の大きな流れも緊迫感が途切れずスリリングだった。
●響きがデッドなのは拍手してても感じる。音の「返り」がない気がしてつい普段より強く叩いちゃう(笑。でも本当)。ただそれが悪いかというと必ずしもそうでもなくて、普段聞こえないものもはっきり聞こえるのは吉。慣れというか脳内補正が強力に働くので、どれくらいが「ちょうどいい」んだかさっぱりわからない。
ラヴェル●夜はNHKホールでデュトワ&N響のストラヴィンスキー「夜鳴きうぐいす」とラヴェル「子供と魔法」の短いオペラ演奏会形式二本立て。歌手がかなり重なるとはいえ、なんてぜいたくなのか。夜鳴きうぐいすのアンナ・クリスティがチャーミング。デーヴィッド・ウィルソン・ジョンソンの雄ネコ&大時計が芸達者すぎて可笑しい。合唱は二期会合唱団。秀逸。作品のインパクトは「夜鳴きうぐいす」より断然「子供と魔法」。台本も音楽もすばらしくよくできている。
●「子供と魔法」って、本来コレットの台本レベルではまるっきり親から子を見た話なんすよね。物語の発端からして、ソファーとか椅子とか大時計とかティーポットとか、口を利きだした無生物たちは、みんな子供に辟易してて、悪意を持っている。子供の愛しさだけじゃなくて、憎たらしさ(愛情に基づくものであるにしても)が原動力になってる。ああ、懲らしめてやりたい。そしていい子になってほしい。で、最後には「ママ」って泣きついてほしい(事実このオペラは「ママ」の一言で終わる)。でも生涯独身を通したラヴェルは、子の視点で曲を書いてる。いたずら坊主のイノセントな世界に共感を寄せ、音楽には少年時代と母性へのノスタルジーが詩情豊かに息づいている。こんな音楽を書けるのはラヴェルしかいないし、「笑えるんだけど泣ける」のは奔放な恋愛遍歴を持つコレットが台本を書いてこそか。子供を描くオペラとして完璧だと思う。

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