●いよいよ決着がついたJリーグの話はまた後日にすることにして、12月1日はオケ2公演ハシゴ作戦。まず埼玉会館でハーディング&新日本フィル。このホールも初めてなら浦和駅で下車したのも初めてのような気がするが(埼スタは浦和美園だし)、浦和というだけでアウェイ感を感じる。マリノス者としては実はレッズは嫌いな相手ではないのではないのだが。
●曲はチャイコフスキーの交響曲第4番とストラヴィンスキーの「春の祭典」。ステーキ食べてウナギ食うみたいなデラックス・プロで、なんで?とも思うが、一応ロシア・プロではあるのか。デッドなホール音響もあって、陶酔的なロマンや激情に駆られるドラマ性に依拠しない、でも生気にあふれたチャイ4は、その先のストラヴィンスキーを見すえるモダン風味。冒頭金管セクションの咆哮や、第3楽章中間部の素っ頓狂テイストな木管の主題が「春の祭典」を予告しているかのように錯覚させられる。で、「春の祭典」はハーディングならではのカッコよさ、斬新さ。「春のロンド」でコントラファゴットの低音を執拗にブリブリ強奏させたり、第2部序奏の弱音器つきトランペットがありえないくらい超弱音だったり、アイディアが豊富。全体の大きな流れも緊迫感が途切れずスリリングだった。
●響きがデッドなのは拍手してても感じる。音の「返り」がない気がしてつい普段より強く叩いちゃう(笑。でも本当)。ただそれが悪いかというと必ずしもそうでもなくて、普段聞こえないものもはっきり聞こえるのは吉。慣れというか脳内補正が強力に働くので、どれくらいが「ちょうどいい」んだかさっぱりわからない。
●夜はNHKホールでデュトワ&N響のストラヴィンスキー「夜鳴きうぐいす」とラヴェル「子供と魔法」の短いオペラ演奏会形式二本立て。歌手がかなり重なるとはいえ、なんてぜいたくなのか。夜鳴きうぐいすのアンナ・クリスティがチャーミング。デーヴィッド・ウィルソン・ジョンソンの雄ネコ&大時計が芸達者すぎて可笑しい。合唱は二期会合唱団。秀逸。作品のインパクトは「夜鳴きうぐいす」より断然「子供と魔法」。台本も音楽もすばらしくよくできている。
●「子供と魔法」って、本来コレットの台本レベルではまるっきり親から子を見た話なんすよね。物語の発端からして、ソファーとか椅子とか大時計とかティーポットとか、口を利きだした無生物たちは、みんな子供に辟易してて、悪意を持っている。子供の愛しさだけじゃなくて、憎たらしさ(愛情に基づくものであるにしても)が原動力になってる。ああ、懲らしめてやりたい。そしていい子になってほしい。で、最後には「ママ」って泣きついてほしい(事実このオペラは「ママ」の一言で終わる)。でも生涯独身を通したラヴェルは、子の視点で曲を書いてる。いたずら坊主のイノセントな世界に共感を寄せ、音楽には少年時代と母性へのノスタルジーが詩情豊かに息づいている。こんな音楽を書けるのはラヴェルしかいないし、「笑えるんだけど泣ける」のは奔放な恋愛遍歴を持つコレットが台本を書いてこそか。子供を描くオペラとして完璧だと思う。
December 3, 2012