●発売されていたのを知り即ゲット、ニコルソン・ベイカーやジャネット・ウィンターソンの翻訳家、岸本佐知子さんのエッセイ集「なんらかの事情」。「ちくま」の連載がまとめられている。既刊の「ねにもつタイプ」や「気になる部分」と同様の異次元さ。日常のごく些細な風景に、よもやこんなことを思いついたり悩んだりしている人がいようとは。変すぎる。たとえば「次」と題された回。
もう四捨五入をすると百なので、そろそろ次のことを考えておいたほうがいい気がする。次というのはつまり、次に生まれ変わったら何になりたいかということだ。
ひところは「無生物を専門に撃つスナイパー」に生まれ変わりたいと思っていた。たとえば、高いタワーのてっぺんに建設作業員が置き忘れた弁当箱。取りに行こうにも、すでに足場は外してしまったあとだ。そんなときに呼ばれるのが私だ。
この後段の突飛さが真骨頂ではあるんだけど、むしろ戦慄するのは前段のほうだと思う。だって、年齢を四捨五入するのに十の桁のほうを四捨五入するんすよ!
●実は回によっては〆切との戦い、あるいは「変でなければならない自分」との葛藤が垣間見えたりもする。でも、そこも含めての味わいだから、エッセイ集は。3カ所ほど笑いが止まらなくなった場所があるんだけど、どのネタかは内緒だ。