●年内の演奏会はこれで聴き納め。ノリントン指揮NHK交響楽団の「第九」へ。今年は年末の「第九」に久々に足を運んだ、しかもカンブルラン&読響に続いて2度も。奇しくも、その両者とも「歓喜の歌」で来し方に思いを馳せるという年中行事的な「第九」とはまるで違った「第九」。改めて交響曲第9番という作品の美しさやおもしろさに感嘆させられる。二人ともアプローチは違うけどアウトプットはある意味似ているというか……いや逆かな? 演奏時間がとても短いのは同じ、でもノリントンははるかに細部まで意匠に富んでいた。
●ノリントンはいつものように弦楽器対向配置(コントラバスは後方横一列)、ノンヴィブラートのピュアトーンで、これまでのN響とのベートーヴェン・シリーズでも見せたように木管楽器は倍管、ホルンを下手に、トランペットとトロンボーンを上手に金管楽器を両翼に分ける。で、なんと独唱者も下手後方に。オケのなかのパートの一つみたいに。合唱は200名以上の大合唱団(国立音楽大学)。あらゆるところに仕掛け満載で聴いたことのない「第九」。第1楽章の冒頭からして小刻みなクレッシェンドが用意されててびっくり。至るところで遠くから近づいてくるような細かなクレッシェンドがあって遊園地の乗り物に乗ってるみたいな楽しさ(笑)。ノリントンの左手は奏者への指示であると同時にお客さんへのガイドでもあって、「さあ、ここのホルン、おもしろいことするからみんな聴いてね!」みたいなメッセージが込められていると思う。で、ときどき客席に横顔を見せてニッコリと「ほら、おもしろかったよね」って微笑む。実際、愉快で笑わずにはいられない。
●第1楽章、第2楽章はまるでティンパニ協奏曲かというくらい、ティンパニ(植松さん)が表情豊か。第3楽章のホルンソロはほれぼれするようなまろやかさ(福川さん)。第4楽章、マーチの場面は戦慄。シンバルがはっきりと強弱強弱と叩いて、これが軍楽隊であり戦争シーンなのだということを強調する。怖い。テノールは下手奥から懸命に軍楽隊に対抗するが、彼らを従える主役にはなりえない。それと鮮やかなコントラストを成すのが合唱とトロンボーンによる安らかな教会の音楽。なんて起伏に富んだドラマティックな音楽なの、この曲は。
●プログラムのインタビューで、当時の演奏スタイルについての正しいインプットと遊び心を反映させたりドラマ性を高めたりするための自由なアウトプットは演奏の両輪であって、相反するものではないといったことをノリントンは語っていて、なるほどそういう言い方ができるのかと。「ベートーヴェンが即興演奏の名手であることを、もう一度思い出してみてください」。
December 28, 2012