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February 25, 2013

東フィル シェーンベルク「グレの歌」

●2011年3月20日に東京フィル100周年記念公演として予定されていた、シェーンベルクの「グレの歌」。だが、震災直後のあの時期にこの巨大な作品を上演できるはずもなく、公演は中止に。それから2年後、初演100周年の日に東フィルは「グレの歌」上演にこぎつけた。強い信念を感じる。尾高忠明指揮、望月哲也(T)、佐々木典子(S)、加納悦子(A)、吉田浩之(T)、妻屋秀和(B)、新国立劇場合唱団。オケは約150人の超巨大編成で、総勢約300名がオーチャードホールの舞台いっぱいに広がった。
●舞台上にもう信じられないくらい人が乗っている。弦楽五部は20-20-16-16-12。大混雑。木管楽器の位置が遠い。フルート8とかクラリネット7とか、管楽器もとんでもなく厚い。合唱団ははるか彼方から歌う。まさに怪物的大作、暴走する肥大ロマン主義。そして特に第1部、独唱者らは咆哮する厚塗りの管弦楽と同じステージに立って熱唱するという無理難題。聞こえない。が、オーケストラがやさしく音量を控えるようではこの編成の意味がないわけで、これはヴァルデマル王やトーヴェがなにを歌おうがしょせん無力であるとする作品内表現として受けとるしかない。素直にこの者たちの言うことは地上のだれにも届かないのだというメタ表現と解し、マエストロの棒の一振りごとに重戦車級の巨大慣性モーメントを持つモンスター・アンサンブルがズザズザと律動する超弩級スペクタクルに目を見張った。
●前半、作品から受けた印象は一言でいえば「ウルトラ・パルジファル」、少しトリイゾ。パルジファルがもっと最強に強まったらこうなる、的な。第1部が終わった後、なぜか拍手がほとんど出なかったんすよ。出かけたけどすぐ消えて、拍手のないまま指揮者も独唱者も退場して、休憩に入るという不思議な光景に。きっと、みんな「パルジファル」的だと感じていたからにちがいないという無理筋仮説を立ててみる。後半からはオーケストレーションも整理されて、音楽は多彩になり、様々なコントラストを描く。加納悦子さんの山鳩の濃密さは圧巻。最後に混声合唱もいっしょになって、すさまじい音圧で幕切れを迎えるんだけど、まるでオルガンの響きのよう。
東フィル シェーンベルク「グレの歌」●写真は全員に配られた大入り袋の中身。なんと、この日の公演を記念した80円切手だった。そんな手があるとは。もったいなくて使えないが、しかし使わずにしまっておくと時とともに色褪せてゆく気もする。ここぞというときに勝負切手として使うか。ってどういう機会だ、それは。

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