●高密度な日々の反動なのか、すごい勢いで記憶の彼方に去ってしまいそうなので、ラ・フォル・ジュルネ2013で印象に残った公演について備忘録を。
●今回、例年以上に「これを聴きのがしたらもう二度と聴けないかも」プロが並んでいて、特に室内楽方面はゾクゾクさせられたんだけど、そうそう好きなものを聴けるはずもなく、おまけに聴きたいプログラムがやたら同時刻に集中していた気がする。最終日のプレス懇談会の時間帯にぶつかってるのだけでも、ベルリオーズ「葬送と勝利の大交響曲」、ペヌティエのオアナ「24の前奏曲」、ペレス&アリアーガ弦楽四重奏団のトゥリーナのピアノ四重奏曲イ短調&グラナドスのピアノ五重奏曲ト短調。これは運。
●いいな!と思ったのは、根本雄伯編曲&指揮のオペラ「カルメン」ハイライト。9人の小アンサンブルによる演奏なんだけど、編曲がすばらしすぎる。ヴァイオリン、フルート、クラリネット、トランペット、トロンボーン、コントラバス、パーカッション、ギター、アコーディオン、だったかな? 単なるオケの縮小版じゃない。ギターやアコーディオンが原曲以上に「カルメン」の物語世界の猥雑さを醸し出す。芝居小屋的なワクワク感を満喫。ハイライトでも字幕がなくても歌手がスターじゃなくても、LFJのフォーマットでオペラを楽しむことができるという大きな発見。小劇場風の手触りでもあるし、ストラヴィンスキー「兵士の物語」を連想させるような20世紀前半風味でもあり。創意を感じる。
●3日夜の「クレール・オプスキュール」(暗がりのコンサート)は初回以来、久々に聴けた。これはプログラム当日発表で、だれがピアノを弾いているかわからないようにステージを隠して演奏し、全部終わった後でルネ・マルタン氏からピアニストの種明かしがあるという、演奏者当てクイズみたいな企画(ショパンやリストの時代のサロンでの催しに由来するとか)。曲目はクープランの数曲、ファリャ「ファンタジア・ベティカ」、ブクレシュリエフ「オリオン第3」、ドビュッシー「沈める寺」、ラヴェル「スカルボ」。第1回のときは一人もわからなかったのだが、今回は二人当てることができた、聴く前から(笑)。クープランはイド・バルシャイ、ブクレシュリエフなんか弾くのはユーリ・ファヴォリンでしょうが。聴いてもわからないから、レパートリーから当てるという。最後のドビュッシーとラヴェル、うまいなーと思ったら広瀬悦子さんだった。ファヴォリンのブクレシュリエフは鬼。
●アンサンブル・アンテルコンタンポランはいくつか聴けた。スザンナ・マルッキ指揮ミュライユ「セレンディブ」での波打つ精緻な響きの海に圧倒される。ビバ、スペクトル。そしてそれを非人間的精妙さで実現できてしまう高機能アンサンブル。一方、別プロのブーレーズ「シュル・アンシーズ」は集中を失ってしまい脱落。疲れもあるけど、元気な時に聴いても楽しめる自信まったくなし。これ、3台ピアノ、3台ハープ、3台鍵盤打楽器のための曲っていうことなんだけど、1ピアノ+1ハープ+1鍵盤打楽器のユニットが舞台の左・中央・右のそれぞれに計3セット配置されるっていうことだったんすね。
●4日の夜は、本来ならルイス・フェルナンド・ペレスが2公演分の枠を使って「イベリア」を演奏するのが最大の聴きもの。が、同時刻の19時からのホールA、カルイ指揮ラムルー管弦楽団で「ビッグ・サプライズがある」という話が伝わってきて、そちらに。本来のプログラムであるラヴェルのピアノ協奏曲(小山実稚恵)、「ラ・ヴァルス」でも十分に聴きごたえがあったけど、カーテンコールの後、佐渡裕登場で「ボレロ」アンコール。客席はどよめいた。これは楽員も知らなかったそうで、カルイの指揮だと思っていたらかつての首席指揮者である佐渡さんがいきなりあらわれたわけで、もしかしたら客席よりよほど驚いていたかもしれない。公式ブログにレポートされているように、舞台裏ではみんなでポスターに名前をサインして佐渡さんに手渡そうとしていた模様。
●5日はペヌティエ、パスキエ、ピドゥのトリオでラヴェルのピアノ三重奏曲。時間がなくてこの一曲だけ聴いて退出することになってしまったんだけど、これは強烈だった。若手が多い音楽祭にあって、ベテラン三人そろい踏み。ホールB5の小さな空間では彼らのオーラが収まりきらないかのよう。こんなに気迫のこもった苛烈なラヴェルがありうるなんて。
●OTTAVAのブースに毎日出演させていただいた。高野麻衣さんの「乙女のクラシック」トークショーにも呼んでいただいた、乙女じゃなくてオッサンなのに。すべて生き恥をさらす覚悟で臨む。
May 8, 2013