●昨晩は東劇でMETライブビューイング、ヘンデルの「ジュリアス・シーザー」(ジュリオ・チェーザレ)。デイヴィッド・マクヴィカーの演出で、これはグラインドボーン音楽祭のDVDでも観た神演出じゃないすか。これをMETに持っていたらこうなる、という舞台。より重厚で、熟しているというか。
●まずなんといってもヘンデルの曲が奇跡。これでもかというくらいに一作に名曲がつめこまれていて、普通のオペラ2、3作分のネタを一挙につめこんだかのような密度。第2幕まででも相当満足度が高いのに、第3幕になってまだ「ピアンジェロ……」とか「難破した船が嵐から」みたいな名曲が残ってるんすよ! くらくら。
●で、マクヴィカー演出が最高に楽しい。舞台装置の美しさもすばらしいが、なんといっても歌手がフリを付けて踊りまくるのが吉。要所要所で80年代アイドル歌謡みたいなノリの振付がある。グラインドボーンのDVD見たときに、これだ!と思ったもの。ヘンデルだから同じメロディの反復とかフツーにあるわけだけど、それをオペラ歌手の「間の持たない演技」で埋め尽くしたら悲惨なことになりかねない。でも、そこに楽しいフリがあれば最高の見せ場になる。オペラ歌手に必要なのはスタニスラフスキーの演技理論じゃなくて、ラッキィ池田の振付だっ!(いやラッキィ池田じゃないけど)。
●休憩を入れて4時間43分を満喫。長丁場なのに、まったく長さを感じさせない。クレオパトラ役はなんと、ナタリー・デセイ。正直に言えば、グラインドボーンのドゥニースが恋しくはなった。あの体の動きのキレと溌剌とした歌唱はリアル若者だけのものだったし、この振付は体のキレを前提にしているとしか思えないので。てか、あれはドゥニースのコスプレがかわいすぎて正視できないくらいの萌え要素があった。ただデセイが並はずれた執念でこの役をものにしようとしていたこともたしかで、経験豊富な歌手があれだけ激しく踊りながら安定して歌えるというのは驚異。どんだけ練習したのか。たとえるなら現在の三浦カズのまたぎフェイントを目にしたような感動(←なにその唐突さ)。
●チェーザレ役はデイヴィッド・ダニエルズ。これはグラインドボーンではズボン役だったけど、METでは髭面のカウンターテナー。このプロダクションの視覚的なかわいさという点ではチェーザレとクレオパトラは女性同士であってほしかった気もするけど、一方で男性が歌えば「ラブコメ」要素をはっきり打ち出せるのが利点か。しかしあの歌はどうかな。カウンターテナーは歌も演技もトロメオ役のクリストフ・デュモー、ニレーノ役のラシード・ベン・アブデスラームがよかった。指揮はハリー・ビケット。
●これで今季のMETライブビューイングはおしまい。来季はこんなラインナップ。期待大。
May 21, 2013