May 24, 2013

タン・ドゥン世界初演とバートウィスル日本初演

女書●22日はタン・ドゥン指揮のN響定期。メイン・プログラムはN響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、フィラデルフィア管弦楽団の共同委嘱による「女書」。女書というのは湖南省の一部で伝承されてきた、世界でもまれな女性だけによって使用される文字なのだとか。すでに消滅の危機に瀕している女書をタン・ドゥンが現地で調査し、さらには現地女性が歌う姿などを撮影し、これを曲の題材として使用する。バルトークがテープレコーダーを担いで民謡を採取したように、タン・ドゥンはビデオレコーダーを持って農村を歩いたということか。
●サントリーホールに三面のスクリーンとスピーカーが設置され、そこに編集された映像が音声とともに再生される。農村部の女性の様々な情景、嫁に行く娘に語りかける母、嫁入りを泣く歌、姉妹の間の情などが描かれる。被写体はしばしば泣きながら歌う。これに多数の打楽器群を含む三管編成のオーケストラが音楽を同期させる。民謡風の素朴な旋律や水の音が多彩な表現を聴かせ、最後には「女書と水のロックンロール」(!)と題された楽章が訪れ、力強く祝祭的な高揚感とともに曲を閉じる。「女として生きる哀しみ」が全体の主題となってはいるものの、明快で多様性に富んだ一大スペクタクルといった印象。具体的なストーリー性はないが、映像の喚起力が強く、あたかも生オケ付きの映画を見たような気分も。客席の反応は上々。
●続く23日は東京オペラシティで「コンポージアム2013」。今年、武満徹作曲賞の審査を務めるハリソン・バートウィスルの作品が3曲、いずれも日本初演。ステファン・アズベリー指揮東京交響楽団。
●1曲目は金管楽器、打楽器、コントラバスのための「ある想像の風景」(1971)。ホルン、トランペット、トロンボーンで一組のセットが舞台三か所に離れて配置されていたのが、曲の途中で配置を変えて同じ楽器ごとに陣取る(普通のオーケストラのように)といった趣向があって、そこで響きの質がガラリと変わるのがおもしろい……か。2曲目はヴァイオリン協奏曲(2009/10)でダニエル・ホープが鬼神のソロ。最後の「エクソディ 23:59:59」(1997)がいちばん楽しかった。瞬間瞬間の音色の多彩さ、テクスチャーのおもしろさ以上のもの、まとまった長さの曲を聴き通すための文脈を自分がどれだけ掬えるか、っていうのが問題、楽しめるかどうかってことでは。

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