●27日はデュトワ指揮ロイヤル・フィルへ。前半にメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」序曲、ショパンのピアノ協奏曲第1番(ユジャ・ワン)、後半にドビュッシーの「海」、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲。最初のメンデルスゾーンからして描写的で、これが景勝地に触発された音楽であることを思い出させる。後半のフランス音楽では精彩に富んだオーケストラの美しい響きを堪能。オケに対して何の先入観も持たずに聴いたんだけど、こんなにいいオケだとは。スーパー・プレーヤー集団という趣ではまったくないんだけど、全体から生み出される響きは艶やか。特に弦の澄明度が高い。
●ユジャ・ワンは今回も鮮やかな赤のタイトなミニワンピ、ピンヒールで登場。足を交差させてコクンと折れ曲がる独特のお辞儀スタイル。「せっかくユジャ・ワン呼ぶのにショパンだなんて……」と思っていたんだけど、始まってみるとユジャ・ワンにしか弾けない、コントラストの強い、鋭敏でクールなショパン。これなら納得。
●会場にいたティーンエイジャーの女の子たちが「ユジャ、ヤバい」とか口にしていて(もちろん強い称賛の意味の「ヤバい」)、ドキッとする。そういえば、若い女の子たちが憧れるスター・ピアニストっていう存在がありうるのだった/ありうるべきなのだった。いつだって断崖絶壁を背に立ってるみたいな尖がったキャラは猛烈にカッコいい。自然な伸びやかさとは無縁で、どんなに鮮やかに弾き切ったとしても「本当はもっと弾けるのでは?」と思わせるような宿命的な英才を背負っているかのよう。つまり、真に「アイドル」ってことなんだけど。
2013年6月アーカイブ
デュトワ&ロイヤル・フィル、ユジャ・ワン
オフサイドの罠
●コンフェデレーションズ・カップのナイジェリアvsスペイン戦でのスペインの3点目なんだけど、自陣深いところからのフリーキックでビジャがロングパスを放り込み、これにジョルディ・アルバが走りこんで、自陣から独走してゴールを決める場面があった。あのとき、ナイジェリア選手がハーフラインのあたりで一瞬止まりかけてしまって、ジョルディ・アルバを追いかけられなかったんすよね。
●オフサイドかどうかの判定はパスが出た瞬間で判定されるんだから、この選手は足を止めずに全力でジョルディ・アルバを追いかけるべきだったんだが、一瞬「オフサイドにできるかも?」と思って減速してしまったのかもしれない。しかし、ルール上、オフサイドは自陣では適用されない。ボールが出た瞬間、ジョルディ・アルバは自陣にいたので、相手ディフェンスの位置がどこであろうとオフサイドにはならない。たぶん、ビジャは蹴るときに相手の最終ラインがうっかり上がりすぎているのを見て放り込んでいて、このあたりもよく言われる「経験の差」の実体なのかなあという気がする。
●ちなみに、たまに忘れられがちなルールとして、スローインのときはオフサイドにならないというのがある。これを利用して、味方のスローインの時、相手ゴールキーパーまで水をもらいに行って、そのまま相手陣内奥深くに残ってボールをもらってアシストを決めたというロナウジーニョのずる賢いプレイがこちら。
マリインスキー・バレエ「白鳥の湖」ライブ・ビューイング
●23日はシネマサンシャイン池袋でマリインスキー・バレエ「白鳥の湖」ライブ・ビューイングへ。指揮はゲルギエフ、主演はエカテリーナ・コンダウーロワ、振付はプティパ/イワノフ。これ、本来はマリインスキー劇場から生中継で、しかも3D上映をするという企画だったんすね。公演日は6月6日。日本ではディレイ中継(という言葉が使われている)で、なおかつ2D上映。METライブビューイングでもそうだけど、時差の都合もあって日本では生中継というわけにはなかなかいかない。
●上映が始まると、劇場内にゲルギエフと主演ダンサーたちが並んで立っている。ゲルギエフがマイクを持って英語でメッセージを述べる。さらにタレントさんと思しき女性司会者も登場し、幕間にはダンサーやゲルギエフらのインタビューが入るという方式(ほぼみんな英語でしゃべる)。この種の企画はみんな先発のMETライブビューイングのスタイルを踏襲しているわけなんだけど、なんというか、これがロシアっぽいというか、手作り感満載。METライブビューイングがいかにプロの演出家によって手際よくコントロールされているか、ルネ・フレミングやデボラ・ヴォイトの司会がいかに訓練されているかがよくわかる。でもマリインスキー・ライブの垢抜けない感じもそれはそれで味わいがあって、あまり洗練されすぎててもがっかりしたと思う。
●バレエについては門外漢なのだが、中身のほうもしっかり楽しんだ。オーソドックスな「白鳥の湖」で、ダンサーたちのアスリート的能力の高さから高水準の舞台であろうことを察する。カーテンコールに至るまで、あらゆる所作が美しい。しかしジークフリートは白鳥と黒鳥の区別がつかないんすかね。黒鳥のそばで、見るからに悪魔っぽい邪悪なオジサンが躍っているというのに……。まさに恋は盲目!(違う)。最後はハッピーエンドで終わった模様。各国生中継されているとあってか、オーケストラも気迫のこもった演奏を聴かせてくれた。
●今回の企画は全国どの映画館でも同じ日時に1回だけ上映されたみたい。つまりその日の都合がつかない場合は別の日時や別の劇場で見るという選択肢がない。不便なような気もするけど、本来「ライブ」はその日その時の一回限りのものだから、映画館でも仮想的な臨場感を楽しもうということなんだろうか。
ヘレヴェッヘ&読響、さらに続くコンフェデ杯
●21日はヘレヴェッヘ指揮の読響定期へ(サントリーホール)。今回ヘレヴェッヘが読響と初共演。先に開かれていたベートーヴェン・プロは聴けず、こちらのロマン派プロへ。前半にシューベルトの交響曲第6番、シューマンのチェロ協奏曲(クレメンス・ハーゲン独奏)、後半にシューマンの交響曲第3番「ライン」という魅力的なプログラム。弦楽器の配置は向かって左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、最後列中央にコントラバスを並べる方式。両手の手のひらを開いて震えるように開始するヘレヴェッヘの指揮に、オーケストラはずばっと出た。魔法。後半の「ライン」が断然すばらしかった。淀みなくさらさらと流れる清流のようなライン。力みのない美しい響きを満喫。
●コンフェデレーションズ・カップ、ニッポン代表以外の試合がほとんど見れてないんだけど(準決勝と決勝はちゃんと見るぞ!)、チラ見した範囲で印象に残ったのはナイジェリアvsスペイン戦。その前のタヒチ戦でほとんど選手全とっかえをしてBチームで大勝したスペインは、コンディション万全の(ほぼ)Aチームで試合に臨んだ。で、結果的にも3-0で快勝したわけなんだけど、むしろ印象に残ったのはナイジェリアの攻撃陣。粗削りながら欧州にも南米にもないダイナミズムでスペインの守備を脅かした。こんなにスペインがペナルティエリアに侵入されて、シュートを打たれたのを見たのはいつ以来だか。近年停滞している感の強いアフリカ勢だけど、スペインのちまちました詰将棋みたいな超絶技巧パスサッカーの網をパワーとスピードで易々とぶち破る様子は痛快。そして怖い。
ニッポンvsメキシコ@コンフェデレーションズ・カップ ブラジル2013
●盛りだくさんの週末だったけど、ともあれコンフェデを振り返っておかねば。
●消化試合となったコンフェデ杯3戦目はメキシコ戦。お互いにパスを回すチーム同士の消化試合はおもしろい試合になることが多い。期待通りのゲーム内容に。1-2で結果が伴わなかったのは残念と言えば残念だが、手ごたえはあった。前回ワールドカップは岡田監督のもと、結果だけを求めた守備的な戦術で画期的な成果を得たわけだけど、コンフェデ杯では「自分たちのサッカー」(ていうんすかね?)が各大陸チャンピオンにどの程度通用するのかを計ることができた。こんな貴重な機会が得られたのもアジア・チャンピオンになれたからこそ。ビバ、アジア・カップ。
●で、ニッポンはセンターバック吉田に代えて栗原を、右サイドバック内田に代えて酒井宏樹を入れた。出場停止の長谷部の代わりは細貝。GK:川島-DF:酒井宏樹(→内田)、栗原、今野、長友(→中村憲剛)-MF:遠藤、細貝-岡崎、本田、香川-FW:前田(→吉田)。序盤は前のイタリア戦の勢いそのままに本田と香川を中心にスペクタクルな攻撃を繰り出していた。ここでゴールを奪えればまったく違った展開になったと思うが、徐々にメキシコが自分たちのペースをつかみ、後半9分は左サイドからグアルダードの完璧なクロスに飛び込んできたエルナンデスが頭で合わせてメキシコ先制。エルナンデスにはだれもつけなかったが、あのスピードで入ってきてクロスがドンピシャで合ったらどうにもならない。
●後半、ニッポンは右サイドバックを酒井宏樹から内田に交代。より攻撃的な選手交代だとは思うがこれが後で裏目に出る。続く後半20分、前田を下げて吉田を入れる。負けているのにストライカーを下げてセンターバックを入れるのは一見奇妙な感じがするが、センターバックを3枚にして、ザッケローニの看板フォーメーション、3-4-3に変更して、両サイドバックの長友、内田を一列前に上げて、前線は岡崎を頂点に本田と香川の3枚にしようというアイディアなわけだ。このチーム、不思議なことにザックが3-4-3を選択するといつも不運な失点があったりして、どうにも3-4-3は「ついていない」感がある。案の定、直後にコーナーキックから、内田がエルナンデスに競り負けて2失点目。内田はこの後も攻守ともに冴えない感あり。おまけに後半32分、長友がアクシデントで下がることになり、本来別の選手のためにアップしていた中村憲剛と交代に。これでやむなく3-4-3からもとの4-2-3-1に戻すことになったら、後半41分、香川のクロスから遠藤がファーで落として岡崎が飛び込んでゴール。3-4-3が機能しなかったというより、またしても間が悪かったのだと思うが、ますますもって「呪いの3-4-3」のイメージが定着。でもザックはまた大事なところで使うと思う。それがザッケローニ。
●今回、セットプレイからの失点というか、クロスに競り負けて失点というパターンが多かった。これは今のパス回し重視の4-2-3-1の代償というべきか。両サイドバックが長友と内田、セントラルMFが遠藤と長谷部。おまけにセンターバックの一枚は今野。守りの局面でガチンコでぶつかって勝てる選手が吉田(あるいは栗原)しかいない。サイドバックの片方とセントラルMFの片方にフィジカルが売りのファイターを入れればもっと競り勝てるだろうが、今のようなパス回しは難しくなる。欧州での実績からいえば右サイドバックは内田に決まりだけど、ザックが比較的酒井宏樹を重用するのもそのあたりのフィジカルのバランスを考えてのことか。ワールドカップ本大会ではどういう選択をするんだろうか。
イタリアvsニッポン@コンフェデレーションズ・カップ ブラジル2013
●なんということか。録画で観戦するつもりだったのに、朝、仕事をしようとPCの電源を入れるやいなや結果バレしてしまった。トホホ……よりによってこんな超絶好ゲームで結果バレするとは。
●こんなにスペクタクルな試合はない。だって、4-3で負けたんすよ? いつぞやのフランス戦みたいに手も足も出ないのに1-0で勝った、みたいな試合よりずっといい。というか、ザック・ジャパンのベストマッチのひとつと言いたいくらい。ニッポンはGK:川島-DF:内田(→酒井宏樹)、今野、吉田、長友-MF:遠藤、長谷部(→中村憲剛)-岡崎、本田、香川-FW:前田(→ハーフナー・マイク)。現在の標準ベストメンバー。
●一試合のなかにサッカーのありとあらゆる要素が詰まっていた。華麗なパスワーク、完璧なボレーシュート、主審の誤審PK、その誤審を帳消しにする意味不明PK、オウンゴール、11人全員守備、オフサイドの幻のゴール、完璧なセットプレイ、ポストとバーの活躍……。イタリアのほうがラッキーだった。最終的にイタリアが勝点3をゲットしたのは、「経験の差」なのだろうか。そうかもしれないが、それはしばしばサッカーの神様が気まぐれを起こす蓋然性の問題であって、バルサばりのパスワークで相手を翻弄したのはニッポンのほう。ブラジルの観衆がついにニッポンのボール回しに「オーーーレーー!」を叫び出したんだから、現実の光景とは思えない。選手たちは「結果が残せなければ一緒」と口々に言ってるけど、どうかな。ブラジルの地で、イタリア相手に「オーーーレーー!」だよ? フットボール的文脈においてこれ以上の勝利の瞬間があるだろうか。
●現地は蒸し暑かった模様。ニッポンは中三日、イタリアは中二日。前のブラジル戦でニッポンはコンディションが悪かったが、2試合目となると上がってくる。一方、イタリアはコンディションが低下。その差は大きかったはず。イタリアの中盤構成はピルロ、モントリーヴォ、デ・ロッシ、ジャッケリーニ、アクイラーニ、トップにバロテッリ。ブランデッリ監督は前半30分でアクイラーニを下げてセカンドトップ調のジョヴィンコを入れる積極的な采配。ピルロがニッポンのディフェンスのプレッシャーでなんどかボールを失っていたのが衝撃的。ニッポンは香川が機能して、本田とともに攻撃の中心となっていた。ゴールは順に本田(PK)、香川、デ・ロッシ、内田(オウンゴール)、バロテッリ(PK)、岡崎、ジョヴィンコ。
●ジャッケリーニってチェゼーナ時代に長友と左サイドで名コンビを組んでいた選手じゃないすか。そのジャッケリーニがユヴェントスに移籍して、長友はインテルに移籍した。ともにビッグクラブに移籍した二人が、代表選手としてコンフェデ杯で対戦する……。どんなサッカー・マンガの筋書きなのか。てか、これ現実だし。
●この試合だけでもザッケローニを監督に招いた価値がある。
今週末はマリインスキー・バレエ「白鳥の湖」ライブ・ビューイング
●オペラに限らず歌舞伎や演劇、コンサートなど「舞台の中継を映画館で観る」という企画がどんどん広がっているようで、6月23日(日)に全国各地の映画館でマリインスキー・バレエの「白鳥の湖」が上映される。プティパ/イワノフの古典的な振付で、主演はエカテリーナ・コンダウーロワ。指揮がゲルギエフでもあるし、どんな雰囲気のものか、客層含めて興味があるので観にいくつもり。マリインスキー第二劇場の新オープンを記念して、6月6日に行われたばかりの公演。
●配給はライブ・ビューイング・ジャパンという会社。上映コンテンツ一覧を眺めてみると、Perfume WORLD TOUR 2nd イギリス公演とか、GACKT LIVE TOUR 2013 など、ポピュラー系のライブとコンサートが中心で、ほかに舞台やミュージカルなどが並んでいる。大まかに言えば、CDやDVDなど作りこんだパッケージメディアの時代から、ライブとライブ配信の時代へと向かう流れの一環なのかなあと思ってみたり。
2014年ワールドカップ アジア最終予選最終節。ウズベキスタンの運命は?
●コンフェデ杯に出場中のニッポンは試合がなかったが、注目のワールドカップ・アジア最終予選の最終節が本日開催。まずニッポンのいるグループB。2試合が同時開催ではないので問題かも、と書いた例の組合せだが、先に開かれたオーストラリアvsイラクが1-0でオーストラリアの勝利に終わり、無事(?)オーストラリア2位が確定した。決勝ゴールは後半38分、名古屋のケネディ。オージーたちは味噌カツときしめんで勝利を祝うべき。これで1位ニッポンと2位オーストラリアがW杯出場決定。プレイオフに回る3位は、まもなく開かれるヨルダンvsオマーンの直接対決で決まる。こうなればガチンコ勝負。
●で、グループAは大接戦に。韓国vsイランは0-1、アウェイのイランが勝った。あの勝負強い韓国がホームで敗れるとは。これでイランが勝点16で首位に躍り出ててW杯出場を決めた。で、韓国は勝点14のまま。同時に行われたウズベキスタンvsカタールで、もしウズベキスタンが勝てば勝点14で韓国に並ぶ。しかしウズベキスタンは勝つだけではなく、得失点差を埋めるために6点差以上の勝利が必要という状況。にもかかわらず、ウズベキスタンは前半37分に失点して、0-1でハーフタイムを迎えた。
●となれば、ハーフタイムの時点で韓国サポは安堵していたにちがいない。仮に負けても、まず2位は確保できそう。が、ウズベキスタンは後半15分に1-1に追いつくと、そこから怒涛の攻撃で次々とゴールを重ね、5-1に。あわや伝説かというところまで来た。結局、勝点14で、得失点差+6の韓国が2位でW杯出場決定、+5のウズベキスタンが3位でプレーオフへ(総得点では韓国が上回っていたのでウズベキスタンはあと2ゴールが必要だった。前半の失点が悔やまれる)。
●というわけで、アジアはニッポン、オーストラリア、イラン、韓国と終わってみれば実に順当な結果になった。が、あと0.5枠がある。各グループ3位のウズベキスタンとオマーン(またはヨルダン)の勝者が、南米5位とプレイオフを戦う。これはウズベキスタンにとって、十分チャンスがあると思う。今のウズベキスタンは、オマーンやヨルダンより地力は上。南米5位はまだまだどこになるかわからないが、決して倒せない相手ではないはず。カタール戦での猛追で、彼らはW杯初出場が手の届く範囲にあることを知った。アジアのレベルアップのためにも、ぜひこの0.5枠をゲットしてほしいっ!
ボロメーオ・ストリング・クァルテットのベートーヴェン・シリーズ最終日
●週末を振り返って、15日はボロメーオ・ストリング・クァルテットのベートーヴェン・シリーズ最終日へ(サントリーホール ブルーローズ)。弦楽四重奏曲第15番イ短調、第14番嬰ハ短調、第13番変ロ長調「大フーガ付」 という休憩2回を挟む長丁場。一曲目から第15番とは、なんというプログラム。でもこの3曲ならこの並びになるか、最後は「大フーガ」で締めたいとするなら。第14番は圧巻。先日この曲を題材にした映画「25年目の弦楽四重奏」を紹介したけど、あの映画のなかの第14番はなんと重苦しかったことか。明快さ、ユーモアを感じとる。しかし最後はすさまじい集中力でクライマックスが築かれ、もうこの第14番までで帰宅したとしてもぜんぜん満足できたと思う。2回目の休憩後、ラストの第13番+「大フーガ」。まるでマラソンの最後の100メートルを11秒で駆け抜けるみたいな、シリーズ最終日ならではの余力を残さない渾身のベートーヴェン。「大フーガ」がお別れの音楽に聞こえてくる。
●5日間のうち3日行っただけでもこれなんだから、全部通ってたらどれだけ強烈な体験になったんだろう。22時終演。この「祭り」感はやはりベートーヴェン、特に後期作品あってこそか。
●最初は物珍しく感じた譜面台のMacBookだけど、3日目にはもうその存在すら忘れている。あっという間すね、風景になじむのは。
ブラジルvsニッポン@コンフェデレーションズ・カップ ブラジル2013
●えっ、またブラジル代表と試合できるの?と思ったコンフェデ杯。昨秋、ポーランドで試合したときは0-4で大敗したと思うんだけど、あの試合はすばらしかった。同時期に1-0でフランスに勝った試合は勝ったけど手も足も出ない悲しい試合だったのに対し、ブラジル戦は大敗したけど手も足も出た堂々と胸を張っていられる試合だった。が、今回はまったく事情が違う。
●ほぼそのときとメンバーは同じだが、今度は中立地ではなくアウェイ、そしてニッポン代表は中東での灼熱のW杯予選を戦った後のブラジル入り。もともと実力で大差がある相手なのに、フィジカル・コンディションはこちらのほうがずっと悪いんだから、どうにもならない。0-3で完敗、なにもさせてもらえなかった。
●GK:川島-DF:内田、吉田、今野、長友-MF:遠藤(→細貝)、長谷部-岡崎、香川、清武(→前田)-FW:本田(→乾)。相手のレベルが高くなるほど本田のキープ力が際立つ。香川はまたも機能せず。むしろ交代出場で入った前田が目立っていた。開始3分でネイマールのスーパー・ゴールが決まって、ニッポンは下を向いてしまった感じ。今大会、コンディションが下がったまま初戦を迎えることになるのは事前にある程度覚悟していたが、恐れていた通りの展開に。
●コンフェデ杯の最大の意義は「ワールドカップの予行演習」。試合から選手が得たものは少なかっただろうけど、チーム全体としてはアジア・チャンピオンの特典として収穫を得ているんだろう。で、予行演習が必要なのはワタシらファンのほうでもあるわけで、時差が12時間ある大会をどうテレビ視聴するかをこの大会で学ばなければならない。まず、このブラジル戦のように午前4時キックオフの場合。これは欧州の夜の試合とほぼ同様で、夜更かしも早起きも厳しい時間帯。が、とにかく必死で起きてさえいれば他のなにとも重ならない時間帯ともいえる。日本戦は生で見て、それ以外は録画+追っかけ再生で朝観戦するか? 一方、イタリア戦は午前7時キックオフ。これはもう朝の観戦しかない。朝に観れなかったら、たとえ録画しておいても日中の結果バレは避けられないであろう一発勝負の時間帯。ライフスタイルによって極端に好都合だったり不都合だったりしそう。ともあれ、ブラジル大会は朝ご飯のおともにワールドカップという大会になりそうだ。
ボロメーオのベートーヴェン・シリーズ進行中
●13日はサントリーホール ブルーローズにてボロメーオ・ストリング・クァルテットのベートーヴェン・シリーズへ。全5公演で全曲演奏するシリーズの4回目だが、ワタシはこれで2公演目。プログラムが重量級で、「大フーガ」ではじまり、弦楽四重奏曲第16番ヘ長調、弦楽四重奏曲第13番変ロ長調と続く高密度満腹プロ。すばらしい。最初の1公演で第1番から第6番まで一気に演奏してしまったように、おおむね作曲時期で曲を割り振っているので、後ろのほうはスゴい密度になっている。明日15日の最終日はさらに強まって、第15番イ短調、第14番嬰ハ短調、第13番変ロ長調「大フーガ付」 という、休憩2回の長丁場になる。つまり、第13番を通常バージョンと「大フーガ付」バージョンで日を分けて2回演奏するわけだ。おまけに「大フーガ」も都合2回演奏する恐るべき入念さ。重複的な不思議なプログラムというべきなのか(最終日のほうがお得じゃね?とか)、偉大な作品を立て続けに2度も聴けてうれしいというべきなのか。
●テレビマンユニオンチャンネルにさっそくボロメーオが演奏したベートーヴェン弦楽四重奏曲第1番の第4楽章の動画が掲載されている。MacBookを使った演奏風景という点でも一見の価値あり。このチャンネルはいろんなライブが掲載されているんだけど、どれも一部楽章のみなのが謎すね。
「終わりの感覚」(ジュリアン・バーンズ著)
●先日の「ねじの回転」の話題でふと思い出して、「終わりの感覚」(ジュリアン・バーンズ著)の終盤を改めて何か所か拾い読みしてみた。2011年ブッカー賞受賞の話題作。この小説、すばらしく傑作だと思うんだけど、最後のパートがどうにも腑に落ちなくて気になっていた。物語はまず高校時代の主人公と親友の多感な時期を描く。出来のよい親友はケンブリッジに進学し、その後、自殺したという知らせを受ける。続いて60代半ばのすでにリタイアした主人公が、ある出来事を機に青春時代の記憶をたどり、過去の真実へと近づく、というのが話の骨子。
●若い男はみんなイタい。そして年を取った男も実はやっぱりイタい。そんな真実を容赦なく描いた苦い話で、登場人物が「歴史とは、不完全な記憶と文書の不備から生まれる確信である」というように、人は記憶を都合よく操りながら自分だけの歴史を作り出して、絶えず自己承認を繰り返しながら齢を重ねる。そのテーマを描く辛辣さは気持ちいいくらいに鮮やかなのだが、最後に明らかになる真相には期待していたものと別種の悪意が込められていて、やはり好きになれないな、と再確認。
●で、一方でディテールですごく好きなところがいくつかある。たとえば青年期の主人公をガールフレンドが訪れる場面。音楽の趣味がよい彼女が、主人公のレコードコレクションに目を通して、微笑んだり渋面を作ったりする。彼女は主人公が敬愛するドヴォルザークとチャイコフスキーを毛嫌いし、合唱曲や歌曲を好んでいた。主人公は大序曲「1812年」のレコードは隠しておいたが、ホリーズ、アニマルズ、ムーディーブルースで自滅する。
●主人公がパブで「手切のチップス」をたまには細く切ってくれないかと頼んで、バーテンダーにイヤな顔をされる場面も秀逸。手で切るんだから、いつもより細く切ることもできるんじゃないかと思って頼んだんだけど、どうやらヨソで機械で切られたのが店に届く「手切風のチップス」だったようで、ムダに雰囲気が悪くなる。めったにそんなことしないんだけど、ふと気の利いたことをしようとしたら、それがトンチンカンで間の悪いことになるっていうこの感じ。全般にそういうものよね、ワタシたちは。
イラクvsニッポン@2014年ワールドカップ アジア最終予選
●ニッポンにとってはコンフェデ杯前の消化試合になったW杯最終予選イラク戦。イラクのほうは勝たなければいけない状況。イラク・ホームの試合だが、イラク国内での試合ができないためカタールのドーハで試合が開催された。前アジア・チャンピオンであるイラクは大きなハンディを背負っている。
●GK:川島-DF:酒井宏樹、伊野波(→高橋秀人)、今野、長友-MF:細貝、遠藤-清武(→中村憲剛)、香川、岡崎-FW:ハーフナー・マイク(→前田)。監督が「テストをする」と言っていた割には選手変更は少なめか。本田を使わず、香川をトップ下に置く、ハーフナーをトップに置く、右サイドバックで酒井宏樹を使う。長谷部が出場停止なので中盤に細貝が入る。吉田に加えて栗原もコンディション不良ということで、センターバックは伊野波先発。
●気温35度、強風ということで、コンパクトで連動性の高いサッカーは無理。お互いにミスの多い試合で、見て楽しい試合にはならなかった。暑さのために前後半で途中に給水タイムが設けられていて、びっくり。これは給水だけではなく戦術の確認もできるわけで、これまでサッカーになかった「タイム!」という新たな要素が加わるわけだ。とはいえ、35度じゃできることは限られているか……。
●消耗戦で終盤にようやくゴールを決めたのが岡崎なのはいかにも。後半45分になってのカウンター、遠藤もよく走った。遠藤がそのままシュートを打つかと思ったが、中の岡崎に入れて、岡崎がスライディングしながらゴール。これが決勝点となってイラク 0-1 ニッポン。
●イラクも決定機は何度もあった。ただ、前半からPKを要求するようなプレイが多く、主審に必要以上に厳しい目で見られることになったような感も。後半36分、伊野波がボールがラインを割ると思い込んだのか、縦に入るボールを突っ立って見送るというミスがあって、そこからイラクがクロスを入れるチャンスがあったが、結果的にシュートの場面でアラー・アブドゥルがオーバーヘッド気味に伊野波の顔面を蹴る危険なプレイで2枚目のイエローで退場。ニッポンのミスで来たビッグチャンスを生かせないばかりか、一人選手が減ってしまった。個々の選手のクォリティはヨルダンやオマーンより高いと思うが、グループ最下位に。
●オーストラリアはヨルダンを4-0で一蹴。2位争いはオーストラリアが勝点10、オマーンが勝点9で残すところ1試合という状況。最終節、オーストラリアはホームでイラクと対戦、オマーンはアウェイでヨルダンと対戦。イラクに可能性が残っていればおもしろい展開になったかもしれないが、あっさりとオーストラリアが勝点3を奪って決まってしまいそう。もしオーストラリアが勝てなかった場合、そのあとで行われるヨルダンvsオマーン戦でオマーンが勝つ可能性は非常に高いと思う。
USBメモリ版「コンプリート・バッハ・エディション」
●世の中には値段が安いんだか高いんだかさっぱりわからないものがあるのだなあ……と思ったのが、USBメモリ版「コンプリート・バッハ・エディション」。ワーナーミュージックからリリースされていたバッハ大全集CD153枚分の音楽(mp3 320kbps)と特典映像、ブックレットPDF(これ大事)をすべてUSBメモリ一個に収録して、2万円台半ばのお値段(本日時点)。
●これって何ギガのUSBメモリなんだろ。CDと違うのは、購入後データをすべてハードディスクや自分用クラウドにコピーした後、純然たるUSBメモリとして利用可能なところだろうか(笑)。その価値をいくらと見積もればいいのやら。仮にその価値をゼロ査定してもCD1枚当たり170円台。そう考えると爆安? でもCD版の価格とあまり変わらないってのはどうかなあ。いや待て、CDは遠からず聴けなくなるレガシー・メディアだと考えると、いずれしなければならないリッピング153枚分をメーカーにやってもらえるのだから、その労働価値だけでも元がとれるんじゃないか……とか? もうわけわからん。
下野&N響「惑星」、ラザレフ&日フィル「シェエラザード」
●この週末はオケの公演が盛りだくさん。いつもそうだけど、いつにも増して。
●8日は下野竜也指揮N響(NHKホール)。バッハ~エルガーの「幻想曲とフーガ」、シューマンのピアノ協奏曲(ネルソン・ゲルナー)、ホルストの組曲「惑星」。ゲルナーのピアノがNHKホールの巨大空間をまったく気にも留めないかのように繊細で控えめな表現を聴かせてくれたのが印象的。オケも音量をぐっと抑えて、シンフォニックな味わいはなくなる代わりに室内楽的なひそやかさが醸し出されて、好感度大。剛腕ピアニストでもほとんどこの空間には打ち勝てないんだから、だったらこのアプローチはありか。後半の「惑星」は逆に音圧三割増しくらいのマッチョなホルスト。咆哮するブラスセクション。
●9日はラザレフ指揮日フィルのサンデーコンサート(東京芸術劇場)。ボロディン~グラズノフの「イーゴリ公」序曲(先月のフェドセーエフ&N響に続いてまたも)、サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」(伊藤恵)、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」というエキゾティック・プロ。「エジプト風」が真にエジプト的だとしたらスマソなんだけど、キッチュでクールな異国趣味として楽しむ、「アラビアン・ナイト」と地続きの架空の土地のごとく。すなわち、中央アジアの草原で遊牧民どもを蹴散らしたイーゴリ公は、アフリカに向かい、ナイル川でヌビア人の愛の歌を聴き、そこから船に乗ってアラビア半島に向かう。船乗りはシンドバッドだ。イーゴリ公はカレンダー王子として波乱万丈の冒険の旅を続ける……。「シェエラザード」は極彩色の幻想譚というよりは、赤褐色のスケールで陰影豊かに描かれた、砂漠の熱風を思わす骨太の物語。
チェンバーミュージック・ガーデン2013でボロメーオ・ストリング・クァルテット
●サントリーホールのブルーローズ(小ホール)で開催中の「チェンバーミュージック・ガーデン2013」。今年はボロメーオ・ストリング・クァルテットのベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲シリーズが聴きもので、6日の第2夜へ。弦楽四重奏曲第10番「ハープ」、第11番「セリオーソ」、第12番。チラシに「4ギガ分の、ベートーヴェン」とキャッチがあるように、全員譜面台にMacBookを乗せてスコアを見ながら演奏するというスタイル。いやー、これはなかなか壮観。譜めくり用にUSB(たぶん)にフットスイッチをつないでいて、足でめくる。
●どの曲もすばらしかったけど、特に後半の第12番を満喫。息が詰まるような峻厳なベートーヴェンというよりは、多彩な表情を見せながらも明快でしなやか、陽性、高機能。コンピューターが並ぶ絵面ほどギークな雰囲気はなくて、むしろ開放的。続く公演もますます楽しみになってきた。4人の並びはvn.1, va, vc, vn.2。
●4台のMacBookはおそろいではなくて、モニタサイズはまちまち。第2ヴァイオリンの若者がいちばん小さくて、モバイルとして普段使いしててもおかしくない感じ。休憩中もマシンは開いたまま舞台に出しっぱなし。タブレットPCじゃなくてノートブックってところがカッコいいと思う。
新国立劇場でヴェルディ「ナブッコ」、グラハム・ヴィック演出
●4日、新国立劇場でヴェルディ「ナブッコ」。グラハム・ヴィック演出。今シーズンはこれが最大の見物かなと期待していたんだけど、最終日だったこともあり事前にSNS経由で演出がどんなものになるかある程度伝わっていた。しかも意外とウケていないような……。劇場に入るとすでに幕は開いていて、舞台がショッピングモールに置き換えられている。ブランドショップみたいなのが並んでいるので、典型的にはこれは「デパートの1階」じゃないかな。エスカレーターもあるし(が、中身は階段で、みんな自分の足で昇ったり降りたりしていたのが少し可笑しい)。
●オペラを過去の古典芸能としてではなく「今の私たちの物語」とするために、読み替え演出は歓迎すべきというか、必須なものだとは思う。「ナブッコ」自体、初演時に聴衆が熱狂したのは、みんなが紀元前のバビロニアとエルサレムの物語に共感したからじゃなくて、それを自分たちイタリアの物語と受けとるだけのコンテクストが共有されていたからのはず。で、じゃあ「デパートの1階」ってのはどういう対立軸があるって読み替えなの?
●演出家のプロダクション・ノートを読んでもぜんぜんピンと来ない。ここではナブッコは武装したギャングなんすよ。つまり、デパートのブランドショップでお買いものをするお金に少々余裕のある人々vs武装したギャングっていう対立。これにどうして説得力を感じないのかなーと考えてみたんだけど、この両者って対立する階級というよりはむしろ構成員を共有しかねないのが今のニッポンじゃないかなって気がする。社会の対立軸はたしかにいろんなところにあって、たとえばブランドショップのお客vs安売り店のお客とか、裕福な老人vs仕事のない若者とか、正規雇用vs非正規雇用とか、いろんな切り口が可能なんだろうけど、デパートのお客vs武装ギャングっていうのはどうかなあ。お店とギャングならまだしも。
●なので、アビガイッレは武装ギャングのボスである父ナブッコと奴隷女の間に生まれた子供として己の出自に苦悩するわけなんだけど、出自を引け目に感じるとしたらそれはギャングの側じゃなくて、デパートの客の側じゃね?とか、「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」を歌うデパートのお客さんたちは、いったいなにを想ってどこに行きたがってるの?とか、肝心なところの読み替えが整合性を欠いているように見える。
●これ新国のための演出だから言っちゃうと、ヴィックの書いていることを読むと、彼は「物欲にまみれ、所有欲を露わにする現代人」に批判的な目を向けているみたいなんだけど、これが今の日本にはピントがずれてる感じ。日本人はむしろ物欲を失ってて、一方で金銭欲にまみれているんじゃないのかな。みんな物を買わない(買ってくれない)。物の価値は下がってて、一方でお金の価値が上がっている。つまり「デフレ」だ。問題の設定が逆なのでは。
●と、文句言いつつも、それでもなにも問題意識のない演出よりはずっといい。音楽面では充実していたし。マリアンネ・コルネッティのアビガイッレは迫力十分。樋口達哉のイズマエーレがすばらしい。美声で声量もあって、容貌も映える。指揮はカリニャーニ、オケは東フィル。澄明な響きによる、精彩に富んだヴェルディ。合唱はいつものようにため息の出る美しさ。
ニッポンvsオーストラリア@2014年ワールドカップ アジア最終予選
●ホームで迎えた最終予選オーストラリア戦。当初の予想ではここが山場になるかと思っていたが、ニッポンが予想をはるかに超えて順調に勝ち点を積み上げたので、もうW杯出場は決まったようなもの。前の試合、ヨルダン戦で負けたが、仮にこのオーストラリア戦、続くイラク戦と最後を3連敗になったとしても、それでも出場が決まる可能性がきわめて高いというくらい、たっぷりと勝点が貯まっていた。こんな最終予選なんてもう二度とないだろう。
●ニッポンはザッケローニの標準ベストメンバーが先発。ザッケローニは公式戦ではほとんどメンバーをいじらない。GK:川島-DF:内田(→ハーフナー)、吉田、今野、長友-MF:遠藤、長谷部-岡崎(→清武)、本田、香川-FW:前田(→栗原)。ブンデスリーガ視点でドイツ人が見たら、清武と乾をベンチに置いて岡崎が先発しているのが謎かもしれない。あと、チームの幹は相変わらず香川ではなく本田。だれもが本田を頼っている。
●オーストラリアはアウェイなりの戦い方をしてきた。守備ブロックをきちんと作って、ニッポンが攻めあがった後のカウンター狙い。前半はどちらもチャンスは作っていたが、オーストラリア・ペースだったと思う。普通の最終予選なら球際の争いが激しくなりそうなものだが、そういう熱さはなく、親善試合を見ているかのような気分に。しかし何事もなく0対0で終わればニッポンはオッケー、実のところオーストラリアも勝点3は欲しいけれども2位以下の混戦を考えると勝点1でも悪くない、というか0はどうしても避けたい状況。
●後半35分、ザッケローニが前田を下げて栗原を入れる交代。これで3バックにして、長友と内田を一列前に上げる。サイドからの攻撃を増やす意味もあっただろうけど、終盤のオーストラリアのロングボールに備えるのが目的だったんでは。長友が左サイドを抜け出して中央で本田がフリーで待つ決定機があったが、長友はシュートを打ってしまいシュウォーツァーに余裕で止められる。これは痛恨の判断ミス。その直後、オアーのクロスボールが運悪くゴールに入ってしまうという事故のような失点。まったくの偶然なんだけど、ザックが3バックに変えたときはいつもツキがない。
●失点した以上、3バックを保持する理由がなくなり、すぐに内田を下げてハーフナーを入れる。バックラインを長友、栗原、吉田、今野で4バックにもどして、ハーフナーがトップに。続いて岡崎を下げて 清武投入。本田も前線に入って前がかりに。で、ロスタイムになって、本田のクロスがマッケイの腕に当たって、ハンドでPK。スローで見ても確かにハンドだけど、これはオーストラリアにはアンラッキー。PKキッカーは遠藤ではなく本田。なぜかど真ん中に蹴ったが、入った。1対1で引き分け。お互いにラッキーな得点があったというより、アンラッキーな失点だけがあったというべきか。奇妙な試合になってしまった。
●これでニッポンのW杯出場は決定。グループBの2位以下は大混戦ですべてのチームにチャンスがある。オーストラリアは勝点1でも悪くない結果だろう。3連勝すれば日本を蹴落とすチャンスがあったイラクは、あっさりオマーンに破れて、オマーンが2位に。しかしオマーンは残り試合数が1試合のみ。どんな展開もありうる。
●ひとつ気になるのは6/18の最終節(ニッポンは試合がない)。オーストラリア対イラクとヨルダン対イラクが組まれてるんだけど、前者の試合が終わった後で、後者の試合が始まるんすよね。これって微妙。欧州予選ならキックオフ時刻をそろえるところなんだろうけど、オーストラリアとヨルダンの時差を考えるとそうもいかないということか。アジアでは「ピッチ外の戦い」も大きい。そして、オーストラリアはいつもピッチ外で苦戦している印象がある。
続「ねじの回転」 (ヘンリー・ジェイムズ)
●先日記事にした(ブリテンのオペラではなくその原作の)ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」であるが、光文社古典文庫の土屋政雄訳のほうも手にしてみた。といっても、何か所か拾い読みしてみたのと、訳者あとがきと解説(松本朗氏)を読んだだけなんだけど。
●訳文はさすが、読みやすい。おまけに組版も読みやすい。この光文社古典文庫のシリーズ、やっぱりよくできているなあと感心。ただ、創元推理文庫の「ねじの回転 心霊小説傑作選」(南條竹則、坂本あおい訳)が表題作以外にいくつも作品を収録しているのに対して、光文社古典文庫はこの「ねじの回転」一作のみで、お値段もこちらのほうが高い。音楽ファンはブリテンがらみで「オーエン・ウィングレイヴ」も読みたいから創元推理文庫を選んでしまうが、土屋政雄訳といえばカズオ・イシグロ作品でのすばらしい訳文を思い出す(ジュリアン・バーンズの「終わりの感覚」も)。さらにこの2冊以外にも何種類も翻訳はあって、「名曲名盤」みたいなノリで読み比べることすら可能かもしれない。「『ねじの回転』は土屋政雄訳があれば他は必要ないと言えよう!」みたいに(←あくまで例)。
●最後の一文を比較。
わたしたちは静かな日の光の中に二人きり――そしてマイルズの小さな心臓は、魔を祓われて、止まっていました。(創元推理文庫:南條竹則、坂本あおい訳)
わたしたち二人だけの静かな午後、憑き物の落ちたマイルズの心臓はすでに止まっていました。(光文社古典文庫:土屋政雄訳)
この一文をとるだけでも、原文の難しさが想像できそう。「魔を祓われて」あるいは「憑き物の落ちた」というあたり、どう解するか。
●解説文のほうも非常に明快かつ親切で、セクシャリティの問題についてもていねいに説明されている。加えて、赤毛のピーター・クイントがアイルランド人のステレオタイプ的特徴を持って描かれており、イギリス帝国主義に対する批評性を読みとれると指摘されていて、なるほど、と。
映画「25年目の弦楽四重奏」
●映画「25年目の弦楽四重奏」の試写を拝見。監督・脚本はヤーロン・ジルバーマン。原題は A Late Quartet で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調をモチーフとして、25年目を迎えた世界的な弦楽四重奏団に訪れた危機を描く。な、なんという(われわれクラシック音楽ファン以外にとって)一般性を欠いたテーマなのかとのけぞるが、物語のテーマは普遍的で、しかも俳優陣は豪華。脚本のクォリティも高く、見ごたえあり。
●弦楽四重奏団「フーガ」を演じるのは、第1ヴァイオリンがマーク・イヴァニール、第2ヴァイオリンがフィリップ・シーモア・ホフマン、ヴィオラがキャサリン・キーナー、チェロがクリストファー・ウォーケン。さすがにみんな演奏は演技であり、ツッコミを入れたくなる場面もあるけど、そのあたりは些末なこと。物語はチェリストがパーキンソン病を宣告され、今季限りの引退を決意するところから動き出す。その一つの事件がきっかけとなって、これまで絶妙のバランスで調和がとれていた4人の関係が壊れはじめる。
●きっかけは病であるけど、その後はエゴの噴出で、第2ヴァイオリンがエマーソン弦楽四重奏団みたいに(とは言わないけど)、第1と第2を曲によって交代してみよう(=オレにも第1を弾かせろ)と言いだしたり、第2ヴァイオリンとヴィオラ(この二人は夫婦)の間に亀裂が入って娘まで巻き込んだ家庭内のゴタゴタがあったりと、実に味わい深いエピソードが続く。ある意味、主役は第2ヴァイオリン。
●これから上映なのであまりネタを割らないようにしなければいけないんだけど、苦いテイストの秀逸なエピソードがいくつもあった。第2ヴァイオリンとジョギング仲間のダンサーのエピソードとか、夫婦が娘のためのヴァイオリンのオークションに参加する場面とか。第1ヴァイオリンの強いんだか弱いんだかわからない人物像もいい。むしろ25年間の調和が絵空事であって、これが現実の人生だろうっていう生々しい手触りがある。
●なお、実際に演奏を担当しているのはブレンターノ弦楽四重奏団。チェロのニナ・リーが本名のチェリスト役で出てくる。7月6日(土)より角川シネマ有楽町他、全国ロードショー。
週末フットボール通信~横河武蔵野FC対HOYO大分@JFL
●そういえば、ニッポン代表vsブルガリア代表の親善試合は見逃してしまったんである、録画するのを失念して。セットプレイからの失点で0-2で負けたとか、3-4-3をまた試したとか。本番は来週のオーストラリア戦。仮に負けたとしてもW杯出場が決まる可能性はそこそこ高いと思われるので、正直言えばこちらの気分は微妙に消化試合モードに傾いてしまっている。
●で、1日は武蔵野陸上競技場でJFLの横河武蔵野FC対HOYO大分。親善試合の代表より、真剣勝負の3部リーグ。と言いたいところではあるが、試合内容はもう一つ締まらず。序盤にドリブル突破を許し、打たれたシュートがキーパーの逆をついて(コース変わったの?リプレイないからよくわからず)あっさり失点。その後、武蔵野がPKを得るものの、冨岡がこれを失敗。相当萎える展開になったが、そこから武蔵野は攻めに攻めた。大分が守備的に戦ったというわけではない。サイド崩し放題、クロス入れ放題、コーナーキック山盛りで、武蔵野としては珍しいほど活発な攻めが続いたのに、フィニッシュのクォリティが足りずにそのまま0-1。どう考えても負けてはいけない試合に負けてしまった。うーん、この勝負弱さはリーグ戦下位チームならではのもの。あまりに痛い。お互いボールをつなぐ意識が高かったので(JFLとしては)、見どころは多かったけど……。
●大分には大分トリニータがあって、なおかつこのHOYO大分があるわけだ。サッカー観戦環境が充実してるなあ。HOYOとはなにかは謎。あえて調べない。抱擁大分で県民みんな抱き合おう!みたいな愛のチームであると勝手に脳内設定する。ハグ。