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June 3, 2013

映画「25年目の弦楽四重奏」

25年目の弦楽四重奏●映画「25年目の弦楽四重奏」の試写を拝見。監督・脚本はヤーロン・ジルバーマン。原題は A Late Quartet で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調をモチーフとして、25年目を迎えた世界的な弦楽四重奏団に訪れた危機を描く。な、なんという(われわれクラシック音楽ファン以外にとって)一般性を欠いたテーマなのかとのけぞるが、物語のテーマは普遍的で、しかも俳優陣は豪華。脚本のクォリティも高く、見ごたえあり。
●弦楽四重奏団「フーガ」を演じるのは、第1ヴァイオリンがマーク・イヴァニール、第2ヴァイオリンがフィリップ・シーモア・ホフマン、ヴィオラがキャサリン・キーナー、チェロがクリストファー・ウォーケン。さすがにみんな演奏は演技であり、ツッコミを入れたくなる場面もあるけど、そのあたりは些末なこと。物語はチェリストがパーキンソン病を宣告され、今季限りの引退を決意するところから動き出す。その一つの事件がきっかけとなって、これまで絶妙のバランスで調和がとれていた4人の関係が壊れはじめる。
●きっかけは病であるけど、その後はエゴの噴出で、第2ヴァイオリンがエマーソン弦楽四重奏団みたいに(とは言わないけど)、第1と第2を曲によって交代してみよう(=オレにも第1を弾かせろ)と言いだしたり、第2ヴァイオリンとヴィオラ(この二人は夫婦)の間に亀裂が入って娘まで巻き込んだ家庭内のゴタゴタがあったりと、実に味わい深いエピソードが続く。ある意味、主役は第2ヴァイオリン。
●これから上映なのであまりネタを割らないようにしなければいけないんだけど、苦いテイストの秀逸なエピソードがいくつもあった。第2ヴァイオリンとジョギング仲間のダンサーのエピソードとか、夫婦が娘のためのヴァイオリンのオークションに参加する場面とか。第1ヴァイオリンの強いんだか弱いんだかわからない人物像もいい。むしろ25年間の調和が絵空事であって、これが現実の人生だろうっていう生々しい手触りがある。
●なお、実際に演奏を担当しているのはブレンターノ弦楽四重奏団。チェロのニナ・リーが本名のチェリスト役で出てくる。7月6日(土)より角川シネマ有楽町他、全国ロードショー。