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June 4, 2013

続「ねじの回転」 (ヘンリー・ジェイムズ)

ねじの回転先日記事にした(ブリテンのオペラではなくその原作の)ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」であるが、光文社古典文庫の土屋政雄訳のほうも手にしてみた。といっても、何か所か拾い読みしてみたのと、訳者あとがきと解説(松本朗氏)を読んだだけなんだけど。
●訳文はさすが、読みやすい。おまけに組版も読みやすい。この光文社古典文庫のシリーズ、やっぱりよくできているなあと感心。ただ、創元推理文庫の「ねじの回転 心霊小説傑作選」(南條竹則、坂本あおい訳)が表題作以外にいくつも作品を収録しているのに対して、光文社古典文庫はこの「ねじの回転」一作のみで、お値段もこちらのほうが高い。音楽ファンはブリテンがらみで「オーエン・ウィングレイヴ」も読みたいから創元推理文庫を選んでしまうが、土屋政雄訳といえばカズオ・イシグロ作品でのすばらしい訳文を思い出す(ジュリアン・バーンズの「終わりの感覚」も)。さらにこの2冊以外にも何種類も翻訳はあって、「名曲名盤」みたいなノリで読み比べることすら可能かもしれない。「『ねじの回転』は土屋政雄訳があれば他は必要ないと言えよう!」みたいに(←あくまで例)。
●最後の一文を比較。

わたしたちは静かな日の光の中に二人きり――そしてマイルズの小さな心臓は、魔を祓われて、止まっていました。(創元推理文庫:南條竹則、坂本あおい訳)
わたしたち二人だけの静かな午後、憑き物の落ちたマイルズの心臓はすでに止まっていました。(光文社古典文庫:土屋政雄訳)

この一文をとるだけでも、原文の難しさが想像できそう。「魔を祓われて」あるいは「憑き物の落ちた」というあたり、どう解するか。
●解説文のほうも非常に明快かつ親切で、セクシャリティの問題についてもていねいに説明されている。加えて、赤毛のピーター・クイントがアイルランド人のステレオタイプ的特徴を持って描かれており、イギリス帝国主義に対する批評性を読みとれると指摘されていて、なるほど、と。