●電車の7人がけのシートに6人が座っていた。大柄な人や、大股を広げずには座れない病を患う人がいたので、隙間はわずかしか空いていない。
●その狭い隙間に腰かけようと、男が果敢に挑んだ。一瞬それは無理だろうと思ったが、男はガリガリに痩せていた。痩せすぎた男は狭い隙間にちょうどよい具合に収まった。その瞬間に一列全員がパッと消えるのではないかと思うほど、ぴったりと。
2013年7月アーカイブ
痩せすぎた男
フェスタサマーミューザでアルミンク&新日フィル
●フェスタサマーミューザKAWASAKI2013が7/28より開幕中。首都圏9つのオーケストラがそれぞれ川崎で公演を開くというオーケストラのお祭り。震災後2年間は川崎各地の会場で代替開催されていたが、今年ようやくミューザ川崎に帰ってきた。昨年と一昨年の知られざる会場を巡る川崎オリエンテーリングみたいなのもそれはそれで発見があっておもしろかったけど、いやー、やっぱりいいっすね、ミューザは。
●で、7/29夜にアルミンク&新日本フィル。先週のサントリーホール定期の演目をそのまま持ってきて、三善晃のヴァイオリン協奏曲(豊嶋泰嗣独奏)、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「プルチネッラ」、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」。ストラヴィンスキーとメンデルスゾーンで時を超えたイタリアつながりプロ。三善晃は1965年の作品。戦間期の西欧の香りをまといつつ、雄弁で気迫のこもったソロによって精彩を放っていた。「イタリア」は爽快なアルミンク節だが熱気も十分。第一ヴァイオリンの最後列で豊嶋氏が弾いていて、存在感が半端ではない。アルミンクとすみだトリフォニーで作られた新日フィルのサウンドというものがあると思うんだけど、ミューザはやはりアウェイなんだなという感も。ともあれ満喫。このクォリティの公演がフェスタサマーミューザのお値段で聴けるのは超お得。
●この日はなぜか会場に空席が目立っていたんだけど、今日の15時開演の小林研一郎&読響のチャイコフスキー・プロは抜群の人気でチケットはすでに全席完売。ス、スゴすぎる、平日昼間なのに……。この後、公演はまだまだ続いて8/11の東響でフィナーレ。あと何公演か、足を運ぶつもり。
●会場で無料配布されるプログラムが豪華。全104p。表4(裏表紙)から開くとコンサートとはまったく無関係な「川崎散策ガイド」になっていて、川崎のおすすめスポットが並んでいる。音楽に加えて、歴史、産業、ショッピング、グルメのステキな街。これが今の川崎。「産業」っていうのは工場のきれいな夜景の写真が載っていて、「川崎工場夜景バスツアー」とか「川崎工場夜景屋形船クルーズ」なんかのツアー情報が添えられているんすよ! 萌える人は萌える。
韓国vsニッポン代表@東アジア・カップ2013
●東アジア・カップ2013最終戦はホームの韓国。韓国1-2ニッポン。柿谷曜一朗が2ゴールを決めてニッポンは2勝1分で優勝。結果よりも選手選考のための大会だとは思うけど、公式戦のタイトルというのはめったに得られるものではない。試合終了後に喜びを爆発させる選手たちの姿を見るのはやはりいいもの。
●で、注目のメンバーは初戦の11人が復帰。言ってみれば実質B代表のこのチームを、ザッケローニはさらに2チームに分けて、B1、B2、B1と起用したわけだ。まるでオペラのダブルキャストみたいに。GK:西川-DF:駒野、栗原、森重、槙野(→徳永)-MF:青山、山口螢、高萩(→豊田陽平)-FW:工藤(→山田大記)、原口、柿谷。試合は韓国がボールを保持する時間が長く、ニッポンは前の選手まで守りに追われる場面が多かったが、カウンターから2ゴールを奪って勝利した。1点目は自陣の青山からのロングパス1本で柿谷が抜け出て、キーパーとの一対一を制したゴール。2点目は左サイドを抜け出た原口がドリブルからシュート、キーパーが逆サイドに弾いたところを柿谷が冷静にボレーで蹴り込んだ。原口が決めていてもおかしくなかったんだけど、キーパーが弾いたところに柿谷が待ち構えていたというのが、なんとも巡りあわせを感じさせるところ。
●結局、終わってみれば前評判通り、柿谷曜一朗が活躍した大会になった。最後に豊田を入れるまではずっと柿谷はセンターフォワードで使われていたのは、前田遼一とのポジション争いを念頭に置いてのことだと思う。前田遼一は近年の日本人最強ストライカーだけど、今年32歳。ハーフナー・マイクもレギュラーを任せられるような状況ではなく、このポジションが一番ブラジル大会で新星が割って入る余地がありそう。柿谷は次のA代表ですぐに呼ばれるはず。
●豊田陽平はまだ可能性があるかもしれない。ハーフナー・マイクは先シーズン、オランダ・リーグでブレイクしたけど、今シーズンの出来次第では豊田が呼ばれてもおかしくない。個人的にいいなと思ったのは高萩洋次郎。トップ下でファイトできる、強い選手。ただしここは激戦区。齋藤学は結果を出したが、1回きり。齋藤、原口、大迫らが代表における乾の序列を脅かせるかどうか。東アジアのB代表相手に通用したからといって、ブンデスリーガで常時プレイしている選手を押しのけられるものか、という問いにはYesともNoとも回答可能だろう。
●後ろのポジションはもう一つ。槙野のサイドバックはやっぱりないんじゃないか。センターバックの層は相変わらず薄い。求む、強くて高くてフィードのうまい選手。あと、もともと代えにくいセントラルミッドフィルダー。遠藤、長谷部の後継者を育てるにはもう時間がないか。
●韓国代表の監督がホン・ミョンボで感慨深い。なるべくしてなったというか、U-20、五輪代表を経てフル代表監督。クラブでの監督経験がないまま代表監督になったという点ではフランク・ライカールトやルディ・フェラーと同じ……と書いて気づいたけど、岡田武史監督もそうだった。
ニッポンvsオーストラリア代表@東アジア・カップ2013
●新メンバー発掘コンテストみたいなフレッシュすぎるニッポン代表の第2戦。なんと、ザッケローニ監督は初戦から全員メンバーを入れ替えてきた! 練習の様子だと3人くらい代えるんじゃないかという話だったけど……。想定外の変更だったのか、あるいは次の韓国戦が相手より一日試合間隔が短くなることを考慮してのことなのか。謎。
●GK:権田修一-DF:森脇、千葉和彦(→栗原)、鈴木大輔、徳永-MF:高橋秀人、扇原(→山口螢)-山田大記、齋藤学(→工藤)-FW:大迫、豊田。いきなり11人集まって「はい、これがチームです」みたいな感じで、まるで練習試合みたいだけど、これは公式戦なのだ。でも、相手が前回の中国みたいにガツガツこなかったので、今回はかなりスムーズにボールも回った。序盤から選手間の距離が割とあったし、進むにつれてますますスペースができていたので。相手がシーズンオフでトップ・コンディションではなかったこともあるかも。
●で、マリノスでも好調な齋藤学がいかにも彼らしいプレーを披露してくれた。ゴール前で横方向にドリブルで相手ディフェンスを交わしながら、ファーサイドに狙い澄ましたゴールを蹴るという得意のシュートで先制。メッシみたい。あれが齋藤学。さらに大迫のゴールで2-0とするが、やはり後半はドタバタになって、オーストリアに後半31分と33分に立て続けにゴールを奪われ同点になるが、その1分後にまた大迫が決めて3-2とするやたら大味な展開。
●みんな豊田陽平の高さや強さに期待していたと思うんだけど、どうすかね、チャンスに決めきれなかったし、オーストラリアを相手にしてみるとその強みが果たして発揮されるかどうか。大迫の決定力と齋藤のドリブルのほうが目立っていた。中盤も扇原はインパクトを残せず。両サイドバックも。しかし齋藤にしても乾のバックアップでは、控えの控えになってしまうわけで。今大会はワールドカップで先発可能な新たなスターを期待したいんすよね。大迫(あるいは柿谷)は前田に代わって先発できるだろうか? ないとはいえない。
●オーストラリアについて。名古屋のケネディの招集が断られたのは気の毒だったが、彼らは世代交代が遅れているので、ニッポン以上に新しいタレントを見つけて定着させたいところだろう。しかしこのヤング・オーストラリア代表を見ていると、オーストラリアにしては高さと強さに頼っていないし、意外と技術とスピードがある。だんだんオーストラリアが東アジア化してきているような気が……。
●で、3戦目はどうするんすかね。目を見張るような収穫があるといいんだけど。
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●恒例のバイロイト音楽ラジオ番組表、Opera Cast BAYREUTH 2013。今朝よりスタート。日本時間はGMT+09:00。
ロイヤルベビーの名前
●祝! ロイヤルベビー誕生。ウィリアム王子とキャサリンさん、おめでとうございます!
●ウィリアム王子はごく普通に出産に立ち会ったそう。英国王室も今やすっかり近代化しているようで、報道によれば王子は育児休暇を取得する方針で、すでにオムツ交換の練習を始めているとか。で、王室の子育てには必須と思われていた「乳母」を募らず、一般家庭と同じように両親が育児を担っていくという。となれば、続く興味はベビーの名前だ。ブックメーカーの一番人気はGeorgeで、オッズは3倍~3.5倍程度。
●で、ワタシの予想だが、今風の若い二人だけに、名前もGeorgeやJamesといった伝統的なものではなく、もっと個性的なものになるのではないか。世界で唯一君だけが持つ名前を与えたい、そして輝いてほしい。そんな王子と妃の願いが込められたキラキラとした名前が付けられると予想したい!
●さー、Pikachuのオッズは何倍かな~。
●Honkiと綴って、Majiと発音します。これだっ!!
●とか書いていたら今まさにGeorgeに決まったというニュースが。えー、キラキラしてないし。
秋の春祭にムーティ
●「東京・春・音楽祭」の特別公演として、10月にムーティが来日する。ヴェルディ生誕200周年を記念して「ムーティ conducts ヴェルディ」。東京春祭特別オーケストラと東京オペラシンガーズが出演、ヴェルディの序曲やバレエ音楽、合唱曲が演奏される。この東京春祭特別オーケストラのメンバー表が発表されていて、矢部達哉コンサートマスター以下、各オーケストラで活躍する強力なプレーヤーたちがそろっている。10月30日と31日の2公演。
●「春祭」なのに秋の公演があるとは。そして会場は上野ではなくて、すみだトリフォニーホール。開演時間に上野で途方に暮れませんように。
●ついでにBOX SET「リッカルド・ムーティ/交響曲録音集」。CD8枚にモーツァルトの後期交響曲集、シューマン交響曲全集、ブラームス交響曲全集が収められて、CD1~2枚分ほどのお値段。もうどんなに安くても驚かないけど。オケはウィーン・フィルとフィラデルフィア管弦楽団。PHILIPSレーベルへの録音で、DECCAのロゴにいまだに違和感を感じる。
りゅーとぴあでスダーン&東響の新潟定期
●21日は新潟へ。りゅーとぴあでユベール・スダーン指揮東京交響楽団の新潟定期を聴いた。東響は新潟を準フライチャンズとしていて、年に6回りゅーとぴあでコンサートを開いているんすね。前々から一度りゅーとぴあでも聴いてみたかったんだけど、いろいろなめぐり合わせがうまく行ってようやく実現。
●りゅーとぴあはステージが客席から近い。ミューザ川崎を一回り小さくしたかのような印象。1900席という座席数よりも空間がもっとコンパクトに感じられる。一方でホワイエは広々としているし、さらに建物の外はゆったりとした作りになっていて、きわめてぜいたくなコンサートホールだった。2階席(といってもかなりステージに近い)で聴いたけど、音響的にも申し分なし。ホールの外側も含めたゆとり、環境のよさというのは都心では得難いもの。
●東響は前日東京で演奏したプログラムをそのまま新潟に持ってくる。なので、ルーセルの交響曲第3番、ショパンのピアノ協奏曲第2番(中村紘子独奏)、ベルリオーズの劇的交響曲「ロメオとジュリエット」抜粋といった、東京の定期公演と同じように意欲的で、しっかりとリハーサルが積まれたプログラムを聴けるのが吉。もし年に一回くらいだったら、間口の広い名曲コンサートでもしょうがないかなと思うんだけど、定期と銘打って継続してやるならこれくらいの多様性やクォリティががないとお客さんは何年も続けて聴いてくれないだろう……。
●と、はたから見てると思うわけだけど、新潟のお客さんはこのプログラムで満足しているのか、どうして東響を新潟に呼ぶことになったのか等々のお話を、翌22日にりゅーとぴあで企画制作担当主任を務める寺田尚弘さんにうかがってきた。その取材の模様は、8月10日、新潟のFM PORTの番組「クラシックホワイエ」(毎週金曜23時~)で放送される。公演を企画する側がどんなことを考え、どこで苦心するのかがよくわかる、はず。聴ける環境の方はどぞー(新潟県外からは要au LISMO WAVE)。
ニッポンvs中国代表@東アジア・カップ2013
●「あの選手をどうして使わない」症候群っていうのかな、若くて才能のある有望選手信仰とか、クラブであんなに活躍している選手を代表には呼ばないのはおかしい理論みたいなものがあると思う。その一方で「誰かを新たに呼んだら、誰かを外さなければいけない」という事実は無視されがち。今日のザッケローニはそういう期待ばかりが先走るファンの願い通りのチームを先発させて、いかに機能しないかを教えてくれたかのよう。
●GK:西川周作ーDF:駒野、栗原、森重真人、槙野-MF:青山敏弘(→高橋秀人)、山口螢、高萩洋次郎-FW:工藤壮人、柿谷曜一朗(→大迫勇也)、原口元気(→齋藤学)。代表初先発だらけのフレッシュな顔ぶれ、特に前のほうは。若い選手も多い。中国相手に3-3という結果以上に、内容がよくない。
●ソウルの蒸し暑さのためにコンパクトなサッカーができず、フィジカルを押し出した中国に苦戦したのかもしれないが、先に足が止まったのは中国のほう。前半5分にPKで0-1となり、中盤の守備も効かず苦しい展開が続いたが、前半34分に栗原勇蔵の頭で同点に。後半どんどん中国のラインが間延びして、後半14分に柿谷曜一朗、後半16分に工藤壮人と立て続けにゴールを奪って3-1と逆転。中国はまったく動けなくなり、これで試合が終わるべきだったが、中盤を制圧できず、後半36分、後半42分に失点してまさかのドロー。意味不明のPKもあったが、だとしても惜しいチャンスは中国のほうが多く、むしろニッポンが運に救われた感あり。
●いつもの代表チームがどれだけ成熟しているのかを痛感。高萩洋次郎の奮闘ぶりは伝わってきたが……。前線3人はだれもいいとは思えず。しかし豊田陽平ではなくこの3人という選択は興味深い。次のオーストラリア戦もこのメンバーをベースにするんだろうか。するんだろうなあ、ザックは。結局だれも見つかりませんでした……みたいな大会になりそうな気もして戦慄。
クリスチャン・バスケス&東フィル
●18日はサントリーホールでクリスチャン・バスケス指揮東フィル。レブエルタスの「センセマヤ」、ブラームスのヴァイオリン協奏曲(前橋汀子)、ベルリオーズの幻想交響曲というプログラム。バスケス初来日。2011年3月にエル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカスとの来日公演を聴ける予定だったのだが公演中止になり、その後2012年7月に東フィルを指揮する予定だったのがこれも来日中止になり、今回ついに初めて。容貌は全然違うけど、指揮ぶりはドゥダメルにそっくり。棒の振り方も、左手の使い方も。漠然と爆演系のベルリオーズを予期していたんだけど、熱いだけではなくていねいで意匠を凝らした感あり。東フィルも好調で、精彩に富んだベルリオーズを聴くことができた。
●バスケスといえば、マーラー「復活」のクライマックスを指揮者ごとに聴き比べた Mahler enthusiasm。大巨匠たちを相手にトリを務める完璧な熱狂。
レッツゴー!クラヲくん 2013 弦楽四重奏団編
●連続不条理ドラマ「レッツゴー!クラヲくん」第20回 弦楽四重奏団編
「あたしゎクラシック好きだぉ❤」
「その小さい『ゎ』とか使うの、やめなさい」
「コンサートに行きたぃヶど、お兄ちゃんゎどれがいぃと思ぅ?」
「東京くゎるてっと☆」
東アジアカップ2013のニッポン代表
●ザッケローニ監督が東アジアカップ2013のニッポン代表メンバーを発表。東アジアカップと言われても「そんな大会あったっけ?」と思われがちだが、かつて東アジア選手権と呼んでいた大会で、前回は2010年に日本で開催され、中国が優勝した(らしい……覚えてる?)。今回は韓国で開催される。実は全10チームが参加しており、日本、韓国、中国のシード3カ国と、7カ国による予選を勝ち抜いた1チームの計4カ国によって戦われる。予選を勝ち抜いたのは、なんと、オーストラリア。そもそもオーストラリアは東アジア連盟に加盟していないと思うのだが、今回初参加して、グアム代表とかチャイニーズタイペイ代表とかと戦って、わざわざ予選を勝ち抜いてくれたんである。いやー、オーストラリア、本当に東アジアの一員って感じになってきた! どう見ても地理的には東アジアじゃないけど。
●ただ、この大会はローカルな大会であって、FIFA国際Aマッチデーには開催されない。なので、欧州から選手を呼ぶことができない。で、ザッケローニは国内組でなおかつフレッシュな選手を呼んで、レギュラーチームの次の世代を育てることにした。実質B代表というか。実績豊富なベテランの復帰がなかったのは納得。彼らは必要ならいつでも呼べる。
●で、メンバー。GK:林卓人(仙台)、西川周作(広島)、権田修一(東京)、DF:駒野友一(磐田)、栗原勇蔵(マリノス)、千葉和彦 (広島)、森脇良太(浦和)、槙野智章(浦和)、森重真人 (東京)、鈴木大輔(柏)、MF:青山敏弘(広島)、高萩洋次郎(広島)、高橋秀人(東京)、山口螢(C大阪)、扇原貴宏(C大阪)、柴崎岳(鹿島)、FW:豊田陽平(鳥栖)、山田大記(磐田)、柿谷曜一朗(C大阪)、齋藤学(マリノス)、工藤壮人(柏)、大迫勇也(鹿島)、原口元気 (浦和)。かなり新鮮。
●W杯本大会で今の海外組を押しのけて出場機会をつかめそうなのはだれだろう? 柿谷曜一朗は十分可能性がありそう。マリノス者としては最近キレの鋭いプレイを連発する齋藤学に期待したい。あと、ベテランでありながら呼ばれている駒野友一は若い選手の教育係みたいな立ち位置なんだろうか。ザッケローニに好かれているのだなあ。フォワードの選手がたくさんいるが、4-2-3-1の1を務められる選手は少ない。豊田陽平はハーフナー・マイクを脅かす存在だとは思うが、前田遼一とはテイストが違うか。
ヒュー・ウルフ指揮読響のアメリカン・プログラム
●12日は東京芸術劇場でヒュー・ウルフ指揮読響へ。バーンスタインの「キャンディード」序曲、アイヴズの「ニュー・イングランドの3つの場所」、ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」、バーンスタインの「ウェスト・サイド・ストーリー」から「シンフォニック・ダンス」というオール・アメリカ音楽プロ。明快で歯切れがよく、一曲目からオーケストラがすっきり掃除されている印象。軽快にさくさくと進むが、強奏時のブラスセクションは強烈で迫力十分。例の「マンボ!」の叫び声もノリノリで楽しい。野太くワイルドにシャウト。満喫。
●なんとなくアイヴズで休憩に入るのかと勘違いしていたら、前半は「パリのアメリカ人」まで。後半は20分強の曲で終わったことになる。この日は新コンサートマスター、日下紗矢子さんが就任後初登場。終演後にサイン会まであった模様。コンサートマスターのサイン会。スゴい。
●ヒュー・ウルフって、アメリカ人なんだけど生まれはパリなんすよね。だからリアル「パリのアメリカ人」。
●ガーシュウィンは「パリのアメリカ人」に本物のタクシーのクラクションを使って、大都会の喧騒ぶりを伝えようとした。これって taxi horn も horn だしオケに入っててもいいんじゃね?的な思いつきから来ているんだろうか。
ゾンビと私 その27 映画「コン・ティキ」
●昨日、アメリカの放送局で番組が中断され、「死人が人間を攻撃しています。死人に近づかないでください。非常に危険です」という警報が流れた。全米の放送局が採用している「緊急警報システム」が作動したのである。が、これは誤作動であった。ひとまずは胸をなでおろしてよい。しかしこれは偶然が生んだ予行演習、来るべきその日に備えよというメッセージとも受けとれる。
●いよいよ地上にゾンビがあふれ出したら、どこに逃げるべきか。不定期終末連載「ゾンビと私」では繰り返しこの問題を取りあげ、原則としては「人口密度の疎らな低山」への避難を有力としてきた。しかし、ここに来て新たな可能性について検討すべきであると思い至った。海である。ゾンビは泳がない。地表の71%は海。地上がゾンビで埋め尽くされそうとも、この地球上はいまだ大半がゾンビ・フリーであるともいえる。
●この連載の第6回で「大西洋漂流76日間」を紹介し、海がいかに過酷で生存困難な場所であるかを示した。だが、あれは予期せぬ遭難者の話。もし準備を整えて海に出たらどうなるか。それも航海技術を必要とするような船舶ではなく、木材で作られたいかだで大洋に出たとしたら?
●その回答を雄大なスケールの映像美で伝えてくれるのが、現在公開中の映画「コン・ティキ」だ。コン・ティキ? 「コンチキ号の冒険」のこと? そう。これは1947年、ノルウェーの海洋生物学者であり探検家であるトール・ヘイエルダールの有名な航海を映画化したものだ。ヘイエルダールは南太平洋のポリネシア諸島が大陸から遠くに位置するにもかかわらず、古くから人が住んでいることに興味を持った。定説では彼らはアジアから渡ってきたとされるが、ポリネシア文明とインカ文明には共通点が多い。ポリネシア人の祖先は南米から海を渡ってやってきたのではないか?
●この仮説を実証するために、ヘイエルダールは1500年前の古代でも入手可能な素材と技術のみを用いていかだを作り、仲間たちとペルーからポリネシアへ向かった。いかだであるから動力もなければ、それどころか舵すらきかない。風と波を頼りに8000キロにわたる太平洋横断に挑んだ。あらゆる脅威に立ち向かいながらも、彼らは予定通り101日間をかけて、ポリネシアにたどり着いた。
●「大西洋漂流76日間」では生死ギリギリの絶望的な漂流が描かれたが、「コン・ティキ」の101日間はその大半が気楽な旅で、危険が訪れたのは数日のことだったという。メンバーは全員無事帰還している。奇妙なことにヘイエルダールは泳げなかった。泳げもせずに、だれもが無謀だといったこの冒険に出かけた。とてつもない信念がなければこんな命がけの旅になど出られるものではないし、実際幸運に助けられた面もあったはず。しかし、ともあれ、人は準備さえあれば海上で100日以上を暮らせるのである。ときにはサメとも遭遇する。クジラもいる。ひょっとしたら巨大イカもいるかもしれない。しかし、ゾンビはいない。
●この「コン・ティキ」でもっとも重要だと思われるのは、彼らのいかだが古代人の材料と技術だけで建造された点だろう。Zday以後、われわれはいったんテクノロジーを失う。そのような文明を失った時点であっても、知恵さえあればコン・ティキ号は建造可能なのだ。わたしたちは海について、そしていかだについて学ぶべきではないだろうか。テレビが本物のゾンビ警報を鳴らす前に。
フィジカルvsデジタル、局所的に
●「アイアムアヒーロー 12巻」が発売されて早く読みたいんだけど、これって紙の本と電子書籍では発売日が違うんすね。あちこちのPC向け電子書籍サイトを見たけど、刊行ペースはまちまちで、おおむね紙の本よりずっと遅いみたい。まだ9巻までしか発売されていないとか、ひどいところになると5巻まで出たきりでストップしている。「ソク読み」でも現時点では11巻まで。がんばっているほうだけど、いつになったら最新刊はリリースされるんでしょう。待つべきか、あきらめて紙の本を買うべきか。ああ、モノを増やしたくない……。
●こちらは買う気満々なんだけど、デジタルでは販売されていなくて、フィジカルでしか売ってない、という状況は音楽でもよくある。お店ごとに品ぞろえが違うという状況も、音楽と電子書籍は似ているかも。どうしてなんすかね。知ってるお店にないからどこかで売ってないかと思ってググると、怪しげなサイトが引っかかりがちな状況もそっくり。デジタルでの正規の販売がしっかりしていないと、怪しいサイトに割り込まれる余地が大きくなる。そんなことは百も承知のうえなんだろうけど。
平日夜のJリーグキックオフ時間
●さて、昨日の「平日夜の19時開演」では、19時開演というのが「早い」というよりはむしろ「遅い」と思われている可能性があるのではないかと疑ってみた。同じように平日夜の「開演時間」がしばしば議論されるのがJリーグ。Jリーグでは基本的にJ1は土曜日、J2は日曜日の開催となっているのだが、どうしても日程上、平日夜(主に水曜日)に試合を開かなければならない週がある。たとえば……今日だ! 今日はJ1開催日なのだ。
●で、その場合のキックオフはやはり19時が基本。が、「平日19時はビジネスマンには厳しい」という声は以前からサッカー界にもあったと思う。で、今日の試合では唯一、埼玉での浦和戦は19:30キックオフに設定されている。
●これは浦和だけが例外なのではない。次回の平日夜開催日、7月17日(水)だと味スタのFC東京が19:30キックオフ。その次の平日開催、7月31日(水)は日産スタジアムのマリノス、および豊田の名古屋が19:30キックオフ。つまり、主に大都市圏のチームが19:30キックオフを採用している傾向が見える(ただし名古屋は瑞穂なら19:00だったり、FC東京も国立なら19:00だったりするので、いつでもというわけではない)。
●サッカーもコンサートと同じようにざっくり2時間イベントなんだけど、実際にはコンサートよりもかなり長いイメージ。キックオフよりずっと前にスタジアムに入って、練習や先発メンバーの発表などセレモニー類も楽しみたいので、感覚的には19:30キックオフで、実質的にコンサートの19時開演と同等くらいかなという気もする。試合終了後は退出に結構時間もかかるので、19:30キックオフとなれば帰宅はやたらと遅くなってしんどいわけであるが(おまけにほとんどのスタジアムはコンサートホールよりアクセスが悪い)、クラシックのコンサートに比べると明らかにお客の年齢層が違うので(リタイア層が非常に少ない)、そのあたりの事情が相当効いてくるだろう。例の「日本人の生活時間2010」にもあったが若い年代ほど夜は遅いため(p.18 表16)、仕事を早く切り上げることよりも帰宅が遅くなることのほうが受け入れられやすいのは理解できる。
平日夜の19時開演
●平日夜のコンサートの開演時間は19時。多くの公演がそうなっている。これについて「もう少し遅ければ間に合うのに……」という言葉を、これまで何度耳にしたかわからない。ビジネスマンにとって、19時開演は厳しい。少なくとも20年以上前からそういう声はあるし、かつては自分もそう思っていた。しかし、その割には19時より開演を遅くしてお客を増やしたという話もあまり聞かない。むしろ、世間の人々はもっと開演を早くしてほしいと思っているのではないかとすら感じる。特に最近、終演時にカーテンコールを最後まで待たずにダダッと席を立つ人も多いわけで、みんな全般に急いでいる。
●と言うと「終電そんなに早いんですかね?」とかいう話になりがちなんだけど、終電なんて眼中にないと思うんすよ。電車はあるんだけど、夜遅くなるのが困るのかな、と。NHKの「日本人の生活時間2010」によれば、平日の場合、日本人の半数は23:30までに眠っている(週末でもほぼ同じ)。そして朝は6:30までに半数弱が(有職者に限れば半数強が!)起床している。ちなみに有職者は前回調査の2005年から2010年までの間に「早起き化」が進行している(PDF p.17 表14・15参照)。リンク先のサマリーにあるように「仕事の“夜から朝へのシフト傾向”が進んでいる」のだ。
●かつて超夜型人間だった自分には驚きの統計だが、これを見ると、急いで帰宅しようとする人たちの気持ちもわかる。21時過ぎくらいに終演して、そこから電車に乗って帰宅して、スーパーやコンビニに寄ったり、食事をしたり、お風呂に入ったり、家族の面倒を見たり、メールしたり、家事をしたり、明日の準備をしたりとかして、23時半とか24時までに眠ろうと思ったらなかなか大変だ。
●そういえば勤務時間についての統計も同じ資料に載っている(p.6 図3)。平日・有職者の場合、17時半になると仕事をしている人は57%、つまり43%の人は仕事を終えている(あるいは夜勤でこの後に仕事という人もわずかにいるだろうけど)。18時になると仕事をしている人は46%で半分以下になる。18時半になると仕事をする人は35%。このあたりまでは時間とともに仕事をする人の割合がガクガクと減るが、その先はややなだらかになってペースが鈍る。常に夜遅くなる職種や、夜が本来の勤務時間の職種もあるので、これはわかる。なお、このカーブはあくまで有職者のもので、リタイア層には無関係。実際の来場者層の有職者率がわかれば、このグラフの縦軸に有職者率を掛け算して読み直すと、実態に近いものが浮びあがるかもしれない。
●ちなみに、日本のオケでも名フィルや広響の平日定期は18:45開演みたい。これはどういう経緯でそう定まったんすかね?
iPadアプリでブリテン「青少年のための管弦楽入門」
●ブリテン・ピアーズ財団がiPad用アプリのブリテン「青少年のための管弦楽入門」をリリース。無料、要iOS 6.1以降。触ってみたが、さすがによくできていて感心。対象年齢は7–11歳ということだが、もう少し小さなお子さんも、あるいは親御さんも楽しめるのでは。曲本来のオーケストラ・ガイド機能をうまくiPadに落とし込んであって、オーケストラにはどんな楽器があって、それぞれどんな音色を持っているのか、「青少年のための管弦楽入門」を鑑賞しながら理解できるようになっている。クイズ・コーナーでは「あたなにぴったりの楽器は?」をYES/NOの二択設問で診断してくれたり(診断された楽器について、その奏者が登場して動画でインタビューに答えてくれる)、「フーガ・ゲーム」と題してブリテンのフーガを自分で選んだ楽器の音色で聴いてみることができたりとか、簡潔ながらも作りがていねい。サラ・ファネッリのイラストが楽しい。あまり機能面でよくばらずに、でも十分に予算と工数をかけたという印象。
●こういうのって、むしろネット以前の時代によく作られていたと思うんすよね。PCがようやく動画や音声を扱える性能を持ちはじめた「マルチメディア時代」の頃に、エデュテインメント・ソフトとして。今やるならタブレット向けのアプリになるのか。アーツ・カウンシル・イングランドの助成で制作された模様。ミュージック・アドバイザーにコリン・マシューズの名前も。
●サイズが888MBもあるので、ダウンロードにはそれなりに時間がかかるのでご注意を。
「丕緒の鳥 十二国記」(小野不由美 著)
●久々の「十二国記」シリーズ新刊、「丕緒の鳥」(小野不由美著)を読む。これはすぐに読まないと賞味期限があっという間に切れそうだと思って、amazonに予約してしまった。短編4作なので読みはじめればすぐ。帯によれば「12年ぶりのオリジナル短編集」だとか。そんなに久々だっけ?
●この「十二国記」シリーズ、異世界中華ファンタジーで、王政による12の国があって、それぞれの国で神獣である麒麟が天意にもとづいて選んだ王が統治しているという設定(一時期NHKでアニメにもなっていた)。これが抜群におもしろいんすよ。当初はジュブナイル扱いだったので「講談社X文庫ホワイトハート」から刊行されていて、思い切り若い女子向けでレジに持っていくのに勇気が必要だったのが(もう大昔だ)、そのうち大人向けの講談社文庫から発売されるようになって、さらに去年から版元を変えて新潮文庫から新装版として刊行中(特設サイトまでできてる)。もはや異世界ファンタジー小説の古典か。
●で、最新作「丕緒の鳥」(ひしょのとり)。意外と世界観やら舞台設定やらは覚えているもので、すんなりと「十二国記」の世界に入っていくことができた。ただ、この4作はいずれも小さな世界を描いている。王がどうとか、麒麟がどうとかいった大きな物語の隙間を埋めるような、市井の人々のエピソード集。地味なんだけど、細部まで豊かな想像力に彩られていて、異世界が確かなリアリティをもって眼前に広がってくる。
●ひとつ感じたのは「十二国記」というシリーズが大人になったということかな。個人と社会や組織とのかかわりについて、大人が感じる問題意識がファンタジーの装いをまとっている。シリーズの当初は違ってたんすよね。「月の影 影の海」は日本の女子高生が異世界に連れられて行ったら、そこでは自分が女王だったという変型シンデレラ・ストーリーだったわけだし、全般に「ドラえもん」的な青少年の夢想にこたえてくれなくもない成長小説だったと思うんだけど、今作ではすっかり大人目線の小説になっている。読者もシリーズと一緒に年をとっているからそうなるんすかね。
●これから読もうって方は新潮文庫の「月の影 影の海」からスタートするが吉。あと、今後「書き下ろし長編」も刊行されているそうなので、鶴首して待つしか。
祝、カズ・ゴール、呪、2ステージ制
●祝。昨日開催されたJ2(試合、あったんすね)の横浜FCvs栃木戦で、なんと開始わずか16秒で三浦カズがゴール。自身の持つ最年長ゴール記録を46歳4カ月に更新した。映像を見たが、左サイドからのクロスボールに対して、右足トラップでディフェンダーの逆をつき、豪快に左足で蹴りこむ見事なゴール。カズ・ダンスは踊らなかったとか。代わりにテレビの前でみんなで踊ろう!
●本当に還暦までプレイするんじゃないか、カズは。そして栃木にアレックス(三都主アレサンドロ)がいたなんて。
●ところで、Jリーグが2ステージ制の復活を検討しているという悲しいニュースがある。せっかくホーム&アウェイで1回ずつ戦って優勝を決めるという、だれもが納得できるリーグ戦を手に入れたというのに、また変則リーグ戦や意味不明のプレイオフで勝者が決まることになるとしたら、こんなに不合理で、萎える話はない。いったい、だれがそんなものをおもしろがるの。J2の昇格プレイオフは3番目の枠だから、許せたんすよ。J1の優勝チームを決めるのとはわけがちがう。
●だいたい今のJ1はこれ以上ないというくらい毎年おもしろい展開になっているじゃないすか。毎年のように新鮮な顔ぶれが優勝争いにからんでくるし、昇格チームやギリギリ残留チームがトップを走ったりする。優勝できなくても、ACL出場権争いもあるし、残留争いもある。
●むしろ、スタジアムの快適性とか娯楽性のほうをどうにかできないものなんすかね。実のところ観戦者は「試合さえあればそれでいい」コアなサポばかりじゃないと思うので、「うまい食い物が待たずに買える」とか、「試合に興味の薄い同行者が買い物を楽しめる」とか、「個室で観戦できるオプション」とか、非コアサポ向けのエンタテインメント要素がもっと欲しい。
Opera Strip マンガで読むオペラ
●Sinfini MusicにあるOpera Strip(マンガで読むオペラ)がおもしろい。アメコミ調(っていうのかな)の絵柄がバタくさくて、妙にキモかわいかったりする。ヴェルディ「トロヴァトーレ」、ブリテン「ピーター・グライムズ」、そして極めつけはワーグナー「ニーベルングの指環」四部作だ。もちろん、話は端折ってある。たとえば「ワルキューレ」をわずか12コマで終わらせてしまう簡潔さ、手際の良さは、作曲者にもぜひ見てほしかった。
●ハイライトシーンは「トロヴァトーレ」の「まちがえてわが子のほうの赤子を火にくべてしまう」という、オペラ史上最大のツッコミどころだ。WHOOPS! って、あなた……。ハーゲンに背中を刺されるジークフリートのやられ顔も見どころ。
●新国とかでもやってみない?
ブラジルvsスペイン@コンフェデレーションズ・カップ ブラジル2013
●ドタバタしているうちにもう終わってしまったコンフェデ杯。決勝戦はブラジル 3-0 スペイン。ブラジルがスペインを一蹴した。スペイン代表がコテンパ(死語)にやられたのを見たのはいつ以来なんだろか。2008年ユーロ優勝、2010年W杯優勝、2012年ユーロ優勝。主要国際大会3連覇を果たしたスペイン代表だが、盛者必衰、彼らのウイイレ名人みたいなショート・パスサッカーもついに限界なのか……。
●とは思わなかった、ぜんぜん。ていうか決勝戦はコンディションの差が大きすぎ。中三日でホームで戦うブラジルに対し、スペインは移動ありで中二日、しかも前の試合は延長PK戦。開始早々わずか2分にゴール前の混戦からフレッジに押し込まれて失点し、あっという間に勝負が決まった感じ。ニッポンがイタリア相手にゲームを支配した試合もこちらの中三日に対して相手は中二日だった。コンフェデはそういう大会。
●しかもどうやらブラジルの気候は各地でずいぶん違うみたいで、次回のワールドカップは消耗戦になりそうな気配。日程・移動すべてが有利なA組1位の優位は大きい(通常は開催国がシードされる)。その次に有利なのが(前回同様の日程なら)B組1位か。「ブラジル優勝」以外はあり得ないという空気の大会になることはまちがいないわけで、それはそれでスコラーリや選手たちが気の毒でもある。「クリアして当たり前」のハードルが、やたら高い。
●しかしブラジルvsスペインというみんな見たかったカードが実現したのは吉。実のところ、コンフェデ杯は近年のワールドカップやユーロよりおもしろかったんでは。ゴールもたくさん入ったし。スペインの主要三大会連続優勝も、最初は「芸術的サッカーの勝利」としてみんな歓迎していたと思うんだけど(フィジカルの強さとハードワークばかりのサッカーなんて!)、最近は「守備のためのパス回し」というか、リスクをとらずにボールを保持するためにパス技術が駆使されていて、楽しいサッカーからは少しずつ遠ざかってきていた感あり。で、やっぱり、ブラジルって楽しいよね。そう溜飲を下げたのが今回の大会。
●しかしブラジルのような国で大規模なW杯反対デモが起きるというのはなかなか衝撃的。報道によればデモの主体は中産階級で、「立派なスタジアムの建設より福祉や教育を」という主張。日本のサッカー・ファンが何十年も前から繰り返し聞かされてきた「ブラジル人はサッカー命。セレソンが強ければみんなハッピー。だからブラジルは強い」という物語の賞味期限は切れている。
キタエンコ&東響のロシア・プロ
●30日はサントリーホールでドミトリー・キタエンコ指揮東京交響楽団定期演奏会。プロコフィエフのあまりライブでは聴かない交響的協奏曲(チェロはイェンス=ペーター・マインツ)と、最近よく聴く気がするラフマニノフの交響曲第2番。前後半で対照的なキャラクターの曲が並んだ。特に後半のラフマニノフの演奏は圧巻。精妙でありながらも気迫がこもり、オケの響きは澄明で爽快。日常のなかで聴くことができる最高水準の名演を聴いたという手ごたえ。キタエンコに対して漠然としたイメージしか持っていなかったんだけど、東響の最良の美質を引き出してくれたんじゃないだろか。
●イェンス=ペーター・マインツの鬼ソロにもかかわらず、後半のほうをより楽しんだけど、プロコフィエフとラフマニノフ、作曲家としてどちらが好きかと言われたら逡巡レスにプロコフィエフ。プロコフィエフがラフマニノフを毛嫌いしていたという話はあちこちで目にするが、この日の公演プログラムのエッセイ「山田耕筰の会ったラフマニノフとプロコフィエフ」(伊東一郎氏)で紹介されているエピソードもおもしろい。ラフマニノフは山田耕筰にプロコフィエフのことを「才能あるピアニスト」と評した。一方、プロコフィエフは山田にラフマニノフのことを「あれは馬鹿です」と吐き捨てたという。
●なぜプロコフィエフがそんなにラフマニノフを嫌っていたのかについては、(以前も書いたけど)スヴャトスラフ・リヒテルによれば「影響を受けていたから」。ピンと来るだろうか?