●先週13日はミラノ・スカラ座来日公演で「リゴレット」へ(NHKホール)。今回スカラ座はこの一日のみ足を運んだ。ハーディング指揮の「ファルスタッフ」にも大いにひかれたが、ともあれドゥダメルの指揮は聴いておきたいな、と。しかしこの日を選んだのはどうだったんだろ。期待していたような精彩に富んだヴェルディとはいかず。客席の反応も薄め。
●とはいえ「リゴレット」、改めてこの作品はよくできているなと再認識。リゴレットって男の二面性についての物語なんすよね。女の両極に娼婦と聖女があるように、男の両極にはリゴレット(道化)とマントヴァ公爵(色男)がいる。そして、これはリア充とモテない男の話でもある。でも、まちがえてはいけない。リア充がリゴレットで、モテない男がマントヴァ公爵。
●リゴレットはせむし男という設定のために見逃されがちだけど、彼にはそんな自分を本心から愛してくれる妻がかつていたんすよ。しかもとびきりの美女(娘の美貌から察するに)。二人の間には娘が生まれ、娘ジルダは美しい女性へと育った。リゴレットは愛に恵まれた人生を送ってきた男だといえる。一方、マントヴァ公爵のほうは相手に不足していないというだけで本物の愛情に恵まれてはいない。やっと見つけた本当に愛せる女性がジルダだったのに、そのジルダも己の関知しないところで命を落とす。彼は本当はモテない男だ。「女心の歌」でどう歌っているか。
風に舞う羽のように女心は気まぐれ。
言うことも変われば、思いも変わる。
いつも愛らしくて優しくて、
でも泣くのも笑うのもみんな嘘。
これって、ふられた男の泣き言としか思えないもの。リゴレットの奥さんはリゴレットに対して気まぐれなんかじゃなかったと思うぞ。
●でも恐るべきは呪いの力。モンテローネの呪いによって、リゴレットは最愛の娘ジルダを失う。モンテローネはマントヴァ公爵も呪っている。マントヴァ公爵は本来なら殺し屋の手にかかるはずだったが、ジルダの自己犠牲によって救われたということになる。ジルダの不条理な行動がなければ、リゴレットは娘を失わずに済み、マントヴァ公爵は命を落とす。二者択一だ。モンテローネは一度に二人を呪ったが、そうはいかないようだ。人を呪わば穴二つ。穴のひとつは自分用なので、もう一つの穴に入れられるのは一人だけということか。