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October 23, 2013

「現代のピアニスト30 アリアと変奏」 (青澤隆明著/ちくま新書)

現代のピアニスト30 アリアと変奏●「現代のピアニスト30 アリアと変奏」 (青澤隆明著/ちくま新書)をむさぼるように読んでいる。最近、こんなに読みごたえのある演奏家論を手にした記憶がない。取りあげられているピアニストは30人。グールドは例外だが、あとは現役のピアニストたちだ。ポリーニ、アルゲリッチから、ユジャ・ワン、ポール・ルイス、エマール、シュタイアーまで。しかし、これはよくある「ガイド本」でも「入門書」でもないんすよ。そうではなく、真正面から著者が挑んだ評論集。こんな企画が今の新書で成立するなんて。そのピアニストを聴いたことがない人へのガイド機能なんて、潔く放棄されている。30人の内、大半は自分も多少なりとも関心を寄せるピアニストなので、実に興味深い(特に最近の人)。ああ、この人の音楽はこんな風に聴くことができるんだ!と発見に次ぐ発見がある。触発される。
●これまでに著者がこれらのピアニストに対して行ってきたインタビューや会話などの取材体験も大いに生かされているのだが(取材力の高さがはっきり伝わってくる)、しかし演奏家の肉声は必要に応じて適切に散りばめられているにとどまっていて、このあたりのバランスは絶妙。つまり、肉声は貴重だけど、でも普通のインタビュー集だったら本としてはぜんぜんおもしろくないわけで。で、最大の魅力は著者の文体。評論の価値の少なくとも半分は文体にあるとワタシは固く信じているので、心地よい修辞に彩られた青澤さんならではの文体を存分に味わっている。
●ちなみにワタシが著者の青澤さんと初めて話をしたのは、ナントの「ラ・フォル・ジュルネ」を訪れたとき。その際の取材経験も本書のブルーノ・リグットの項で生かされている。で、そこで知ったんだけど、氏の名前は「隆明」と書いて「たかあきら」って読むっていうんすよ!(聞いてないのに、なぜか本人がカミングアウトしてくれた)。ゴメン、ずっと「たかあき」だと思ってた。