October 26, 2013

METライブビューイング2013-14「エフゲニー・オネーギン」

●11月2日よりMETライブビューイングの2013-14シーズンが開幕。「映画館で観るオペラ」という新たなエンタテインメントがすっかり定着した感がある。開幕に先立ってオープニングのチャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」の試写へ。
●ネトレプコのタチヤーナ、クヴィエチェンのオネーギン、ベチャワのレンスキーとMETの看板スターがずらりとそろった豪華な陣容、指揮はゲルギエフ。このオペラの抒情性がよく伝わってきた。ネトレプコ、大きくなったなあ……(?)。1幕の田舎娘タチヤーナと3幕の公爵夫人となったタチヤーナを演じ分けるという点では見事。デボラ・ワーナーの演出はかなり穏健。1幕の舞台は田舎の裕福なお屋敷という雰囲気がよく出ていた。ロシアでもあんな感じなんすかね、どことなく日本の田舎も連想させる。タチヤーナの少女時代ってすばらしく恵まれていると思う。
オネーギン●で、このオペラ、ついネトレプコに目が行くが、題名役はクヴィエチェンのオネーギンのほうだ。「エフゲニー・オネーギン」ってダメ男オペラなんすよね。オネーギンとレンスキーの二人は、対照的な方向に極端なダメ男。オネーギンはなにもしないで財産だけ手にして、ぷらぷらと遊び呆けて一丁前の男を気どっているが、気がつけば仕事もしなけりゃ家族もいないし生きる目標もない、ただ無為な人生を送って年を重ねてしまっている。レンスキーは満たされた少年時代を送り、親からあてがわれた幼なじみと愛しあっているようなフォースの暗黒面を知らない温室育ちで、それゆえに未熟でつまらない嫉妬で決闘を申し込んで尊い命を失う大バカ者。このオペラの秀逸なところは、二人の男はこんなにも違うのに、両者に対して痛々しいほどの共感を抱けるところだろう(男性なら)。
●3幕で描かれるオネーギンの惨めさほど、悪意に満ちた表現がオペラにあるだろうか。作者にとっての苛めてやりたいキャラ、ナンバーワン。とにかくこの場面を描きたかったんだな、って思うもの。ほれほれ、こうしてやる、こうしてやる、この辱めを受けなさいっ!ヒヒヒヒヒ、みたいな。

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