November 1, 2013

上原浩治、WHIP、BABIP

こう握って投げると……●ボストン・レッドソックスがワールドシリーズを制覇。全米一を決める大会を「ワールドシリーズ」と呼ぶ謎はおいておいて、クローザーの上原浩治が偉大すぎる。ポストシーズンの活躍もさることながら、シーズン中のWHIP(1イニングあたりの被安打数+与四球数)は0.57でメジャー1位だったとか。野球素人なので、どうして球速が遅くて球種も少ない上原が、こんな好成績を収められたのかがよくわからない。制球力があるから? ボールは低めに投げるほうが打たれにくいもの? 今度、ワタシに会った野球ファンの人は教えてください。あと「ボールのキレ」とかいう、「キレ」がなにかわからない。
●ところで、投手の成績に防御率や勝利数といった数字を使うことにずっと違和感を感じていたんだけど(投球内容とは無関係な運に左右される数字だから)、このWHIPっていうのはいいっすよね。味方打線とか前後の味方投手に直接的に左右されない。長打も単打も同じ扱いになるが、ホームスタジアムのサイズの違いを吸収できると考えると納得できる。WHIPに「いいね!」だ。
●しかし野球ファンのなかには、WHIPがBABIPに依存する指標であることを問題視する向きもあるのだとか。え、BABIPってなに? と思うわけだが、Wikipediaを参照したところによれば、これはBatting Average on Balls In Play、平たくいうと「打ったボール(ただしホームラン以外)が安打になる確率」。どういうことかというと、このBABIPは長期的にはいかなる投手でも同程度の数値に落ち着くはずだという。なぜなら、打ったボールが野手の守備範囲内に飛ぶか飛ばないかというのは、偶然だから。いずれは大数の法則で同程度の数値に収束する。以前「マネーボール」を紹介した時にも、内野ゴロが野手の正面を突くか、三遊間を抜けてヒットになるかといったことは、打撃技術の巧拙ではなく、偶然で決まるという話があったが、それと同じような原理だろう。
●ところが、個別の投手のBABIPを見ると、数値にばらつきが出る。BABIPが平均から外れた投手は、味方の守備力が平均から外れていたり(守備の名手がそろっていれば低くなるし、その逆なら高くなる)、あるいは単にそのシーズンは運がよかった/悪かったのかもしれない。長期的には収束する数値でもワンシーズンならばらつくわけだ。どちらにせよBABIPの高低に関して、投球の質は無関係とみなせる(伝統的野球観からすると異論があるだろうが、ワタシは統計と確率の信奉者だ)。Wikipediaに挙げられた例でいえば、松坂大輔の2007年はBABIPは.299と平均的で、防御率は4.40。続く2008年はBABIP.258と平均を大きく下回り(つまり守備がよかったのか、運が良かった)、防御率は2.90にぐんと下がった。この両シーズンにBABIPの要素を切り離した疑似防御率のFIP(詳細は省略。細かい計算式で定義される)を比較すると、2007年はFIP4.23、2008年はFIP4.03と大差がない。つまり、防御率は大きく違うが、実際のところ本人の投球の質は同じだと推測可能だというのだ。なるほど、このBABIPってのは目からウロコだ。トレードやチーム編成のために的確に選手を評価しようというマーケットの要請から、この種の指標が生まれるのだろう。
●で、話を戻すと、WHIPはBABIPの高低を反映していないから、この数値だけ見てると危険だよ、っていうことになる。じゃあ、上原浩治のBABIPやFIPはどれくらいなのかなとも思うが、そこまでは知りません。

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