●「レコード芸術」編による ONTOMO MOOK 「iTunes ではじめるクラシック音楽の愉しみ」が刊行された。え、「レコ芸」で音楽配信のムック?と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、これは同誌連載の「クラシック版 インターネット配信音源ガイド」をもとに加筆・再編集された一冊。執筆者はおなじみ、満津岡信育さん、相場ひろさん他。こうして一冊にまとまるとその情報量に圧倒される。単なるハウトゥーではない「レコ芸」ならではのマニアックな切り口で、未知の音源との出会いを約束してくれる。
●今やダウンロードでしか手に入らない高音質音源もあれば、フィジカルで廃盤のディスクがストリーミングで簡単に聴けることも珍しくない時代。「レコ芸」が音楽配信に力を入れたってなんの不思議もない。というか、ニッチだからこそ「レコ芸」でしかMOOK化できないともいえる。
●で、このMOOKの最大の特徴は「レコ芸」的な視点で音楽配信の世界を眺めたらこう見えるんだよ、ってことを伝えてくれることだと思う。これは今のフツーの音楽配信ユーザー視点とはかなり異なる。たとえば、音源の録音データについて。「レコ芸」視点では録音データ命なので、音楽配信産業はあまりにも録音データに対して無関心というか、不備が多すぎる。だから、これは今後の課題だ、と認識される。でも配信側から見ると、録音データを適当にあしらって不要のものにするっていうのは、たぶん「成果」なんすよね。メタデータの取り扱いはなるべくカジュアルにして、そんなところに手数をかけるより配信できる音源をガンガン増やそうよ、ってやってきた。できればブックレットだってなくしたいと思ってるだろうし、事実ないことが多い。mp3のような不可逆圧縮のフォーマットについても同じことが言えるんじゃないかな。よりよい音質を求めていく立場と、音質にこだわらない大らかなカルチャーを目標にする立場と。
●配信で買ったデータには、詳細な録音データどころか、曲名や演奏家の情報も不十分だったりすることもままあるわけで、すでに「そんなのだれが気にするのよ?」的な確固たる業態ができあがっている感じ。コアな音楽ファンが「それじゃ困るんだよなー」と言い続ける意味はあるのか、ないのか……。
November 27, 2013