●当連載では、地上がゾンビで埋め尽くされるようになった終末世界で人間がいかに生き延びるかについて、これまでさまざまな考察とフィールドワークを続けてきた。備えあれば憂いなし、Zdayは日いちにちと近づいている。そして、ここでようやく新たな解決への糸口を発見したことを力強く宣言したい(ババン!)。
●希望の一冊となるのは、海洋生物学者であり探検家のトール・ヘイエルダールによる「コン・ティキ号探検記」(河出文庫)だ。名著である。ゾンビ禍とは無関係に読まれるべき一冊。以前映画化されたものを紹介したが、これはヘイエルダールが「ポリネシア人の祖先は南米から海を渡ってやってきた」という自説を証明するために、1500年前の古代でも入手可能な素材と技術のみを用いていかだを作って、風と波を頼りに仲間たちとともに8000キロにわたる太平洋横断に挑んだ記録である。多くの人が無謀と考えた航海は100日ほどをかけて見事に成功した。この本の味わい深い点は、後の研究によりヘイエルダールの仮説は否定されているところだと思うのだが、今のわたしたちにとって重要なのはいかだで太平洋上で長期間を平和に過ごせるという点だ。舟ではなくいかだというのがミソ。荒波をかぶっても沈まない。サメやクジラなどの巨大海洋生物が脅威になるのかについても、この本は多くの有益な情報を与えてくれる。
●が、なにより驚いたのは食糧だ。ヘイエルダールたちはいとも簡単に海上で食い物を調達していて「飢えるのは不可能と思える」ほどだったという。トビウオたちが勝手にいかだの上に飛んできてくれる。そして、シイラがずっといかだとともに航行してくれるので(これは「大西洋漂流76日間」でも同じ記述があった)、シイラも食べ放題。シイラといえば、昨今の一部の回転ずしではカンパチの代用魚として利用されているという。つまり、いかだの上は、疑似カンパチの新鮮な刺身食い放題というのだから、日本人にとっては嬉しい環境である。このカンパチ、ついさっきまで生きてました! ガブッ!
●もう言うまでもないだろう。地上がゾンビで埋め尽くされても、海洋はいたって平和なままである。地表の71%は海だ。ゾンビ禍以後も地球上の大半はその姿を変えないのだ。わたしたちは海に出なければいけない。古代インカ文明が発明したいかだが、21世紀の人類の命運を握ることになろうとは。人類は海洋を生きる生物になる。ひとつの家族がひとつのいかだに乗り、遠洋上でいかだの群れが集落をなす。いかだが集まって村ができ、町ができ、やがて都市ができる。人はいかだの上で生まれ、いかだの上で生涯を過ごす。そして、カンパチの刺身をたらふく食うのだ。
December 26, 2013
ゾンビとわたし その30:「コン・ティキ号探検記」(トール・ヘイエルダール著/河出文庫)
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