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January 10, 2014

「書くことについて」(スティーヴン・キング)その3

書くことについて●(承前その1その2)昨年末に続いて、しつこくスティーヴン・キングの「書くことについて」(田村義進訳/小学館文庫)。この本のキングの自伝部分には、彼の最初の大ヒット作「キャリー」の出版時に、売れない貧乏作家が突然大金を手にすることになって、編集者との電話でキングがうろたえながら金額の桁数を確認する場面が出てくる。ここはアメリカと日本の出版システムの違いを感じるところ。
●この時点で「キャリー」はすでにダブルデイから出版されていた。契約金は2500ドル。70年代の基準でも安かったが、キングはこれに加えてペーパーバック権が売れることを期待していた。ペーパーバックの契約金は出版社と作家で折半という条件だったそうなので、もしうまい具合にペーパーバック権が6万ドルで売れたら、キングは半分の3万ドルを手にできる。キングはそんなふうに夢見ていた。3万ドルは当時彼が務めていた教職の4年分の収入だ。
キャリー●で、ダブルデイの編集者はキングに、「キャリー」のペーパーバック権がシグネット・ブックスに40万ドルで売れたと伝えた。キングが手にするのは半分の20万ドル。3万ドルを皮算用していたら、20万ドル(当時の彼の27年分の収入)と言われたわけで、桁数を確認したくなるのも当然だろう。すでにダブルデイから出ていた単行本がよほど強いインパクトをもたらしていたからこそ、こんな金額が付いたはず。日本では文庫でも単行本でも著者は重版ごとに部数に比例した印税を手にするのが普通なので、無名作家が契約段階でいきなりドカンと大金を手にすることにはならないと思う。もっともアメリカの仕組みも70年代と今ではずいぶん違うかもしれないが。

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