March 27, 2014

新国立劇場「死の都」

●24日昼は新国立劇場でコルンゴルトの「死の都」。今シーズン最大級の話題作。この日が楽日だったので、話題作だけにすでにSNS経由でさんざん評判を目にしていて、ぜんぜん新制作のオペラを見るという気分にならない。ネタバレ感全開。今はそういう時代なのだなあ。すでにこのブログに書く時点で遠い過去の話をするような気分になってしまう。
ヤツらがよみがえる●で、「死の都」、やっぱりスゴいっすよ、このオペラ。なにせ題名が「死の都」。原題は The City of the Dead だねっ! 美しいブルージュの街が死者で埋め尽くされる世紀末ゾンビ・オペラ。パウルは亡くなった奥さんの姿を街で見かける。「あれはマリー!」。しかしマリエッタが冷たく言い放つ。「違う、あれは元マリーなの。さあ、頭を狙って撃つのよ!!」
●↑ウソです。原題はDie tote Stadt。ゾンビは出てきません。代わりに幽霊が出てくる。パウル(トルステン・ケール)は亡くなった奥さんマリーに瓜二つな踊り子マリエッタ(ミーガン・ミラー)に出会い、家に招く。亡き妻の姿をマリエッタに重ね、現実と妄想の境界上で狂気に囚われるパウル。まさにサイコ野郎。しかしそんな男とわかって誘惑するマリエッタもかなりいかれている。終幕の修羅場で(これはカルメンとドン・ホセの世紀末バージョンだと思う)、マリエッタが襲いかかるパウルに向かって「あなた頭おかしいの?」と言う場面では、思わず笑ってしまった。いや、最初からよく知ってるでしょうに、この人の頭がおかしいのは!
●で、演出はカスパー・ホルテンで、フィンランド国立歌劇場からのレンタルのプロダクション。ホルテン演出の秀逸なところは、亡き妻マリーの亡霊を黙役としてずっと舞台に立たせていたところ。亡霊なので、パウルには見えているけど、他人には見えない(でも途中からマリエッタにも見えてくる)。ゾンビものではなく、幽霊ものだった。演出としては「夢オチ」が鮮やかに決まっていたが、「夢オチ」そのものは現在の私たちにとって受け入れられる物語作法ではないので、あの夢から帰った現実も夢だったとか、そこから本当の悪夢が始まるとか、見る人なりになにか解釈を加えておきたくなる。ともあれ、男の妄執が完璧に描かれているという点でこれ以上見事なオペラがあるとも思えない。舞台はとても美しかったけど、大がかりな場面転換がないのは寂しかったかな。
●音楽的にはR・シュトラウスの影響が色濃く、管弦楽は華麗で官能的。主役二人の声楽的な負担は相当なもの。ヤロスラフ・キズリング指揮の東響は正直言って精彩に富んだものとはいいがたかったが、この作品の実演に接する貴重な機会だったのでプロダクション全体としては十分な手ごたえ。平日の14時開演だが、お客さんはしっかり入っている。しかもリタイア層ばかりかと思えばぜんぜんそんなことはなくて、現役世代も多数。普段足を運ぶ公演とそんなに違いを感じないような気すらするんだけど、作品のせいなのかな。
●会場で販売されていた広瀬大介さんによる対訳(500円也)をゲット。これはすごく嬉しい。検索可能なテキストデータも付いて来たら最高にありがたいけど……それは無理?

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