●毎年一本ワーグナーのオペラを演奏会形式で上演してくれる東京・春・音楽祭、いよいよ今年からは「ニーベルングの指環」がスタートするということで、7日は「ラインの黄金」へ。すでに5日に初日があって評判は上々。ワーグナーを知悉するマレク・ヤノフスキが指揮、オーケストラはN響。厚い響きながらも、快速テンポでリズミカルに推進するワーグナー。コンサートマスターにはウィーン・フィルのライナー・キュッヒルが招かれていた。舞台上にずらりと並んだ大編成のオーケストラは壮観で、ハープ6台もさることながら、横一列に並んだ金床隊が鳴りはじめるとすさまじい悪のお祭り感。演奏会形式だからなおさらこういうけれん味が生きるというか。終盤エルダ(エリーザベト・クールマン)の登場シーンは、舞台から遠く離れた2階R席から歌うという趣向で、これもとても効果的。
●歌手陣はそれぞれ充実、アルベリヒ役のトマス・コニエチュニーが強烈な存在感を放っていた。ヴォータンはエギルス・シリンス。演奏会形式ながらゼスチャーを伴って雄弁に歌うアルベリヒに対して、ヴォータンは常に静かに佇んでいる。結果的に二人の対照が際立っていて、これが「愛にまかせて自由な人間を生んだヴォータンの失敗と、愛のない結婚によって自分の意思に隷属する人間を生んだアルベリヒの成功」(「レヴィ=ストロースと音楽」)を描いた物語であることを思い出させる。ヴォータンとアルベリヒはコインの表と裏のような関係性にあって、そのヴォータンの蹉跌を描くにあたって、「ラインの黄金」は彼の見せかけの勝利で閉じられる。神と侏儒という関係にありながら、ヴォータンとアルベリヒは邪悪さや腹黒さでなんら変わるところがない。自らの未来を犠牲にして、ヴォータンは欲しかった壮麗な住処を手に入れて満悦する、悪腹城という城を得て(←それ言いたかったの!?)。ミーメにヴォルフガング・アブリンガー=シュペルハッケ、フリッカにクラウディア・マーンケ、フライアに藤谷佳奈枝。
●演出代わりのスクリーン映像は、あればあったで有効なことは確かなんだけど、本当に必要なものをCGで作ってしまうと非現実的な予算が必要になるし、かついって簡易だと昭和テクノロジーの香りが漂ってしまうのが難しいところ。今年から字幕が普通の電光式になってくれて安堵。昨年のスクリーン投影は読みづらくてしんどかった。広瀬大介さんの字幕はすばらしく明快で、物語がすんなり頭に入る。
April 8, 2014