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April 30, 2014

フィリップ・ジャルスキー&ヴェニス・バロック・オーケストラ

●少し日が空いてしまってから思い出そうとすると、なんだかあれは夢だったんじゃないの、と思う、25日のフィリップ・ジャルスキー&ヴェニス・バロック・オーケストラ(東京オペラシティ)。今年聴いたなかで一二を争うほど感銘を受けた公演だった。
●プログラムもよかったんすよね。ポルポラvsヘンデルの同時代オペラ作曲家対決。18世紀前半のロンドンを舞台にくりひろげられたライバル二人の作品を聴く、そしてそれは同時に当時絶大な人気を誇ったカストラート、ファリネッリvsカレスティーニの対決でもあった……。かつて見た映画「カストラート」(ファリネッリ)を思い出す。
●しかし最初のジャルスキーの一声を耳にした瞬間に、もう18世紀ライバル対決という趣向は頭からふっとんだ。なんという甘美で透明で陶酔的な声なの。この声、歌唱を耳にしているというだけで、最上級のエンタテインメント。こんな声が出せて、なんの無理も感じさせず、これほど繊細にコントロールできてしまうものなのか……。会場の空気を一瞬にして支配してしまう吸引力の強さに心底驚嘆。
ヘンデル●18世紀初頭、ロンドンの貴族たちが共同出資してイタリア・オペラを上演するロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックを設立して、ここでヘンデルは八面六臂の働きを見せたわけだけど、ジョージ1世の賛同があったにもかかわらず、この事業は放漫経営であっという間に立ち行かなくなってしまう。第一期のロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックの事業計画では、客席は毎回満員になるという前提で無謀な高配当が約束され、一方で歌手の獲得には多額の費用が注ぎ込まれ、杜撰な計画にもかかわらず出資に見合う収入は日毎に入ってくるから出資者は追加出資を求められるなんて事態にはならないはず、と超楽観論が蔓延していたという。しかし、現実には出資者たちはなんども追加出資を迫られ、経営は火の車になった。「いやー、貴族たちは経営の素人だから、ビジネスのことがなんにもわかってなかったんだろなー」と思っていたけど、ジャルスキーの声を聴いていると(カストラートとカウンターテナーは別物だと承知の上であえていえば)、極上の歌唱を聴くという快楽に浸ってしまうと、もはや理性など雲散霧消して、明日のことなど考えられなくなってしまうのだろうことが実感できる。投機熱に加えて、また別の熱狂があったのだろうな、と。