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2014年6月アーカイブ

June 29, 2014

決勝トーナメント1回戦、ブラジルvsチリ、勝負は時の運

ブラジル!●グループリーグが終わった後、中一日の休養日(だれの?もしかしてわれわれの?)をはさんで、いよいよ決勝トーナメントへ。スペインやイタリアといった欧州勢が脱落、アジアは一勝もできず(次回の出場枠はきっと減る)。一方、中南米勢は躍進。ブラジルで開催した甲斐があったというべきか。
●しかし、南米勢の4カ国がトーナメントで同じ山に入ってしまったのはまったく残念。ブラジル、チリ、ウルグアイ、コロンビアでつぶし合って、どれか一か国のみがベスト4に進出することに。なにも開催国ブラジルの山といっしょにならなくても、ブツブツ……。南米はアルゼンチンだけが別の山へ。少なくとも準決勝まで生き残ってほしい。
●で、まずはブラジル対チリ。開始前の国歌斉唱からすさまじいテンションの高さ。完全にブラジルホームだが、スタジアムの一角にはチリサポがびっしり集まっていて、雰囲気は最高だ。サンパオリ監督が率いる今回のチリは今大会でも屈指の先端フットボールを展開している。今大会、3バックの復権が見られるが(というか今やJ2でも3バックは増えている)、単に3バックというだけでなく、そこに170cm台の身長の低い選手たちを並べるスタイルは異彩を放っている。それでいて空中戦にひるまない強さも恐るべきものだが(ブラジルのフレッジや途中出場のジョーといった大型選手をことごとく抑えた)、眼目はボール扱いにすぐれた、フィード能力の高い選手を起用したいということなんだろう。つまり従来なら中盤の底を務めたような選手たちを並べる。長身で屈強だが足元はもうひとつという伝統的なセンターバックを排したという点で3バックというよりは、ノーバックと呼びたくなる。前線に伝統的9番を置かないノートップ・システムの時代の次は、ノーバック。チリは従来サモラノやサラスなど9番の人材はいつもいたわけだけど、今回は9番タイプのピニージャをサブに置いているので、いわばノートップ、ノーバックの進化形フットボールを実践しているともいえる。ハイプレス、ハードワークの最適化のひとつのありかたというべきか。
●これに対してブラジルは個人の突破力とインスピレーション豊かなパスワークが頼みの綱。前半12分、フッキのワンツーを使った直線的な突進がすさまじい迫力。前半18分、ネイマールのコーナーキックから、チアゴシウバの頭を経由して、ダビドルイスが泥臭く押し込んでブラジル先制。しかし内容ではむしろチリがペースをつかんでいたかも。前半32分、まさにチリの狙い通りの形がぴたりとはまって、ブラジルの自陣奥深くのマルセロのスローインからフッキが返したところをバルガスがかっさらって、すぐにアレクシス・サンチェスにつないで、これをゴール左隅に決めて同点。前半終盤にもチリが怒涛の攻勢をかける。チリはブラジル相手に自信と気迫にあふれたプレイを見せた。
●ハイペースの展開だっただけに、後半の途中からは両者ともに運動量が落ちて、早々と消耗戦の様相を帯びてくる。ブラジルは前線のフレッジに代えて投入したジョーにまったくボールが収まらない。王国にはいくらでももっといい選手がいそうなものだが……。後半10分フッキのゴールはハンドで幻に。フッキは終盤になっても突破力が衰えないのがスゴい。チリはブラジルを仕留めるチャンスを何度も迎えていた。まさかブラジル開催のワールドカップで、ここでブラジルが敗退してしまっていいものだろうかという思いと、勝者にふさわしいのはチリのはずという思いで、どちらを応援していいのかもまったくわからなくなる。延長に入った時点で、あとは時の運次第という様相に。延長後半14分、交代出場したチリのピニージャのシュートがバーを叩いた。これが入っていれば試合は終わっていた。ブラジルはバーに救われて、PK戦に。
●PK戦が始まる前からブラジルのベテランGK、ジュリオ・セザールが泣いている。PK戦が終わって泣くのではなく、始まる前に泣いたキーパーを始めて見た。カナダのトロント所属のキーパーが正GKというブラジル代表もどうかと思うが、なんと、そのジュリオ・セザールがピニージャ、アレクシス・サンチェスを立て続けに止める。チリの二人はともに「外したくない」という気持ちが強すぎたのか、甘いコースに蹴ってしまった。一方、ブラジルも2人目のウィリアン、4人目のフッキがPKを失敗。チリのキーパーはバルセロナへの移籍が決まっているブラボ。5人目、もっとも重圧がかかるところでブラジルは若きエース、ネイマールが左下に慎重に決め、一方、チリはハラがポストを叩いて失敗。勝ったネイマールも、敗れたハラもピッチ上で号泣。ネイマールとダビドルイスは向き合って跪いて祈りを捧げた。PK戦なので、記録上は引き分け。チリではなくブラジルを大会に残したのは、運の仕業だ。

ブラジル 1-1 チリ (3 PK 2)
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★★★

June 27, 2014

グループリーグ第3戦、ナイジェリア対アルゼンチン、熱くなった頭を冷やす

ナイジェリア●ナイジェリア対アルゼンチン……って、また?? いったいこのカードをなんどワールドカップで見ているのだろうか。4回目? それとオリンピックでも2回くらい見ている気がする。2002年のワールドカップ日韓大会でもこの対戦があったっけ。カシマスタジアムで。そのときはバティストゥータのゴールでアルゼンチンが勝った。現地で見てたので覚えている(←いきなり自慢話かよ!)。
●この試合でアルゼンチンが勝ち、なおかつ裏番組でイランがボスニア・ヘルツェゴビナに勝ってくれれば、イランに決勝トーナメント出場のチャンスが巡ってくる。すでに2勝しているアルゼンチンだが、メンバーを落とさずに来た。メッシ、アグエロ、イグアイン、ディマリアそろい踏み。何人か休ませてもよさそうなものだけど、これがサベーラ監督の流儀なのか。ベンチにラベッシもいるのに。
●試合は開始早々からゴール・ショー。最初の4分で2点入った。前半3分、ディマリアの思い切りのいいシュートに、ナイジェリアのキーパー、エニアマがボールを弾くと、飛び込んできたメッシがボレーでゴールマウスに叩き込んだ。その1分後、今度はナイジェリアのムサがゴール前の切り返しであっさりサバレタを交わしてシュート。これがきれいに決まって1対1に。サバレタの守備が淡泊にも思えるのだが……。ディマリアは今日も体が切れている。最初の数分こそ落ち着きはなかったが、その後はアルゼンチンが攻める展開に。前半38分、アグエロがケガで、ラベッシ投入。アディショナルタイム、ゴール前のフリーキックをメッシが決めて、ふたたびアルゼンチンがリードして前半は終了。
●後半開始早々の2分、ナイジェリアが前半のコピーのようにムサがペナルティエリア内に抜け出てゴールを決めて同点に。引分けならアルゼンチン1位、ナイジェリア2位でお互い不満のない結果になる。それを目指しているわけじゃないだろうが、アルゼンチンが得点を決めると直後にナイジェリアが追いつくという展開が2度繰り返されたことになる。うーむと腕組みをしていたら、後半5分、アルゼンチンのコーナーキックでラベッシのクロスにロホがドンピシャで合わせて、みたびアルゼンチンがリード。後半18分にはメッシを温存するためにアルバレスと交代。試合を終わらせにかかる。会場内の圧倒的な大声援もいっしょになって、もうこの試合は終わったのだという空気が醸成される。裏番組は(残念ながら)ボスニア・ヘルツェゴビナがイランをリードしている。アルゼンチンもナイジェリアもこれで十分だろう。お互い決定機を外しつつも、2対3で試合は終了。アルゼンチンは3連勝を飾ったが、守備の脆さも隠せない。この前のイラン戦だって、あわやというところまで来ていたわけで。
●ところで、交代出場したラベッシは非常に調子が良いようだ。馬力もあって、加速力もある。給水をしているラベッシにサベーラ監督が熱弁を振るって指示を出している場面があったが、そのときラベッシは水筒からプシュッと吹き出させて、サベーラ監督の禿頭に水を引っかけた。わざと。監督は無反応。これって、どう解したらいいんすかね。強い結びつきのある関係だったら「わかってるよ、おっさん、そう熱くなるなって」といったところだが、ベンチで冷や飯を食わされている選手としては「うるせー、このハゲ」くらいの感じ? 次戦以降、サベーラ監督のラベッシ起用法に目が離せない(笑)。今大会お気に入りのプチ伝説が誕生した。

ナイジェリア 2-3 アルゼンチン
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★★

June 26, 2014

春の祭典の祭典。アリス=紗良・オット&フランチェスコ・トリスターノ、フルシャ指揮都響

●春じゃないけど「春の祭典の祭典」ということで、二日連続でストラヴィンスキーの「春の祭典」を聴く、2台ピアノ版とオーケストラ版で。
アリス=紗良・オット&フランチェスコ・トリスターノ●24日はアリス=紗良・オット&フランチェスコ・トリスターノのピアノ・デュオ・リサイタル(すみだトリフォニーホール)。ラヴェルの「ボレロ」(トリスターノ編)と「ラ・ヴァルス」、トリスターノ自作、ストラヴィンスキー「春の祭典」他のプログラム。公演ポスターや二人の新譜「スキャンダル」のジャケ写を見ても伝わるように、この二人、猛烈にカッコいい。なので会場内のお客さんにもイケてる感じの若者たちが大勢。実際、カッコいいんすよ、二人とも。ステージでのふるまいも通常のクラシックとは一味違うカジュアルさがあって、そうだよな、われわれが普段聴く公演はセレモニーで過剰に埋め尽くされているのかもしれないよなと痛感。生のステージなんだから、アーティストのスター性を目にしたいと思うもの。逐一カーテンコールを繰り返さないのも吉。
●「ボレロ」はトリスターノがいきなり内部の弦をはじいてリズムを刻みだして意表をつかれる。えっ、それずっと一人がやってるのはもったいなくない?と思うが、さすがにそんなことはなく。トリスターノの自作は「ア・ソフト・シェル・グルーヴ」組曲。今日的「ラデツキー行進曲」と呼びたい観客参加系。2台ピアノの「春の祭典」は、五管編成の原曲から厚塗りの色彩と極大のダイナミズムをはぎ取ったワイヤーフレームの「ハルサイ」。意匠を凝らすというよりは、直線的な推進力で一気呵成に弾き切る、眩しく勢いのある「春の祭典」で、会場はわきあがった。アンコールに連弾でモーツァルトの4手のためのピアノ・ソナタ ニ長調の第2楽章。ちなみに二人ともずっと譜面を自分でめくっていて、ところどころ非常にスリリングな早業でめくることになるんだけど、これもステージの一部なんだよなと感じる。譜面は置くけど、譜めくりは置かない、というのが大吉、広く一般に。
●その翌日、25日はヤクブ・フルシャ指揮東京都交響楽団(東京芸術劇場)。オネゲルの「パシフィック231」、バルトークのピアノ協奏曲第3番(ピョートル・アンデルシェフスキ)、ストラヴィンスキーの「春の祭典」という魅力的なプログラム。前半のアンデルシェフスキがすばらしすぎる。綿密にうたわれた清冽なバルトークだけでも充足できたが、アンコールにバルトークとバッハの2曲を演奏して、あたかもリサイタルのような雰囲気に。フルシャもオーケストラの中で座ってじっと聴き入っていた。やはり現在活動するピアニストのなかでもこの人は特別な存在なんだなと感じる。後半「春の祭典」は都響の機能性が最高度に発揮された緻密な演奏で、オーケストラの巧さに圧倒される。洗練されたサウンドだけど、コントラストの強い鮮烈な表現で、この作品を聴く喜びを存分に満喫。一公演で二公演分、楽しんだような気分。

June 25, 2014

グループリーグ第3戦、ニッポンvsコロンビア、Jリーグをよろしく

ニッポン!●後がない状況で迎えた第3戦、ニッポンはセントラルMFの山口に代えて青山を起用。大迫ではなく、調子のよい大久保を先発させた。直前の親善試合で青山から縦のロングパス一本が大久保に通ってゴールが生まれたシーンがあったが、ザッケローニにはあの場面が頭にあったにちがいない。一方、すでに2勝して余裕のあるコロンビアはほとんどのメンバーを入れ替えてきた。GK:川島-DF:内田、吉田、今野、長友-MF:青山(→山口)、長谷部-香川(→清武)、本田、岡崎(→柿谷)-FW:大久保。
●試合はこれまで2試合とは違って、序盤からニッポンが気迫のこもったプレイを見せて、攻勢に出た。引分けでも1位通過が決まるコロンビアと、勝つしかないという悲壮な決意で立ち向かうニッポンという対戦であればこの展開になるのは自然なことだが、おそらくコロンビアは予想以上に強い圧力をニッポンから感じていたはず。ニッポンは試合の入り方としては完璧だったが、前半17分、ペナルティエリア内で今野がラモスの足にスライディング・タックルしてPK。今野は「ボールに行った」とゼスチャーでアピールしていたが、完全に足に入っていた。これをクアドラードが決めて、コロンビアは一気に楽になった。これでコロンビアはラインをやや深めに敷いて、慎重な戦い方に。ニッポンは一段と中盤での支配を強めて、次々とコロンビアのゴールへと襲いかかる。シュートは打つものの、最後のフィニッシュが決まらない展開が続いたが、前半終了間際、右サイドのペナルティエリア角から本田が供給したクロスに、ニアで岡崎が頭で合わせて同点ゴール。前半は非常に見ごたえがあり、ニッポンのプレイにはスキルも強度もあった。この時点で、裏のギリシャ対コートジボワールはギリシャが1点リードという理想的展開。このままなら1位コロンビア、2位ギリシャだが、ニッポンがコロンビアを逆転すれば2位にニッポンが入る。決勝トーナメント進出への期待ががぜん高まってきた。
●コロンビアを率いるのは智将ペケルマン監督。後半頭から2人を入れ替える。クアドラードとキンテーロを下げて、10番ハメス・ロドリゲス、カルロス・カルボネロを投入。前半、攻撃が持ち味のクアドラードが長友とのマッチアップで手を焼いていた点を修正したい意図もあったのだろう。後半開始からコロンビアは攻勢に出て、ニッポンは受けに回ってしまう。後半10分、アリアスのドリブルからロドリゲス、マルティネスと流れるようにボールが回って、ゴール。ここからはコロンビアは守ってカウンターを狙う形に。ニッポンはよく攻めて、何度か相手ディフェンスを崩していたが、シュートは打ってもゴールが決まらない。終盤は両者足が止まり中盤が間延びした展開になる。ここからコロンビアが試合巧者ぶりを発揮して、前がかりになるしかないニッポンから着実にカウンターでゴールを奪う。後半37分、後半45分と立て続けに得点して1-4に。この時間帯にあれだけ鮮やかにカウンターを決める決定力には感心するしかない。
●ギリシャが2対1でコートジボワールに勝利したので、グループCの2位はギリシャに。あの日本戦で守りに守った堅さが、ここで生きてきたわけだ。2位争いは接戦だったが、終わってみれば、FIFAランキング8位のコロンビアと12位のギリシャが勝ち抜けて、23位のコートジボワールと46位のニッポンが脱落したという、順当そのものの結果になってしまった。FIFAランキング、侮れません。
●ザック・ジャパンはこれでおしまい(のはず)。1分2敗と結果はいいところがなかったが、大会前にも書いていたように主力選手に怪我明けや所属クラブでの出場機会の減少などで調子を落としている選手が多かったことや、チームのサイクルとしてもピークを過ぎていたこともあって、驚きはない。個々の力は明らかに4年前よりはグレードアップしていて、だからこそ4年前の守って耐えるチームではなく、ボールを保持して攻撃するチームというプランをザックは選択できた。時計の針が8年前に戻った、なんてことはまったく思わない。今後、目指すスタイルは次の監督次第でもあるだろうが、どんな監督が就任するにせよ、代表の実力は各プレーヤーが所属クラブでどれだけ高いレベルで戦えているかに大きく依存する。欧州組はぐっと増えたけど、イングランド、スペイン、ドイツの1部リーグで活躍できている選手は中盤やサイドバックなど、まだ一部のポジションに限られている。センターバック、ゴールキーパー、ストライカーといったポジションの人材はまだまだ手薄。このあたりにも海外のトップリーグでプレイする選手が増えてくれれば万々歳だが、もっといいのはJリーグのレベルが上がって、われわれのクラブでプレイする選手がトップレベルでも通用するという日常だろう。そう考えると、かつての中田ヒデの「こんどはJリーグをよろしく」は敗退後のセリフとしてこれほどふさわしいものはないって気がする。
●とはいえ、大会が盛りあがるのはまだまだこれから。ここからが本当のお祭りだ。

ニッポン 1-4 コロンビア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

June 24, 2014

グループリーグ第3戦、カメルーンvsブラジル、見えない敵

ブラジル!●ワールドカップでいちばんおもしろいのが(そしていちばん観戦が大変なのが)グループリーグの第3戦。勝点、得失点差などが順位に影響するため、公平を期すべく同じグループの2試合が同時刻にキックオフされる。なので、両方を観戦するというわけにはいかず(録画ならなおさら)、どちらかに的を絞らなければいけない。A組は、メキシコとクロアチアが決勝トーナメント進出をかけた直接対決をする一方、カメルーンはすでに敗退が決まった状態でブラジルと対戦。少し迷う状況だが、やはりホスト国を見たいということで、カメルーンvsブラジルを選択。
●ブラジルはメキシコと引き分けているため、実はこの試合に勝っても1位通過が決まるわけではない。メキシコがクロアチアに勝った場合は、メキシコとの得失点差の争いになる。A組1位のブラジルはどうしても1位通過したいはず。というのも、ワールドカップは毎回そうだけど、A組1位のホスト枠は日程が優遇されている。A組からH組まで順次登場するワールドカップだが、一か月の長丁場の末に最後は決勝戦の同じ一日に2チームが顔をそろえることになる。だったら、どうしたって早く試合を始めたほうが休息日が増えて有利になる。たとえばA組1位ならトーナメント1回戦と準々決勝の間は中5日だが、E、F、G、H組の1位はこれが中3日にになる。また、同じA組でも1位になれば準決勝と決勝の間が中4日だが、2位の場合は中3日。決勝まで睨むなら、ぜひともお得なA組1位のポジションを勝ち取りたいわけだが、メキシコにもそのチャンスがあった。ブラジルは目の前のカメルーンと戦いつつも、同時に裏番組のメキシコとこのお得なポジションを争っていたことになる。
●ブラジルはフッキが復帰(ダジャレじゃなくて)。試合は序盤からブラジル・ペース。前半17分、ルイスグスタボが左サイドから美しいクロスを入れると、中央でネイマールが右足でぴたりと合わせて先制。クロスもシュートもほれぼれするほど鮮やか。しかしカメルーンも連敗しているとは思えないモチベーションでファイトする。一対一の局面で身体能力の差でカメルーンが勝利する場面もしばしば。前半26分にはニョムのクロスにマティプが合わせて同点ゴール。圧倒的なアウェイであっても、ブラジルを恐れないカメルーン。試合の行方はさっぱりわからなくなる。
●が、ブラジルを救ったのはエース、ネイマールの個人技による2点目。前半35分、ドリブルでエリア内に進入して右足でシュート。いとも簡単に一人でゴールを決めてしまう。後半4分には、ゴール前でフェルナンジーニョ→ダビドルイス→フレッジとつないで3点目。ダビドルイスへのパスがオフサイドかと思ったが旗は上がらず。後半39分は敵陣でボールを奪取してから細かいパス回しを見せて、オスカルのパスにフェルナンジーニョが走りこんで4点目。なんというか、どのゴールもブラジル風味が漂っていて、とても楽しい。ネイマールはボールを浮かせて相手を交わしたり(シャペウ)、失敗したけどヒールリフトにチャレンジしたり、昨今のヨーロッパのシリアスな試合ではあまり見られないような遊び心あふれるプレイを披露してくれた。ネイマールに限らず、普段はみんな欧州フットボールに適応していても、代表に呼ばれるとブラジル人に還るというか。ハイプレス、ショートカウンター、ハードワークの3点セットでもなければ、ティキタカでもない、唯一ブラジルだけが持っている緩急自在のフットボールを見ることができて満足。一発勝負の決勝トーナメントでは、なかなかこうはいかないだろうけど。
●裏側のクロアチア対メキシコは、ずっと0対0で試合が進んでいた模様で、どうやらブラジル1位は安泰かなという状況だったが、後半27分からメキシコが立て続けに3ゴールを奪って、得失点差を稼いだ。ある時間帯では、ブラジルとメキシコの得失点差が並び、総得点でブラジルが上回るという緊迫した状況になっていたのだが、ブラジルが4点目を奪い、メキシコが終盤で失点したことで、ブラジルは安全圏に。無事にA組1位の座を獲得した。メキシコは惜しいチャンスを逃したともいえるが、難敵クロアチアに勝って2位通過を決めることができたのは幸い。B組の2試合までは見ることができなかったが(すでにオランダとチリの勝ち抜けが決まっていた)、決勝トーナメント1回戦はブラジル対チリ、オランダ対メキシコの組み合わせに。どちらも文句なしの好カード。

カメルーン 1-4 ブラジル
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★★

June 23, 2014

グループG アメリカ対ポルトガル、崖っぷちの世界4位

アメリカ●このグループがいちばんの激戦区ではないかと思う。アメリカ、ポルトガル、ドイツ、ガーナ。ぜんぶ強い。前の試合、押されながらもガーナに勝利したアメリカと、ドイツに大敗を喫したポルトガル。ポルトガルは大会が始まったばかりなのにけが人が続出している。世界ランクで見れば4位のポルトガルがアメリカを押し込みそうなものだが、試合内容ではアメリカが上回っていたように思う(アメリカだって13位、十分に強い)。懐かしいドイツのストライカー、クリンスマンが率いるアメリカはハードワークをベースにダイナミックなプレイを展開する。
●先制したのはポルトガル。なんと開始5分、クロスボールに対してアメリカのディンフェスがクリアミスをしたところをナニが蹴りこんであっさりとゴール。しかし前半16分、ポルトガルはトップのポスティガがエデルに負傷交代。実は前の試合でウーゴ・アウメイダが負傷したためポスティガが先発していたのだが、そのポスティガも負傷してしまった。交代出場したエデルは長身のアフリカ系選手で、いかにもフィジカルにすぐれ、スピードもありそうなのだが、見た目に反して体が重そうで、ボールも収まらない。
●31度の暑さのなか、前半から激しく互いに攻め合って、1対0で折り返す。しかし後半になると次第にアメリカのペースに。後半19分、ジョーンズがペナルティエリア手前でナニを交わして強烈なミドルシュート。これがゴール右隅に決まって同点。ポルトガルは一瞬の守備の甘さを突かれた。後半36分はブラッドリーのシュートのこぼれ球をズシが折り返して、これをオフサイドラインぎりぎりから飛び込んだデンプシーがお腹あたりで押し込んで、アメリカが逆転。一瞬、オフサイドかと思ったが……。前半から飛ばしてきたアメリカは、後半で動きが鈍りそうなものだが、むしろ逆に運動量でポルトガルを圧倒していた。
●このままアメリカが2連勝を収めそうな流れだったが、後半50分、アディショナルタイムの文字通り最後のプレイで、クリスチャーノ・ロナウドが右サイドから完璧なクロスを入れ、途中出場のバレラが飛び込んで頭で同点ゴール。奇跡の同点ゴールだが、勝点3が欲しかったポルトガルの選手たちの表情は硬いまま。次戦、ポルトガルはガーナに勝利することが最低条件だが、ドイツ戦での-4の得失点差が痛い。一方、アメリカの次戦はドイツと。戦況次第では「お互い引き分けでオッケー」の不可視の談合が成立するかもしれない。微妙に得失点差や総得点が順位を影響しかねない状況なので、選手はともかく、ベンチは片方の試合を横目でにらみながら戦うことになりそう。

アメリカ 2-2 ポルトガル
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★

June 22, 2014

グループD イタリア対コスタリカ、グループF アルゼンチン対イラン、もはやだれも強豪国を恐れない

イタリア●グループDはイタリア、ウルグアイ、イングランド、コスタリカ。W杯優勝経験国の強豪が三カ国も含まれる死のグループと目されていた。ところが、どうだ。蚊帳の外と思われていたコスタリカが第1戦でウルグアイを破ると、この第2戦ではイタリアを相手に前線からの精力的な守備と切れ味鋭いカウンターアタックによって互角に渡り合い、ついにはブライアン・ルイスのゴールで勝利を収めてしまった。2連勝でまっさきに勝ち抜け決定。次の相手、イングランドはすでに2連敗して脱落が決まっている。3戦目にイタリアとウルグアイが勝ち抜けを賭けて直接対決することになった。コスタリカは3戦目に主力を休ませるだろうか?
●前半44分、PSV所属のブライアン・ルイスが左サイドからのクロスに頭で合わせたのがこの試合唯一のゴール。しかしコスタリカは強豪相手に弱者のサッカーをやってカウンター一発で仕留めたわけでは決してない。有名選手だらけのイタリアに比べて、プレイの質が劣っているとはまったく感じさせない。ブライアン・ルイスのように高くて速くてしなやかで、しかも前線から強烈に守備をするストライカーがイタリアにいるだろうか。ユニフォームの色や選手の名前をわからなくして試合を見れば、どちらが強豪なのか、見分けがつかない。ボール支配率はイタリアが58%と高かったが、シュートの数は両者ともに10本。コスタリカは守っていただけなのではなく、自分たちの戦略にイタリアをまんまとはめたという印象。コスタリカは強い。番狂わせという言葉を使うのがためらわれる。
アルゼンチン●グループF、1試合目でナイジェリアと引き分けたイランは、アルゼンチンと。実はここまでアジアは1勝もしていない。この調子ではアジアの出場枠を減らされても文句が言えない(現状でもかなり優遇されているわけだし)。本来ならメッシを応援したいところだが、ここはアジアの同胞イランを応援。中東勢のなかでもイランに対してだけは親しみを感じる日本のサッカー・ファンは多いと思う。最近、対戦回数が減っているが、監督はケイロスだし、かつてオサスナで活躍した中盤の要ネクナムは健在、前線にはフラム所属のアシュカン・デヤガ、オランダ育ち(U-19オランダ代表)で欧州のクラブを渡り歩くレザ・グーチャンネジャードといったタレントを擁し、やはりアジアの最強国のひとつだと再認識。
●試合は開始早々からアルゼンチンが圧倒的にボールを支配、次々とイラン・ゴールに襲いかかる。これはコスタリカがイタリア相手に「ボールを持たせた」のとは違って、地力の差からそういう展開にしかならなかったというべきか。アルゼンチンは1試合目の途中からと同様に、アグエロ、イグアイン、メッシ、ディマリアという超強烈なアタッカー陣がそろい踏みの形。なかでもディマリアの体のキレ具合が恐ろしいほど。チャンピオンズリーグ決勝からずっと好調を維持している。あれだけ攻撃が鋭くて、なおかつ献身的な守備を厭わないんだから、監督から見てこんなに頼りになる選手はいないのでは。
●イランはアジアの戦いでも本当に異文化を感じさせるチームで、どうしてそこでそんなにヌルいプレイをしてしまうのかと思わせることもある一方で、突然焦点がピタッとあったように迫力のあるプレイを見せることがある。この試合でも途中までは失点は時間の問題のように見えたが、時間とともにカウンターからの決定機が増えてきた。徐々に重苦しいムードが漂うアルゼンチン。後半22分、クロスボールに走りこんだデヤガのヘディングシュート、後半41分、ディフェンスラインの裏に抜け出したグーチャンネジャードのシュートは、どちらもキーパーに防がれたが、アルゼンチンを仕留めていてもおかしくなかった。このまま引き分ければ、イランの強さが知れ渡るところになったはずだが、最後の最後、アディショナルタイムになって、メッシの個人技がアルゼンチンを救った。右からカットインして、ゴール左隅に蹴りこんで1対0。イランは惜しい勝点1を逃した。
●グループFはナイジェリアがボスニア・ヘルツェゴビナに勝ったので、勝点6のアルゼンチンは勝ち抜け決定。もう一枠を勝点4のナイジェリアと勝点1のイランが争う。3試合目でナイジェリアはアルゼンチンと戦う。アルゼンチンは何人か選手を入れ替えつつ、引分け以上で1位通過を狙うはず。これが「引き分けでいいか」の談合試合になってしまうとイランは辛いが、ここまでの内容からしてもアルゼンチンにその余裕はないはず。アルゼンチンがナイジェリアに勝利して、イランがボスニア・ヘルツェゴビナに勝つことができれば、得失点差等の争いになる。イランにはまだチャンスがあると思う。

イタリア 0-1 コスタリカ
娯楽度 ★★
伝説度 ★★

アルゼンチン 1-0 イラン
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

June 22, 2014

ワールドカップと併行してオーケストラ・ウィーク

●すっかりサッカー漬けになっているようでいて、それでも演奏会には足を運んでいるのであった。この一週間に聴いた公演から。
●まず、ジョナサン・ノット&東響の2公演。14日はサントリーホールでブーレーズの「ノタシオン」1~4(管弦楽版)、ベルリオーズの歌曲集「夏の夜」(メゾ・ソプラノ:サーシャ・クック)、シューベルトの「ザ・グレイト」というプログラム。プログラム構成からしてノット色全開。「ザ・グレイト」もさることならがら、前半の充実度がきわめて高かった。多種多様なパーカッションを含め、楽器群の響きのバランスが美しく制御された「ノタシオン」と、独唱とオーケストラが溶けあって絶妙な色調を作り出す「夏の夜」が、一本線でつながる。メゾ・ソプラノのサーシャ・クックは、ジェニファー・ラーモアの代役だったんだけど、よくこんな人をつかまえられたなと思うすばらしさ。情感豊かで、声量もあるけど無理がない。空席が多かったことだけが惜しい。
●21日、ふたたびジョナサン・ノット&東響を聴きに東京オペラ・シティへ。こちらは盛況。バッハ~ウェーベルンの「6声のリチェルカーレ」、藤倉大の「5人のソリストとオーケストラのためのMina」、ハイドンの交響曲第44番ホ短調「悲しみ」、ブラームスの交響曲第4番ホ短調。やはりノットならではのプログラムで、選曲を目にしただけでワクワクする。藤倉作品のソリストはフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ハンマーダルシマーの5人。Minaとはなにかと思ったら、作曲当時生まれたばかりの藤倉さんの娘さんの名前だそうで、新しい生命の誕生にインスピレーションを受けて作られた作品。ソリストたちは赤ちゃん、オーケストラはそれを見守る両親といった見立てがされている。赤ちゃん特有の気まぐれさというか、なにか大人からはわかり難いロジックで複数の異なる感情やプレ思考的なものがそれぞれ併行して進んでいる様を、5人ものソリスト群から想起する。ハイドン、ブラームスは、前週のシューベルトと同じように、前任者スダーンのスタイルとはかなり異なって、輪郭のくっきりした明快な音楽。弾力に富んだリズムと推進力が吉。
●20日はサントリーホールで円光寺雅彦指揮の読響。ヴァレリー・アファナシエフのソロでモーツァルトのピアノ協奏曲第9番「ジュノム」と同じく第27番、交響曲第31番「パリ」他。アファナシエフはフォースのダークサイド全開、異様に引きつける力の強い戦慄のモーツァルト。モーツァルトにしてはかなり強いタッチがベースになっていて、強弱の幅をたっぷりととったなかで変幻自在の音色を聴かせる。モーツァルトを超越したなにかの芸術。特に「ジュノム」が印象的。禍々しさを祓うかのように最後に置かれた「パリ」で、一転して豊麗で健やかなモーツァルトを堪能できたのもよかった。
●18日はサントリーホールでアシュケナージ指揮N響。シベリウスの組曲「恋人」(ラカスタヴァ)、グリーグのピアノ協奏曲(中野翔太)、エルガーの交響曲第1番。エルガーにひたすら圧倒される。エルガー特有の高貴さ、高揚感、輝かしさ。大変な熱演だった。ゲスト・ヴィオラ首席奏者に元ベルリン・フィル首席のシュトレーレ。

June 20, 2014

グループC ニッポンvsギリシャ、巨人たちの壁(イングランド戦の結果バレ注意)

ニッポン!●コートジボワール戦のあと、長谷部らは「自分たちのサッカーを表現できなかった」と語っていたが、ギリシャ相手の第2戦ではうまく気分を一新できたようで、ボールを保持して攻撃するニッポンらしいサッカーが帰ってきた。もっとも反対側から見れば、堅守速攻のギリシャらしいサッカーになったともいえるわけで、お互いのイメージがぴたりと噛み合った。これでニッポンが先制点を奪えば、ギリシャも戦い方を変えざるを得ないし、ギリシャがカウンターやセットプレイで先制できれば、彼らの最善のゲームプランが実現する。が、90分戦って結果はスコアレス・ドロー。痛み分けともいえるが、両者とも可能性を第3戦に残している(コロンビアはコートジボワールに勝った)。
●ニッポンは香川と森重を先発から外して、大久保と今野を起用した。前の試合の内容を反映しての変更というべきか。GK:川島-DF:内田、吉田、今野、長友-MF:長谷部(→遠藤)、山口-岡崎、本田、大久保-FW:大迫(→香川)。大迫を引き続き選んだのは意外な感もあったが、前の試合よりはプレイ機会も多く、チャンスにからんでいた。大久保はかなり自由に動いて、中盤の攻撃の流動性が増した形。ギリシャの最終ラインから中盤の間にスペースがあって、ニッポンはここをうまく使って好機を作っていた。前半38分、このエリアで守りを担っていたカツラニスが2枚目のイエローで退場。それまでもニッポンがほとんどボールを保持している展開だったが、これでますます有利になった……と思われたが、ここから流れが悪くなる。一人減ったことでかえってギリシャのゴール前のスペースが埋まってしまう。
●後半開始からニッポンは長谷部に代えて遠藤。おそらく予定通りの交代なのだろうが、前の試合に続いて遠藤のプレイが軽いのが気がかり。攻勢を強めるためにニッポンは香川を投入する。大久保も本田も岡崎もみんな機能しているのにどうするのかと思ったら、大迫を下げた。で、大久保ではなく岡崎をトップに。これは納得の形だろう。ニッポンは攻め続け、ギリシャはひたすら厚く守る。こういう形はニッポンはアジアの戦いで何度も経験しているわけだけど、まさかワールドカップ本大会でこんな機会があろうとは。
●ニッポンは7割程度のボール支配率を保っていたが、ギリシャもコーナーキックやフリーキックになればゴール前にボールを入れて、チャンスを作る。一人多いのでボールは自由に回せるが、最後のギリシャの分厚い壁をこじ開けられず。ディフェンスを何度か崩してはいたし、大久保や内田に決定機が訪れたがノーゴール。終盤、ギリシャはとにかくファウルでいいから体を当てて止めようという守備になり、一方で主審のファウルの判定が一貫性を欠いていてナーバスにならざるをえなかったところもあるだろう。3枚目の交代カードを使う選択肢もあったはずだが、最後の最後は吉田を前線に残した。さすがに放り込みはしなかったが、もうひとつ攻めのアイディアと判断の速さを欠いたか。
●結果が出ずに残念ではあるけど、前の試合のような悔いが残るゲームではなかったかな。ひたすら攻めていてもゴールが遠いこともあれば、4年前のようにほとんど守っていてもゴールが決まることもあるのがサッカー。地力をつけて勝利の蓋然性をどれだけ高めても、最後はおみくじを引かなければならない。今日は大吉だらけのおみくじを引くところまでは到達できたが、ひいてみたら末吉だったという気分。
●第3戦、ニッポンがコロンビアに勝ち、なおかつコートジボワールがギリシャと引き分けた場合は、ニッポンとコートジボワールの得失点差の争いになり、ニッポンがコロンビアに勝ち、なおかつギリシャがコートジボワールに勝った場合は、ニッポンとギリシャの得失点差の争い(その場合ニッポンがかなり有利)になる。つまり、ニッポンがコロンビアに勝ち、コートジボワールがギリシャに勝たないというのが決勝トーナメント進出のための必要最低条件。薄い可能性だが、ほとんど無理というほどは薄くない、十分にありうるケース。いずれにせよ、完全アウェイとなるであろう環境で、コロンビアと正面から攻め合いができれば立派なもの。
●みんな、大丈夫だ、オレたちはスペインとイングランドをリードしているぜ!

ニッポン 0-0 ギリシャ
娯楽度 ★★
伝説度 ★

June 19, 2014

グループB オーストラリアvsオランダ、スペインvsチリ、アウトサイダーなき戦い

オーストラリア●まずは同じアジアの仲間、オーストラリアから。前節スペインを完膚なきまでに叩きのめしたオランダが相手とあって、ほとんどの人がオーストラリアの苦戦を予想したはず。ところがふたを開けてみれば実力伯仲の好ゲームに。前半20分、オランダはロッベンがハーフラインあたりからゴール前まで猛烈な速度で独走して先制ゴール。唖然とするほどの速さ。ほとんど伝説になりかけたゴールだが、その直後、オーストラリアのキックオフからロングボールをケイヒルが鮮やかなボレーでゴールに叩き込んで同点。なんという美しいボレー。ロッベンのスーパーゴールをたった1分で過去の出来事にしてしまった。
●「強豪を恐れない」というのが近年の、そしてとりわけ今大会のテーマ。激しい守備とハードワークを身上にオーストラリアは臆することなく戦った。後半、オーストラリアはPKを得て、逆転に成功。オランダの選手たちの表情に焦りが見えた。もしこのままオーストラリアのリードする時間が長く続けば、この試合は印象深いものになったはず。しかし、後半13分にデパイのスルーパスに抜け出たファンペルシーが同点ゴールを決めると、後半23分にさらにデパイのゴールが生まれて逆転。結局3-2でオランダの順当勝ちに。しかし、アジアのわれわれから見ると、オーストラリアは世代交代に苦労して下り坂をたどっているように思えたチーム。そのオーストラリアの若いチームがオランダをこれだけ苦しめたことに勇気づけられる。少なくとも、あちら側にロッベンとファンペルシーがいたことくらいしか、両者に差はないと信じられる。
スペイン●一方のスペイン対チリ。オランダに大敗したスペインは、シャビをベンチに置き、ジエゴ・コスタとペドロ、ダビド・シルバ、イニエスタを先発させ攻撃的な布陣を敷く。ところが、試合開始からチリがゲームを完全に支配する。場内にはチリ・サポーターの圧倒的な声援。ジエゴ・コスタとカシージャスにブーイング。あのスペインがボールを保持できない。パスをつなぐチリ。どっちが「ティキタカ」なんだか。いや、チリは昔から「ティキタカ」を夢見てプレイしていたのであって、今やついにそれにふさわしいタレントを獲得しただけなのかも。オランダ戦の大敗をきっかけに、スペインの魔法が解けてしまったかのよう。いったいどうして、彼らは延々とパスを回し続けることができたのか、今となってはまったく思い出せない。
●前半20分、ゴール前でアランギスのグラウンダーのクロスがバルガスへ。バルガスは目の前のキーパー、カシージャスを柔らかいファーストタッチで交わして、すぐさまスペインのカバーが入る寸前にシュートして先制。前半43分の追加点はフリーキックから。サンチェスのシュートをカシージャスがパンチングで防ぐが、このボールが中途半端でアランギスの足下へ。アランギスがこれを蹴り返して2点目。カシージャスのパンチングはミスだろう。チリのキーパー、ブラボの安定感とは対照的だった。
●2点目を奪われ、スペインの選手たちはますます下をうつむいてプレイするように。とはいえ、前半からチリは飛ばしてきている。後半になって運動量が落ちれば、スペインのウイイレ名人みたいなイジワルなパス回しが復活するのでは? と思っていたが、後半になって中盤が間延びしても、ゲームを支配していたのはやっぱりチリ。前がかりになったスペインに対して、カウンターから3点目を奪うチャンスを何度も迎える。チリは少し決定機をムダにしすぎたかもしれない。後半のアディショナルタイムが6分もあって、なにかが起きる可能性はあった。スペインはフェルナンド・トーレスやサンティ・カソルラといった選手を投入したが、1点が遠い。結局、チリが完勝して、このグループはともに2連勝のチリとオランダの勝ち抜けが早々に決まった。歓喜に包まれるスタジアム。南米で開催するっていうことは、こういうことなんすね。さらば、前回王者。

オーストラリア 2-3 オランダ
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★

スペイン 0-2 チリ
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★★

June 19, 2014

グループA ブラジル対メキシコ、美しいスコアレスドロー

ブラジル●ここから各チーム2試合目に。ホスト国ブラジルはメキシコと対戦。近年の戦績に関していえば、この両者は意外にもメキシコが勝ち越しているのだとか。事実、メキシコは最初から最後までブラジルを恐れずに戦い抜いた。ともにインスピレーション豊かな見ていて楽しいフットボールを好むチーム、しかも1試合目にすでに勝点3を獲得しているとあって、オープンで見ごたえのある試合になった。楽しい。
●ブラジルはフッキがケガということで、代わってラミレスを先発起用。フレッジ、ネイマール、オスカルらの攻撃陣。メキシコにもドス・サントスや途中出場のエルナンデスといったタレントがいるけど、なんといってもベテラン・センターバック、マルケスの健在ぶりが頼もしい。バルセロナ時代の活躍を思い出す。
●前半はブラジルが攻勢だったか。パスワークとドリブルで何度か好機を作っていたが、最後の最後でメキシコのキーパー、オチョアがゴールを防ぐ。オチョアは前後半にわたってファインセーブを連発して試合を引きしめた。後半は途中まではメキシコが主導権を握っていたと思う。たびたび惜しい形を作ってブラジルを追いつめた。ただ、後半の途中からはメキシコの運動量も落ちてくる。ブラジルはフレッジに交代して入った大型フォワードのジョーを中心に再度試合のペースを取り戻したが、最後までオチョアの守るゴールを破ることができず。しかし意表をついた個人技や流れるようなパス回しなど、両者ともにスペクタクルでなおかつ十分にファイトするゲームとなって、自分が見たなかでは今のところ今大会のベストマッチ。ボール支配率もブラジル53対メキシコ47、シュート数も拮抗していて、数値の上でも互角の戦いだった。
●今大会、気候条件が厳しいのか、後半の途中から運動量が急激に落ちる試合が多いような気がする。前半は詰将棋みたいなタイトな中盤を争っていても、後半途中からは選手間の距離が開いて、中盤がうんとゆるくなる。この試合で言えばブラジルはウィリアン、メキシコはエルナンデスとスピードのあるアタッカーを終盤に投入していたが、こういう選手たちが元気な状態で入ってくると、もうだれにも止められなさそうなもの。たまたまこの試合はスコアレスに終わってしまったわけだけど。

ブラジル 0-0 メキシコ
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

June 18, 2014

グループG ドイツ対ポルトガル、進撃のドイツ人

ドイツ●開催国ブラジルが世界中のサッカー・ファンにとっての永遠のアイドルだとすれば、ドイツは大会に不可欠の嫌われ者だろうか。とにかくワールドカップになると憎らしいほど強い。異常なくらいの決勝進出率を誇る。選手たちはフィジカルにすぐれ、よく走り、規律があって、気持ちが強くて、あきらめない。しかも大男たちのチームと思っていたら、最近はどんどんテクニシャンもあらわれて、スペクタクルな攻撃も見せるようになってきて、もうホントに手が付けられない。ここ最近はスペインの「ティキタカ」職人芸サッカーがかろうじてドイツを食いとめてくれていたのだが、いよいよスペインに黄昏が訪れたのだとしたら、だれがドイツを食い止められるのだろうか。
●なのでポルトガル目線で試合を見たが、恐れていた通り、あの技巧派ぞろいのポルトガルがボールを保持できない。ドイツの中盤の鋭いプレスにどんどんボールを失う。クリスチャーノ・ロナウドだけは別格だが、どこか悟ったような表情にも。
●前半12分、ゲッツェがペレイラに倒されてドイツはPKをゲット。ミュラーが難なく決めて1対0。前半32分にはクロースのクロスボールにフンメルスが頭で合わせて2対0。その後、ペペがつまらないレッドカードをもらってしまい退場、試合はあっさりと壊れた。こうなるともう試合をまじめに見るのは難しい。前半アディショナルタイムに3点目、後半33分に4点目が入って、ドイツが4対0で勝利。ポルトガルにはなんの可能性もなかった。ドイツはあまりにもドイツらしく開幕を迎えた。スタンドで大喜びするメルケル首相。せめてブラジルで開催された今大会くらいは、決勝で南米対決を見たいものだが……。
●そうそう、終了直前のポルトガルのフリーキックの場面で、ドイツは壁を2枚しか立てなかった。「壁不要論」を思い出す。

ドイツ 4-0 ポルトガル
娯楽度 ★
伝説度 ★

June 17, 2014

グループF アルゼンチンvsボスニア・ヘルツェゴビナ、決断力の勝利

アルゼンチン●注目の一戦。今大会唯一の初出場国ボスニア・ヘルツェゴビナ。国家が、そしてサッカー協会までもが民族ごとに分断されるという異常な事態に陥っていたボスニア・ヘルツェゴビナにおける、元ニッポン代表監督オシムの尽力は「オシムの言葉 増補改訂版」(木村元彦著/文春文庫)に詳しい。心情的には応援したくなるし、マンチェスターシティのジェコを擁するチームだけに相当な躍進もありうるはず。しかし、一方でアルゼンチンの華やかな攻撃陣の活躍も見たい。もっといえば、メッシの復活を見たい。いや、メッシはいつだってスゴかったはず。が、試合でも練習でもたびたび嘔吐し、いくら検査を重ねても異常は見つからないと伝えられる今のメッシの状態はどうなんだろう。
●おもしろいことに両チームとも慎重な布陣でゲームに臨んだ。ボスニア・ヘルツェゴビナはジェコの1トップにして、もう一人のゴールゲッター、イビシェビッチをベンチに置いた。監督はかつての名選手スシッチ。一方、アルゼンチンのサベーラ監督は予想に反して3バックを採用。3-5-2でメッシとアグエロの2トップを組んだ。中盤にはディマリアも。イグアインはベンチ。開始早々の前半3分、アルゼンチンのフリーキックでメッシが蹴ったボールが相手ディフェンダーの目の前でコースが変わり、そのままディフェンスに当たってオウンゴール。ボスニア・ヘルツェゴビナには不運としかいいようのない先制点が生まれる。メッシはひんぱんに中盤に下がってプレイメイカー的な役割をこなすが、巧みなドリブルもハーフライン近辺では相手への脅威にはなりにくい。前半はアルゼンチンが1対0でリードして終えたが、ボスニア・ヘルツェゴビナにとっても手ごたえのある45分だったはず。
●ここで驚いたのがサベーラ監督の決断力。1点リードしているにもかかわらず3-5-2を見限って、なんと後半の頭から2人の選手を交替して、4-4-2のより攻撃的な布陣に変更した。ディフェンスのカンパニャーロを下げて、フォワードのイグアインを投入、さらにマキシ・ロドリゲスに代えて配給力のあるガゴへ。アルゼンチンはメッシ、アグエロ、イグアイン、ディマリアが並び立つ豪華布陣になった。すると後半は見違えるように攻撃がスムーズに。後半20分にはイグアインとのパス交換からメッシがディフェンスを交わしてシュート、ボールはポストに当たってゴールへ。2対0。メッシのゴールに安堵するとともに、勝ってるのにこんな采配をできる監督に驚く。もっとも、最初からこの布陣でよかったじゃん、と思わなくもないが。
●これで試合はすんなり終わりそうな気配だったが、ボスニア・ヘルツェゴビナはイビシェビッチを投入して2トップに。後半40分、スルーパスに抜け出してそのイビシェビッチがゴール。2対1。ここからがドタバタで、両チームとも消耗が激しく、走れない。選手間の距離は大きく広がり、中盤省略の大味な攻め合いに。どちらにも容易にゴールが生まれる状況になったが、守るほうも走れなければ、攻めるほうも腰が入らないで、結局そのまま2対1で試合終了。
●これでもってメッシが本調子かといわれるとそうともいえないんだけど、かといってこれだけの活躍でまだ不足といわれても。歴史上最高のサッカー選手がまったく幸福そうに見えないことが悲しい。

アルゼンチン 2-1 ボスニア・ヘルツェゴビナ
娯楽度 ★★★
伝説度 ★

June 16, 2014

グループC コートジボワールvsニッポン、屈辱の逆転負け

コートジボワール●心の準備もできていないままに早々にニッポンの第1戦。ニッポンの先発はトップに大迫を置いたのがやや意外。センターバックは森重と吉田、セントラルMFには山口と長谷部ということで、今野、遠藤がベンチに。GK:川島-DF:内田、吉田、森重、長友-MF:山口、長谷部(→遠藤)-岡崎、本田、香川(→柿谷)-FW:大迫(→大久保)。序盤はニッポンもコートジボワールも動きが鈍く重苦しい展開だったが、前半16分、左サイドから香川、長友、本田とボールがわたって、本田がすばやく左足を振りぬいて先制ゴール。しかしうまくいったのはここまで。
●その後はコートジボワールの攻撃にニッポンが耐える展開に。ギリギリのところで守っていたともいえるし、コートジボワールのフィニッシュの雑さに救われたともいえる。後半9分に長谷部から遠藤へ予定通りの交代、コートジボワールも後半17分にドログバを投入。ドログバの存在感はすさまじい。コートジボワールが攻勢を強め、後半19分と後半21分に立て続けに、しかもまったく同じ形でゴールを奪って、一気に逆転した。ニッポンの左サイドを破られ、高速クロスボールをゴール前に入れて、どんぴしゃで頭で合わせられるという形。クロスを入れる選手がノープレッシャーだと、これだけの精度のボールが入ってくる。だれかがあそこで行かなければいけなかったわけだが……。
●その後、大久保、柿谷を入れるが、遠藤も含めて交代選手はほとんど何もできず。チャンスの数も非常に少ない試合で、終盤にはやらないはずのパワープレイまで飛び出した。やりたいことをなにもできずに、やりたくないことをやらされたという試合。ザッケローニの攻めきるためのメンバーは、ニッポンがポゼッションで優位に立つことが前提になっているが、前から追ってもプレスが十分かからず、ポゼッションで劣位に立ったときにどうするか。そして左サイドの争いは完敗。香川は守備に追われてほとんど埋没し、しかもこのサイドからの2失点。しかし失点以前に気になったのは、前半からニッポンが攻めに出ようとした段階でのイージーなパスミスが多かったこと。あわや相手のカウンター天国寸前。ミスの積み重ねが後半の消耗を生んだのかも。攻守にわたってプレイのダイナミズムを欠いた。
●コロンビアは3-0でギリシャに大勝したので、グループCは大方の予想通りコロンビアとコートジボワールの二強と思われているだろう。しかし次戦ニッポンがギリシャに勝てばまだまだ挽回の可能性はあるはず。

コートジボワール 2-1 ニッポン
娯楽度 ★★
伝説度 ★
(★は5点満点)

June 15, 2014

エンリコ・オノフリ&オーケストラ・アンサンブル金沢定期公演

●12日は石川県立音楽堂でエンリコ・オノフリ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢定期公演。羽田から小松空港へ飛んだが、北陸新幹線が開通すれば電車のほうが実質的には速くなるので、この空路はもう使わなくなるはず。なにしろ県立音楽堂は金沢駅の目と鼻の先。
●オノフリがOEKに登場するのは今回が2回目。前回はヴァイオリンを常に弾きながらアンサンブルをリードする形だったが、今回は前半はヴァイオリンを持ってヴィヴァルディ、後半は指揮台に上ってモーツァルト&ハイドンの2部構成。森麻季さんがヴィヴァルディ「グリゼルダ」の「2つの風にかき乱されて」他を歌ってくれた。前半のヴィヴァルディも精彩に富んでいたが、後半のハイドン「軍隊」が圧巻。やりたいことを存分にやったかのようなピリオドなスタイルで、この作品が作曲当時の文脈で持っていたであろうキャッチーな派手派手しさがよく伝わってくる。アグレッシブで躍動感にあふれたハイドン。作曲者がザロモンのオーケストラでついに手にしたフル装備の2管編成+軍楽隊ギミックが、いかに巨大なものだったことか。もっと指揮者としてのオノフリも聴きたくなる。客席の反応も非常によく、まれにみる大成功だったのでは。LFJに初登場したときのディヴィーノ・ソスピロとのモーツァルトを思い出した。

June 15, 2014

グループB「まさかのスペイン敗退」があるかも? スペインvsオランダ、チリvsオーストラリア

スペイン●まずはスペインvsオランダの好カード。これは4年前の決勝の再現。しかし結果は衝撃的な1対5で、だれも想像できなかったスペインの大敗に。
●今回のスペイン代表チームの最大の驚きは、トップにジエゴ・コスタが入ったこと。ブラジル代表とスペイン代表のどちらも選択できるという立場で、なんと、スペイン代表を選んだ。おかげでジエゴ・コスタがボールを持つたびに場内からブーイングが。しかしこれが実に妙な光景に映る。
●これまでのスペインは、彼らが調子よく「ティキ・タカ」(細かく正確なパス回しのサッカー。ワタシの言い方では「ウイイレ名人」)のサッカーをすればするほど、トップにメッシの不在を感じさせた。そこにいるべきメッシがいない。そりゃいない。彼はアルゼンチン人なんだから。だからノートップのサッカーをやったり、フェルナンド・トーレスを置いたりしていたわけだ。奇跡の才能がそろってるけど、9番だけがいない。ところが、そこにアルゼンチン人ではなくブラジル人の正真正銘の9番が突然入った。ジエゴ・コスタはブラジル代表を選んでも絶対的エースになったはず。だって、フレッジとかフッキが先発してるんだから。スペインでフェルナンド・トーレスやビジャとポジションを争うほうが大変なくらいだ(一昔前ならスペインよりブラジルのトップのほうがタレント不足だなんてありえない話だが……)。
●スペイン代表に欠けた最後のピースである9番にジエゴ・コスタが入ったことによって、ガラガラと音を立てて「ティキ・タカ」は崩壊した……というのは一面的な話で、リアリスト、ファン・ハール率いるオランダ代表の策略が勝ったというべきか。ディフェンスを5枚入れた5-3-2、といっても局面によって柔軟なポジショニングがとられていたようだが、ともあれポゼッションで対抗する気はなく、厳しく鋭い守備ブロックを敷いて、攻撃時にはロッベン、スナイデル、ファン・ペルシーの突出した個の力に全面的に頼るという戦略。華麗なパス回しではなく、パス一本で好機を作って、次々とゴールを奪った。ファン・ペルシー、ロッベン、デフライ、ファン・ペルシー、ロッベン。一発パンチを受けるたびにスペインがガタッと膝をつく。微妙なPKでスペインが先制ゴールを奪ったことなど、だれも覚えちゃいない。
●オランダの4点目は、カシージャスの足のコントロールミスがすべて。カシージャスは所属チームのレアルマドリッドでは控えキーパーだったのに(カップ戦のみ先発)、代表では正GKなんすよ。そしてレアルマドリッドの正GKのディエゴ・ロペスはスペイン人なのに、このスペイン代表には呼ばれていない。奇妙なことだけど、監督が決めることだから。
●暑かったようなので、フィジカル・コンディションの面でオランダが勝っていた部分も少なからずあったのかも。
●さて、これまで嫌になるほど勝ってきたスペインが大敗したことで、これからどうなるのか、さっぱりわからなくなってきた。わからなくなったのはグループBの行方でもあり、世界のフットボールの趨勢でもあり。グループBのもう一試合、チリvsオーストラリアが引き分けることを全宇宙のスペイン代表ファンが望んだはずである。しかしチリは最終ラインに至るまで背は低いが足元は巧い選手を並べるという志のスーパー高いサッカーを展開して、開始早々アレクシス・サンチェス、バルディビアがあっさりとオーストラリアから2ゴールを奪った。実力差は大きいように見えたが、試合が進むにつれて、フィジカルで圧倒的に勝るオーストラリアがペースをつかむ。ベテラン、ケイヒルが1点を返し、得意の空中戦で体力勝負に。しかし最後はチリが試合巧者ぶりを発揮して、うまく時間を使いながら交代出場したボーセジュールがとどめを刺して3対1。
●今後、スペインが巻き返すにしても、チリとは大きな得失点差がでてきている。スペインのグループリーグ敗退が十分ありえる展開になった。たとえば3試合目にオランダとチリが仲良く引き分けて両者勝ち抜けるという可能性もあると思うのだが、どうだろう。

スペイン 1-5 オランダ
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★★

チリ 3-1 オーストラリア
娯楽度 ★★
伝説度 ★
(★は5点満点)

June 13, 2014

開幕!ワールドカップ2014ブラジル大会 ~ ブラジルvsクロアチア

ブラジル●さて! 4年に一度の祭がやってきた。ワールドカップ2014ブラジル大会が開幕。開幕カードはブラジル対クロアチア。今回の開催国ブラジルの見どころは、ずばり、弱そうなところ。歴代ブラジル代表の超豪華攻撃陣に比べると、トップのフレッジは国内組だし、フッキ(元Jリーガー)はロシア・リーグだし、ネイマールはバルセロナ所属のスーパースター候補だが、現在のフットボール界を代表するような存在かといえばまだまだ。お隣アルゼンチンあたりの恐るべきアタッカー陣と比べれば、かなり寂しい。ただ、伝統的にこのチームの肝ともいえる両サイドバックには、ダニエウ・アウベスとマルセロというブラジルならではの攻撃力を誇るタレントがいるが……。開催国じゃなければ決して優勝候補にはあがらないチーム。でも優勝してほしい。そのほうが大会が盛りあがるから。
●対するクロアチアは、たとえ相手が開催国ブラジルだろうと決して恐れずに戦える好チーム。ベンチの青年監督はあのニコ・コヴァチ。かつて代表選手として活躍、二個小鉢と呼ばれたニコ・コヴァチ。前半11分、いきなりクロアチアが先制。オリッチ(まだ元気)が左サイドからグラウンダーのクロスを入れると、イェラヴィチにかすかに触れてコースが変わって、これをブラジルのマルセロが足に当てて痛恨のオウンゴール。呆然とするマルセロ。でもマルセロは無罪だと思うぞ。
●主審は日本の西村雄一さん。前半27分、ネイマールにイエローカードを出したが、これは開催国の開幕戦などでなければレッドカードの可能性もあったかもしれない。その直後、ネイマールがドリブルから左足で低いグラウンダーのミドルシュート。ボールはうまく足に当たらなかったはず。しかし当たらなかったボールがゴール右隅ギリギリのここしかないというコースに飛んで、1-1の同点とした。こういう場面を見ると、ネイマールはスターになるべく生まれてきた選手だなという気がする。
●しかし、クロアチアは十分にゲームプランに沿って試合を進められていたと思う。勝点1でも取れれば御の字の試合、ハードワークによってリスクを抑えながらもいくかのチャンスを作り出して、場面によってはフィジカルで相手の優位にも立てたはずなのだが、後半26分、フレッジがペナルティエリア内でロブレンに倒されたというか、進んで倒れたことでPKを得てしまった。ああ……西村主審、それを取るかあ。キッカーはネイマール。キーパーのプレティコサはコースを読んで手に当てたが、決まってしまう。これでブラジルの選手たちから硬さが取れ、一気にゲームは平凡な展開になってしまった。確かにフレッジに手はかかってた。かかってたけど、それをフレッジがうまく利用して、やや「ダメモト」の罠でまんまと主審を陥れてしまった感が強い。あれでPKは残念。ただ、欧州の主審でもあれを取る人はいくらでもいるだろう。取る人もいるし、取らない人もいる。判定とはそういうもの。
●アディショナルタイムになって見せたオスカルの妙技は、少しだけこの試合を救ってくれた。ドリブルで持ちあがって、ペナルティエリアの手前から巧妙にキーパーのタイミングをはずしたトゥーキックでゴールを決めた。まさにブラジル風味。

ブラジル 3-1 クロアチア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★
(★は5点満点)

June 12, 2014

羨望は人間の弱さ

●この一件は「ジョゼフ・ミナーラ事件」として記憶に留めておこう。イタリアのラツィオのユースチームに所属するカメルーン人ミッドフィルダー、ジョゼフ・ミナーラ選手の年齢に疑念が寄せられていた。登録上は17歳なのだが、写真で容貌を確かめると、どう見てもオッサンである。「実年齢は42歳、パスポートを偽造しているのではないか」とメディアから疑われていたが、イタリアサッカー連盟が調査に乗り出したところ、本当に17歳だったことが判明した。
●以前からアフリカ系や中東系の選手については年齢詐称疑惑が絶えなかった。実年齢より若く偽装できれば、年代別カテゴリーの代表チームで活躍しやすくなるし、有力クラブのスカウトからも注目されやすい。年齢なんて書類に書いてある以上の真実はだれにも容易にはわからないんだから、1つ2つのサバを読んでそのままキャリアを積んだ選手も少なからずいるとは思う。しかし、いくらなんでも42歳はないだろう。ジョゼフ・ミナーラは4月にトップチームでのデビューも果たしている。
●年齢詐称の疑いが晴れて、ミナーラはTwitterで「羨望は人間の弱さだ」とつぶやいた。うーむ、この含蓄深さ、やっぱり42歳のオッサンなのでは?

June 11, 2014

コパチンスカヤ週間

●10日はトッパンホールでパトリツィア・コパチンスカヤのヴァイオリン。同ホールの前回公演では無伴奏プロだったが、今回はピアノにコンスタンチン・リフシッツ。前半にC.P.E.バッハの幻想曲嬰ヘ短調Wq80、シマノフスキの「神話―3つの詩」Op.30、シェーンベルクの幻想曲Op.47という「ファンタジー」プロ、後半にプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番。スリリングかつ獰猛なリリシズムを満喫。憑依妖精コパチンスカヤ。闊達で開放的なリフシッツのピアノはかなりキャラクターが違うが、プロコフィエフではうまく相互作用して大きな音楽が生み出された。この曲、ほかのプロコフィエフの戦後作品と同様にいまひとつ苦手だったんだけど、はじめて心底すばらしいと思えたかも。前半シェーンベルクもあたかもコパチンスカヤのための作品のよう。アンコールはなし。
●8日はNHKホールでN響定期。指揮はアシュケナージ、ソリストにコパチンスカヤのロシア・プロ。グラズノフの交響詩「ステンカ・ラージン」で始まり、続いてプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番。一瞬にして客席を引きつけるコパチンスカヤの強烈なパーソナリティが、3600席の巨大なNHKホールでも伝わることを確認。冒頭のソロからコパチンスカヤ劇場開始で、鋭利で濃密なプロコフィエフに。この日も裸足で演奏。アンコールにはホルヘ・サンチェス=チョンの「クリン」を弾いてくれた。発声しながら(ときには奇声をあげながら)ヴァイオリンを弾く短い作品なんだけど、演奏中もなんどもどっと笑いがこぼれて、客席からめったにないくらい生き生きとした反応が返ってきた。これは前回のトッパンホール公演でも弾いた曲だけど、トッパンのお客さんはこういう作品にも慣れているのか、演奏中はじっと静かに聴いて、終わったところではじめてドッと笑ったのを思い出す。後半はがらりと世界が変わって、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」第2幕。組曲で聴く有名曲の大半が入っていて、おまけにそれ以外にも親しみやすい曲がいくつもあって、無尽蔵のメロディメーカーぶりを感じさせる。ひきしまった演奏で、組曲版では味わえない充足感があった。

June 10, 2014

ラザレフ&日本フィル記者会見「ラザレフが刻むロシアの魂 Season3 ショスタコーヴィチ」

ラザレフ&日本フィル記者会見
●遅ればせながら、3日の日本フィル記者会見について(ANAインターコンチネンタルホテル東京)。首席指揮者アレクサンドル・ラザレフ、平井俊邦専務理事他が登壇して、9月から始まる新シーズン「ラザレフが刻むロシアの魂 Season3 ショスタコーヴィチ」について抱負を語った。ラザレフと日本フィルはすでに3月にショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」を演奏しているが、これに続くショスタコーヴィチ・シリーズとして、10月には交響曲第4番、来年3月にピアノ協奏曲第2番(イワン・ルージン)と交響曲第11番「1905年」、来年6月に交響曲第8番が演奏される。「交響曲第15番までの交響曲がすべて詰めこまれている」という先見的な交響曲第4番、「プロパガンダの音楽ではなく他の傑作同様、深い音楽である」という交響曲第11番「1905年」、前作第7番とは異なり「オプチミズムも勝利もない」交響曲第8番という3作の選択が興味深い。
●「交響曲第4番は(演奏が)難しい作品。難しいというか、超難しい。しかし日本フィルはリハーサルが大好きなのです。私がもう今日はこのくらいにしたいといっても、楽員たちはお願いだからもっとリハーサルをしてくださいと懇願するのです」と語って笑いを取るラザレフ。ラザレフは一分もムダにしない精力的なリハーサルで知られている。
●質疑応答のなかで披露されたラザレフの昔話がおもしろかった。「モスクワ音楽院の学生だった頃、ショスタコーヴィチは音楽院の近くに住んでいた。学生たちはだれもがショスタコーヴィチを深く尊敬していたけれど、ベートーヴェンのような遠い存在ではなく、いつもそこにいる身近な存在だった。音楽院のホールでは前から6列目にショスタコーヴィチの指定席があった。5列目と6列目の間の通路は広かったので、大柄なショスタコーヴィチも足を伸ばして座ることができた」
●「60年代に、カラヤンとベルリン・フィルがモスクワにやってきて、ショスタコーヴィチの交響曲第10番を演奏した。チケットの入手はきわめて困難。チケット売り場に長蛇の列ができていたが、先頭に割り込んで、無理やりお金を渡してチケットを奪った。後ろからものすごい力で引っ張られて、振り返ると大柄な女性だった。君はすごい力持ちだねと称えつつも、チケットは手放さなかった」
●「ゲネプロを見学していると、ショスタコーヴィチ本人があらわれた。ベルリン・フィルの団員たちはリハーサルそっちのけで、ショスタコーヴィチと写真を撮り始めた。ラザレフにとってはいつも見かける姿なので、なぜそんなに撮影するのか不思議に思った。ベルリン・フィルはすばらしかった。オーケストラの演奏の質は高い。しかし、カラヤンのドラマトゥルギーは細切れであまりよくなかった。演奏会は拍手喝采で終わった。全員が立ち上がってショスタコーヴィチに向かって拍手をすると、カラヤンはショスタコーヴィチをステージに上げた。客席の反応はすさまじく、今までに見た一番の成功だったが、演奏はムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルのほうがおもしろかった。そこが音楽の興味深いところだ」

June 9, 2014

エンリコ・オノフリ・ヴァイオリン・リサイタル

●7日はエンリコ・オノフリのヴァイオリン・リサイタルへ(石橋メモリアルホール)。共演は杉田せつ子(ヴァイオリン)、桒形亜樹子(チェンバロ、オルガン)。「趣味の混淆」の題が添えられ、ヴィヴァルディ、コレッリ、テレマン、バッハ、ルクレール、ビーバー、生誕300周年を迎えたC.P.E.バッハと、バラエティに富んだ曲目。クープランの「趣味の混淆または新しいコンセール集」第14番第1曲を幕開けの音楽として、切れ目なくヴィヴァルディの「ラ・フォリア」へ。共演者との丁々発止の応酬によるスリリングな変奏曲。続く曲目でも、鮮やかな技巧、雄弁で歌にあふれたヴァイオリンを満喫。テレマンの2つのヴァイオリンのための「ガリヴァー組曲」は以前にも同コンビで聴いたユーモラスというか、コミカルな曲で実に楽しんだけど、今回はプログラムの最後に置かれたC.P.E.バッハのトリオ・ソナタ「陽気と憂鬱」もかなりおかしい。2台ヴァイオリンにそれぞれ対照的な「役柄」を与えるという点ではテレマンの終曲にも通じていて、「陽気」を奏でる第一ヴァイオリンと「憂鬱」を奏でる第二ヴァイオリンの芝居がかった対話?が愉快。ニールセンの交響曲第2番「四大気質」とか、ヒンデミットのピアノと弦楽オーケストラのための「4つの気質」とか、四大気質を題材にした作品があるじゃないすか。古代ギリシア時代の人間の気質の分類である、多血質、胆汁質、憂鬱質、粘液質の4つの気質。C.P.E.バッハは、そのなかの多血質(陽気)と憂鬱質(憂鬱)の2つを選んでトリオ・ソナタ「陽気と憂鬱」としたわけだ。広義の「四大気質」名曲の一曲として覚えておこう(笑。ほかにも何かあったっけ?)。
●オノフリのトレードマークとなりつつある自身の編曲によるバッハ「トッカータとフーガ」ヴァイオリン独奏版を今回も披露。演奏中に「パン!」と大きな音を立てて、弦が切れた。これにまったく動じることなく、客席に事情を説明してから袖に入って、5分ほどで再登場。この日は、別会場の公演でシギスヴァルト・クイケンの弦も切れたとか。延々と雨が降り続く梅雨の東京。ガット弦には厳しい季節なのか。
●オノフリはこの後、金沢へ。12日(木)のオーケストラ・アンサンブル金沢定期公演に出演する。前半はヴィヴァルディ、後半はハイドン「軍隊」他のバロック&古典派の2本立て。モダン・オケ相手のハイドンでどういう指揮をするのか楽しみなところ。お近くの方はぜひ。

June 8, 2014

ニッポンvsザンビア@W杯前最終テストマッチ

ニッポン!●あとは本番を迎えるだけ。ワールドカップ・ブラジル大会前の最後のテストマッチ、ニッポンvsザンビアがアメリカで行われた。ザンビアは本大会に出場していないのに、すごくしっかりしたチームを組んで戦ってくれた。ワールドカップへの出場歴こそないが、2012年のアフリカネイションズカップには優勝しているので、強国といっていいはず。
●ニッポンは前半9分、前半28分と立て続けに失点して苦しい展開に。しかし、そこから3ゴールを奪って逆転し、さらに1失点して追いつかれるも、最後に4点目を奪って4-3で勝利するという、非常に大味なゲームになった。ザッケローニの23人の選択そのもの、つまり攻撃優先が結果という目に見える形になってあらわれたという印象。端的にセントラルMFに一対一の守備に強い細貝を選ばずに、展開力のある青山を選んだことにあらわれていると思うんだけど、序盤の連続失点は中盤の守備の脆弱さを感じさせたし、一方で最後の決勝点は青山が難度の高い縦の長いパスをぴたりと大久保に合わせて生まれたゴールだった。守備が弱くて、攻撃が強い。この傾向は否定しようがない。
●出場選手は以下の通り。GK以外はこの先発メンバーをそのまま本大会の第一戦に起用するつもりだったのだろう。GK:西川-DF:内田(→酒井宏樹)、今野(→森重)、吉田、長友-MF:遠藤(→青山)、山口-岡崎(→大迫)、本田、香川(→齋藤)-FW:柿谷(→大久保)。
●懸案のワントップ、柿谷の調子はもうひとつで、絶好調の大久保を使う手もあるのかと思えば、大久保がトップに入ったのはごくわずかな時間で、大迫が入ってからは2列目に入った。結論が出なかった感も。頼みの本田も本調子には程遠い。このまま本大会でも不動のレギュラーになるのだろうか。長友はキレキレ。長谷部はベンチに置かれることになりそう。吉田や遠藤、今野など、従来の絶対的レギュラーも先発は確定していないと見ていたのだが……。90分を通していちばん盛りあがった瞬間は、終盤、本田のゴールを生んだ森重のクロス。とてもセンターバックとは思えないこじゃれたフェイントでスマートなクロスボールを入れた。これには大笑い。
●なんだかコンディションがパッとしないままに本大会を迎えることになってしまった。なんだか調子悪いなーと思いつつも、終わってみれば直前テストマッチを3連勝。中身と結果がちぐはぐな状態で、これは吉と出るのか凶と出るのか、さっぱりわからない。3連勝しても驚かないが、3連敗しても驚かない。……いや、3連勝したら驚くか。幸運を祈るしか。

June 6, 2014

ネゼ=セガン&フィラデルフィア管弦楽団のモーツァルト&マーラー

●最初に名前を聞いたときは「なんて覚えにくい名前なの」と絶句したヤニック・ネゼ=セガン。でも近年の八面六臂の活躍ぶりでもうすっかり名前を覚えた。すらすらと口から出てくる。どうしても覚えられない方は心のなかでネゼッチっと呼ぶが吉。
●3日はサントリーホールでヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団へ。モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」とマーラーの交響曲第1番「巨人」。ようやく実演に接して、これまでベルリン・フィルDCHやCDで漠然と感じていたネゼ=セガンのキャラクターがくっきりと像を結んだという感じ。特にモーツァルトが特徴的で、次から次へといろんなアイディアを繰り出して、まるで即興的に生み出されたかのような音楽を作り出す。反面、一貫性がなくて落ち着かないという気も。才気煥発としていることはたしか。
●楽しかったのは後半の「巨人」。輝かしくて若々しいマーラー。精緻というよりは、勢いがあってのびやか、オケの音色も明るい。小柄なネゼ=セガンのアクションがどんどん大きくなって、最後はブレーキが利かないまま猛進してゴールに突入したかのよう。大喝采の客席にこたえて、アンコールにバッハ~ストコフスキの「小フーガ」。フィラデルフィア管弦楽団の財産とでもいうべきレパートリーで、これはさすが。録音ではそんなに聴きたい曲ではないんだけど、実演だと各奏者の腕自慢的な要素もあって胸がすく。
●すぐれた指揮者には意外と小柄な人が多い。筆頭はレナード・バーンスタイン。実演で目にしたとき、なによりもその背の低さが衝撃だった。あんなに出てくる音楽は大きいのに。

June 4, 2014

ベルリン・フィルの自主レーベル「ベルリン・フィル・レコーディングス」記者会見

「ベルリン・フィル・レコーディングス」記者会見
●3日午前はザ・キャピトルホテル東急で「ベルリン・フィル・レコーディングス」の記者会見へ。すでに当ブログではお伝えしているが(該当記事)、ベルリン・フィルもついに自主レーベルをスタートさせることになった。第1弾はラトル指揮による「シューマン/交響曲全集」。音楽CDに加えて、ブルーレイディスクによる映像とハイレゾ音源、さらに高スペック(192kHz/24bit)のハイレゾ音源ダウンロード用コードなどがぜんぶセットになった豪華仕様である。しかも布張りハードカバー。日本国内ではキングインターナショナルが発売することになった。国内仕様のパッケージには9000円(税抜)の価格が添えられている。
●会見に出席したのは、ベルリン・フィルのソロ・チェロ奏者でありメディア代表のオラフ・マニンガー(写真中央)とベルリン・フィル・メディア取締役のローベルト・ツィンマーマン(右)、そしてキングインターナショナルの竹中善郎代表取締役社長の各氏。ベルリン以外でこのような会見を行うのは日本だけ、しかも彼らはこの会見のためだけに来日している。というのも「日本とドイツだけがCDやDVDをお店で買うという伝統的な買い物スタイルが健在だから」(ツィンマーマン氏)。「日本人もドイツ人と同じように、製品を物として楽しみたい、所有する喜びを大切にしている。だから、持つことが楽しくなる商品を作った。単なるCDではなく、ブルーレイディスクの映像とハイレゾ音源を用意し、さらにデザインにも非常にこだわった。カバーデザインはオリジナルの創作磁器花瓶でシューマンをモチーフとしている。決して今回が最初のリリースだからこのような特別な作りになっているわけではない」(マニンガー氏)。なお、8月にはLPバージョンもリリースするとか。
●気になる今後のリリース予定だが、8月にセラーズ演出、ラトル指揮のバッハ「ヨハネ受難曲」と「マタイ受難曲」(新デザイン)のブルーレイビデオ/DVD、10月にアーノンクール指揮のシューベルト交響曲全集のCD+ブルーレイ・オーディオ+ダウンロードが発売される。
●サイモン・ラトルはビデオメッセージで登場。「レコード業界は変わりました。今後、どのように発展するのか、見通しがつきません。メジャーレーベルの社員の顔は毎週のように変わります。レコーディング・ビジネスの今後はとても不透明です。ニューヨークに行けば、タワーレコードがなくなったことに気づくでしょう。根本的な変化が起きています。そんな状況でなにをすべきか。わたしたちは自分自身で舵を取らなければいけません。つまり、自ら録音をリリースする。われわれは自分たちで責任を担うことに決めたのです」「今後音楽はデジタル・コンサートホールに見られるように、どんどんネット経由になるでしょう。映画をオンデマンドで見るのが普通になったように」
ラトル&ベルリン・フィルのシューマン交響曲全集●かつてのレコード会社の会見などでは、あたかもインターネットがこの世に存在しないかのようにふるまわれることもなくはなかったが、ラトルのビデオメッセージからも伝わるように、ベルリン・フィルはきわめて現実的かつ未来志向だなということを強く感じさせる会見だった。CD、ブルーレイからハイレゾ・ダウンロード、果てはLPまで全部提供する。もちろん、それ以前に彼らの「デジタル・コンサート・ホール」があるわけで、単に聴きたい/見たい人は、もう何年も前から格安でデジタル・コンサート・ホールを楽しんでいるわけだ。パッケージ商品は単に聴きたい/見たい人以外のためのものになりつつある。たとえば超高品質であるとか、コレクターズアイテムとか、他人へのプレゼントとか、コンサートの記念品だとかといったように。

June 3, 2014

サントリーホールで古代祝祭劇「太陽の記憶 卑弥呼」制作発表記者会見

古代祝祭劇「太陽の記憶 卑弥呼」制作発表記者会見
●2日はANAインターコンチネンタルホテル東京で、サントリーホールの古代祝祭劇「太陽の記憶 卑弥呼」制作発表記者会見。札幌コンサートホール、福岡シンフォニーホール、サントリーホールによる共同制作で、11月にこれら3つのホールで上演される。作曲・指揮・台本は菅野由弘さん。菅野さんと歌舞伎の中村福助さん(演出を担当)、ヴァイオリンの大谷康子さん、三味線の常磐津文字兵衛さんの出会いから生まれた企画で、洋楽から邦楽、舞踊など異ジャンルで活躍する人々のコラボレーション。
●古代祝祭劇といわれてもイメージはなかなかわかないが、もちろん卑弥呼時代の音楽を再現しようとしたものではなく、興味をひくのは洋の東西や時代を超えた楽器群がアンサンブルを組んでどんな音が出てくるのか、という点。ヴァイオリン、チェロ、コントラバス、パイプオルガン、パーカッションの洋楽器勢と、三味線、笙、能管、尺八、琵琶、筝、十七絃らによる和楽器勢のアンサンブルを、作曲の菅野さんは「ありえたかもしれない日本のオーケストラ」と表現していたのがおもしろかった。つまり、西洋のオーケストラの楽器もそれぞれ起源をたどれば西洋の外から伝来したものなので、空想上の日本のオーケストラとして、こういった編成だってありえたというアイディア。さらに声明も加わる。卑弥呼役は中村児太郎さん。休憩を含む120分の作品で、現在作曲中。
●大谷さんの「菅野さんは〆切を守る人。むしろ〆切よりだいぶ早くなる方なので安心しています」という演奏家の立場からの一言がおかしかった。

June 2, 2014

ファニー・クラマジラン・リサイタル、ラザレフ&日フィルのスクリャービン&ラヴェル

●30日はヴァイオリンのファニー・クラマジランのリサイタルへ(トッパンホール)。クラマジランを最初に聴いたのは、たぶん2009年のLFJ金沢。そのときプレス向けのプチ会見にもピアニストと一緒に顔を出してくれて、初々しい雰囲気で受け答えをしてくれたのが記憶に残っている。で、今回はピアノをヴァニヤ・コーエンが務めるはずだったのだが、なんと、当日朝に急病により出演できなくなるという事態に。急遽代役として呼ばれたのが広瀬悦子さん。過去にもたびたびクラマジランとは共演していたとか。よくそんな人がつかまったと思う。
●しかも、プログラムも前半は曲目変更なしでプーランクのヴァイオリン・ソナタ、武満徹「妖精の距離」、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタが演奏された。後半のサン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ第2番とブルーノ・マントヴァーニ「ハッピー・アワーズ」(これはソロの曲なんだけど)は、フォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番に変更。緊急事態にもかかわらず、元のプログラムが可能な限り保存されたことに驚く。ジェットコースターに途中から飛び乗ったようなものだろうに、広瀬さんは切迫した状況を完璧に乗り切った。スゴすぎる。クラマジランの外見に反してたくましく力強いヴァイオリンとともに満喫。フォーレは両者ともに予定外の演目になったわけだけど、スリリングで気迫がこもっていた。
●31日はラザレフ指揮日フィル(サントリーホール)。スクリャービン・シリーズの一環で、リストの交響詩「プロメテウス」、スクリャービンの交響曲第5番「プロメテウス」(若林顕ピアノ)、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第1&第2組曲(晋友会合唱団)。スクリャービンの「プロメテウス」は本来「色光ピアノ」という音と色彩効果が連動する楽器を使用することになっている。実際にはそんな楽器は調達できないので、かつてアシュケナージ&N響やLFJでのリス指揮ウラル・フィルが演奏した際には独自の照明演出を加えることでスクリャービンのアイディアを生かそうとしていたが、今回はそういった趣向は一切なし。純器楽作品としての「プロメテウス」。こうして裸になった状態で聴いてみると「法悦の詩」の続編という印象。いかがわしさは大幅に後退する。
●むしろ後半のラヴェルがおもしろかった。驀進するラヴェルというか、土の香りがするようなワイルドなラヴェル。合唱が入る部分で「プロメテウス」との同質性が漂ってくる。フォースの力で曲を書いたラヴェルと、フォースのダークサイドで作品を生み出したスクリャービンというか。曲の終わりはラザレフが指揮台でくるりと回転して客席を向いて決めポーズをとる、おなじみのドヤフィニッシュ。さらにアンコールとしてボロディン「だったん人の踊り」が演奏され、これも「ダフニスとクロエ」の「全員の踊り」に照応する。前半のスクリャービンの暗黒世界とうってかわって、後半は爽快な音の饗宴に。

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