●注目の一戦。今大会唯一の初出場国ボスニア・ヘルツェゴビナ。国家が、そしてサッカー協会までもが民族ごとに分断されるという異常な事態に陥っていたボスニア・ヘルツェゴビナにおける、元ニッポン代表監督オシムの尽力は「オシムの言葉 増補改訂版」(木村元彦著/文春文庫)に詳しい。心情的には応援したくなるし、マンチェスターシティのジェコを擁するチームだけに相当な躍進もありうるはず。しかし、一方でアルゼンチンの華やかな攻撃陣の活躍も見たい。もっといえば、メッシの復活を見たい。いや、メッシはいつだってスゴかったはず。が、試合でも練習でもたびたび嘔吐し、いくら検査を重ねても異常は見つからないと伝えられる今のメッシの状態はどうなんだろう。
●おもしろいことに両チームとも慎重な布陣でゲームに臨んだ。ボスニア・ヘルツェゴビナはジェコの1トップにして、もう一人のゴールゲッター、イビシェビッチをベンチに置いた。監督はかつての名選手スシッチ。一方、アルゼンチンのサベーラ監督は予想に反して3バックを採用。3-5-2でメッシとアグエロの2トップを組んだ。中盤にはディマリアも。イグアインはベンチ。開始早々の前半3分、アルゼンチンのフリーキックでメッシが蹴ったボールが相手ディフェンダーの目の前でコースが変わり、そのままディフェンスに当たってオウンゴール。ボスニア・ヘルツェゴビナには不運としかいいようのない先制点が生まれる。メッシはひんぱんに中盤に下がってプレイメイカー的な役割をこなすが、巧みなドリブルもハーフライン近辺では相手への脅威にはなりにくい。前半はアルゼンチンが1対0でリードして終えたが、ボスニア・ヘルツェゴビナにとっても手ごたえのある45分だったはず。
●ここで驚いたのがサベーラ監督の決断力。1点リードしているにもかかわらず3-5-2を見限って、なんと後半の頭から2人の選手を交替して、4-4-2のより攻撃的な布陣に変更した。ディフェンスのカンパニャーロを下げて、フォワードのイグアインを投入、さらにマキシ・ロドリゲスに代えて配給力のあるガゴへ。アルゼンチンはメッシ、アグエロ、イグアイン、ディマリアが並び立つ豪華布陣になった。すると後半は見違えるように攻撃がスムーズに。後半20分にはイグアインとのパス交換からメッシがディフェンスを交わしてシュート、ボールはポストに当たってゴールへ。2対0。メッシのゴールに安堵するとともに、勝ってるのにこんな采配をできる監督に驚く。もっとも、最初からこの布陣でよかったじゃん、と思わなくもないが。
●これで試合はすんなり終わりそうな気配だったが、ボスニア・ヘルツェゴビナはイビシェビッチを投入して2トップに。後半40分、スルーパスに抜け出してそのイビシェビッチがゴール。2対1。ここからがドタバタで、両チームとも消耗が激しく、走れない。選手間の距離は大きく広がり、中盤省略の大味な攻め合いに。どちらにも容易にゴールが生まれる状況になったが、守るほうも走れなければ、攻めるほうも腰が入らないで、結局そのまま2対1で試合終了。
●これでもってメッシが本調子かといわれるとそうともいえないんだけど、かといってこれだけの活躍でまだ不足といわれても。歴史上最高のサッカー選手がまったく幸福そうに見えないことが悲しい。
アルゼンチン 2-1 ボスニア・ヘルツェゴビナ
娯楽度 ★★★
伝説度 ★