●以前、当欄で「ブルクミュラー 25の不思議 なぜこんなにも愛されるのか」(飯田有抄、前島美保 著/音楽之友社)という書籍をご紹介したが、その関連企画として、明日8月1日と2日の二日間にわたって「ブルクミュラー・フェスティバル」が開催される。主催は音楽之友社で、会場は神楽坂にある同社の音楽の友ホール。
●トークショーあり、コンサートあり、バレエあり(ブルクミュラーはバレエ作曲家でもあったのだとか)、応募出演者による「みんなのブルクミュラー大会」ありと、盛りだくさんの内容になっている。コンサートでは黒田亜樹さんが「25の練習曲」他を演奏する。発表会ではなく、本物のコンサートでブルクミュラーの練習曲を聴く機会なんてそうそうないと思う。
2014年7月アーカイブ
今週末、没後140周年記念「ブルクミュラー・フェスティバル」
ウィンドウ・ショッピング
●「ウィンドウ・ショッピング」をインターネットでする場合はなんと呼べばいいんすかね。お店に行ってあれこれ見て回るんだけど、最後には買わない。割と楽しいのがデスクトップPC。いくつかBTOショップを訪れて、チップセットはこれにして、CPUはこれで、メモリはこれくらい、記憶装置はメインは絶対にSSDにする、でもそれだと容量が不安だからサブでHDDを1テラくらい、光ディスクドライブはブルーレイを入れるかどうか迷う、保証期間は3年に拡大させておきたい……と、あれこれカスタマイズして、最後に値段だけ確認して満足する。ふぅ、ほんのり楽しい。そして少し暗い、自分。知ってる。
●OSはウィンドウズ一択。その意味ではウィンドウ・ショッピング。最近メインのPCが寿命を迎えつつあるので、遠からず買い替えなければいけないのはたしかなんだけど、PCの入れ替えって、買うところまでは楽しんだけど、配達された後の手順はかなり憂鬱。
●牛牛(ニュウニュウ)と牛田智大君でミヨー「屋根の上の牛」4手版を共演してはどうか。
●今日も暑いですね~。
夏の音楽祭、進行中
●もう始まっているものを並べてみる。
●バイロイト音楽祭。今年もoperacastに放送予定あり。夜型人間を脱却した自分には、眠すぎてもはや1幕だけ聴くのも大変。ついさっきまで放送していた「ワルキューレ」第1幕(キリル・ペトレンコ指揮)を軽く聴いて、その先はあきらめる、今年も。
●BBC Proms 2014。ここはオンデマンドで聴ける上に、4週間も載せておいてくれるのがありがたい。といっても、油断しているとあっという間に4週間くらい経ってしまうわけだが。映像は日本からアクセスできず。
●ミューザ川崎のフェスタサマーミューザKAWASAKI2014オフィシャルブログ。今年も開幕、首都圏のオーケストラによる音楽祭。これから何公演か足を運ぶ予定で、楽しみ。今回、この音楽祭のタブロイド誌に須栗屋敏先生が「あなたにオススメのコンサートを教えてくれちゃうぞ!」的な二択占いを寄稿している(ネット上にはないみたい)。意外としぶとく生き残っている須栗屋敏キャラ(笑)。しかもこんな日の当たるところで。
ニッポン代表監督にハビエル・アギーレ
●報道では早い段階から伝えられていたが、ニッポン代表の新しい監督にハビエル・アギーレが就任することが正式発表された。ザック・ジャパンからアギーレ・ジャパンへ。アギーレ監督って、4年前にも名前が挙がってたんすよね。
●4年前は、ザッケローニが第一候補ではなかったはず。何人か断られて、ザッケローニになったという経緯だったと思う。でもザッケローニは近年はともかく、セリエAではかつて一世を風靡した世界的に有名な監督だから、「よくそんな人が日本に来てくれるなあ」と感心したのだった。で、ワタシはこのブログに「(ザッケローニが)4年も日本にいる可能性はかなり薄いと予想してる」と書いた。スゴい、ワタシのサッカーに関する予言はズバズバと外れる! 驚異的な的中率の低さ!
●で、アギーレ監督。この人は本命だったはずだし、原委員長によれば以前から個人的な交流を重ねて、代理人を通さずにオファーしたという話。メキシコ人だけど、両親ともスペインのバスクからの移民で、スペイン系というか、バスク系。メキシコ代表を2回率いていて、クラブ・レベルではスペインでオサスナを躍進させたことで名を知られるようになった。その後、アトレティコ・マドリードに引っ張られた後は、サラゴサ、エスパニョールといったクラスのクラブを率いている。実績は十分。年齢は55歳。ザックも就任時は57歳だったから、似たようなものか。
●気になるのは堅守速攻のスタイルか。たぶん、ハイプレス、ハードワーク、ショートカウンター、そしてアグレッシブな守備を重視するサッカーになるんだろう。従来のポゼッション重視とは違ってきそう。代表チームなんていうのは年に数回しか集まれない(しかもメンバーもどんどん変わる)即席チームだから、継続性なんかなくたっていいとは思うんだけど(今回のオランダは5バックで成功したわけだし)、きっと現実的で夢のない(笑)選手起用になりそうだから覚悟しておかなければ。比較的近いのは4年前の岡田ジャパン本大会バージョンなのか? 監督の人物像的にはかなり感情の起伏の大きな人のようなので、トルシエ・ジャパン的な騒動は増えるのでは。
●アジアの戦いがどんなふうになるのかは見もの。今まではニッポンがボールを回しに回して、ときどきカウンターを食らいつつも、こちらが攻めきるといった展開が多かったが、ずいぶん雰囲気が変わるかもしれないし、変わらないかもしれない(←それ、なにも言ってないし)。
●率直に言えば、「勝てるかもしれないけど、楽しくなさそう」っていうのが今の段階の印象。多くのファンが好むスタイルとはいいがたいはず。なんの根拠もなく直感だけで言うけど、きっと4年も経たずにメキシコかスペインに帰ると思う(また言うか)。
練馬文化センターでラモー「プラテ」
●24日は練馬文化センターでラモーのオペラ「プラテ」。まさかこんな会場でバロック・オペラの上演があるとは。この公演の成り立ちをぜんぜん知らないのだが、なんと、ジョイ・バレエストゥーディオというバレエスタジオが主催しているんである。しかもこれは同団体による2012年の日本初演の再演。なので客層も含めてかなりバレエ寄りの公演ではあるんだけど、音楽のほうのキャストもしっかりしていて、ピットに入るのは野澤知子指揮の古楽アンサンブル・プラテ(メンバー表には他団体でおなじみの名前多数)、プラテ役にはエミリアーノ・ゴンザレス・トロ、ジュノン役にマチルド・エティエンヌを招聘。大いにアウェイ感のある公演だったんだけど、音楽はもちろん、視覚面も含めて思い切り楽しんだ。愉悦に満ちたラモーの音楽にどっぷりと浸る。
●物語は天上の神様たちのコメディ。最高神であり雷の神様ジュピテルと風の女神ジュノンが夫婦ケンカをして地上の天候は嵐続き。そこでうぬぼれ屋のカエルの女王プラテをだましてジュピテルとニセの結婚式を開いて、ジュノンを嫉妬させておいて、最後は笑い話で丸く収めようというお話。もてあそばれるプラテがかわいそうすぎて、しんみりしてしまう(笑)。まあ、ストーリーは添え物のようなものではあるんだけど、あまりにトロが芸達者なので。カエルって、フランス語でも「クワッ!クワッ!」って鳴くんだ。字幕が投影式で読みづらかったのは惜しい。
●この日、ちょうど開演前からゲリラ豪雨が始まって、休憩中も雷が鳴っていた。まるで物語に合わせたかのよう。終演すると雨がすっかり止んでいたのは、ジュピテルとジュノンの仲直りの証拠。
●ところで今年は北とぴあ国際音楽祭でも「プラテ」が上演されるんすよね。まさか、一年で「プラテ」が2回上演されるとは。片や練馬区、片や北区というのもなんだかぐっと来る。
KKBOXと日本のストリーミングサービス
●オールジャンルの音楽ストリーミングサービスというと、今のところワタシはソニーのMusic Unlimitedを使用しているのだが、台湾発で日本国内ではKDDIが資本参加しているKKBOXというサービスもある。KKBOXはアジアで1000万ユーザー、課金ユーザー200万人を持つというから十分に大手のサービスだが、ぜんぜん知らないという方も少なくないだろう。ワタシもよく知らなかった。でも、CEOのクリス・リン氏のインタビュー(AV Watch)を読むと、なかなか興味深い。形態としては似てるけど、考え方の面で欧米の最大手Sportfyとの違いも見えて、もしかするとストリーミングサービスというのはグローバル一辺倒ではなくて、アジアならアジアのローカルな方法論があるのかも、と思えてくる。
●で、そのインタビューでリン氏が日本の市場について語っている部分がおもしろいので引用しておこう。
日本の音楽業界は、他国ほど急速に売上げが低下していません。アメリカも含め、他の国々はCDの売上げが恐ろしく短期間で落ちていきました。だからそうした国々の音楽業界の人々は「急いで他のボート(ストリーミング・ミュージック)に乗り換えなきゃ!」と感じたわけです。
しかし日本の音楽業界のボートは、沈んでいるわけではない。いまはまだ、ちょっとした水漏れがある程度です。なので中の人々は、一生懸命パッチあてをしている。しかし、水漏れが止まるわけではなく、いつかは沈むんです。遅かれ早かれ、ストリーミング・ミュージックサービスがなければ、音楽の売上げは落ち続けるだけだ、と理解するでしょう。だからいつかは「わかった。どれでもいい。KKBOXでもSpotifyでもレコチョクでもいいから、ストリーミング・ミュージックへと楽曲を提供しよう」ということになる。
●最近、「CDが売れない」みたいなことがオートマティックなフレーズとして口から出てきがちなんだけど、外から見ると逆なんすよね。日本は依然としてCDが売れてしまっている。以前ここでレポートしたベルリン・フィルの自主レーベル記者会見でも「(アメリカやイギリスと違って)日本とドイツではいまだにCDを買う人がたくさんいる」みたいな話が出ていたっけ。
●インタビュー中では、日本でCDがまだ売れ続けているのはストリーミングサービス側で十分なコンテンツがそろっていないから、という前提が共有されている(もちろんここでのコンテンツはみんなが聴きたい邦楽の話であって、洋楽、ましてやクラシックなど眼中にないだろう)。別に日本人はポリカーボネートの円盤を信仰しているというわけではない、たぶん。
夏は移籍の季節
●ワールドカップが終わってほんの一週間あまりで、続々とスター選手たちの移籍が伝えられている。コロンビア代表のハメス・ロドリゲス(モナコ)は100億円を超える移籍金でレアル・マドリッドに移るのだとか。レアルはほかにドイツ代表のクロース、コスタリカ代表キーパー、ナバスも獲得するということだが、すでに最強レベルのチームがじゃんじゃんと選手を買うとなると、同じだけビッグな選手を売らなきゃならないわけで、ディ・マリアを放出するなどという耳を疑うようなウワサも。レアルくらいのビッグクラブになると、強いチームを作るだけじゃダメで、旬のスターは半ば強制的に買わなくちゃいけないという別のルールで戦っているようにも見える。
●バルセロナは噛みつきスアレスをやはり100億円超でリヴァプールからゲット。その一方でアレクシス・サンチェスをアーセナルに、セスク・ファブレガスをチェルシーに売却。チェルシーはアトレチコ・マドリッドからジエゴ・コスタを買った。ファン・ハールが監督に就任してしまった(トホホ……)マンチェスター・ユナイテッドも積極的に補強を進めており……といったように、ワンシーズンで主力の顔ぶれがずいぶん変わる。スター選手が動くたびに大金がクラブ間でやり取りされるわけだが、同じようなクラブの間を巡り巡っているだけという気もする。
●日本勢で注目はワールドカップ・メンバーから落選したハーフナー・マイク。昨季オランダのフィテッセで活躍したかいがあって、スペイン1部昇格組のコルドバへ。朗報。ハーフナーにとってオランダ行きは里帰りのようなものだったから、これでついに真の海外組になったというか。昇格チームのフォワードは苦労するに決まってるが、レアルやバルサと同じリーグで戦えるのは貴重。大迫勇也は2部の1860ミュンヘンから1部のケルンへ順調にステップアップ。長谷部誠はニュルンベルクからフランクフルトへ。国内組では柿谷曜一朗がスイスのバーゼルへ。かつて中田浩二がいたクラブ。スイスでは名門だけど、なんとなくセルティックに移籍した中村俊輔を連想して微妙な気分も。原口元気は細貝のいるヘルタ・ベルリン。ノーマークだったのは柏レイソルの田中順也。ポルトガルのスポルティングに移籍。代表に呼ばれて大活躍してくれないものだろか。
●選手の移籍話って、なんというか、通販サイトでショッピングカートにぽんぽんと欲しいものを放り込んでいるような気分になれる。つまり、楽しい。
インバル&都響のマーラー交響曲第10番クック版
●21日は「都響スペシャル」でインバル指揮東京都交響楽団によるマーラーの交響曲第10番クック補筆全曲版(サントリーホール)。前日、同じプログラムの公演がSNSで大好評を博していたのを目にしていたのだが、期待通りのすばらしい公演となった。この曲を実演で聴けること自体が貴重だが、これだけ高機能、高解像度の演奏で聴けるとは。一般参賀2回。
●それにしてもマーラーの第10番は一筋縄ではいかない作品だなとますます実感。この曲、初めて知った時点では第1楽章アダージョのみの作品だったので、未完の作品であり、前作と近い雰囲気を持った交響曲第9番Bのような曲だと思っていた。マーラーの交響曲の創作史のとらえ方にはいろんな考え方があって人それぞれだと思うけど、自分は第7、8、9をワンセットとして見て(「大地の歌」は番外扱いで)、第7番はパロディ的自己言及的なポストモダン交響曲、第8番は究極まで肥大化させた大編成スーパー・ロマンティック交響曲、第9番は古典主義の極致として3点セットと見るのがすっきりしていて好きなんである。ところが第10番がクック補筆による(不足はあるとしても混ぜ物のほとんどない)完成された作品として目の前にあらわれてしまった。
●で、この完成された第10番を聴いても、やはり交響曲第9番Bという印象は強い。終楽章のクライマックスだって第9番の相似形のように感じる。第9番が4楽章制の古典的交響曲の系譜の終着点とするなら、第10番はアーチ形の5楽章制交響曲の系譜の終着点とでもいうか。でもその一方で、第9番と第10番はある角度から見ると似た楽想を共有してるけど、別の角度から見るとまるで違うコンセプトにも思える。第10番のほうは過去作品からの引用的なものが多い。フィナーレの衝撃的な大太鼓は第6番のハンマーをいやでも連想させる。でも衝撃音が2度か3度なら悲劇の表現だけど、第10番のように何度も続くとそれはやがてパロディになり強制的に笑いを誘発させる。聖と俗、真摯さとユーモア、悲劇と喜劇など二項対立的な要素の共存はマーラーの音楽そのものだけど、それにしても第10番はどこまで額面通りに受けとっていいんだか。アルマとの関係を重んじればパーソナルで引き裂かれるような愛の交響曲でもあるけど、一方では個人的愛を超越した彼岸的交響曲でもある。そして、一曲一曲が「世界全体を描く」大きな作品であるだけに、マーラーの生涯を通した交響曲の創作全体が「メガ交響曲」としてまた一つの作品となっているかのような思いもいっそう強まる。
「球童 伊良部秀輝伝」(田崎健太著/講談社)
●日頃、野球をまったく見ないのだが、日本を飛び出てメジャー・リーグでプレイする選手のなかには何人か気になる選手がいて、伊良部はその一人だった。結末が救いのない悲劇であることは承知の通りで、そこは目を背けたくなる部分であるが、それ以上に伊良部の人物像や歩んできた道のりを知りたくなって、一気に読んでしまった、「球童 伊良部秀輝伝」(田崎健太著/講談社)。綿密な取材をもとに描かれる伊良部秀輝の姿には迫力がある。豪胆さの裏に弱さがあるというのは伊良部に限った話ではないだろうが、周囲との軋轢を起こさずにはいられないアウトサイダーぶりや、投球術に対する研究熱心さ、活躍するようになってから本人が名乗り出てきたアメリカ人実父との関係、引退後に抱えていた虚無感など、この偉才の人物像を様々な角度から描き出す。
●伊良部ってスゴいボールを投げたから興味をひくんじゃないんすよね。だれにも投げられないようなスゴいボールを投げたにもかかわらずよく打たれたから興味をひくんだと思う。ピッチングの凄味と、通算106勝104敗という黒星の多さのギャップというか。
●特にプロ入り前の話にいくつも印象的なエピソードがあるんだけど、ロッテのスカウトがドラフト会議で伊良部を指名した直後に尽誠学園を訪れた際、学校関係者から呼び止められて、「伊良部がなにか悪いことをしたときには怒り方があるんです」と打ち明けられた話がおもしろい。「強く出ると跳ね返ってくるから、叱るときは横を向いて、目を合わせずに穏やかに話してほしい。目を見て強く出ると必ず反発するので」といったアドバイスをもらったというのだが、どんだけ扱いの難しい高校生なのかと思う(まるで猛獣を相手にするかのよう)。スカウトは一応「注意事項」としてこの内容を球団に報告する。
●で、入団後にチームが川崎大師で必勝祈願をするというときに、姿を見せなかった伊良部に対して、球団職員がきびしく叱責した。すると伊良部は反発して、辞めると捨て台詞を残して消えてしまった。スカウトは伊良部の叱り方について書類を出してるのにと怒るが、職員のほうは人員が入れ替わっててそんな書類は知らないよという。なんというか、共感も呼ぶ一方で、シニカルな笑いも誘う。そして、カルロス・クライバーのことをふと思い出したりもする。
●ロッテ時代の伊良部が牛島に教えを乞う話も相当いい。
映画「マレフィセント」
●映画「マレフィセント」を見てきた。これは「眠れる森の美女」モノなので、チャイコフスキーとの名作バレエとの関連からも必須科目のような気がして。「眠れる森の美女」そのものにも様々なバリエーションがあるが、この映画はオーロラ姫に呪いをかける魔女マレフィセントを主人公として、彼女の視点から描いた物語になっているところが秀逸。なぜマレフィセントは、オーロラ姫を眠りにつかせるにいたったのか。その背景がしっかり描かれていて、現代的な視点でも納得のゆく「真実の愛」の物語になっている。つまり、「眠れる森の美女」という物語のすぐれた新演出とでもいうべきか。マレフィセント役はアンジェリーナ・ジョリー。美しくて邪悪。
●ダークファンタジーではあるけど、なにしろディズニー映画なので安心感は半端ない。設定の妙に対してプロットは意外性に乏しいようにも感じるが、それでも見てよかったと思える傑作。90%マレフィセント視点で見るべき映画なんだけど、大人の男性が見る場合はステファン王にも共感を寄せたい。あの「翼」を後生大事にしまっておくあたりにコレクター気質を見た。
●上の予告編では、チャイコフスキーのおなじみのあの曲が、この映画にふさわしい雰囲気のアレンジで歌われている。
ワールドカップ2014ブラジル大会ベストイレブン発表!
●ブラジル大会は終わった。しかしなぜ午前5時ごろになると目が覚めてしまうのであろうか。そう、それはまだ総括ができていないから。
●それでは恒例のベストイレブンを発表しよう。当サイトでのベストイレブンは「こんな選手が日本代表にいてくれたらなあ~」という願いを込めた、ニセ日本代表メンバーとして発表される。今大会で旋風を巻き起こした5バックシステムを反映して、ディフェンスを5人選んでみた。
【ニセ日本代表2014】
GK:
萩木(Haghighi イラン)
DF:
迫(Sakho フランス)
江原(Evra フランス)
原 (Jara チリ)
海人(Kuijt オランダ)
丸助(Márquez メキシコ)
MF:
秋野(Aquino メキシコ)
逗子(Zusi アメリカ)
釈迦(Xhaka スイス)
FW:
城(Jô ブラジル)
三浦(Müller ドイツ)
●見よっ! この城と三浦の2トップを。キックオフ前に二人でボールに魂を込めてそうな2トップが実現した。これはなにかの啓示であろうか。
●なお、前回に続いて二大会連続のベストイレブンに選ばれた唯一の選手がメキシコの丸助だ。ぷぷ(←お気に入りのギャグを繰り返して自分だけで笑うヤツ)。
●試合結果以外の今大会の三大キーワード。その1。スアレスの噛みつき事件。スアレスが試合中にキエッリーニに噛みついた。スアレスには前科があり重い処分が下されることになったが、予定通りバルセロナには移籍する模様。スアレスに噛みつかれたキエッリーニがだれかに噛みついていないかが気になる。
●その2。ゴールラインテクノロジー。機械を使わなきゃ絶対にわからないことがある。使わない手はない。しかしもっと低予算な方法で実現できないのかと思わなくもない。
●その3。バニシングスプレー、っていうの? フツーに「消えるスプレー」って言えばいいと思うんだけど。フリーキックでキッカーと壁の位置を制御するにあたって、これ以上いい方法があるとは思えない。どんどん使うべき。ハーフタイムには審判団による消えるスプレーお絵描きショーを楽しめるかもしれない。「ほらほら、ミッキーだよ~」みたいな。ワールドカップとかじゃなくて、3部リーグくらいのローカルクラブで。
ロリン・マゼール(1930-2014)
●昨日、ワールドカップ決勝戦が終わった直後、ロリン・マゼールの訃報が。7月13日、肺炎による合併症のためアメリカ・バージニア州の自宅で逝去。体調不良が伝えられていたが、年齢をほとんど感じさせない人だったので、またすぐに復帰するものだと思っていた。最後に生で接したのは一昨年のN響定期だったか。80代になってさすがに歩き方などはゆっくりしていたが、強烈なオーラは健在だった。
●マゼールはたぶん録音でもっともよく好んで聴いている指揮者のひとりなので、思い入れが強すぎてなんと言うべきかわからないが、彼の音楽になぜ引きつけられるのかを言葉で表現すると、きっとネガティブな言葉がたくさん並ぶことになる。端的にいえば「華麗なる変態性」なんだけど、それに加えて有り余る才能を持てあましている感というか、サッカークラブにたとえると(←なんだそれは)きわめて潤沢なリソースを有しながら結果主義を徹底できず予算の無駄遣いをしながら6位くらいでリーグ戦を終えてしまうクラブが強い愛着を誘発するのに似ているというか。ウィーン・フィルと来日した際のマーラーの交響曲第5番を放送で聴いたのがきっかけとなって聴くようになったんだけど、その後ディスクを聴いていちばんスゴい!と思うのは、その多くが最初に知った時点より過去に遡ったものばかりで、クリーヴランド管弦楽団時代とさらにその前の録音を聴いて震撼し、ウィーン・フィルとの演奏に多少の違和感を感じつつも納得し、その後は予測不能なまだら模様を描く軌跡を追いかけることになり、じゃあもういいかなと思うと、突然まばゆい光彩を放つ。
●雑誌のインタビューなどを読んでも、言っていることが立派すぎて、ぜんぜんおもしろくない。実際にやってることは痛快このうえないのに、そんなお題目を並べられてもなあ、みたいな。
●指揮棒の持ち方が独特なのもカッコよかったし、風貌にも才気が滲み出ていた。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを指揮したときのシャープで鮮やかなウィンナワルツを放送で聴いて、こんな曲でも自分の思い通りにしてしまうんだと驚愕した。そうえいば、N響で「ボレロ」を指揮したとき(伸縮自在のマゼール節が炸裂した)、演奏が終わった後管楽器奏者たちをひとりひとり立たせる場面で、なぜか肝心のトロンボーンを忘れて袖に引っこんでしまい、次にあらわれたときに人差し指を一本立てながら「ゴメン、一人忘れてたわ~」みたいなポーズをとっていたのを思い出した。この人でも「うっかりする」ことがありうるんだ。
●ご冥福をお祈りいたします。
決勝、ドイツvsアルゼンチン、順当すぎるほど順当な総合力の勝利
●長かったワールドカップもついに決勝戦。サッカーは運の要素の強いスポーツなので、一発勝負のトーナメントではいろんな番狂わせが起きるはずだし、実際起きてはいるんだけど、決勝戦となると結局毎度おなじみの「決勝進出経験のある強豪」が出てくる。大会が一カ月にもわたる長丁場となると、運と勢いだけでは最後まで勝ち抜けないということか。
●コンディション面できわめて有利なドイツはほぼ前の試合と同様の布陣で、トップにクローゼ(今大会はたまにしか顔を出さないサブかと思っていたら、ぜんぜんそうではなかった)、ラームは中盤ではなく右サイドバックに。ケディラがケガなのか、若いクラマーが先発。アルゼンチンは心配した通り、ディマリアが復帰できず、アグエロもベンチスタート。試合は序盤から意外とオープンな攻め合いになって、ドイツがボールを保持して、アルゼンチンがカウンターで反撃するという展開に。前半21分、クロースの不用意なヘディングでのバックパスをイグアインが奪って、キーパーと一対一になったが、枠を外してしまう。ドイツのキーパー、ノイアーのプレッシャーの強さゆえか。さらに30分には右サイドからのラベッシのクロスにイグアインが合わせてネットを揺らすもオフサイド。前半終了間際にはドイツにも惜しいチャンスが続いた。お互いの狙いが噛みあったけど、たまたまゴールが決まらず0対0が続いたというゲームに。
●後半からアルゼンチンはラベッシをアグエロに。前半のラベッシの活躍を考えるとかなり意外な交代。後半の序盤はアルゼンチンがボールを持って攻める展開で、後半2分はメッシがキーパーとの一対一を迎えるが、これも枠を外してしまう。メッシはいつものようにだれにもできないスーパープレイをなんども見せてくれるんだけど、ゴールが生まれない。これで非難されてしまうんだから気の毒。後半途中からコンディションの差か、アルゼンチンに疲れが見え出して、徐々にドイツが盛り返す。90分では決着がつかず、延長へ。さすがにドイツは勝負強く、延長後半8分にシュールレが左サイドをドリブルで突破して中央にクロス、これに対してうまくディフェンスの間に走りこんだゲッツェが胸トラップから左足のボレーで完璧なゴール。交代選手が機能した。アルゼンチンは力を出し尽くしてしまい、ほとんど反撃できず。1対0のドイツの勝利は妥当な結果で、むしろアルゼンチンがここまで戦えたということに敬意を表すべき。アルゼンチンはなんといってもディマリアの不在が痛かった。決定的なプレイをするのはメッシだけど、チームにダイナミズムを与えるのはディマリア。
●ついに南米開催で初めて欧州のチームが優勝したわけだが、ドイツが勝ってしまったので試合終了後の感動的なセレモニーももうひとつ見ていて気が乗らない。リネカーの名言通り、「フットボールとは22人がボールを奪い合い、最後はドイツが勝つゲームだ」という結果になってしまった。個々のタレントではもっと華やかな顔ぶれが並ぶチームがいくつもあったわけだけど、チームとしての強さを感じさせたのはなんといってもドイツ。パワーも技術も走力も組織力も団結力もぜんぶある。
●MVP相当のゴールデンボール賞はメッシに。負けたチームの選手が獲得してしまい、なんだかばつが悪い。まるでゲッツェのゴールの前に投票の締め切り時間が来てしまったかのよう。勝者と敗者のコントラストを見ていると、ワールドカップはまだまだ重要な大会なんだなと実感する。チャンピオンズリーグの成功以来、もっとも高度なサッカーはクラブ単位で繰り広げられるようになり、ワールドカップの意義が相対的に小さくなっているのを感じるけど、勝者が得るものの大きさという一点だけに関して言えばワールドカップは格別。なにしろ4年間もチャンピオンでいられるわけだし。だからこそ敗者の落胆も大きいというか。それにしても、ドイツの選手たちと抱擁を交わすメルケル首相の姿を見ていると、悔しさがいっそう募る。メルケルのガッツポーズは夢に出てきそう。メッシのような歴代ぶっちぎりのナンバーワン選手が、結局ワールドカップを手にできずに終わってしまうのかと思うと……。4年後までは情熱が続かない気がする。
ドイツ 1-0 アルゼンチン
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★
準決勝、オランダvsアルゼンチン、ディフェンスマニアは狂喜せよ!
●ディマリアの負傷が痛いアルゼンチン。代役はペレス。イグアイン、メッシ、ラベッシの攻撃陣、控えにはアグエロが負傷から戻ってきた。オランダは5-3-2というか、守備ブロックをがっちりと敷く5バックシステム。おまけにメッシにはデヨングをマンマーク気味につけた模様。攻撃はロッベンとファンペルシーの超人的プレイに頼る低リスク戦略。
●序盤はアルゼンチンがボールを持ち、オランダが跳ね返すという展開だったが、徐々にオランダのキープ時間が長くなってゆく。しかしアルゼンチンも同様に強固な守備で対抗し、守備vs守備の時間帯が延々と続く。後半途中から雨が激しくなる。アグエロは途中出場。しかし選手交代のカードが切られても、展開は変わらない。数少ない偶発的チャンスやセットプレイ以外はほとんど攻め手がない。後半の終盤にイグアイン、ロッベンが決定機らしきものを迎えたが、決めきれず。きわめてチャンスの少ないなかで90分を終えて延長戦へ。
●延長前半早々にオランダはファンペルシーをフンテラールに交代して、3枚目のカードを切った。お、今日はあの××作戦はやらないんだ、PK戦専用キーパーを出すあれは。そりゃそうだよなあ、走れない選手を交代するのが普通だ。しかし、例の作戦が失敗するところを見たかったという気持ちが残って、妙に悔しい。延長に入ってもなかなか得点の気配の感じられない慎重な戦いが続き、最後の最後はお互いにPK待ちみたいな雰囲気が流れていたと思う。ディフェンスマニアが泣いて喜ぶ守備合戦の末に、PK戦へ。メッシはなんどか決定機を演出しかけたものの、歩きながら多くの待ち時間を過ごしていた。
●アルゼンチンのキーパー、ロメロについては今大会ずっとプレイの質がもうひとつだなと感じていた。所属チームのモナコでも控えに甘んじているようだし、いくらでもほかにいいキーパーがいるだろう、と。が、PK戦でロメロは真価を発揮した。オランダの一人目はなぜかフラール(どうやら何人かの選手が一人目のキッカーを断った末に決まったらしい)。ロメロはフラールのキックを見事にセーブ。さらにすごかったのはオランダの3人目、スナイデルを止めた場面。完全にコースを読んで、ドンピシャで止めた。
●一方、コスタリカ戦でPK戦を交代させられたオランダのシレッセン。シレッセンが足元の技術に相当な自信があることはこの試合でも何度かうかがえた。しかしPKは苦手のようで、アルゼンチンの二人目、ガライが度胸だけで真ん中上に蹴ったボールに反応できず、3人目アグエロのキックは的確にコースを読みながら触れず、さらに4人目マキシ・ロドリゲスのかなり甘いコースのキックも反応はしているのに後ろに弾いてしまって、試合終了。なるほど、コスタリカ戦のファンハール監督のPK戦専用キーパー投入の奇策は、そういうことだったのかと、妙な形で納得させられてしまった。シレッセンは11人目のフィールドプレーヤーになれるほどキックも上手いが、PKだけは苦手なわけだ。でもさ、だったら本当に策士なのはロメロを起用し続けたアルゼンチンのサベーラ監督のほうなんじゃないの、と思わんでもない。
●決勝はドイツ対アルゼンチンに。南米が生き残ってくれてほっとした。これって86年メキシコ大会と90年イタリア大会の2大会連続同じ顔合わせになったときの再現じゃないすか。まさにマラドーナが歩んだ道をメッシは歩んでいるのだなあ。しかし、休みが一日多いうえに消耗の少ない試合を戦ったドイツと、120分戦ったアルゼンチンでは、ずいぶんコンディションに差ができそう。せめてアルゼンチンがディマリアとアグエロを先発に復帰させることができれば……と切に願う。
オランダ 0-0 アルゼンチン (2 PK 4)
娯楽度 ★★
伝説度 ★★
準決勝、ブラジルvsドイツ、カナリア・イエローの黄昏
●こんなに残酷な試合をかつて見た記憶がない。王国、ブラジルで開催したワールドカップで、ブラジル代表が信じられない大敗を喫してしまうとは。ブラジル 1-7 ドイツ。結果だけ知ったら、なにかのまちがいかと思ってしまうが、テレビで見ていてもなにかのまちがいではないかと目を疑った。早起きして、夢でも見てるんじゃないの?
●ブラジルは負傷したネイマールの代役にベルナール(ベルナルジ)、チアゴシウバに代えてダンテ。右サイドバックには前の試合と同様、ベテランのマイコンを入れてきた。ドイツはまたしてもクローゼが先発、ラームは本職の右サイドバックへ。ブラジルとドイツがワールドカップで対戦するのはこれがわずか2回目(1回目は横浜で開催された2002年決勝)。好ゲームが期待された。例によってブラジル国歌は、短縮バージョンの伴奏を無視して、選手たちと観客たちが伴奏が途切れても大声で歌いまくるスタイル。試合開始早々から、ブラジルはハイテンションで飛ばしてきて、ドイツを攻める。ブラジルが押していたのは最初の10分だけだった。
●前半11分、ドイツはコーナーキックからファーサイドでマークをかわしたミュラーが右足で先制ゴール。あっさりマークを逃したブラジルの守りに淡泊さを感じるが、この後の展開はそんなものじゃ済まない。前半23分、ミュラーのコンビからクローゼがシュート、キーパーが弾いたところでふたたびクローゼが蹴りこんで2対0。まさかの展開だが、「まさか!」と驚く暇もなく、たてつづけに前半24分に右サイドのラームのクロスにクロースが合わせて3点目、前半26分にフェルナンジーニョが自陣で不用意にボールを奪われ、奪ったクロースがケディラとのパス交換からシュート、4点目。前半29分、ゴール前でケディラからエジルへ、エジルからケディラへと落ち着き払ってボールを回して、5点目。なんですか、これは。信じられないやわらかディフェンス。そして何点獲っても容赦なくゴールを狙うドイツ。
●ブラジルは失点するごとに集中を欠き、投げやりにも見えるプレイが目立ち、悪循環に陥っていた。戻らなきゃいけないところで戻らない、カバーに入らない、走らない、競らない……。カナリア軍団がサンドバッグのように殴られている。ブラジルのベンチからタオルが投げられてもおかしくなかった。主審は両手を大きく振りながら、試合終了を宣言するべきだった。テクニカルノックアウトでドイツのKO勝ち。ドクターを呼んでくれ!
●ブラジルは後半からフェルナンジーニョをパウリーニョに、フッキをラミレスに交代したが、だからといってどうしようもない。ドイツは後半13分、クローゼに代えてシュールレ。なあ、スポーツはいつだって全力を尽くすもんだろう。そんなドイツ人たちが聞こえてくるかのように、後半24分、そのシュールレがラームのクロスに合わせて6点目。きわめつけは後半34分で、シュールレがペナルティエリア左からニアの上をぶち抜くスーパーゴールを決めて7点目。わが国の無慈悲な攻撃が鉄槌を食らわしてくれよう! フハハハハハ(←だれ?)
●後半45分になって、ようやくオスカルが一瞬不自然なほど甘くなったディフェンスをくぐり抜けて、1点を返した。7対1でドイツが勝利。途中からブラジルの観客はドイツのパス回しに「オーレ!」を叫び出した。特にブーイングを浴びていたのはフレッジ。試合が終わって、ブラジル人選手たちを慰めるドイツの選手たち。まるで葬儀のような、いたたまれない雰囲気で準決勝の第1試合が終わった。
●もともと日程上有利なドイツが、ほとんど消耗することなく準決勝を戦ったことで、決勝ではかなりのアドバンテージを持つことになった。ブラジルは3位決定戦を戦わなければいけない。何度も書いてる気がするけど、やはり3位決定戦は不要なのでは。すでに敗退しているチームが、なぜまだ戦わなければいけないのかと思う。
ブラジル 1-7 ドイツ
娯楽度 ★
伝説度 ★★★★★
調布音楽祭2014
●6日は調布音楽祭2014へ。会場は調布駅すぐそばの調布市グリーンホールと調布市文化会館たづくり。調布市と公益財団法人調布文化・コミュニティ振興財団が共催する音楽祭で、総合プロデューサーに鈴木優人さん、監修に鈴木雅明さん(鈴木父子は調布が地元なんだそうです)、マネージメントをバッハ・コレギウム・ジャパンが担う。期間は7月4日から7日までの3日間。最終日しか足を運べなかったが、盛況だった。手作り感のある地域密着型の音楽祭というスタイルで、都心にはない雰囲気の、でも東京ならではの音楽祭になっていたと思う。
●この日は「地元音楽家によるオープンステージ」と「桐朋学園大学音楽学部学生・卒業生によるミュージックカフェ」を駆け足で巡って、最終公演のBCJによるバッハ「ブランデンブルク協奏曲」全曲演奏会を聴いた。BCJ公演はもちろんのこと、無料企画の「オープンステージ」と「ミュージックカフェ」が充実しているのが吉。「ミュージックカフェ」は飲食自由、軽食と飲み物の販売あり、年齢制限なし(小さい子供連れでも可)、入退室自由、パイプ椅子というカジュアルなスタイル。この気楽さと、一方でステージ上の若者たちが発散する清新なエネルギーという組合せがとてもいい空気を作っていて、来年はもっと入り浸りたくなる。ただ、飲食している人は案外少なくて、普通の演奏会と同じように聴いているお客さんが多め。ともあれ、コーヒー飲めるのはありがたい。
●BCJのブランデンブルク協奏曲は6番から1番へと逆順で。第3番の第2楽章でサプライズがあったり、聴きどころ満載だったが、圧巻は第2番のトランペット、ギィ・フェルベ。グルグル巻きのタイプのトランペット。孔はいくつ空いているんすかね。鮮やかな技巧で吹き切った。輝かしくて、まろやか。
準々決勝、アルゼンチンvsベルギー、リアクション芸の達人。オランダvsコスタリカのPK戦。
●準々決勝、アルゼンチン対ベルギー。この試合でアルゼンチンが負けてしまうと南米勢がブラジルのみになってしまう。というか、メッシをもう見られなくなってしまう。それでは困るわけで、若いスターを並べるベルギーをリスペクトしつつも、アルゼンチンを応援。アルゼンチンはビリア、デミチェリス、バサンタと3人が初先発。攻撃陣はアグエロが離脱したままなので、イグアイン、ラベッシ、メッシ、ディマリア。ベルギーもメンバーをいじってきてトップに19歳のオリギ。アザールだって23歳で若いんだけど、さらに若い。
●前半からアルゼンチンはボールがよく回る。前半8分、あっという間の先制点はラッキーもあって、ゴール前でのディマリアからのパスが相手にあたってイグアインへのナイスパスになり、これをボレーでゴール。この開始早々の先制点がそのまま決勝点となる、既視感のある展開のゲームに。前半28分、メッシから明後日の方向にするするとスルーパスが出て、は?これ、何なの?と思ったら、ボールが抜けた先にディマリアがドンピシャで走りこんでいて、もう神としか思えない。ドリブルもシュートもスルーパスもぜんぶ神技。しかし前半でディマリアがペレスに負傷交代。キレまくっているディマリアがいなくなると痛い。次戦、どうなるのか? ベルギーは両サイドから入れる速いクロスが有効だったが、ゴールには至らず。
●終盤は高さで勝るベルギーが、センターバックのバンブイテンを前線に上げてパワープレイに出た。後半40分からのパワープレイは少し早すぎかとも思ったが、アルゼンチンが必死で守る姿を見ると、たしかに可能性は感じさせる。しかし、つまらない。こんなつまらないプレイが実りませんようにと祈ったところ、サッカーの神様も共感してくれたのか、アルゼンチンは逃げ切った。おっと、終了直前カウンターからメッシがキーパーとの一対一を外すという場面もあったが。メッシだってミスをする。そりゃそうか。
●ベルギーの4バックはみんなでかい。186cm、190cm、189cm、196cm。しかもみんなセンターバック・タイプを並べているのだとか。欧州は昔からセンターバックとサイドバックを兼任するタイプのプレーヤーが珍しくないけど、日本ではかなり少ないっすよね。サイドバック観の違いというか。
●試合中、アルゼンチンのサベーラ監督が、イグアインのシュートがバーに弾かれた場面で、「あ~れ~」という感じで真後ろに卒倒しかける見事なリアクションを見せて、目を見張った。このリアクション芸はスゴい。全世界に中継される価値がある。この大会では、ドイツ代表のミュラーがフリーキックでズッコケ芸(わざと)を披露してくれたが、ヌルいズッコケ芸に関して手厳しい日本のお茶の間では失笑を買っていた。しかしサベーラ監督のリアクションにはだれもが一目置かざるを得ないのではないか。
アルゼンチン 0-1 ベルギー
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★★ (サベーラ監督の卒倒芸に)
●もう一試合、オランダvsコスタリカは都合で全部は見れなかったんだけど(ら抜き)、延長戦からPK戦までをざっと。なんですか、オランダのPK戦用にキーパーを交代する作戦は。これだからファンハール監督って好きになれない。もうみんな走れないんだから、交代枠ひとつ余ってるならそれ使ってフィールドプレーヤー入れたほうがよっぽど勝ち目は高いじゃないの、なのに1枚PK戦のために余らすって、なんというバカ作戦。これは絶対に失敗してほしい、コスタリカがんばれっ!と思っていたら、まんまと作戦が的中して、バカなのはワタシであった……。なるほど、先発のシレッセンはPKが苦手なのだろうし、交代で入ったクルルはセーブ力が高いようだ。ベンチにいる間に、コスタリカ選手のスカウティング・レポートをがっつり頭に叩き込むことができたんだろう。でもな。やっぱりこの作戦は失敗してほしかった。奇策は嫌いじゃないというか、むしろ大好きなんだけど、PK戦となるとどうかなあ。たとえそれが神話だとしても、「PK戦は運だめし」と信じていたかった。
準々決勝、フランスvsドイツ、ブラジルvsコロンビア、得点はすべてセットプレイから
●準々決勝、最初の試合は地味に勝ち進んだフランスと、今回も着実に勝ちあがっているドイツ。ドイツのサプライズはベテラン、クローゼの先発。今大会、先発はないかと思っていたが……。ラームは中盤の底ではなく、本職の右サイドバックへ。セントラルMFにはケディラが先発、シュバインシュタイガー、クロースと中盤を構成する。試合はお互いにコンパクトな中盤を形成してスタート、膠着した展開が続くかと思いきや、あっさり前半13分にドイツが先制。フリーキックからクロースがクロスを入れると、ゴール前でフンメルスがバラーヌに競り勝ってゴール。このゴールが決勝点になってしまった。
●フランスにもチャンスはたくさんあった。前半はドイツの高いディフェンスラインに対して、フランスはその裏のスペースを狙うパスを繰り出して決定機をいくつも作り出していたが、異能のゴールキーパー、ノイアーの好セーブもあって決めきれず。後半途中からドイツのラインが下がると、今度はディフェンスラインの前のスペースでフランスの攻撃陣が前を向いてボールを持てるようになり、さらに攻勢を強める。ただ、チャンスが多かった割には、フランスがゲームを支配していたという印象はまったくなく、ドイツの注文通りの試合展開になったといった様相。終盤、ドイツのカウンターアタックから交代出場のシュールレに決定機が訪れたが、これを外してしまう。これが決まっていれば完璧だったか。
●後半アディショナルタイム、フランスはベンゼマがワンツーから抜け出して強烈なシュートを放つも、ノイアーの片手一本に止められてしまった。戦術的な見どころは大いにあったとしても、発散的な喜びに乏しい詰将棋のようなサッカーを見た気分は残る。ドイツは堅牢なチームで優勝候補筆頭格だとは思うが、ノイアーのスーパープレイ(異常な守備範囲の広さとか)が前提になっているところに脆さを感じなくはない。
フランス 0-1 ドイツ
娯楽度 ★★
伝説度 ★
●続いて準々決勝のもう一試合はブラジル対コロンビア。ブラジルはルイスグスタボが出場停止のため、フェルナンジーニョとパウリーニョがダブル・ボランチを組む。右サイドバックはダニエウアウベスではなく、なぜか大ベテラン、マイコン。かつての絶対的なレギュラーだが、まさか先発で出てくるとは。ダニエウアウベスに不調があったのか、彼のコンディショニングを優先してなのか、謎。
●コロンビアは若きエース、ハメスロドリゲスが絶賛売出し中。チームの完成度としてはコロンビアのほうが高いようにも思えるが、ブラジル開催のワールドカップでブラジルが負けるところを見たくない。選手たちがなんだかもうとてつもないプレッシャーにさらされていて、気の毒になるほど。前のPK戦で選手たちが号泣したり瞑想したりするのも、美しい光景というよりは、かわいそうな光景なんじゃないかと。で、この試合、苦しい試合になるだろうと覚悟しつつブラジルを応援したわけだが、前半7分、コーナーキックからチアゴシウバが押し込んでブラジルが先制。ほっ。
●フランスvsドイツ戦とはうってかわって、序盤から選手間の距離が広く、広大なスペースがあるという攻め合いに。前半30分、ブラジルのセンターバック、ダビドルイスが相手ボールのインターセプトから、すごい勢いのドリブルで攻め上がったシーンがハイライト。途中で一人ワンツーとか入れて相手を抜きにかかるセンターバックのドリブル(笑)。ブラジルでしかありえない。
●両者チャンスは多いが得点には結びつかない五分の展開のなかで、後半24分、ブラジルフリーキックで、ダビドルイスがゴール右上に豪快に蹴りこんで2対0。これで安心かと思いきや、後半33分、コロンビアは交代出場したバッカがペナルティエリア内でキーパー、ジュリオセーザルに倒されPKに。得点王候補ハメス・ロドリゲスがこれを落ち着いて決めて一点差に。そこからはブラジルがコロンビアの猛攻に耐える展開。かろうじてブラジルが逃げ切った。ブラジルの守りは不安定だが、全般に主審の笛に助けられていた感はぬぐえず。
●終盤、ネイマールが背中に膝蹴りを食らって負傷退場。相当に痛そうで担架で運ばれたが、試合後に脊椎骨折であることが判明、ここまで重圧に耐えて活躍してきた若いエースが残りの試合に出られそうもないという事態になってしまった。やーめーてー。このチームからネイマールを奪ったら、なにが残るの。決勝トーナメントのこの山はブラジル、コロンビア、チリ、ウルグアイとすべて南米勢が偏ってしまうという、残念すぎる「南米潰しあい」があったわけだが、ここをやっと勝ちあがったブラジルが、ネイマールを失ってドイツと戦うことになるとは、なんという無念。そりゃないでしょうよ。
ブラジル 2-1 コロンビア
娯楽度 ★★★
伝説度 ★
決勝トーナメント1回戦、アルゼンチンvsスイス、テレビの前でいっしょに両手でハートマーク
●いまFIFAランキングって5位がアルゼンチンで、6位がスイスだっていうんすよ。スイスは黄金世代が育ってきて相当強いチームになったのだなと、今大会ようやく試合を見て納得。前線にタレントがそろっている。で、激しく多民族化が進んでいて、名前を聞いてもどこの国の人かわからない選手が多い。10番のジャカと小柄ながらボールが足に吸い付くようなドリブルで相手を翻弄するシャキリは、ともにコソボ出身のアルバニア人。アドミル・メーメディとブレリム・ジェマイリはマケドニア出身のアルバニア人。フォワードのドルミッチはクロアチア人、セフェロビッチはボスニア・ヘルツェゴビナ人……と、バルカン色濃厚なメンバーが並ぶ。名将ヒッツフェルトが率い、プチ・ドイツ化した規律のある組織的守備とダイナミックで奔放な攻撃陣が噛みあって、スピーディで小気味よいサッカーを展開していた。
●一方のアルゼンチンは、アグエロが負傷で離脱したものの、代役にラベッシが出てくる超豪華アタッカー陣。メッシ、イグアイン、ディマリア、ラベッシ。世界トップレベルのストライカーたちに、さらにその上を行く異星人メッシが加わっている。個々のスキルの高さにはため息が出るほど。しかし組織力は低く、脆さも感じる。メッシはなんでもできるけど(やれば守備もできる)、走らない。ひょっとしてアルゼンチンはメッシ抜きで残ったメンバーで激しくファイトしたほうが強いんじゃないの……という疑念がどうしても払拭できないんだが、メッシの異次元のプレイを否定することなんてだれにもできない。3人くらいマークがついていても、するすると抜いていく、あたかも彼だけ違う時間の流れのなかにいるように。
●このゲーム、前半までは今大会見たなかでは一二を争う好ゲーム。ボールを保持していたのはアルゼンチンだが、スイスにとってこれはプラン通り、2度ほど決定機を迎えていた。キックオフ直後からアルゼンチンへのブーイングがひどくて驚く。後半にはスイスを応援する「オーレ!」も。どんだけアルゼンチンが嫌いなの、ブラジルの人たちは。
●スイスはキビキビとした見ていて楽しいサッカーを展開していたが、後半途中からぐっとパフォーマンスが落ちてしまった。アルゼンチンの左サイドバック、ロホが高い位置をとると、前半脅威を与えていたシャキリが守りに追われるようになり、やがてスイスは防戦一方に。しかし、アルゼンチンも決定機に決めきれず、延長へ。ともに運動量は激減し、最後は気力の戦いでしかないと思いきや、延長後半13分という土壇場になって、メッシがするするとドリブルでゴール前まで持ち込み、ディマリアへパス、ここでシュートがようやく決まって1対0。結局はメッシの個人技がすべてだったという結果に。その直後、スイスのコーナーキックからジェマイリのヘディングがポストを叩くというあわやの瞬間もあった。ここでアルゼンチンが脱落しては大会が盛り上がらないので、ほっとするとともに、もっとスイスを見たかったという気持ちも残る。
●ゴールを決めたディマリアは嬉しそうな表情で、両手でハートマーク ♥ を作るゴール・パフォーマンスを見せてくれた。くぅ、カッコいい。あのポーズ、ワタシもやってみたいぜ。しかし日常生活のなかでハートを作るシーンを考えてみたが、まったく思い浮かばない。
アルゼンチン 1-0 スイス
娯楽度 ★★★★
伝説度 ★★
東京オペラシティで大野和士指揮フランス国立リヨン歌劇場管弦楽団
●30日は大野和士指揮フランス国立リヨン歌劇場管弦楽団へ(東京オペラシティ)。ルーセルの「バッカスとアリアーヌ」組曲第2番、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」とバレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲という、一曲ごとにクライマックスが訪れるような華やかなプログラム。ホールの空間いっぱいに響きが充満したせいもあってか、フランスのオーケストラという先入観から予想されるものとは少し異なる、濃厚で芯のあるサウンドを満喫。「ラ・ヴァルス」のグロテスクな美しさがよく伝わってきた。「ダフニスとクロエ」は一大スペクタクル。フルートが冴えまくっていて、猛烈にうまい。こんなソロイスティックな笛を聴かせる人がオペラのオーケストラにいるものなんだろか……と思って、メンバー表を見たら、上野星矢とクレジットされていた。今回だけの客演なんすかね? もう感服。合唱は同歌劇場の合唱団でこちらも好演。熱気が渦巻くラヴェル。
●アンコールにフォーレ「ペレアスとメリザンド」から「シシリエンヌ」、ビゼー「アルルの女」から「ファランドール」。会場はわきあがって、大野和士のソロ・カーテンコールが2回。
●大野&リヨン歌劇場はこの後、今週末からBunkamuraでオッフェンバックの「ホフマン物語」を上演する。ますます楽しみに。演出はロラン・ペリー。
●ややこしいのだが、今月はさらにフランス国立リヨン管弦楽団の来日ツアーもあって、うっかりすると混同しそうになる。こちらの指揮はスラットキン。フランス国立リヨン歌劇場管弦楽団とは別の団体だ。同じ街の2つのオーケストラが同じ月に日本に来ているのは珍しいけど、これって偶然そうなるもの?
決勝トーナメント1回戦、フランスvsナイジェリア、一見地味だけどよく見たらやっぱり地味
●ようやく今大会のフランスを初観戦。大会前に最大のスター、リベリを負傷で欠いたこともあってあまり注目していなかったが、始まってみるとフランスの評判がずいぶんいい。スター軍団ではなく、組織力で戦える団結したチームである、と。前回、チームが空中分解した反省を生かしてということなのか。
●フランスは右サイドバックがドビュッシーなんすよ。光と風と波のようなサイド攻撃を期待したい。ウソ。作曲家と綴りは違ってた。
●お互い4バックの対決。前半、ナイジェリアは右サイドが機能してスピードのあるアタッカー陣が突破を繰り返すも、ゴールを割るには至らず。フランスも右サイドからの攻めが有効だったが、エニアマの好セーブもあってゴールは遠い。膠着した展開が続いたが、フランスは後半17分、ジルーを下げてグリーズマンを入れたあたりから攻撃がスムーズに。後半25分、ベンゼマがそのグリーズマンとの鮮やかなワンツーから抜け出し決定機を迎えたが、ボールはエニアマを手をはじき、さらにこれをモーゼスがぎりぎりのところでクリア。チャンスの少ない試合だったが、後半30分あたりからナイジェリアの守備がルーズになる。後半34分、コーナーキックからキーパーが弾いたこぼれ球をポグバが頭で押し込んでフランスが先制。
●ここからナイジェリアの猛反撃が来るかと思えば、淡泊なプレイが続き、早々に試合は時間を消費するモードに。後半47分、フランスのコーナーキック、もちろんフランスの選手は人をかけずにショートコーナーを選択、しかしここから入れた低いクロスボールが中央でグリーズマンと競ったヨボのオウンゴールを誘発して、気まずい雰囲気で?フランスが2対0に。フランスの試合巧者ぶりを感じたというか、ナイジェリアの勝負への執着心の薄さを感じたというか。
●この試合、主審が笛もカードも控えすぎたんじゃないかという気がする。ラフなプレイが目立って負傷者も出たし、一発レッドに近いプレイもいくつかあったのでは。激しいプレイもいいかもしれないが、もっと吹いたほうがむしろ試合はエキサイティングなものになったかもしれない。
●ところで今大会はナイジェリアとアルジェリアのアフリカの2カ国が決勝トーナメントに残ったが、アフリカから2カ国残ったのは今大会が初めてなんだとか。えっ、ウソ?と思って1986年まで遡って調べてみたが、たしかにそのようだ。体感的にアフリカ勢はもっと強いというイメージがあったが、実際にはずいぶん苦戦してきたわけだ。で、今回、もう1試合のアフリカ勢、アルジェリアは延長戦の末、ドイツに敗れてしまった。ともにアフリカ勢はベスト16で姿を消したが、もし両者が勝っていれば、次戦でアルジェリアvsナイジェリアが実現したことになる。「ある」んだか「ない」んだか、実存をかけて戦うアルジェリアvsナイジェリア、有vs無のポストモダン対決が見られなかったのは実に惜しい、惜しすぎるっ!
フランス 2-0 ナイジェリア
娯楽度 ★★
伝説度 ★
決勝トーナメント1回戦、オランダvsメキシコ、執念の逆転劇
●今大会目立つのは3バック(=ウィングバックを含めれば5バック)勢の躍進。その3バック対決がオランダ対メキシコ戦で実現。登録上のディフェンダーの枚数でいえばメキシコはなんと7人ものディフェンスの選手が並ぶ。といっても、実態は守備的戦術ともいいがたく、3バックを採用することで、両ウィングバックを高めに配置して、ハイプレスからショートカウンターを狙うという戦術で、得点力を高めているともいえる。両者同じ狙いなのでコンパクトな中盤でボールを奪い合う拮抗した展開に。しかし気温は32度にまで達する暑さで、90分同様のサッカーを続けるのは困難。前後半の30分時点で各3分の給水休憩が設定された。
●前半はお互いカウンターのチャンスが何度かあったものの、相手に大きなミスかあるか、よほど難度の高い攻撃を成功させない限り、ゴールは生まれそうにないという息詰まる展開。ややメキシコが押していたと思う。後半3分、メキシコはクリアボールを拾ったドスサントスがスーパー・ミドルを決めて先制。これで試合が動き出す。
●オランダはフェルハーフを下げてスピードのあるデパイを投入、4-3-3の3トップにして攻勢を強める。これを受けてメキシコもドスサントスを下げてアキノを入れて運動量を確保。後半30分にメキシコはペラルタを下げてエルナンデスを投入、オランダもファン・ペルシーに代えて高さのあるフンテラールをピッチに送った。どんどん選手間の距離が開いてスペースができるにしたがって、ロッベンの突破が増えてくる。メキシコは今大会のスター候補キーパーのオチョアのスーパー・セーブもあり、なんとかそのまま試合を終わらせる一歩手前まで耐えた。しかし、後半43分、オランダのコーナーキックで、フンテラールが頭で落としたところを、それまで攻撃では目立っていなかったスナイデルが豪快なボレーで蹴りこんで同点。さらに後半49分(アディショナルタイムは6分あったが、その内の3分は給水タイムなので実質は3分)、ロッベンがドリブルでエリア内深くまで突進したのに対して、マルケスが足を引っかけてしまいPK。なぜかフンテラールがこれを蹴って、オランダは土壇場での逆転に成功した。
●テレビなのでピッチ全体はなかなか見渡せないんだけど、オランダは状況に応じて細かくフォーメーションを変化させ、特にカイトは左ウィングバックとして先発しながら、右サイドバック、フォワード、右サイドバックと次々とポジションを変えていた模様。監督がプレイを止めることができないサッカーで、これだけ細かく陣形を変化させるファン・ハール監督、恐るべし。中南米勢の躍進を願ってメキシコを応援していた側としては、この容赦のなさがなんとも憎らしい。メキシコの立て続けの失点は、ニッポンのコートジボワール戦を思い出させた。まあ、状況は違うんだけど。
●この日のもう一試合、コスタリカvsギリシャは延長PKまで突入して、コスタリカが勝った。中米勢が生き残ってくれたのは幸い。ギリシャは一人少ない相手に対して攻め続け、同点には追いつけたが、延長で得点にまで至らなかったということで、これもなんだかニッポンvsギリシャを連想させる。
メキシコ 1-2 オランダ
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★