●長かったワールドカップもついに決勝戦。サッカーは運の要素の強いスポーツなので、一発勝負のトーナメントではいろんな番狂わせが起きるはずだし、実際起きてはいるんだけど、決勝戦となると結局毎度おなじみの「決勝進出経験のある強豪」が出てくる。大会が一カ月にもわたる長丁場となると、運と勢いだけでは最後まで勝ち抜けないということか。
●コンディション面できわめて有利なドイツはほぼ前の試合と同様の布陣で、トップにクローゼ(今大会はたまにしか顔を出さないサブかと思っていたら、ぜんぜんそうではなかった)、ラームは中盤ではなく右サイドバックに。ケディラがケガなのか、若いクラマーが先発。アルゼンチンは心配した通り、ディマリアが復帰できず、アグエロもベンチスタート。試合は序盤から意外とオープンな攻め合いになって、ドイツがボールを保持して、アルゼンチンがカウンターで反撃するという展開に。前半21分、クロースの不用意なヘディングでのバックパスをイグアインが奪って、キーパーと一対一になったが、枠を外してしまう。ドイツのキーパー、ノイアーのプレッシャーの強さゆえか。さらに30分には右サイドからのラベッシのクロスにイグアインが合わせてネットを揺らすもオフサイド。前半終了間際にはドイツにも惜しいチャンスが続いた。お互いの狙いが噛みあったけど、たまたまゴールが決まらず0対0が続いたというゲームに。
●後半からアルゼンチンはラベッシをアグエロに。前半のラベッシの活躍を考えるとかなり意外な交代。後半の序盤はアルゼンチンがボールを持って攻める展開で、後半2分はメッシがキーパーとの一対一を迎えるが、これも枠を外してしまう。メッシはいつものようにだれにもできないスーパープレイをなんども見せてくれるんだけど、ゴールが生まれない。これで非難されてしまうんだから気の毒。後半途中からコンディションの差か、アルゼンチンに疲れが見え出して、徐々にドイツが盛り返す。90分では決着がつかず、延長へ。さすがにドイツは勝負強く、延長後半8分にシュールレが左サイドをドリブルで突破して中央にクロス、これに対してうまくディフェンスの間に走りこんだゲッツェが胸トラップから左足のボレーで完璧なゴール。交代選手が機能した。アルゼンチンは力を出し尽くしてしまい、ほとんど反撃できず。1対0のドイツの勝利は妥当な結果で、むしろアルゼンチンがここまで戦えたということに敬意を表すべき。アルゼンチンはなんといってもディマリアの不在が痛かった。決定的なプレイをするのはメッシだけど、チームにダイナミズムを与えるのはディマリア。
●ついに南米開催で初めて欧州のチームが優勝したわけだが、ドイツが勝ってしまったので試合終了後の感動的なセレモニーももうひとつ見ていて気が乗らない。リネカーの名言通り、「フットボールとは22人がボールを奪い合い、最後はドイツが勝つゲームだ」という結果になってしまった。個々のタレントではもっと華やかな顔ぶれが並ぶチームがいくつもあったわけだけど、チームとしての強さを感じさせたのはなんといってもドイツ。パワーも技術も走力も組織力も団結力もぜんぶある。
●MVP相当のゴールデンボール賞はメッシに。負けたチームの選手が獲得してしまい、なんだかばつが悪い。まるでゲッツェのゴールの前に投票の締め切り時間が来てしまったかのよう。勝者と敗者のコントラストを見ていると、ワールドカップはまだまだ重要な大会なんだなと実感する。チャンピオンズリーグの成功以来、もっとも高度なサッカーはクラブ単位で繰り広げられるようになり、ワールドカップの意義が相対的に小さくなっているのを感じるけど、勝者が得るものの大きさという一点だけに関して言えばワールドカップは格別。なにしろ4年間もチャンピオンでいられるわけだし。だからこそ敗者の落胆も大きいというか。それにしても、ドイツの選手たちと抱擁を交わすメルケル首相の姿を見ていると、悔しさがいっそう募る。メルケルのガッツポーズは夢に出てきそう。メッシのような歴代ぶっちぎりのナンバーワン選手が、結局ワールドカップを手にできずに終わってしまうのかと思うと……。4年後までは情熱が続かない気がする。
ドイツ 1-0 アルゼンチン
娯楽度 ★★★
伝説度 ★★