●そういえば一昨日の川瀬&神奈川フィルでルロイ・アンダーソンの「タイプライター」を聴いたが、今やタイプライターはこの曲の演奏でしか見かけることのない過去の道具となってしまった。実用に供されず、音楽の演奏にしか用いられないのだから、タイプライターは「楽器」と再定義すべきかもしれない。ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」のクラクションと同様に。
●アンダーソンの「タイプライター」では、「パチパチパチパチ」というリズミカルなタイプ音に加えて、明るい「チン!」のベル音と、「シュッ!」のキャリッジリターン音が登場する。一昨日は「チン!」はトライアングルで、「シュッ!」はギロで代用されていたが、どちらも本来は機械式タイプライターが発する音だ。実物のタイプライターを使ったことのある人はすでにかなりの少数派になってしまったと思うが、タイプライターではキーを一文字打つごとに、キャリッジ(シリンダー)が左へ移動する。そして、行末が近づくとそれを知らせるために「チン!」のベル音が鳴る。この音が聞こえたら、シリンダーの左のレバーを持って一番右まで「シュッ!」と動かして、手動で「改行」する。だから「チン!」の後には必ず「シュッ!」が入る。ブラインドでキーを打っていても「チン!」が鳴ってくれるおかげで、視線を動かさずに改行できるわけだ。オフィスで聞こえる「パチパチパチパチ」と「チン!」と「シュッ!」がリズミカルでどことなくコミカルだから、アンダーソンは曲に仕立てようと思ったのだろう。
●ワタシは子供の頃に家に機械式のタイプライターがあったので、その機械としての動作のおもしろさに惹かれて、意味もなく練習してブラインドタッチを覚えた。その後、パソコンやワープロが世に出るようになって、ブラインドタッチは大いに役立ったが、大人になってからタイプライターを使う機会は訪れていない。ちなみに、パソコンの改行コードにCR(キャリッジリターン)とあるのは、このタイプライターの動作が由来だ。
August 6, 2014