September 9, 2014

東京芸術劇場のヴェルディ「ドン・カルロス」パリ初演版

ドン・カルロス●6日は東京芸術劇場でヴェルディ「ドン・カルロス」パリ初演版(フランス語全5幕・日本初演)演奏会形式。在京プロオーケストラのメンバーで結成されるザ・オペラ・バンドを佐藤正浩が指揮。佐野成宏(ドン・カルロス)、浜田理恵(エリザベート)、カルロ・コロンバーラ(フィリップ2世)、堀内康雄(ロドリーグ)、小山由美(エボリ公女)他。この演奏からして実際のパリ初演版からはカットされた部分もあれば追加された部分もあるようで、版の問題は一筋縄では行かないが、ともあれ「ドン・カルロス」そのものをガッツリと正面から堪能。純然たる演奏会形式で演出要素はなし、字幕あり(ゴシック系のフォントだった)。
●この物語で共感可能な人物は、王であり、父であるフィリップ2世のみ。一見強権的なだけの人物のようでいて、彼だけが真に人間的な苦悩と孤独を感じさせる。その点では、初演時にもカットされていたが今回復活されたという第4幕後半の父子の二重唱は味わい深い。逆にヒーローであるカルロスはなにからなにまで「若気の至り」みたいな登場人物で、ロドリーグともども剣先に正義をひっかけているという点で、共感も信用もできない。外枠でドン・カルロスの正義の物語であったとしても、内枠でフィリップ2世の物語(未熟な実の息子と数少ない友を敵に回さなければならなくなった孤独な男の悲劇)が用意されていて、その外枠と内枠があの二重唱で交叉している。
●第3幕ではカルロスがエボリをエリザベートと見まちがえる場面があるが、それに先立って、エリザベートがエボリ公女が衣装を取り換えるシーンが置かれていた。エリザベートはエボリにお願いをする。宴に疲れたから退出してお祈りをしたい、でもそうもいかないからエボリ、あなたに私の衣装を着てほしい、そうすれば遠目には私に見えるだろうから、と。このような衣装の交換による取り違えはオペラではよくある場面ではあるにせよ、権力と愛の物語であるゆえに、これが「血塗られたフィガロの結婚」である可能性に思い至らせる。
●物語のエンディングはやっぱり唐突。しかも静かにしみじみとあっさり終わる。それまでリアリズムの枠内で物語が繰り広げられながら、主人公たちが進退窮まったところで、神秘的な存在を登場させて強引に話をたたむというのは「デウス・エクス・マキナ」そのものだけど、この作法は19世紀後半には受け入れられうるものだったのか、それともやっぱり奇異なものだったんだろうか。現代だったら、無理に話を閉じなくても開いたままで終わらせればいいやとなりそうなもの。すると「続編があってもいいんじゃないの?」って言う人が出てきて、「ドン・カルロス」エピソード2とかエピソード3を作れる。先王時代の話も入れて実は9部作でしたとか言って壮大な「ドン・カルロス」サーガになるとか。

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