●21日は両国へ。初めての両国。駅の構内から横綱たちの巨大肖像画が出迎えてくれる。どすこい! いざ国技館へ……ではなくて、両国門天ホールへ向かう。POCシリーズ、新シーズンが第16回トリスタン・ミュライユ全鍵盤作品で開幕。ちゃんこ屋だらけの街にスペクトル楽派の西の横綱(←適当)が土俵入り。会場にはピアノに加えてオンド・マルトノも鎮座。大井浩明(ピアノ+オンド・マルトノ)、助演に長谷綾子(ピアノ+オンド・マルトノ)。
●全鍵盤作品が一挙に聴けるという貴重な機会、今回も年代順に作品が演奏されるということで、事前に演奏時間が添えられた曲目一覧を見て覚悟を決めてやってきたが、それでも予想以上の強烈さ。なにしろ、「夢が吊るし磨いた目のように」「マッハ2.5」「展かれし鏡」「河口」「ガラスの虎」「忘却の領土」という前半だけで、1時間半コース。オケのマーラー/ブルックナーの大作一曲プロならこれだけで終演してる。休憩後の後半は「南極征服」「告別の鐘と微笑み ~ メシアンの追憶に」「マンドラゴラ」「仕事と日々」。アンコールも含めて全部終わったら、なんと想定外の3時間半コースになっていて、気分的にはワーグナーの楽劇一作を聴き通すに匹敵するくらいの儀式的体験。
●「マッハ2.5」のオンド・マルトノ二重奏など、なんといってもオンド・マルトノの電気的音響が醸し出す「懐かしい未来」感が素敵ではあるんだけど、自分にとってのハイライトはピアノ独奏による「忘却の領土」。会場は残響の乏しいデッドな小空間ではあったけど、それでも響きの文様が半時間にわたって描き出す領土は十分に豊饒さを感じさせるものだった。恍惚。
●「のだめカンタービレ」で一躍名前が知られた「マンドラゴラ」もピアノ独奏曲。この曲って、マンドラゴラが絞首刑になった男から体液が滴り落ちたところに生えるっていうことで、ラヴェルの「夜のガスパール」の「絞首台」を引っ張ってきているんすよね。マンドラゴラと聞くと、引き抜くと叫び声をあげてそれを聞いたものは死ぬ、っていう話をまっさきに連想する人が多いと思うんだけど、そういう描写ではない(と思う)。
●お楽しみのアンコールはジョリヴェのオンド・マルトノ協奏曲から終楽章(オンド・マルトノ独奏:大井浩明、ピアノ連弾伴奏:長谷綾子+平野貴俊)。愉悦のデザート。
●POCシリーズ、次回は10月19日に近藤譲全ピアノ曲。以降、ヴォルフガング・リームのピアノ曲全曲、西村朗ピアノ作品撰集、細川俊夫/三輪眞弘全ピアノ曲、南聡「ピアノ・ソナタ」全曲と続く。
September 22, 2014