●自分がサッカーを見始めたときにいちばん魅力を感じたのは「ゴールが生まれるまでの型がないところ」だった(ホントはあるかもしれないけど)。意図がぴたりとかみ合って複雑な手順をたどってようやく生まれる場合もあれば、ロングパス一本で簡単に訪れる決定機もある。その「型がないこと」を、今の自分の言い方でいえば「戦術が多様である」っていうことになるんだと思う。
●で、そんなサッカーの戦術のあれこれをJリーグを例に教えてくれるのが、「Jリーグの戦術はガラパゴスか最先端か」(西部謙司著/東邦出版)。具体例満載で、読みやすくておもしろい。というか、おもしろい戦術本って、「読み物」になるんすよね。戦術本にはアマチュア指導者向けの解説書という実需もあると思うんだけど、そっちのほうではなくて。ペトロヴィッチが広島と浦和で作りあげたスタイルがいかに世界でもまれに見るユニークなものなのか。オシムがJEFで成し遂げたのはなんだったのか。結果がぜんぜん出なくて忘れ去られてしまってるけどバルセロナからやってきたレシャックが横浜フリューゲルスでやろうとしていたことがどれだけ先進的だったのか。史上最強の磐田のN-BOXとはなんだったのか。これは戦術で振り返るJリーグ史でもある。
●目ウロコだったのは、Jリーグは「戦術的に冒険しやすい環境なのかも」という指摘。個の力で圧倒できるビッグクラブなら特異な戦術を敢行するより選手の能力で戦ったほうが安全に勝てるけど、どんぐりの背比べみたいなJリーグなら独自のアイディアによる戦術で戦う価値がある、と。あと、「ゲームにおいて戦術の占める割合はせいぜい2、3割」という指摘もまったく同感で、戦術的な成熟度を深めたチームがほとんど個の力だけで戦ってるみたいなチームにコロッと負けたりするのもサッカー。この「せいぜい2、3割」っていう配分の絶妙さが、サッカーという競技の魅力の源泉なんじゃないかとすら思う。
November 5, 2014