●7日はNHKホールでデュトワ&N響によるドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」。歌手陣、オーケストラともに高水準の演奏で、得難い体験になった。音楽と言葉の結びつきが強い(らしい)うえに、数カ所を除いて延々とpとppの音楽が続くような作品とあって、録音ではなかなか聴き通せないんだけど、こうしてクォリティの高い実演に接すると作品に対するイメージがぐっと鮮やかになる。歌手陣はペレアスにステファーヌ・デグー、メリザンドにカレン・ヴルチ、ゴローにヴァンサン・ル・テクシエ、ジュヌヴィエーヴにナタリー・シュトゥッツマン、アルケルにフランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ他。万全。3幕の後に30分の休憩を入れて計3時間20分ほど。
●作品について改めて感じるのは、これがドビュッシーによる「トリスタンとイゾルデ」であること。トリスタン、イゾルデ、マルケ王の三角関係は、ペレアス、メリザンド、ゴローの三者に移植される。第2幕第2場の間奏曲は、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」第3幕の前奏曲を思い出させずにはおかない。闇と官能の音楽。その後に続く洞窟の場面では、ドビュッシー自身の交響詩「海」がこだましている。
●登場人物ではゴローの苦悩に焦点を当てて見た。ペレアスとメリザンドは記号だけど、ゴローは実在。「フィガロの結婚」においてフィガロとスザンナがファンタジーで、アルマヴィーヴァ伯爵が現実であるように。
●メリザンドはウツボカズラみたいな女で、男を絡め取るためのワナを張って生きている。不幸になりたい女、不幸にしか生を感じられない女。割と世間でよくいるタイプかも(?)。そして、すぐになんでも失くす。君、水難の相が出ておるね。泉で冠を失くし、指輪をなくし、しまいに恋人を失くす。それも失くすべくして失くしている。不幸にしか生を感じられない女だから、わざと崖っぷちに立ってしまう。メリザンドの出自は最後まで語られないが、彼女はセイレーンの別形態というべきだろうか。ドヴォルザークの「ルサルカ」なんかと同系統のオペラともいえる。
December 9, 2014