●最近読んだなかでも抜群におもしろかった一冊が、新国立劇場合唱団指揮者である三澤洋史さんの「オペラ座のお仕事 世界最高の舞台をつくる」(早川書房)。三澤さんがいかにして指揮者になったか、そして新国立劇場の舞台裏で起きた数々のエピソードが率直で軽妙なタッチで綴られている。さらにバイロイト音楽祭やスカラ座で体験した現場の姿、指揮者論など、どこをとっても読みごたえがある。特に印象に残ったのは新国立劇場での指揮者リッカルド・フリッツァとの「戦いと友情の物語」だろうか。合唱指揮者に振らせず、合唱はオレの棒だけを見ろと要求するフリッツァと、それでは合唱が十分に実力を発揮できないという三澤さんの決定的な対立が、やがて信頼と友情で結ばれた関係へと発展する。
●で、先日、FM PORTの拙ナビによる番組「クラシックホワイエ」の収録で、三澤さんをゲストにお招きすることができた。合唱指揮者の役割や、著書「オペラ座のお仕事」について、楽しいお話をたっぷりとうかがった。オンエアの予定は2月14日(土)22時~。新潟県内の方は電波またはラジコで、それ以外の方はラジコプレミアムでお聴きになれます。本を読んだ方も、未読の方も、ぜひ。
2015年1月アーカイブ
「オペラ座のお仕事 世界最高の舞台をつくる」(三澤洋史著)
ソニーの Music Unlimited サービス終了へ。Spotifyと協力し PlayStation Music に
●寝耳に水のニュース。ソニーの定額制音楽配信 Music Unlimited が3月29日をもってサービス終了するという。えっ、まさか。まだまだこれからのサービスじゃないの?? と疑問に思うが、Music Unlimited は終了するものの、代わって Spotify との提携により新音楽サービス PlayStation Music を世界41カ国・地域で提供するというではないか。
●つまりそれって PlayStation のブランドで中身が Spotify っていうサービスに変わるってことなの? だったらそれはそれで歓迎だけど、問題は例によって「国境の壁」だ。日本国内での PlayStation Music の展開については「様々な可能性を検討しておりますが現時点では未定です」という。このなんともいえない、やれるかもしれないしやれないかもしれない感。ああ。Music Unlimited とは違った国内レーベルとの契約が必要になるんだろう。
●現状、クラシックに関して言えば Naxos Music Library が圧倒的に強力で、これがあれば事足りるという面はあるんだけど、ユニバーサル系レーベルの音源を聴くときは Music Unlimited に頼ってきた。PlayStation Music の国内サービスが始まるのかどうなのか、そして始まったとしてその中身がどうなっているのか、目が離せなくなっている。
「Music Unlimited」サービス終了のお知らせ
http://www.sony.jp/music-unlimited/info/201501.html
アジア・カップ2015、決勝は韓国vsオーストラリアに
●ニッポン代表が早々に敗退してしまって、もはや「えっ、今なんかやってったっけ?」状態のアジア・カップ2015であるが、準決勝の2試合はそれぞれ順当な結果に終わった。韓国は2-0でイラクを下し、オーストラリアもUAEを2-0で退けた。まあ、そりゃそうだよなあ。イラクともUAEともニッポンは対戦したわけだが、どちらも到底優勝を狙えるようなチームには見えなかった(UAEに勝てなかったのに言うのもなんだが)。
●決勝に進んだ韓国とオーストラリアはともにグループリーグA組のチーム。日程的にはいちばん恵まれたグループだが、グループリーグでの両者の対戦では韓国が1対0で勝った。なので、ホントは開催国オーストラリアに期待されていたA組1位が韓国になり、2位がオーストラリアになってしまった。そのため決勝は韓国のほうが中四日、オーストラリアのほうが中三日で迎えることに。ホームゲームになるオーストラリアと、日程面で万全の韓国と、いい勝負になるのでは。少なくとも試合内容的に水準の高いゲームが期待できそうな、この大会では貴重なカード。
●オーストラリアがオセアニアからアジアへ転籍してきたときは、厄介な強豪国が増えたなあ……と頭を抱えたけど、今にして思うと来てくれてありがたかったというほかない。中東色の強いアジアサッカー連盟だけど、アジア広すぎなのでそろそろ東西に分割してもいいのかも。
LFJ2015は「PASSIONS(パシオン)恋と祈りといのちの音楽」
●金沢、新潟、びわ湖に続いて、東京の「ラ・フォル・ジュルネ」も今年のテーマが発表された。PASSIONS という大筋のテーマはすでに告知されていたけど、これをどう日本語表現に落とし込むかというのがなかなか難しいところだなあと思っていたところ、こうなった。
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2015
「PASSIONS(パシオン)恋と祈りといのちの音楽」
●金沢とびわ湖が「パッション(パシオン)・バロック」とバロックをテーマに掲げているのに対し、新潟は「パシオン ~恋する作曲家たち」、東京は「PASSIONS(パシオン)恋と祈りといのちの音楽」といったように、「恋」というキーワードが出てきた。えっ、恋? 愛じゃなくて恋。男子メンタリティ的にはまちがえてうっかり違う場所に来ちゃった感もそこはかとなく漂うふんわりしたキーワードであるが、ショパンとかシューマンとかブラームスといったロマン派の作曲家やオペラ・アリアなどを「恋」という言葉でくくっている模様。「祈り」は主にバロック期の受難曲等を表わしているとして、「いのち」はなんだろう? 2月12日に記者発表が開かれるので、そこでプログラムが明らかになるはず。
●キーワードを「と」でつなげて3つ並べる方式はリズミカルでいいかもしれない。でもなかなか覚えられない。えーと、「パシオン、恋と花火と観覧車」。ちがう、「パシオン、恋とスフレと娘とわたし」「パシオン、酒と泪と男と女」「パシオン、俺とお前と大五郎」……じゃない、「パシオン、恋と祈りといのちの音楽」だ!みたいな。
ニッポンvsUAE@アジア・カップ2015準々決勝
●もう敗退してしまった大会について今さら振り返るのもなんだが、それでも振り返っておく。アジア・カップ2015準々決勝のニッポンvsUAE。1対1の同点から延長でも決着つかずにPK戦で本田と香川が外して、決勝トーナメントの初戦でニッポンはあっさりと敗退してしまった。
●こちらは中二日、相手は中三日というコンディションの差は当初から危惧されていた。ニッポンはグループリーグの3試合でも先発をローテーションさせずに戦ってきた。そして、この試合でもやはりメンバーを動かさずに戦った。相手とのコンディション差はじわじわと効いていただろうし、実際に終盤では交代枠を使い切った後で長友が足を痛めるというアクシデントがあったわけで、アギーレ監督の起用法がよかったとは思えない。が、ジーコだって固定メンバーで優勝を果たしたわけで、短期決戦でコンディションよりメンバー固定を優先することがまちがいとはいえないこともわかっている。メンバーは、GK:川島-DF:酒井高徳、森重、吉田、長友-MF:長谷部-遠藤(→柴崎)、香川-FW:乾(→武藤)、本田、岡崎(→豊田)。
●試合内容を振り返れば、一方的にニッポンが相手を押し込んでいた。早々にUAEが先制してしまったが、その後、ニッポンはチャンスの山を築いた。本田のワンツーからの柴崎のミドルシュートはセンセーショナルだったが、後半36分と追いつくのが遅すぎた。こちらのシュートは35本(枠内8本)、相手のシュートは3本(枠内2本)。一方的にもほどがあるが、それでも入らないときは入らない。決定力不足というより、運がなかったという印象。サッカーではこういう試合も避けられない。PK戦は先攻のニッポンのほうが統計的にはずっと有利だったはずだが、これもまた不運な結果に終わってしまった。
●じゃ、結果論以外でなにが悪かったかといえば、それは世代交代を一歩も進められなかったことだろう。ザッケローニがスタート時から抱えていた(そしてワールドカップ本大会でアキレス腱ともなった)長谷部と遠藤のバックアップをどうするか問題が、まさか次の監督になっても続くとは。アギーレの悲しいところは当初、独自の評価基準でフレッシュなメンバーを選びながら、親善試合を重ねるごとにザック時代に回帰し、すっかりもとにもどったアジア・カップで早々に敗退してしまい、オーストラリアや韓国といった同レベルのサッカーで戦える公式戦を経験できずに終わってしまったこと。なんという、踏んだり蹴ったり感。おまけにスペイン時代の八百長騒動まで勃発していて、呪われている。
●で、これからどうすんのよってのが問題。アギーレを解任するっていっても、違約金などの契約条件がどうなっているんだか。八百長事件の行方によっては、急激な展開があるかもしれないが……。
ノセダ&N響でカセルラの交響曲第3番、Jupiterで新連載
●22日はジャナンドレア・ノセダ指揮N響へ(サントリーホール)。リストの交響詩「レ・プレリュード」 、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲(アレクサンダー・ロマノフスキー)、カセルラ(カゼッラ)の交響曲第3番というプログラムで、断然カセルラが楽しい。はじめて聴いた。伝統的な4楽章構成の交響曲で、1940年の曲とは思えない書法。以前ノセダが来日したときは同じカセルラの交響曲第2番(なんと日本初演だった)を演奏してくれて、そのときはどっぷり後期ロマン派な作風に聴衆は大喝采だった。が、この第3番が書かれたのは前作から約30年後。保守的とはいっても熱血シンフォニーではなく、ショスタコーヴィチ風味ありマーラー風味ありで、やはり時代意識の変化が作風にも影響を及ぼしているのか。特に終楽章は思い切りマーラーの5番。パロディなのかシリアスなのか反応に困ってしまう。そんなとまどいも含めて満喫。未知の交響曲を実演で聴けるという喜び。
●お知らせをひとつ。大阪のいずみホールの情報誌 Jupiter で今号より新連載をスタート。前号でひとつ連載が終わっていたんだけど、今度はまったく別のテーマで再登板することになった。「音楽・座右の銘」という、音楽家が残した一言を題材とした気軽なエッセイ。「運命と呼ばないで~ベートーヴェン4コマ劇場」でおなじみのIKEさんに漫画を添えていただいている。作曲家を題材に、だれかに挿画をお願いしよう……となって、まっさきに名前が思い浮かんだのがIKEさん。共演できてうれしい。
アレクサンダー・ガヴリリュクのピアノ・リサイタル
●20日はアレクサンダー・ガヴリリュクのピアノ・リサイタルへ(東京オペラシティ)。前半のモーツァルトのロンド ニ長調、ブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」もさることながら、お目当ては後半。恐るべきヴィルトゥオジティ。リストのメフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」とコンソレーション 第3番、ワーグナー~リストの「イゾルデの愛の死」、リスト~ホロヴィッツの「ラコッツィ行進曲」、サン=サーンス~リスト~ホロヴィッツの「死の舞踏」、リストの「タランテラ」(巡礼の年第2年補遺「ヴェネツィアとナポリ」より)という派手なプログラムで超絶技巧が炸裂。豪快。陰影に富んだ表情だとか詩情だとか、そういう要素もないことはないんだろうけど、メカニカルな雄弁さがあまりに強烈で、ひたすら圧倒される。
●アンコールは5曲、次々と。高速千手観音みたいなリムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」、メンデルスゾーン~ホロヴィッツの「結婚行進曲」他。
●カヴリリュク、がぶり寄り。がぶり寄ってると思う、彼は。今時代はガブッ! ガブリと噛む、噛みしめる。ガブッ(←くどい)。
ニッポンvsヨルダン@アジア・カップ2015
●アジア・カップ2015、グループリーグの全24試合が終わったわけだが、ついに引き分けはゼロのまま! なんという珍事。
●ニッポンのグループリーグ第3戦は対ヨルダン戦。前回、ワールドカップ予選で負けてしまった相手だ(こちらに余裕のある状況ではあったけど)。毎回、アジア・カップでは主審の不安定な笛と「もう一つの戦い」をくりひろげざるを得ないのだが、この日も後半始まってすぐに岡崎、乾にイエローカードが出たあたりから、いっそうナーバスになった雰囲気。アギーレ監督がその後二人を交代させたのは、2枚目のイエローを嫌ったからなんだろう。もっと楽な展開なら早めにベテランの選手を下げて休ませたかったはず。
●ニッポンの先発は前の2戦とまったく同じ。休ませるより、ベストの布陣で確実な結果を求めた。GK:川島-DF:酒井高徳、吉田、森重、長友-MF:長谷部-遠藤(→柴崎)、香川-FW:本田、乾(→清武)、岡崎(→武藤)。長谷部はすっかりアンカー役が定着、随時ディフェンスラインまで下がってゲームを組み立てる。序盤、乾と香川の見事なコンビネーションで、乾のボレーが決まったかのように見えたが、香川がクロスを入れる際にゴールラインを割っていたという判定で取り消し。しかし24分に乾の細かい絶妙なスルーパスから岡崎がシュート、キーパーがはじいたところを本田が右足で蹴り込んで1対0。乾は代表でのベストマッチだったのでは。持ち味が発揮されていた。
●後半13分、遠藤のスルーパスに本田が抜け出てネットを揺らしたがオフサイドに。オンサイドに見えたが……。追加点はようやく後半37分。交代出場した武藤が左サイドから低いクロスを入れて、中央で香川がゴール。試合はずっとニッポンが支配していたもの、守備の局面になると簡単にファウルを取られて相手にフリーキックを与えてしまうので、1点差の間はヨルダンにもチャンスはあったと思う。しかし、内容的にはヨルダンは危険なスペースをニッポンに好き放題に使われていた感。
●実感がわかないが、オーストラリアなのでこれは夏の大会っぽい。次の決勝トーナメント1回戦が中二日というのが正念場。UAEと対戦することになったが、同じメンバーで完成度の高い消耗戦をするのか、フレッシュなメンバーでコンディションを優先させるのか。遠藤、長谷部、香川、本田といった中心選手をどうするのかが悩みどころ。ザッケローニ時代から遠藤、長谷部のバックアップ問題は続いている。今野がケガのようだし、柴崎?
ノセダ、ロマノフスキー、アジア・カップ2015
●先週のコンサートだけど備忘録的に。16日はノセダ指揮N響(NHKホール)。イタリア人ながらオール・ロシアものというノセダならではのプログラム。組曲「展覧会の絵」は最近&これからなぜか東京で演奏頻度が高い曲目。ラヴェル流の洗練と精緻さに焦点を当てるのではなく、その向こう側にあるムソルグスキーの土俗性をぐいっと引っぱり出して見せるような濃厚な演奏だった。
●17日は彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールでアレクサンダー・ロマノフスキーのリサイタル。少し遠いがこのホールは好き。なぜかいつも与野本町と大宮とどちらが手前かわからなくなる。埼京線に乗って、与野本町に行くのはコンサート、大宮に行くのはサッカー。前半ベートーヴェン、後半ショパンというプログラムで、予想以上に後半の比重を大きく感じたというか。アンコールは盛りだくさんで、ショパン「革命」、バッハ~ジロティ編曲の前奏曲 ロ短調 BWV855(平均律第1巻の曲)、スクリャービン「12の練習曲」より第12番嬰ニ短調、ショパンの夜想曲第20番(遺作)、バッハ~ユシュケヴィチ編曲の「バディヌリ」。ジロティ編曲の容赦のないロマン性が強烈。ユシュケヴィチ編曲は爽快。都内での公演はこれから23日、紀尾井ホールで。
●今回のアジア・カップ2015、グループリーグはニッポン代表を含む残り2戦となったが、なんとこれまでの22戦で引分けが一試合もない! 一般にサッカーの引分け確率は25%程度であるから、22試合で引分けが一試合もない確率は0.75^22ということで0.18%ほどしかない……と、言いたいところだが、これはJリーグやプレミアリーグのように同一リーグでの話。アジア・カップのグループリーグはチーム間の実力差はもう少し大きいと思われるので、引分け確率は違ってくるだろう。しかし、それにしても勝敗が決まりすぎててサッカーらしくないというかなんというか。
ニッポンvsイラクとアジア・カップ2015のここまで
●16日に開催されたニッポン代表の第2戦、ニッポンvsイラク。結果だけを見ればPKによる1対0だが、内容的には予想以上にイラクを圧倒していた。イラクはこの大会では安定して好成績を残す元チャンピオン。若年層が育っており、特に右ウィングの7番の攻撃力が高いようだが、試合が始まってみるとニッポンがずっとボールを支配し、イラクは防戦一方に。前半23分、左サイドで乾が股抜きクロスを入れて、ゴール前でこぼれ球を本田が拾ったところを倒されてPK。本田が決めて1対0。しかしその後は決定機を何度も作りながら、バーやポストに嫌われ続けた。高温多湿の環境もあり、後半はペースダウンしてやや低調な展開に。しかし、しっかり崩せていたので、決定力不足というよりは運の問題という印象。
●GK:川島-DF:酒井高徳、吉田、森重、長友-MF:長谷部-遠藤(→今野)、香川-FW:本田(→武藤)、乾(→清武)、岡崎。前の試合でもうひとつだった乾だが、この日は個人技を生かして左サイドを活性化していた。遠藤はこの日も早めに交代。必要不可欠な選手なので、コンディション的に無理をさせないといった様子。2戦2勝だったにもかかわらず、決勝トーナメント進出は決まらず。次のヨルダン戦に負けるとどうなるかわからない。決まっていれば休ませたい選手がいたかもしれない。
●アジア・カップ2014、別のグループを見ると中国の躍進ぶりが目立つ。サウジアラビア、ウズベキスタン、北朝鮮相手に3戦全勝はスゴい。これは予想外。優勝候補の一角と見ていたウズベキスタンはサウジアラビアを下して2位通過。サウジアラビアがグループリーグでまさかの敗退。開催国オーストラリアは最初の2戦はクウェート、オマーン相手に4ゴールずつ奪って快勝したが、3戦目は韓国に0-1で敗れてグループ2位に。韓国が開催国を押しのけてA組1位という、トーナメントに向けての好ポジションをゲットした。
●今回の大会、決勝トーナメントで不利なのは、D組の2位というポジション。なぜなら、1回戦を中二日で戦わなければならず(相手は中三日)、おまけにそこで勝ったとしても、次はまた中二日になる(こちらも相手は中三日)。D組というのはニッポンの組であって、ここはなんとしても1位で通過したいんである。ワールドカップでもそうだが、最終的に決勝に至るまでの日数は、どうしたって最初に登場するA組がいちばん長く、後から出てくる組ほど短くなる。なので、A組1位の韓国はベスト・ポジション。ニッポンはいちばん損なD組に入っていて、1位通過でも決勝戦で相手より休みが一日短くなることは避けられない。
「男のパスタ道」(土屋敦著/日経プレミアシリーズ)
●「そうだっ! それを知りたかったんだよっ!」と思わず声をあげたくなった「男のパスタ道」(土屋敦著/日経プレミアシリーズ)。新書一冊をまるまるペペロンチーニの作り方に費やしているというとんでもない本だが、まったくもって賛嘆するほかない。
●なぜかといえば、ごく当たり前のように対照実験をしているから。スパゲッティの作り方に関してはいろんな人がいろんなことを言う。お湯は大量に使え。塩はたくさん使え(あるいは使わなくていい)。オリーブオイルはエクストラヴァージンをたっぷりと。ソースにゆで汁を入れろ(あるいは入れるな)。麺はどれがいい、フライパンはアルミで、にんにくは、唐辛子は……。でも、それがなぜなのか、お湯はたっぷり使えというのなら、たっぷりじゃなかったらどうなるのか。そういう疑問に対して、いちいち粘り強く定量的な実験を試みて、読者の目から鱗を落としまくる。料理本で目にした「常識」とされるものが、ガラガラと音を立てて崩れていく。
●たとえばお湯に入れる食塩の分量について、段階的に濃度を変化させて、それを家庭内二重盲検法(←いいね、いいね!)によって比較する。ワタシは漠然と、塩を入れるのは(味付け以外に)沸点上昇の目的があるのかなと思いこんでいたんだけど、ぜんぜんそういう話ではなかったことがわかる。あるいは塩の種類について。塩なんてどの土地のどの製法による塩でもみんな塩化ナトリウムなんだから、本来どれも味は違わないはず。しかしある海塩を用いたところ、二重盲検法で9割の確率で味を区別できたという。パパーンと膝を叩きたくなった。これは塩以外の成分、ミネラルによって味が変わってくるということだろうが、ワタシらが知りたかったのは「ミネラル豊富な塩を使うとパスタがおいしくなりますよ」というレシピではないんである。そうではなく、「海塩を使ったら二重盲検法で9割の確率で区別できる味の違いが生まれる」のほうを知りたいんである。なんというか、料理と健康法とオーディオの世界は、思い込みなのか事実なのか迷信なのかよくわからない話だらけでうんざりさせられることが多いんだけど、こうしてはっきりと統計的な有意差があるんだということを示してくれるんなら、たとえそれが家庭内の簡易な実験でも十分に納得できるし、留飲が下がる。
●もうひとつ、この本のいいところは、究極のおいしいペペロンチーニのレシピを作りあげる一方で、そんなに手間暇かけられない場合の効率的かつ現実的な時短レシピみたいなものも用意してくれるところ。
●いちばんラディカルだと思ったのは、ソースにオリーブオイルを使うことに対して疑念を抱き、やがて太白ごま油にたどりつくくだり。凄味がある。
阪哲朗指揮東京フィルのドヴォルザーク&ベートーヴェン
●14日は阪哲朗&東京フィルへ(東京オペラシティ)。ドヴォルザークのチェロ協奏曲(堤剛)、ベートーヴェンの交響曲第7番という名曲ど真ん中プロ。堤さんがドヴォルザークを弾くのを聴くのは何回目なんだろうか。風格漂う気迫のソロ。独奏者のオーラが客席まで届いていた。オーケストラのサウンドも豊麗で潤いが感じられる。アンコールにカザルス「鳥の歌」。定年退職する首席チェロ奏者の黒川さんに捧げて演奏された。後半のベートーヴェンの交響曲第7番は歯切れよく躍動感に富んだ快演。どことなくクライバーを連想させる。客席の反応はもう少し熱くなるかなとも思ったが……。
●終演後、いったん拍手が止んでオーケストラが舞台から退出しているところで、ふたたび客席から黒川さんへの拍手。舞台袖に引っこんではいないからこれはソロ・カーテンコールとは言わないだろうけど、なんて呼べばいいんだろう。心温まる光景だった。
OEKのニューイヤーコンサート2015
●年末年始モードが終わって、今週は一気にコンサート・ラッシュ。13日はオーケストラ・アンサンブル金沢のニューイヤーコンサート2015へ(紀尾井ホール)。井上道義さんの東京での復帰公演になる(鎌倉ではN響公演があったけど)。なにも知らなければ「少し痩せられたのかな」と思うくらいで、指揮ぶりは闘病以前の姿とまったく変わらない。放射線治療の影響で声はさすがにしわがれてはいるものの、昨年10月の復帰会見より格段に復調している。
●プログラムは新年らしく、ワルツ&ポルカとミュージカルを半々くらいで合わせたもので、ミュージカルの部分は島田歌穂さんが歌ってくれた。歌はPAありで、普段のコンサートとはずいぶんちがった雰囲気に。シュトラウス・ファミリーもあればロイド・ウェッバーもあるという多彩さ。帰宅してから島田歌穂さんが「がんばれ!! ロボコン」のロビンちゃんだったと知って、軽く震撼している。ハートマーク、没収。
●今、金沢は3月の北陸新幹線開通という歴史的大イベントを迎えようとしているのだが、これにちなんでヨハン・シュトラウス2世のポルカ「特急」(急行列車)が演奏された。19世紀風のレトロなスピード感が表現されていて、速いんだけど速くない。「ビュンビュン走る」様子が描写されているんだけど、現代の新幹線くらいまで高速化するともう速すぎて「ヒューン」でおしまいだから。今ヨハン・シュトラウス10世くらいが生きていたら、金沢市とJR西日本は北陸新幹線開通記念「かがやきポルカ」を委嘱していたはず。
ニッポンvsパレスチナ@アジア・カップ2015
●いよいよアギーレ・ジャパンがアジア・カップへ。初戦はニッポンvsパレスチナ。今回のグループリーグでの対戦相手のなかでは実力的に一段落ちると見られた相手だったが、やはり内容的にもかなりの差があったと思う。おまけに前半8分の遠藤のミドルシュートなど、効果的な時間にゴールを奪えたこともあって、後半4分には4対0の大差がついてしまった。その後、相手に退場者も出たがニッポンのペースも落ちてそのまま試合終了。
●ニッポンのメンバーはGK:川島-DF:酒井高徳、吉田、森重、長友-MF:長谷部-遠藤(→武藤)、香川-FW:本田、岡崎(→豊田)、乾(→清武)。意外な点としては乾を先発させたということか。しかし見せ場は少なく後半頭から清武へ。どちらにせよ、メンバーはすっかりザッケローニ時代に戻った。4-2-3-1だったシステムが4-3-3になったのが違うといえば違う(が、そんなに違わないといえば違わない)。本田はミランと同じく右のウィングでプレイしていて、プレイスタイルもミランと同じ。少し前までそんなイメージはまったくなかったのに、すっかりアウトサイドのプレーヤーとして機能している。スピードはあまりないが、きわめて有効。香川はゴールがなかったのが惜しいが、得点には絡んでいた。両サイドもこの相手だとのびのびプレイできる。強風で、前半向かい風、後半追い風。パレスチナはこれからのチーム。
●ゴールは遠藤、岡崎、本田(PK)、吉田。交代出場した選手たちがもう少し活躍してくれてもよかったような気もするが、早々に勝敗が決してしまっていたことを考えればしょうがないか。後半13分に遠藤を武藤と交代したのは、試合間隔の短さも考えて遠藤を休ませようということなんだろう。16日の第2戦、イラクは前々回チャンピオン。今日とはまったく違った試合になるはず。
●で、各国の初戦の結果を眺めると、ホスト国オーストラリアはクウェートに4対1で快勝。難敵と思われたクウェートだがこの結果は立派。UAEが4対1でカタールに大勝したのと、サウジアラビアが0対1で中国に敗れたのがややサプライズだが、イラク、韓国、ウズベキスタンといった強豪はいずれも1対0で勝利しており、おおむね順当。ここまでの8試合でひとつも引分けがなかったのがおもしろい。
LFJ2015、金沢、新潟、びわ湖でのテーマ
●以前にもお伝えしたように、次回のラ・フォル・ジュルネはナントも東京もみんな「パッション」というテーマで開催される。とはいえ、この「パッション」(情熱、キリストの受難)という言葉をどう日本語のテーマに反映させるかは悩みどころで、いったいどうなるかなと思っていたら、東京に先んじて金沢、新潟、びわ湖で正式名称と思われるテーマが発表されている。
●ぜんぶ「パッション」にはちがいなんだけど、それぞれ微妙にニュアンスが違うので以下に並べてみよう。
LFJ金沢:パッション・バロック ~ バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディ~
LFJ新潟:パシオン ~恋する作曲家たち~
LFJびわ湖:パシオン・バロック ~バッハとヘンデル~
●金沢とびわ湖ははっきりとバロックを打ち出している。金沢はバッハとヘンデルとヴィヴァルディが主役。びわ湖ではそこからヴィヴァルディが抜けてバッハとヘンデルの二人になる。ただ金沢は「パッション」だけど、びわ湖は「パシオン」なんである。パシオン……。これってフランス語風ってこと? 主役となる作曲家がはっきり示されているので、実は従来とテーマ設定の仕方自体は変わっていないわけだ。
●一方、新潟は「パシオン ~恋する作曲家たち~」と、まるで女性誌の特集タイトルみたいなノリになっている。この副題からすると、バッハやバロック中心というわけではないということなんだろうか。バッハは「恋する作曲家」っていうにはあまりに家庭的なイメージで、むしろ「繁殖する作曲家」って気もするし。恋を題材とした曲は無数にあり、色恋沙汰と無縁の作曲家というのもほとんどいないわけだから、どんな可能性でもありそう。期待して待つしか。
まもなくAFCアジア・カップ2015開幕
●いよいよ明日からアジア・カップ2015が開幕。NHK放送予定をチェックしておきたい。開幕戦は開催国オーストラリア対クウェート。ニッポン代表の初戦は12日のパレスチナ戦。
●ワールドカップがお祭りだとすれば、アジア・カップは勝負。最近、この大会でのニッポン代表の優勝率はスゴいことになっていて、 1992年に広島で初優勝してからの6大会中でなんと4回も優勝している(残る2回はサウジアラビアとイラク)。これだけ見れば、どれだけ図抜けているのかという気がするが、実際にはPK戦なども含め、かなり運に助けられた面もあったはず。ニッポンはオーストラリア、韓国、イラン、イラク、ウズベキスタンとともに優勝候補くらいのイメージ。特に開催国オーストラリアはようやく世代交代に成功しつつあるようなので、優勝候補の筆頭か。
●でも、昨年のワールドカップでホントにアジアは酷かったんすよね。4チームで0勝9敗3分という最弱ぶり。前々回、ついにニッポンが時代を変えたかと思ったんだけど、想像以上の反動があったというか。その意味では今回のアジア・カップはどこが勝つか以上に、試合内容というか、サッカーのクォリティの高さを求めたい気分になっている。
「アナと雪の女王」と「キャリー」
●ようやく観た、映画「アナと雪の女王」。もう語り尽くされている作品なので屋上屋を架すこともないが、本当によくできている。そして、昨年映画館で見た同じくディズニーの「マレフィセント」と驚くほど同質の物語になっていた。一昔前ならお姫さまは白馬の王子さまを待つばかりの主体性のないヒロインにすぎなかったが、今や姫は自力で自分の生き方を決め、自分の考えに従って世界と関わってゆく。王子さまなど不要、むしろ邪悪な存在ですらある。まったくもってうなずける古典のバージョンアップ。「マレフィセント」のほうがいくらか対象年齢が上の分、男に対する視線は辛辣になっている。正しい。
●とはいえ「アナと雪の女王」と「マレフィセント」はかなりネタがかぶっていて、「真実の愛」を探し求めるくだりはまったく同じといっていいほど。これをよく同時期に公開したなとは思った。
●「アナと雪の女王」でひとつ連想したのは、「キャリー」。スティーヴン・キングの処女作で、ブライアン・デ・パルマ(1976)とキンバリー・ピアース(2013)の監督で2度映画化されている(後者は未見)。「キャリー」では抑圧された思春期の少女が、限界にまで追い込まれることで超常的な力を爆発させて、惨劇を引きおこす。「アナ雪」でエルサが「ありのままで」といいながら魔法の力を前回にして氷の城を築く場面は、「キャリー」へのオマージュなんじゃないかと思ったほど。エルサはアレンデール王国の王女で、キャリーはスクールカーストの最下層というポジションの反転があるが、女の子が大人の女性への一歩を踏み出す姿をファンタジーの文脈で描いたという点で両者は共通する。
東京国際フットボール映画祭、2月に開催
●2月7、8、11日にかけて東京国際フットボール映画祭という催しが開催される。場所は秋葉原のUDXシアターで、サッカーをテーマとした7作品を上映。見にいけるかどうかはともかくとして、予告編を目にして特にひかれたのは「FCルワンダ」「イスタンブール・ユナイテッド サポーター革命」「ベンジャミン・フランクリンの息子たち アメリカン熱狂サポーターライフ」の3作。
●ルワンダといえば、フィリップ・ゴーレイヴィッチ著の「ジェノサイドの丘―ルワンダ虐殺の隠された真実」が忘れられないが、「FCルワンダ」でもやはり1994年の民族間の大虐殺が大きなテーマとなっている模様。かつて凄惨な殺戮が行なわれたそのピッチで、2大クラブのダービーマッチが行なわれる。「イスタンブール・ユナイテッド サポーター革命」ではガラタサライ、フェネルバフチェ、ベシクタシュといったライバルクラブのサポーターたちによるトルコ民主化への戦いがテーマ。「ベンジャミン・フランクリンの息子たち アメリカン熱狂サポーターライフ」は、アメリカのサポという、われわれと似ているような似ていないような異文化を描いていて、フィラデルフィアのサポーターたちがサッカー不毛の地にプロチームを生み出すまでを取材している。
●3作いずれの予告編にも「サッカーってすばらしいよっ!」みたいな押しつけがましさが微塵もない。むしろトーンは暗い。ルワンダやトルコの話が重くなるのは当然としても、フィラデルフィアにプロチームが誕生したという話にすら、どことなく疎外感を覚える。サポーターたちの姿を見てもまるで親しみを覚えない。それだけ世界のフットボール文化には奥行きがあるということなのか、やっぱりJリーグはすばらしいぜ的な身贔屓が働くということなのか。もっとも本編を見たらぜんぜん予想と違う映画だったということもよくあるんだけど。
車内シンガー
●電車で向かいの席にコジャレた風采の若い男が座っていた。若者の耳にはイヤフォン。しばらくすると、若者は明瞭な声でフツーに歌いだした。「♪君に会いたくて~、世界の果てから~、僕のハートがズキュンズキュン~」(←忘れたので想像上のJPOP風歌詞)。だれのなんという曲かは知らない。
●そういうときって車内の人は「反応したら負け」とばかりに絶対にだれも気にするそぶりを見せないから、本人も声を出して歌ってるとは自覚していないと思う。自分も知らないうちに「♪ホヨトホー、ホヨトホー」とか口ずさんでるかもしれないわけで、十分に気をつけたい。
謹賀新年2015
●あけましておめでとうございます。秒速1秒の速度で2015年が堂々の到来。心のなかにしっかりと刻みたい、今年はもう2015年。ひつじ年といわれて思い浮かぶのは、羊頭狗肉、羊の皮をかぶった狼、羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……Zzzzz。
●はっ。新年早々に告知を。本日1月3日22:00より、拙ナビによるFM PORT「クラシックホワイエ」では、ゲストにヴァイオリニストの枝並千花さん(写真右)とピアニストの須藤千晴さんをお迎えしました。新春にふさわしい華やかな雰囲気が伝われば幸い。収録時にスタジオ内がパッと明るくなった気が。
●いやというほど雑煮を食いたい。正月の甘美な夢。