●19日はパーヴォ・ヤルヴィ指揮N響へ(サントリーホール)。シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」、モーツァルトのピアノ協奏曲第25番ハ長調(ピョートル・アンデルジェフスキ)、シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」という、ボリューム感のあるプログラム。記者会見で発表されたように、この日はシュトラウスがソニーによって収録された。ステージ上にはいつもはないマイクが林立。B定期二日目なので、すでに初日とゲネプロは録ってあるんだろう。「英雄の生涯」でソロを弾くコンサートマスターは篠崎さん。首席指揮者就任決定後初登場となるパーヴォだが、定期の3プログラムはすべてコンサートマスターが違っていた(含むゲスト)。
●「ドン・ファン」から出てくる豊麗なサウンドが普段のN響とはずいぶん違っていて、改めて新時代の到来を実感。座席の違いや初日か二日目かの違いもあるから、感じ方は人それぞれだと思うんだけど、やっぱり最初のAプロの「巨人」がいちばん大きな変化を感じた日で、Cプロのショスタコーヴィチはいくらか従来のN響側に振れて、Bプロでまたパーヴォ色が出てきたという感触。アンデルジェフスキのモーツァルトは近来まれに見るすばらしさ。慎重に制御されたリリシズム、自在に飛翔するモーツァルト。ウィーン時代の協奏曲のなかでも第25番ハ長調はアンデルジェフスキらしくない選択かなと思ったけど、聴いてみて納得。少しマッチョなこの曲こそ、アンデルジェフスキによるバージョンアップが必要だった。弦楽器を刈り込みバロック・ティンパニを用いたオーケストラも細部まで意匠がこらされていて見事。アンデルシェフスキはアンコールにバルトークの「チーク地方の3つのハンガリー民謡」を弾いてくれた。これは録音でもカーネギーホール・ライブのアンコールで弾いていた曲だっけ。
●3つのプログラムすべてで、弦楽器は対向配置、かつコントラバスを下手に並べるスタイル。先日の記者会見後のレセプションで尋ねたところ、パーヴォ氏は「基本的に毎回この配置を採用する、ただしいくつか向いていないレパートリーがある」ということだった。
●ところで、この日、「英雄の生涯」が終わった直後、拍手がまったく出なかった。この曲なら当然? いやいや、終わってすぐに拍手が出ないだけではなく、指揮者がタクトをおろしてもまだだれも拍手しなかった。だれもが拍手をするタイミングを失ってしまい、結局指揮者に促されて拍手が出たという、珍しい光景を目にした。
●なぜ、そうなったんだろう。ライブレコーディングしているという意識が拍手を過剰に控えさせたとか? いや、そんなことはないだろう。自分が採用したい仮説は、この曲が「英雄の死」で終わったから。追悼の音楽と受けとってお客は拍手を控えた。客席は楽曲中の登場人物をすすんで実体化させたのである……としておきたい。
February 20, 2015