●一昨日にも少し触れた仲道郁代さんの最新刊、「ピアニストはおもしろい」(春秋社)。おもしろくて、しかも読みやすい。300ページ強のボリュームがあって、ピアニストになるまでのこと、子育てのこと、楽器のこと、コンサートのこと等々、内容は多彩。いちばんおもしろかったのは子育ての章、特にお子さんが生まれてまもない頃の話で、「娘の生後ほぼ5カ月から公演にはすべて同行するという子連れピアニスト生活が始まった」というくだり。もともと「演奏活動を始めてこの27年間、一週間続けて家にいたことはほとんどない」という演奏家生活のなかで、自分の荷物に加えて、赤ん坊用の日数分のおむつ、離乳食、おもちゃ等々大量の荷物をスーツケースに入れて移動する様子だとか、自分の時間というものがゼロになるから隙間時間が10分でもあったらそこを「休む」のではなく「さらう」(練習)にあてるとか、すさまじい多忙ぶり。でも、持ち時間の隅から隅までが「仕事」と「子育て」だけで埋めつくされる感というのは、一般の働くお母さんから見ても共感を呼ぶ話だと思う。前に見たアルゲリッチのドキュメンタリー映画「アルゲリッチ 私こそ、音楽」でも、娘さんが赤ん坊の頃グランドピアノの下で母親のピアノを子守歌がわりに聞きながら育ったみたいな話があったっけ。
●以前、パーヴォ・ヤルヴィが東響を振りに来たとき、9カ月の赤ちゃんがいっしょで、そのときソリストを務めたベレゾフスキーもやっぱり赤ちゃん連れだったから、楽屋が託児所みたいになってたっていう話のほのぼの感も吉。
●本番での緊張克服の話も印象的だった。これだけたくさんの本番の舞台に立っている人でも、舞台であがるのかと思うと勇気づけられる(?)。あと、まさに一昨日、OEKとの共演を聴いたばかりの曲なんだけど、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番が協奏曲のなかで嫌な曲として挙げられていたのがおかしかった。
エトヴィン・フィッシャーかどなたか大家がこの曲については、「最初のソロを弾いた後、オーケストラの演奏の間ずーっと、自分がいかに下手に弾いたかを反芻させられるからとてもつらい」と、どこかに書いておられた。(同感だ!)
●それだけあのピアノだけで弾く冒頭のニュアンスが難しいということなのか。