●絶賛開催中の東京・春・音楽祭。「24の前奏曲」シリーズは、アレクサンドル・メルニコフの2公演に足を運んだ。3/29にショスタコーヴィチ(東京文化会館小ホール)、3/31にドビュッシー(上野学園石橋メモリアルホール)。
●この「24の前奏曲」シリーズ、ほかにショパンとスクリャービンがあるんだけど、ショスタコーヴィチのほうは「24の前奏曲」ではなくて、「24の前奏曲とフーガ」なんすよね。両方あるからうっかりするとまちがえやすい。「24の前奏曲」のほうはショパン、「24の前奏曲とフーガ」のほうはバッハの系列に連なるということか。メルニコフは「24の前奏曲とフーガ」全曲を一回の公演で弾いてくれた。途中に2回の休憩をはさんで3時間以上の長丁場。番号順。バッハの「平均律クラヴィーア曲集」とは違い、ハ長調、イ短調、ト長調、ホ短調、ニ長調、ロ短調……といったように平行調とセットにしながら5度ずつ上がっていくという曲順なので、順番も強く意識されている曲集、なんだろうか。でも、一回で弾くにはかなり長い。ショスタコーヴィチ本人の録音ではいろんな順番で抜粋しているっぽいが……。メルニコフは第12曲嬰ト短調までの長めのひとまとまりを一気に弾いて、最初の休憩に入り、次は第13曲嬰ヘ長調から第16曲変ロ短調までの4曲セットのみで2回目の休憩へ、その後残りの8曲を弾くという形。第1幕が長い3幕物のオペラを聴く覚悟で臨んだ。譜めくりあり。
●ドビュッシーは前奏曲集第1巻12曲+第2巻12曲で計24の前奏曲。ほぼ作曲当時の楽器である1910年製のプレイエルを使用。ニュアンス豊かで、演奏としてはこちらのほうが楽しめた。ドビュッシーまで下っても、これだけモダンピアノとは別の楽器であるとは。逆説的にモダンピアノの(少なくともマーケットにおける)汎用性の高さに驚嘆せざるをえない。メルニコフはときどき譜面台に目をやっているのだが、自分の席からだと譜面台になにか乗っているようには見えない。ページもめくっていない。休憩中に下手側から見てみると、譜面台には電源の入ったままのタブレットPCが置かれていた。足元にはフットスイッチと思しきものが。1910年製鍵盤楽器と2010年代製デジタル・デバイスがひとつの絵に収まっている様子はなんだかエレガントだ。
April 7, 2015