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April 8, 2015

東京・春・音楽祭、ワーグナー「ワルキューレ」演奏会形式

●7日は東京・春・音楽祭のワーグナー・シリーズvol.6「ワルキューレ」演奏会形式(東京文化会館)。例年は平日1公演の後に週末1公演だったと思うけど、今年は先に4日に週末公演があった後での平日公演。火曜日の15時開演だがお客さんはよく入っている。4日は満席で評判も上々だった。
東京・春・音楽祭2015●オケはヤノフスキ指揮N響、コンサートマスターにライナー・キュッヒル。第1幕冒頭からひきしまった強靭なサウンド。外形上の熱いドラマや情感の豊かさを排して、音楽の純度や強度を高めた結果、むしろ雄弁なワーグナーになったというか。ひりひりとした緊迫感に貫かれた筋肉質の「ワルキューレ」。すばらしい。速めのテンポも吉。歌手陣で盛大な喝采を受けたのはフリッカ役のエリーザベト・クールマン。キャサリン・フォスター(ブリュンヒルデ)、エギルス・シリンス(ヴォ―タン)、ワルトラウト・マイヤー(ジークリンデ)、ロバート・ディーン・スミス(ジークムント)、シム・インスン(フンディング)の陣容。
●よくコンサートで取りだして演奏されるのは第1幕。でも第1幕は音楽はともかく、物語的には動きが少ない。がぜん話がおもしろくなるのは第2幕から。第2幕以降は「夫婦ゲンカ」「親子ゲンカ」「娘を嫁に出す父親」の三段コンボという、神話世界をまとったファミリー・ドラマ。だから、ワーグナーでいちばん泣ける。それにしてもヴォータンとフリッカの夫婦ゲンカを描くワーグナーの筆は冴えまくっている(そしてクールマンの鬼嫁歌唱も)。ヴォータンのその場を言いつくろっているだけのダメ亭主っぷりに対して、このフリッカの容赦ない舌鋒の鋭さと来たら。言うことがいちいちもっとも。亭主よりも奥さんに世界運営を任せたほうが絶対にうまくいくと思うもの。
●ジークリンデがお腹に宿した子はやがて勇者になる……ってみんな言ってるけど、女の子が生まれる可能性は考慮されていないのであろうか。「ほうら、元気な赤ちゃんが生まれましたよー、女の子です~。完」とか。
●このシリーズ、回を重ねるにしたがっていろんなところが練れてきて、演奏会形式の上演として成熟度が深まっている。ただ、どういう背景映像がいいのかは悩みどころか。今回は最小限の静止画をベースに、時折視点の移動や雨や嵐、山を覆う炎などの演出が添えられていた。オーソドックスで、観る人の想像力を妨げない節度があって映像演出としては納得がいくけど、CG画像が二昔前のゲームソフトみたいな解像度で、どうしてもセガサターンで遊んだ「ミスト」とか懐ゲーを想起してしまうのは避けられない。なにもないよりは絶対になにかあったほうがいいという確信もあるので、なにか完全な静止画像でもいいから、目にした瞬間に「わっ、きれい」と思える画があったらいいのかも。