●連休中の深夜、駅のホームで電車を待っていると、前に並んでいた年配のオジサンがガラケーでメールを打っていた。そんなつもりは毛頭なかったが、背面からケータイの画面をのぞきこむことになってしまった。メールの文面を打つオジサンの手つきがぎこちない。「予定の時間より少し遅れます。ごめんね。純子」。えっ?
●たぶん、驚くようなことではないのだろう、こんなことは。東京のような大都会ではなんだってありだ。ましてや連休中なのだから。「純子」はこれからきっとだれかと出会う。相手はどんな「純子」を期待しているのかわからないが、不意打ちを食らうことになる。いや、そうとも限らないか。これはお互い承知の上でのゲームなのかもしれない。
●今しがた目にした光景をすぐに忘れようと努めていたが、電車を待っている間にどんどん想像が膨らんでしまう。せめて、こんな企てをする人物がどんな風貌をしているのか、一瞥してもいいのではないか。電車が到着した。なにげなく車内を見渡すふりをして、「純子」のほうに目をやった。普通のオバサンだった。
May 8, 2015