●村上春樹訳でなければ手に取っていただろうか。「NOVEL 11, BOOK 18 - ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン」(ダーグ・ソールスター著/中央公論新社)。著者はノルウェーを代表する作家。書名は11冊目の小説、18冊目の著書を意味しているだけなので、つまり作品番号みたいなものであって、それ自体に意味はない。英訳からの重訳という禁じ手を使ってでも訳したかった一冊ということだが、なるほど、これは独特の手触りがあって、読みだすと止まらない。ストーリーはかなり予想外の方向に向かってゆく。一言でいえば、シニカルで、痛い。
●主人公の男性は50歳を迎えたばかり。序盤はこの男の来歴が語られる。中央省庁の官僚としてエリートコースを走り、結婚して2歳の子供もいたのだが、ふとしたはずみで家庭を捨てて愛人のもとに走る。中央でのキャリアも放り出して、田舎町で冴えない役人勤めをはじめる。その愛人とは14年間を連れ添ったものの、今や別居して一人暮らしをしている。が、ドロドロした愛憎劇などは一切描かれず、そこに至るまでの出来事は淡々とあたかも第三者の観察眼によって記されたかのごとく振り返られる。この序盤だけでもかなりおもしろいのだが、話がどこへ向かおうとしているのかまるで見当がつかない。
●ほんの少し内容について触れてしまうと、これは「人生のさまざまな局面で、常に袋小路へと向かう選択ばかりをしてしまう男たち」の話なんだと思う。主人公はどこまでもそうだし、その性癖はものの見事に息子にも引き継がれている。で、それはイカれた男の話であると同時に、どんな男にとっても共感可能な物語でもある。ワタシたちには見えない磁力に引きつけられるようにそこへと向かってしまう性質が備わっているとしか思えなくなる。あるいは年輪を重ねるということ自体がそうなんだろうか。
●それにしても最後の展開は、どうなんだろう。これだけはもうひとつ消化できていない。
May 19, 2015